好き好きアーツ!#37 鳥飼否宇 part13–異界–

【静謐で荘厳な森をROCKHURRAHが創作したよ。少し恐ろしい感じがするね。】

SNAKEPIPE WROTE:

今年最後のブログは鳥飼否宇先生の旧作を再読するシリーズで締めさせて頂くことにしよう。
過去数回に渡る鳥飼先生に関するシリーズ「トリカイズム宣言」では、「観察者シリーズ」と呼ばれる作品群について感想をまとめていて、前回書いた記事の最後には「次は樹霊」と予告していたSNAKEPIPE。
ところが今回感想をまとめるのは「異界」。
おっとこれは意外!(ぷぷぷ)
「異界」にしてもいーかい?(スミマセン)
「観察者シリーズ」を連続しなくても良いのでは?というROCKHURRAHの助言に従ってみたのである。

「異界」は2007年に発表された作品である。
主人公は南方熊楠という江戸末期生まれの博物学者、生物学者で民俗学者。
「歩く百科事典」と称される程のものすごい博識だったらしい。
鳥飼先生の小説で実在の人物が登場するのは、「異界」だけだよね。
左の画像が南方熊楠なんだけど、かなり現代的に見えるよね?
誰か似ている人がいそうだけど、思いつかないなあ。(笑)
ここで少し南方熊楠について調べてみようか。

1867年 大政奉還の年に南方熊楠は生まれる。
日本史で習った懐かしい言葉。(笑)
幼少の頃から驚異的な記憶力を持ち、神童と呼ばれたらしい。
1887年 渡米しパシフィック・ビジネス・カレッジに入学する。
南方熊楠は18の原語を操ったらしい。
渡米前から英語は話せたんだろうか?
1891年 キューバ、ハイチ、ベネズエラ、ジャマイカなど3ヶ月ほど中南米に滞在する。
サーカス団と一緒だったという。
1892年 ニューヨークからロンドンに渡る。
科学雑誌「ネイチャー」に寄稿したり、大英博物館東洋調査部員として東洋美術を担当していたという。
更に亡命中の「中国革命の父」孫文とも親交があったというから驚いちゃうよね!
1900年 ロンドンより帰国。
1941年 満74歳没。

今から100年程前の人物とは思えないよね。
2015年の現在だってアメリカの大学行ってイギリスの大英博物館からお給料貰うなんて人はなかなかいないもんね!
しかもサーカス団の手伝いでキューバなどの南米にまで足を伸ばすとは。
研究熱心だからこそ、とも言えるけど命知らずの冒険家だったんだね。
もちろん度胸だけではない、並外れた博識と語学力、そして情熱があったからこそ海外でも活躍できたのは言うまでもないことだね。
孫文やディケンズ、柳田国男との交流や、昭和天皇にキャラメルの箱にいれた粘菌標本を渡した、など仰天エピソードもたくさんある奇想天外な人物だよね。(笑)

「異界」はそんな南方熊楠が外国から帰国し、故郷の和歌山県の那智の森で植物の採集をしているところから始まる。
明治36年、1903年が舞台である。

那智といえば。
ROCKHURRAH RECOREDSが最近興味を持っている、滝で有名な場所!
日光の華厳の滝、茨城の袋田の滝と合わせて日本の三大名瀑と言われているんだね。
栃木と茨城は関東地方だけど、和歌山県には気軽に行かれないよ。
いつか行ってみたいなあ!

そんな自然豊かな森に毎日通っては、観察と採集を続け、標本を作りに精を出している南方熊楠には弟子がいた。
福田太一という地元では有名な酒蔵の息子である。
お坊ちゃん育ちの太一と熊楠が、「観察者シリーズ」でいうところのトビさんとネコのような関係なんだよね。
そう、南方熊楠はもうトビさんそのものと言っても良いくらい。
だって南方熊楠こそプロのウォッチャーだもんね!(笑)

実在の人物を主人公にしているけれど、そこはやっぱり鳥飼先生の小説だから!
ミステリーになっているんだよね。
和歌山県の田舎町で起こった事件を南方熊楠が解決するの!
弟子の太一から狐憑きの少年の目撃情報がもたらされ、その後産婦人科で新生児が誘拐される事件が起こるのである。
更に殺人事件まで発生してしまう…。

改めて読み返してみると、鳥飼先生のその後発表されている小説の題材があちこちに散りばめられていることに気付く。
寄生、アルビノ、狐憑き等々。
「観察者シリーズ」のファンなら、当然興味が湧くこと間違いなし!
いや、「観察者シリーズ」を読んでいない、そこのあなたもね!(笑)

たまたま残り数ページを残して中断していたSNAKEPIPE。
続きの、ここからが凄かった!
またもや瞬きしないで読んでいたと思う。(笑)
2重3重と繰り広げられるトリックは、SNAKEPIPEをまるで手のひらで転がすように翻弄する。
「うーむ、そうだったのか」と読み終わってから、「あの時のあれね!」などと伏線を思い出したり。
とても面白かった!(笑)
「異界」は一回じゃダメね!(オヤジギャグ健在!)

南方熊楠を主人公にした続編はないのかなあ?
SNAKEPIPEが一番気に入っているのが、他人を罵倒する熊楠の言葉なんだよね。(笑)
よくもそこまでポンポン言葉が出るよ!と感心しちゃう。
実際に癇癪持ちだったらしい熊楠なので、きっと本当に弾丸みたいな言葉を発してたんじゃないかな?
あの言い回しをまた読みたいなあ!(笑)

2 Comments

  1. 鳥飼否宇

    『異界』の感想をありがとうございました。
    南方熊楠、大好きです。『異界』は自分でもけっこう愛着のある作品なのですが、続編のオーダーはどこからもありませんでした。残念。

  2. SNAKEPIPE

    鳥飼先生、いつもコメント頂きありがとうございます!
    100年も前に欧米人に引けを取らなかった南方熊楠を知り、同じ日本人として誇らしく感じてしまうほどです。(血縁でもないのに)
    ブログ内にも書きましたが、実在の人物とミステリーの融合も非常に面白かったです。
    続編依頼がなかった??
    SNAKEPIPEだったら絶対依頼しちゃうんですけど!(笑)

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