時に忘れられた人々【14】真夏の不気味音楽編

【何だかわからんがスゲー怖い。HAUS ARAFNA / Children Of God】

ROCKHURRAH WROTE:

先々週末の関東は肌寒いくらいの曇天で気持ちよかったが、先週は一転して猛暑続き。夏が大嫌いと公言しているROCKHURRAHはすっかり参ってしまった。鍛え方が足りないのは百も承知だがあまりの湿度で外に出た途端、一瞬にして汗だく、頭も朦朧としてくるなあ。

さて今回はそんな猛暑を吹き飛ばしてくれるとは全然思ってもいないが、不気味な映像や音楽を鑑賞してみよう。

人によって不気味とか怖さはそれぞれ違ってくるだろうし音だけだとなおさら個人差があるのは仕方ない。ROCKHURRAHの場合は短絡的で、不気味音楽と言えば不協和音満載のノイズ・ミュージック、あるいはインダストリアルな風味のものをすぐに思い浮かべてしまう。

こういった音楽を全く聴いた事がない一般的な人々はどういうものを不気味だと感じるのだろうか? 例えばゲームとかアニメとか映画、ドラマとかでも不気味なシーンに爽やかポップスが流れる事はないように思えるから、ROCKHURRAHの感じる音とそれほど遠くない世界だと言えるのか。

しかしそういうノイズ、アヴァンギャルド、インダストリアルなどと呼ばれた音楽家たちは大抵ヒットとか売るためのプロモーションとは程遠い活動をやっているに違いない。レコード会社も金のかかった凝った映像とか用意出来るはずもないのが現状。今回取り上げた楽曲もどこか別の映像を取ってつけたようなのが多いけど、そりゃまあ仕方ないと思ってね。あと、ROCKHURRAH RECORDSのブログ倫理ってほどじゃないけど、直接的なグロとかゴアとかは禁止令。ROCKHURRAHの言う不気味とは違うんだよね。

SPK / The Agony of the Plasma

70〜80年代ニュー・ウェイブ世界におけるインダストリアル・ミュージックの元祖的存在はジェネシス・P・オリッジ率いるスロッビング・グリッスルやアメリカのペル・ユビュ、クロームあたりが挙げられるらしいが、このオーストラリアのSPKもかなり早くからインダストリアルな世界を展開していた。
System Planning Korporationの略だとか「切腹」の略だとか言われるが、ノイズやインダストリアル系で略号、記号のようなバンド名が多いのもSPKの影響だと思われる。

このバンドの初期は現役の精神病患者とその看護人が主要メンバーというすごい構成で、簡単に言えば本物志向。
ただし病院にも行かず鑑定もされずに世の中に出回っている狂気は日常にどこでも見かけるもの。
それが単なる迷惑じゃなくて音楽に昇華出来るならば少しは健全だと言えるね。
その問題の人物ニール・ヒルは84年に自殺。SPKには短い期間しか在籍してなくて、この後も女性ヴォーカルでポップになったSPKは存在してるんだが、やっぱり初期の強烈さと比べると普通になってしまった印象がある。
個人的には暴力的インダストリアルの先駆けである「Slogun」とか大好き。DAFの2ndあたりに通じるね。

さて、この曲は彼らの2ndアルバムに収録されていて、とにかく最初の2枚はインダストリアル・ノイズ・ミュージックの最高峰とファンに親しまれている。確かに聴衆を完全に突き放したひとりよがりのノイズとは一線を画する出来。
映像の方はこのバンドのオリジナルとは違ってて、カナダのLorde Awesomeというバンドのものらしい。うーん、最近のノイズ界には疎いのでよくわからん。犬のようなかぶりものをした男がお面を外してニヤニヤ。一見サイコ・スリラーの一場面のようにも見えるが、映像よりもその音楽の方が数段不気味。

