映画の殿 第30号 Pedro Almodóvar「マタドール」

20180527 top
【アルモドバル版の純愛映画かな】

SNAKEPIPE WROTE:

2017年12月に「長年の夢が叶った」として書いたのは、スペインの映画監督であるペドロ・アルモドバルの作品「セクシリア」の感想だった。
他にも未鑑賞のアルモドバル監督作品があり、チャンスの到来を待っていたSNAKEPIPE。
ついにその時が訪れたのである。(大げさ)
今回鑑賞することができたのは、「マタドール〈闘牛士〉 炎のレクイエム (原題:Matador 1986年)」。
アルモドバル監督の5作品目ということになるのかな?
スペイン映画でタイトルに闘牛が入っていると、鑑賞前に勝手なストーリーを作ってしまうんだよね。
ところがアルモドバル監督「マタドール」は、SNAKEPIPEの想像を完全に裏切る物語だった!
トレイラーを載せてみよう。
※ネタバレしていますので未鑑賞の方はご注意ください

続いてあらすじね。

殺人にエクスタシーを感じる男と女の、極限的官能を描いた作品。
現役を引退したかつての闘牛士ディエゴに、青年アンヘルは教えを受けていた。
アンヘルは男らしさを誇示しようと、一連の未解決の殺人事件の犯人は自分だと嘘をつく。
しかし本当の犯人は、闘牛士時代のスリルから殺人を繰り返していたディエゴだった。
またアンヘルを弁護した女弁護士マリアも、セックス中の異様な興奮から男を殺していた…。

SNAKEPIPEは映画鑑賞前には、先入観を持たないようにするために、あらすじを読まない派。
何の予備知識もないまま素直に観るのが好みなんだよね。
今改めてあらすじを検索してみてびっくり!
最初からネタバレしてるんだもんね。(笑)
この文章を読むだけでは、アルモドバル監督のハチャメチャぶりを伝えることにはならないだろうし?
今まで鑑賞したアルモドバル監督作品と同様に、「マタドール」もかなりイカれてて、楽しめた作品だよ!

あらすじの中にある青年アンヘルを演じたのはアントニオ・バンデラス。
アルモドバル監督作品としては「セクシリア」以来の登場になるのかな。
本職(なんだか忘れてしまった)があるのに、母親には内緒で元闘牛士ディエゴの闘牛士学校(?)に通っているアンヘル。
闘牛士になるための学校があるとは知らなかったよ!(笑)
実はアンヘルは血を見ると気絶してしまう性質があるんだよね。
それなのに闘牛士を目指すって矛盾してるよ。(笑)
「セクシリア」では犬並みの嗅覚を持つ男、という役柄だったバンデラスだけど、「マタドール」でも不思議な役どころを演じていたよ。
なんと、超能力があるんだよね!
それも映画の後半になって急に能力に目覚めてしまうところが、アルモドバル監督らしい。(笑)
その能力のおかげでラストシーンに、うまくつながっていくところがさすが!
そんなハチャメチャを至極当然とばかりに取り入れるところが秀逸だよ。
それにしても、どうしてアンヘルは自分が犯人だと嘘を吐いたのかな。
あらすじには「男らしさを誇示」するためと書いてあるけれど、 ゲイではない証明が殺人犯になること、という発想自体違うように思ってしまうよ。

元闘牛士ディエゴを演じたのはナチョ・マルチネス。
闘牛の時、牛の角で突かれたために、今でも足をひきずっている。
映画のタイトルになっている「マタドール」とは闘牛士のランクの中で最高位で、この地位になるのは、全闘牛士の中でも1割程度だという。
ディエゴは闘牛の最中に「栄誉の負傷」をしたマタドールということは、恐らく英雄として讃えられる存在なんだろうね。
そんなディエゴは、ホラー映画に性的興奮を覚え、実際に殺人に手を染めている。 
英雄が殺人犯というあり得ないような設定がされているところがポイントだね。
イタリアの俳優マルチェロ・マストロヤンニに似ているように見えたナチョ・マルチネスだけど、なんと44歳の若さで亡くなっていたよ。
アルモドバル監督作品には、「ハイヒール」にも出演しているようだけど未鑑賞!
この作品も観たいんだよね。

殺人を自白したアンヘルの弁護士マリアを演じたのはアサンプタ・セルマ。
キリッとした美人でSNAKEPIPEの好み!(笑)
こんな弁護士がいたら大人気だろうな。
ところがマリアも秘密を持っている。
性的に興奮すると相手の男性を殺してしまう癖(?)があるとは!
こちらも弁護士が殺人という矛盾設定なんだね。
映画の冒頭でマリアが殺人を犯すシーンと、闘牛学校の講義がクロスするんだよね。
闘牛の技と殺人がリンクするようなカットが秀逸!
アサンプタ・セルマはアルモドバル監督の処女作とされる「ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち」にも出演しているみたい。
これも未鑑賞なので、観たい1本なんだよね。
さっきから未鑑賞ばかりだね。(笑)

赤い服を着て中央に座っているのが、元闘牛士ディエゴの恋人でモデルのエヴァ。
エヴァ・コボという女優が演じていたね。
言われないとモデルだと分からなかったよ。(笑)
エヴァには矛盾点がないためなのか、上の3人とは関わりがあっても別種なんだね。
似た者同士のディエゴとマリアの結びつきの強さの前には太刀打ちできない。
これは性癖の問題なので、惨敗しても仕方ないだろうね。

画像中央にいる赤いシャツにヒゲの男性、アルモドバル監督ね。(笑)
またまた監督自身が登場しているよ。
どうやらファッション・デザイナーの役みたいだよ。
殺人要素を入れたファッション・ショーにするみたいだったけど?
「セクシリア」の時にも「血みどろ写真集」の撮影あったしね。
こういうブラック・ジョークが好きなんだろうね。(笑)

アンヘルの母親役はフリエタ・セラーノ。
初期のアルモドバル監督作品の常連女優で、「バチ当たり修道院の最期」ではレズビアンでヤク漬けの尼長だったね。
「神経衰弱ぎりぎりの女たち」ではアントニオ・バンデラスの母親役だったので、「マタドール」が原型だね。
「神経衰弱〜」の時には、ものすごくド派手な化粧をしているので、この画像とはまるで別人だよ。(笑)
宗教を第一に重んじ、世間体ばかりを気にする役どころ。
アルモドバル監督は宗教を取り入れることも多いよね。

モデルのエヴァの母親を演じたのはスペイン版浦辺粂子、チュス・ランブレアベ!
アルモドバル監督作品の常連で、間違っていなければ今まで8本に出演しているみたい。
これは俳優の中でのアルモドバル監督作品出演最多記録になるのかな。
決して主役にはならないけれど、印象に残る役が多いんだよね。
こんなにしっかり化粧しているチュス・ランブレアベは初めてかもしれない。

殺人を告白したアンヘルを取り調べる刑事を演じるのはユウセビオ・ポンセラ。
この刑事はゲイなんだよね。
闘牛学校に聞き込みに行った時の、視線は学生の股間に注がれていたよ。
アンