映画の殿 第13号 ジェイコブス・ラダー

【ジェイコブの悪夢はいつ消えるのだろうか?】

SNAKEPIPE WROTE:

「ベーコンさんっぽい映像の映画があるの、知ってる?」
と食事をしている時に長年来の友人Mが聞く。
友人Mは何故だかいつでもフランシス・ベーコンのことをベーコンさん、とまるで知人のように話す。
ベーコンっぽい映像の映画って何だろう?
教えてもらったのが、「ジェイコブス・ラダー」(原題:Jacob’s Ladder 1990年)だった。
25年も前の映画とは!
ベーコンっぽい映像だったら興味を持っていて不思議じゃないのに、どうして当時観ていなかったんだろう?
その頃はパソコンも持っていなかったから、今のように簡単にインターネットで情報を得ることはできなかったのも要因かもしれないね?

簡単にあらすじを書いてみようかな。

ニューヨークの郵便局員であるジェイコブは最近夢と現実の区別がつかなくなるほど奇妙な出来事に遭遇していた。
疾走する地下鉄に乗る得体の知れない人々。
掛かりつけの医者の死亡。
自分を轢き殺そうとした車に乗る異様な人物。
そしてベトナムの悪夢や幻覚までもが見え始める。
そんな時、ベトナム時代の戦友から電話がかかってくる……。

悪夢、奇妙、異様、幻覚という魅惑的な単語が並んでいるよね!(笑)
フランシス・ベーコンっぽい映像ってことは、敬愛する映画監督であるデヴィッド・リンチっぽい映画と言い換えても良いと思う。
リンチの雰囲気を表すのに最適な単語が上の4つに集約されていると言っても過言ではないはず!(笑)
これは期待しちゃうよね!

「ジェイコブス・ラダー」の監督はエイドリアン・ライン
ほとんど聞いたことないなあ?と調べてみると「フラッシュ・ダンス」「危険な情事」「ナインハーフ」と1980年代話題になった映画がズラリと並んでいる!
ヒットメーカーと言えるけど、 リンチっぽい映像かと問われたら「?」になってしまうよね?

主役は「ショーシャンクの空に」や「ザ・プレイヤー」でお馴染みのティム・ロビンス
タイトルにあるジェイコブという名前の役である。
大ファンのスペイン人俳優ハビエル・カマラ目当てで観た「あなたになら言える秘密のこと」にも出演していたっけ。
「ジェイコブス・ラダー」では30歳くらいの、若いティム・ロビンスを観ることができるね。
とは言ってもかなり童顔なので、とても3人の子供がいる父親には見えなかったけどね。(笑)

ちなみに「ジェイコブス・ラダー」とは「ヤコブの梯子」のこと。
旧約聖書の創世記28章12節でヤコブが夢に見た、天使が上り下りしている天から地まで至る梯子あるいは階段のことを指すらしい。
左の画像はウィリアム・ブレイクの作品「Jacob’s Dream」(1805年)である。
ヤコブは天国に上る階段の夢を見て、自分の子孫が偉大な民族になるという神の約束を受ける、ということになっているらしいよ。
毎日のように夢をみるSNAKEPIPEも梯子の夢を見ないとね!(笑)

今回の「映画の殿」は映画の内容の紹介というより、リンチっぽい映像に焦点を当てていこう!
映画開始から10分程で気になる人物が登場!
主人公ジェイコブがニューヨークの地下鉄で出会う女性なんだけど、英語圏の人ではないためなのか、ジェイコブの問いかけに一切答えようとしない。
そればかりか一度も瞬きをしないんだよね!
カッと見開かれた目でじーーっとジェイコブを見つめるだけ。
通り過ぎるまでずっと見つめられ続けるのは怖いなあ!
リンチの映画に出てきそうな女性だったね。


外側から電車の中にいる人を見ているジェイコブ。
その流れていく映像を画像にして、ROCKHURRAHに3枚並べて作ってもらった。
これはもうフランシス・ベーコンだよね!(笑)
歪んだ口やブレた輪郭。
うーん、確かにベーコンさんっぽい映画だ!(笑)

あらすじにもあった「自分を轢き殺そうとした車に乗る異様な人物」というのがこれ!
追いかけてくる車を運転しているのは、普通の人間だったのは確認できた。
正面から見た時には後部座席の人影しか見えないんだけど、通り過ぎる時に窓から顔をのぞかせる。
いきなりこんな人がいたら怖いよねー!
更に通り過ぎた後、後方から車をみると、スキンヘッドの異形だったはずの人物がまた別の異形になっている!
隣にはこれもフランシス・ベーコンの絵から抜けだしてきたような、顔がぼんやりした異形がいる!
これらのシーン、時間にすると短かかったので、まさかこんな顔が隠れていたなんて知らなかったよー!
じわじわ怖いって感じてたけど、やっぱり怖い映像がミックスされてたんだね。

パーティ会場で冷蔵庫を開けると入っていたのがこれ!
人の家の冷蔵庫だから、何が入っているのか分からないのは当然だけどね。
牛か羊か分からないけど、動物の頭には違いないよ。
アントニオ・デ・ラ・トレ主演の「カニバル」では冷蔵庫に人肉入ってたけど、切り分けられてたからグロテスクじゃなかったんだよね。
やっぱり「頭部そのまま」っていうのが怖いんだろうな。

恋人の顔が急に変貌しているように見えるのも恐怖だよね。
悪魔に関する本を読んでいる途中で声をかけられ、生返事したら恋人が怒り出す。
よくある状況だけど、こんな顔で怒鳴られたら逃げ出してしまうよね。(笑)
この画像も一瞬だったからはっきり確認できなかったんだけど、目も鼻も口(歯)の全てに手が加えられてるね。
リンチの「ロスト・ハイウェイ」の中でも、隣に寝ている妻の顔がミステリーマンの顔に変わっていた怖いシーンがあったのを思い出す。
知っている人、愛している人の顔だから余計に恐怖するんだよね。

怪我をしたジェイコブが連れて行かれる病院がすごかった!
ただの外科で良いはずなのに、担架で運ばれていったのは精神病院のようだ。
床に横たわる女性、窓に頭をぶつけ続け血を流す男性(嶋田久作似)、逆立った毛髪でじっと一点を見つめる男性(フランシス・ベーコン似)、網になった天井を這い回る小人など、夢野久作の「ドグラ・マグラ」を思い起こしてしまうね!
まさに「狂人の開放治療」といえる映像化は見応え充分。
松本俊夫監督の「ドグラ・マグラ」(1988年)も映画館で観たSNAKEPIPEだけど、「ジェイコブス・ラダー」の精神病棟も負けてないね!

リンチの「ロスト・ハイウェイ」で印象的だった、顔が左右にブンブン揺れて痙攣しているように見える映像は「ジェイコブス・ラダー」が元ネタだったようだね。
「ジェイコブス・ラダー」は1990年、「ロスト・ハイウェイ」は1997年だから。
こんなに興味がありそうな映画を、どうして当時観ていなかったのか本当に不思議でならない、と再び思ってしまう。
「フラッシュ・ダンス」と「ナインハーフ」の監督だからなって思っちゃったのかもしれないね?(笑)
監督で作品を判断することが多いSNAKEPIPEなので、「ジェイコブス・ラダー」のような例もあることを覚えておかないとね!

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