ニッチ用美術館 第4回

【音楽とアートの狭間を埋める連載記事、久々の第四弾!】

ROCKHURRAH WROTE:

2017年の春から始めたシリーズ企画「ニッチ用美術館」なんだが、トップ画像を動画にするのがちょっと面倒な事もあって、なかなか新しい記事が書けないでいた。要するに記事の下準備に時間がかかるってわけね。

ちなみにタイトル見ればあのTV番組のパロディなのはすぐにわかるが、何でニッチなの?という説明が毎回必要なのがさらに難点。 まあ前回までの記事の冒頭にしつこく説明が書いてあるので律儀に読んでもらえればウチの方針もわかるだろう。
で、やってる事はROCKHURRAHの得意分野、70年代パンクや80年代ニュー・ウェイブの時代のレコード・ジャケットを展示して、それをアート的視点から語ってみようという試み。しかし語るほどアート界に詳しくないというパラドックスに満ち溢れた記事になっていて、何だかよくわからん趣向になってるな。これがROCKHURRAHの底の浅いところ。

今回はちょっと趣向を変えて、ウチのブログでも話題の「バッドアート展」風にしてみようと思う。
年末にSNAKEPIPEと2人で東京ドームシティまで行って観てきたんだが、それより前からウチでは注目していた美術館なんだよね(この記事)。 
要するに大真面目に美術的制作を行った結果、ちょっと方向性を間違えてしまったようなアートの事なんだけど、ROCKHURRAHが大好きな70〜80年代のパンクやニューウェイブにもその手のジャケット・アートが存在してるはず。ウケ狙いとか笑わせようとして、というのとは違うしアートの分野で語る以前のものも多かったから選考も難しかったが、とりあえず膨大な数のレコードを検索して集めてみたよ。 
バッドアートかどうかの判断は感覚的なものだろうから誰でも理解出来るというわけじゃないけど、いわゆる爆笑ジャケットというのではないから期待しないでね。
では時間もあまりない事だし、早速第4回目の展示を見てみるか。
尚、今回はジャケットのレコードに収録されているトラックと動画が一致してない場合があるけど、マイナー=動画が少ないのが多いから仕方ないと思ってね。 

ROOM 1 廻天の美学 

廻天とは「物や人を満足できる状態に回復する行為」だそうだが、一般的な人はたぶん一生のうちに使う機会はない言葉だと思う。
ROCKHURRAHが知らないだけで、どこかの業界では常識的に使うのかも知れないが。

何でこのジャケットに廻天なのかと言うとこのバンド名にある。
Wirtschaftswunder は前にも何度かウチのブログでも書いたけど80年代ドイツのニュー・ウェイブ(ノイエ・ドイッチェ・ヴェレ)のバンド。「読めん」という特集で書いた通り単語を目の前にしてもちょっと考え込んでしまうが、ヴィルツシャフツヴンダーとは「経済の奇跡」と訳されるのだ。この言葉がひとつの単語になってるだけでもドイツ語、すごいと思ってしまうけどね。
「第二次世界大戦後の西ドイツとオーストリアにおける、社会的市場経済に基づくオルド自由主義を採用した経済の、急速な再建と成長を誇張した表現である。(Weblioより)」などと書かれててもよくわからないが、それをバンド名にした意図も不明。
戦争に負けても早く復興したドイツ国民のパワーというような意味合いなのかな?

それはともかくこのジャケット、しょっぱなからひどすぎるな。
ROCKHURRAHが大昔に書いた記事には載せてなかったけど、売る気があって採用したジャケットとは思えないよ。
四人並んでるからメンバーなんだろうけど全員口からびよーんと伸ばしてるのは何?何かくわえてるのか?色も品がないしこれをジャケ買いする人は滅多にいないと思える。
ドイツの変な大御所デア・プランが主宰していたワーニング・レーベル、これが名を変えノイエ・ドイッチェ・ヴェレの名門アタタック・レーベルになるんだけど、そこから1980年にデビューしたのがヴィルツシャフツヴンダーだ。
ROCKHURRAHは早くからノイエ・ドイッチェ・ヴェレに興味を持ってたからこのシングルを中古レコード屋のワゴンセール、たぶん50円か100円くらいで買った時には心の中で快哉を叫んだものだ。
まあ何も知らずにワゴンセール担当になったらこのジャケットならそのくらいの価格にしてしまうのも無理ないなあ。

割と奇抜なバンドがひしめいていたこのジャンルでも、かなり変でエキセントリックなパフォーマンスを得意とするバンド。
上に挙げたジャケットのシングル曲ではないけど、どういうバンドなのかわかりやすいと思ってこの動画にしてみたよ。
YouTubeとかの動画サイトが発達したから今は軽く観られるけど、その当時は日本で紹介されないこういうバンドの動いてる姿を見るだけでも、大変な苦労をしたものだった。
一時期明らかにメジャー志向の音楽に変貌したけど1984年くらいまでしか消息がわからなかったので、売れてたのかどうかも不明。
こんな不気味なジャケットでデビューしたとは思えないほど演奏も歌も堂々としてて、冒頭でずっこけるコミカルな動きのギタリストも狙ってやったとは思えない。
まさにバッドアートの趣旨にピッタリだね。

ROOM 2 虚心の美学  

虚心とは「わだかまりを持たない心。先入観を持たない、すなおな態度。」だそうだがそういう境地になるとこんな絵を受け入れるんだろうか?

このジャケットがこの人の描いた自画像なのか人に描いてもらったのかは不明だけど、よくぞまあジャケットとして採用したもんだ、という出来。

カレン・マンテロというシンガーがデニス・ジェノベーゼなる人物と70年代に米国グリニッジ・ヴィレッジで弾き語りみたいな活動してたのがはじまりらしいんだが、そもそもROCKHURRAH RECORDSのブログで取り上げるようなジャンルではない人物なのは確か。でもこのジャケット見たとたんにジャンルの垣根を超えて紹介するしかないと思ったよ。これぞ虚心って事なのか?
グリニッジ・ヴィレッジと言えば60〜70年代にはアートや文化が栄えたところらしいけど、個人的にアメリカに行きたい用事もないROCKHURRAHには特に憧れはない土地だなあ。かつてニューヨークでカルチャー・ショックを受けたというSNAKEPIPEには勧められているけどね。

さっぱり知らないから書きようもないがカレンらしき女性が登場するビデオもあったので、ウチが知らないだけのシンガーなのかもね。途中でパートナー、デニス・ジェノベーゼらしき人も登場するがどこの出身なのか不明の風貌。名前の通りイタリア系なのか?バスクベレーみたいなのかぶってるからバスク人、あるいはイスラム系にも見える便利な顔立ち。
カレンは可憐な女性という感じは全くしないものの、いかにもこの時代のアメリカンな雰囲気でサイドカーの横でも違和感はないね。ジャケットそのままの人だったらどうしようかと思ってたよ。
あのレコード・ジャケットは悪く描きすぎたからジャケ買いする人は稀だろうけど、そこそこファンがついてもおかしくはないシンガーなんだろうね。うーむ、よくわからん時はコメントもぞんざいだな。

ROOM 3 堅靭の美学

堅靭(けんじん)とは「かたくて、弾力のあるさま。強くてしなやかなさま。」だとの事。これまた現代では日常的には使わない言葉だろうな。

ROCKHURRAHが少年の頃、江戸川乱歩や横溝正史、夢野久作、小栗虫太郎などの作品との出会いをきっかけに戦前の探偵小説と呼ばれていたものに傾倒していった。
ただ作品を読むだけでなく、評論や研究書まで買ってたくらいだから相当のめり込んだ趣味だったのは間違いない。
北九州(故郷)あたりでそんなに掘り出し物があるとは思えないのに、何か探し当てるのを楽しみに古本屋を巡ってたな。
数多くの作家の探偵小説を読んだし、いくら探しても見つからず悔しかった本もたくさんあった。
いわゆる本格物という謎解き小説も好きだったが、変格と呼ばれた既存のジャンルからは外れてしまった作家の小説も好きで、さらに伝奇小説や冒険小説など、興味の幅も広くなっていったもんだ。
その頃、何編かは読んで気になっていたものの入手出来なかった作家に押川春浪があった。「海底軍艦」と言っても今どきの子供には通じないかも知れないが日本のSFの草分け的な作品で、当時の少年漫画雑誌とかでたまに絵物語化されていたように記憶する。
あまり記憶にないくせに段原剣東次(明治日本最大のアクション・ヒーロー?)をモチーフにした曲なども自作したもんだ。誰からも評価されなかったけど。だんばら、名前の響きがいいよね。

今年のNHK大河ドラマ「いだてん」に出てくる変なバンカラ運動集団、天狗倶楽部の創始者でもあったのが押川春浪だが、スポーツ大好きな春浪だったらきっと堅靭という言葉が好きに違いない。
うーん、たったこれだけを書きたかっただけで無駄な自分の回顧に十数行も費やしてしまった・・・。 

そんな堅靭好きの人の目に止まりそうなジャケットがこれ。
どこかよその国にも同名バンドがあったからUKを名乗ってるけどスクイーズの1stアルバムだ。パンクからパワーポップが派生した1978年頃から活動していたバンドだが、ROCKHURRAHはレコードを一枚も持ってなくてほとんど知らないと言っていい。インターネットの80’sニュー・ウェイブ専門のチャンネルとか流してると頻繁にかかるから聴けば「あ、この曲がスクイーズだったのか」と曲だけは知ってる場合が多いんだが、次回聴いた時にはすでに忘れてる事が大半。
グレン・ティルブルック、ポール・キャラック、ジュールズ・ホーランドなどといった(何で名前を覚えてるのか個人的に不明な)豪華メンバーがいたというのに、やっぱりROCKHURRAHの路線とはちょっと違うんだろうな。

