軟弱ロックにも栄光あれ

【わけあってプレイヤーは別窓で開きます。音が鳴るので要注意】

ROCKHURRAH WROTE:

先々週あたりからSNAKEPIPEと二人して風邪をひいてしまい、インフルエンザ騒ぎもあったために珍しくマスク着用で通勤してしまった。こんな時期に紛らわしいというか運が悪いし、人には警戒される始末。SNAKEPIPEはすぐに治まったが、ROCKHURRAHの方は鼻炎も併発したらしく、大変に辛い一週間となった。おかげで自慢の(語尾がはっきりしない)こもった声が鼻声になり情けない。

さて、そんなことも踏まえた上で本日はROCKHURRAHの得意とする分野(?)、パンク&ニュー・ウェイブ時代のヘナチョコ声ヴォーカリスト特集だ。
ヘナチョコ声といっても感じ方は人それぞれだし、定義の難しい分野ではあるが、あくまでも個人的にそう思えるものを選んでみた。

そもそもロックの世界ではこういう声は決して異端でもなく、むしろ力強く堂々とした声の持ち主よりも人口は多いかも知れない。そんなヘナチョコ声ヴォーカルに市民権を持たせた代表はヴェルベット・アンダーグラウンドのルー・リードやデヴィッド・ボウイという事でいいのだろうかね。まあこれらはロックを聴く人なら大体誰でもわかると思える鼻詰まり系元祖の人だから、わざわざ語るまでもないな。

さてパンク、ニュー・ウェイブの世代になるとヘナチョコ人口はグッと増えてくる。ボウイやルー・リードを聴き狂って影響を受けた直接の世代でもあるし、ちょっとした程度の歌と目新しい演奏が出来れば誰でも人気者になれる機会があった時代だからね。

この時代で個人的に好きだったヘナチョコ・ヴォーカリストはハートブレイカーズのジョニー・サンダースがまず挙げられる。彼の場合は声に限らずギターも生き様もヘロヘロだったわけで、破滅型ロックンローラーの代表と言うべきだね。
そのジョニー・サンダースのベスト・オブ・弟分であるシド・ヴィシャスなども舌ったらず系ヴォーカルで数多くの人に愛されたな。この辺はROCKHURRAHのいいかげんな説明よりも伝記などを読んだ方がいいだろう。

そして誰が何と言っても軟弱声の極め付けはオンリー・ワンズのピーター・ペレットだろう。堕天使のような風貌(写真によって見た目が随分違うが)と誰もが倦怠感を一緒に感じてしまう中性的なヴォーカル・スタイル。古い順に書いてるから早い段階で登場してしまったが、これはもうヘナチョコ声チャンピオン間違いなしの一級品だ。日本では誰でも知ってるという程の知名度を得なかったし、パンク好きの人でも「Another Girl, Another Planet」くらいしか彼らの曲を知らないって人も多かろうが、他にも素晴らしい曲がたくさんあるので知るべし。

いきなりチャンピオンが出たからこれを破れる人はそうそういないんだが、例えばバズコックスのピート・シェリーなども同じ傾向かな。元々は奇妙な髪形の才人ハワード・デヴォートがヴォーカルだったが、彼が抜けた後にギタリストだったピート・シェリーがヴォーカルも兼任したというパターン。この時代のパンクとしては抜群に優れたポップ・センスとスピード感のあるバンドで、ちょっと素っ頓狂に裏返るシェリーのヴォーカルも魅力に溢れていた。後の時代に多大な影響を与えたで賞。

前々から何回もこのブログで取り上げてるベルギーのプラスティック・ベルトラン。これもまた愛すべきヘナチョコ・ヴォーカリストだ。延々と同じビートが反復するワン・パターンに甘えた声、映像見ても一人で跳ねて踊って歌ってるだけ。それでもパンク。彼らもオンリー・ワンズの「Another Girl〜」同様、一般的に知られている曲は数多くのバンドがカヴァーした名曲「Ça Plane Pour Moi(「恋のウー・イー・ウー」または「恋のパトカー」)」しかないのが悲しい。

忘れちゃならないのはパンクからニュー・ウェイブ転換期に活躍した早過ぎたバンド、ワイアーのコリン・ニューマン。「ロックでなければ何でもいい」などという発想で次々と既成概念を解体するような新しい試みの曲を量産し、あっという間に自らも分裂解体してしまった伝説のバンドだ。パンク・ファン以外でも知ってるような知名度の高い曲はうーん、あまりないなあ。ワイアー時代は「12XU」みたいに絶叫する曲もあったからヘナチョコ声のレッテル貼るのもちょっとおこがましいが、「I Am The Fly」「 15th」あたりからコリン・ニューマンのソロに至るまで、ドリーミーでクリーミーな世界を繰り広げている。