Nurse With Wound / The Bottom Feeder

これまたSPKと同時期の78年にデビューしたノイズ・ミュージック界の老舗バンド。
イギリスのUDレーベル(UNITED DAIRIES)の中核として、しつこいくらいにレコードを出しまくっていたな。
当時は情報がほとんどなく、どれがシングルでどれがアルバムかもわからなかったもんだ。
これをリアルタイムで集めた人はよほどの金持ちか、と思っていた記憶がある。
だからこのバンドの事をROCKHURRAHなどが語る資格はないんだが、ホワイトハウスとのスプリット・アルバムを大昔になぜか兄が買ってきたのを急に思い出した。

この曲は彼らの長い長い活動歴からするとごく最近と言っても良い2008年くらいのもの。ハリウッド・セレブのようなジャケットも古い彼らを知る人間から見れば「らしくない」に違いない。大昔に聴いた時よりもずっとポップな印象で「こんな音楽だったっけ?」と首をかしげる穏便なノイズ。
映像の方はチェコのストップモーション・アニメ監督、イジー・バルタの作品らしい。地下の実験室のようなところやおどろおどろしい雰囲気はさすがにプロの仕事、素晴らしいな。不気味というよりはかなりスタイリッシュな雰囲気だな。

Whitehouse / Why You Never Became A Dancer

インダストリアルとかノイズの世界で最も暴力的な音と言われているホワイトハウスは、元エッセンシャル・ロジック(パンクの時代に人気あったX-ray Spexのサックス奏者だったローラ・ロジックのバンド)のギタリストだったウィリアム・ベネットによるバンドだ。
何曲か聴けばわかる通り「曲が」とか「歌が」とか言う以前に耳障りなノイズがうるさい。
そして怒鳴る、がなるといった表現がピッタリの大変に聴きにくいバンドである事は確か。
例えばハードコアのバンドでもこのような曲があるわけだから、ポップ・ミュージックとは全く異次元のものとは言っても、彼らの音楽で精神や肉体を開放させる人も多数いるわけだ。

関係ないがROCKHURRAHはこんな音楽を知るはずもなかった少年時代に短波ラジオなどからコラージュしたノイズ・ミュージックを作って遊んでいた。今から考えるとそれがインダストリアルと呼ばれる音楽に限りなく近いものだったのだ。楽器も機材もないような時代に一人で(ラジカセのダビング機能を駆使して)そういうのを作った事だけは誇れる。

さて、この曲も上のNurse With Woundと同じく、長い長い彼らの歴史からすれば近年の作品。
どのバンドでも初期作最高説を常に唱えるROCKHURRAHからすれば2000年以降の音楽をセレクトするのは心苦しいが、あくまで不気味映像を主点にした今回の企画だから仕方あるまい。 映像の方はずっと同じ調子で説明の必要もないが、これは本当に不気味極まりない。
曲の方も温厚になってしまったNurse With Woundとは比べ物にならないヴォルテージの高さ。
まさにぶちギレの極悪音楽。

Jonh Zorn & Diamanda Galas / Metamorfosis

ポップ・グループのYレーベルから82年にデビューしたディアマンダ・ギャラスはその4オクターブもの声を操る凄まじい歌唱と魔女のような風貌で強烈なインパクトを放っていた驚異の女性シンガーだ。
効果のほどは全然想像も出来ないが両手にマイク2本持って絶叫する過剰なパフォーマンスは有名。

ジョン・ゾーンはアメリカの高名な前衛音楽家で、あらゆる音楽を吸収したパワフル&幅広い音楽性でさまざまな分野のアーティストと共演している。ディアマンダ・ギャラスもその一人で、この曲は85年のエンニオ・モリコーネのカヴァー集より。
映像の方はEdmund Elias Merhige(読めん)という監督の映画から編集したようだが、これ(オリジナルの映画の方)が不気味を通り越して意味不明な気色悪さに満ち溢れたもの。
そういうのが好きな方は一見の価値ありかも。音楽の方も相変わらず絶叫しまくって凄まじい。と言うか映画よりもディアマンダ・ギャラスのライブ映像の方が不気味かもね。

以上、そこまでノイズ通でもないROCKHURRAHが中途半端に選んでみた。大多数の人にはノイズもアヴァンギャルドもインダストリアルも苦痛な音楽だろうが、ある種の人々にとっては快感になり得る。そういうダークサイドの魅力もわかる苦み走った男になりたいものよ。

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