マッチョなジャケットからはかけ離れたような面々がメンバーなんだが、この辺の初期の曲はいかにもニュー・ウェイブ真っ只中でいいね。なんかどうでもいい甘ったるい曲を先に知ってしまったから興味なかったんだよね。

ROOM 4  蚊喰鳥の美学

これまた一般的には馴染みのない言葉。蚊喰鳥と言われてもピンと来ないがコウモリの別名らしい。
わざわざ異名で書く意味はないが、この企画のチャプター・タイトルはなぜか「あまり馴染みのない漢字」で書くという変な決まりを勝手に自分で作ってしまい、それを考える方が画像集めたりするよりも遥かに難しいという状況なのだ。
難しい単語や言い回しなんてそんなにどこにでも転がってないから探すのが辛いよ。
一度、簡単な表現に戻してみたんだけど自分の中で何かしっくり来なくて、また使い慣れない言葉を探す始末。
「ニッチ用美術館」があまり書けないのは、そういう変なこだわりでがんじがらめになってるせいだね。
これもまたROCKHURRAHの美学かな。

さて、その蚊喰鳥を手なづけて一体化してしまったジャケットがこれ。斜線の入り方や劇画調のタッチは何となく達者なのに、女性の顔の残念な描写のせいで「誰がこれを見てジャケ買いする?」というレベルにまでなってしまったところがバッドアートの面目躍如だね。

この売る気がなさそうなジャケットで活動したおそらく一発屋のバンドがサウンド・フォースというオーストリアのバンドだ。1982年にこの一枚のみ出してた模様で、このバンドの事を書いた日本人もおそらくROCKHURRAHが初だろう。とにかくジャケット以外に情報が全く無いので何とも書きようがないんだよ。
こんなバンドでもYouTubeがあって、動画がいつ削除されるかわからんが一応載せておこう。 

聴いてみたら歌も演奏もちゃんとしてて、Haunschmidt Ursula(読めん)嬢のヴォーカルも60年代ガールズ・グループをパンクのフィルターに通したような雰囲気で気に入ったよ。エイプリル・マーチあたりの先輩という感じ。
ジャケットがもう少し良かったら人気出そうなバンドだっただけに残念だったね。
しかしこのイラストがHaunschmidt Ursulaを忠実に描写したものだったらと考えると恐ろしいね。

ROOM 5 靉靆の美学

最後はとっておきの読めない、書けない漢字にしてみたよ。うーん、これは一生使う事なさそうだな。

靉靆と書いて「あいたい」と読む。意味は①雲や霞(かすみ)などがたなびいているさま。②気持ちや表情などの晴れ晴れしないさま。陰気なさま。との事でこのジャケットとは関係なさそうだが、名詞としてはメガネを表すらしい。これで意図が通じたね。名詞と形容動詞で意味が大幅に違うのが気にかかるが。

しかしレコード屋でこれに直面したら何もコメントのしようがないくらいにひどいジャケットだな。
Photoshopを使い始めた人がお遊びで友達の顔をレタッチして作ったかのようなレベルで、今どきではそんな事をする人さえいないように思うよ。

このどう考えても売れそうにないジャケットはフィンランドで活動していたSielun Veljetというバンドのもの。
1983年にデビューして何枚もレコード出してるから人気はあったんだろうが変なジャケットが多いから、その路線で行きたいバンドなんだろうな。上の顔ジャケットは88年のもの。
ジャケットだけで選んだから今回は知らないバンドもいくつかあったけど、これまた今まで全然知らなかったな。
最近「80年代世界一周」という色んな国のニュー・ウェイブを探す企画をやってるから、この辺の英米以外のバンドはまた違う機会に語る事もあるかもね。

この変な顔ジャケットに収録されてないが、同じくらいの時代のモスクワでのライブ映像があったので載せておこう。
二階席まであるからその辺のライブハウスよりは大きい会場だと思うけど、一杯の観客を前に堂々としたライブを披露してて、「こんなジャケットだから三流バンドだろう」という予想は裏切られた。
今回は全体的にジャケットに見合ったトホホなバンドがいないぞ。

タイトル動画まで作らなきゃいけないから時間ないし、知らないバンドばかりだったからコメントのしようもなく、いつもよりは短いブログとなったけど、探せばまだまだ出てくるバッドアートなレコード・ジャケット。
またいつの日か第二弾もあるかもね。

ではまたサ・タ・プメ (ギリシャ語で「また会いましょう」)。
 

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