ニューマンで急に思い出したんだがニュー・ウェイブ初期の78年くらいに大ヒットを飛ばしたチューブウェイ・アーミー=ゲイリー・ニューマン、彼もまたヘナチョコ鼻声の持ち主だ。エレクトロニクス・ポップス略してエレポップ、もっとわかりやすく言えばテクノ・ポップと呼ばれた分野で大活躍した幻想アンドロイドこそが彼だ。デヴィッド・ボウイが持っていたイメージの一面を極端にデフォルメした非人間性が目新しかったものよ。しかし人気出たもののヒットは数曲、おまけにアンドロイドのくせに太ってしまうという致命的なミスを犯してしまい、いつの間にか消えてしまったな。

ここまでニュアンスはそれぞれ違うがROCKHURRAHが言わんとするヘナチョコ声質はわかって貰えた事と思う。だがヘナチョコ声はそれだけではない、もっとヴァリエーションのあるものだ。その一例を挙げてみよう。

デヴィッド・ボウイと同時期に活躍したロキシー・ミュージックのブライアン・フェリーが得意としてた、かどうかよくわからんが、いわゆるファルセット、裏声。歌唱法とすればロックの世界でもアリとは思うが、これも一般的にはヘナチョコ度が増す行為だろう。

ファルセットとは言わないのかも知れないがナチュラルに高音だったヴォーカリストと言えばアイルランドのアンダートーンズ(フィアガル・シャーキー)などは特徴的だ。当時、政治的に不安定だった北アイルランド出身のくせに見よ、この陽気なポップ魂、どこから声出してんの?パンク時代のモンキーズのようなバンドだったな。「Teenage Kicks」をはじめ「Here Comes The Summer」「Jimmy Jimmy」などなど、はじける名曲を数々残している。
近いタイプとしては日本での知名度はかなり低いがフィンガープリンツなども同じパターン。こちらはどう考えてもヴォーカリストには向かんでしょうという人がわざわざヴォーカルをとってて反省させられる内容。ただし曲はすごく良くてパンクというよりはパワー・ポップ系なのにパワーないぞ、というところが魅力。これぞヘナチョコ・ロックの面目躍如。

高音と言えばアソシエイツのビリー・マッケンジーも有名だ。80年代前半のイギリスで大人気だったバンドで83年くらいにはインディーズ・チャートの常連だったくらいに次々とヒットを飛ばした。陰と陽がどんどん入れ替わるような奇妙なポップスを得意としていたが、ただ不安定な高音やはっきりしない曲調、とっつきにくい部分もあってこの手のバンドを苦手な人も多数いるはず。同じ傾向であるキュアーのロバート・スミスが人気者になれたのに、やはりもう少しの個性が必要だったのかね。代表曲「Club Country」が知られてる程度で日本ではあまりヒットしなかったなあ。このビリー・マッケンジーは完全に落ち目になった90年代後半に鬱病が悪化し自殺している。そういうシリアスは我等が提唱するヘナチョコ道には反する行為なんだが。

ここまでパンク、ニュー・ウェイブ中心に書いてきたけど出そうと思えばいくらでも出てくるヘナチョコ族ども。ハッキリ言って掃いて捨てるほど存在してるな。書いててキリがないので90年代後半に出てきたアップルズ・イン・ステレオのロバート・シュナイダーをこの系譜の一番最後にしよう。ギター・ポップと言えばROCKHURRAHの世代では断然イギリス、スコットランドあたりなんだが、この90年代後半から21世紀のはじめくらいはアメリカ物の方が旬な時代だった。アップルズ・イン・ステレオもそんな中に登場したバンドで、この上ないほどポップスの王道を行く楽曲と素晴らしいヘナチョコ・ヴォーカルでギター・ポップ好きの心を鷲掴みにしたものだ。しかしこの女性受けする声のロバート・シュナイダーは小太りでメガネの冴えない男で秋葉原あたりにいても何ら違和感なしという風貌。「この声で美形じゃないなんて」と数多くのファンをガッカリさせた経歴を持つ。後年になって「ロード・オブ・ザ・リング」で有名なイライジャ・ウッドからの依頼じゃ、という事で彼のレーベルから出したりもしたが最近の活動には疎いもので、その後はどうなったのか?

というわけで思いつくままヘナチョコ・ロックの歴史を振り返ってみたが、こういうのばっかりあまり続くと食傷気味。ストロングでハードコアなものも続けると疲れてしまう。どちらもほどほどにバランス良く取り入れて健康なのが一番だね。
(何じゃこのしまりのない締めの言葉は?)

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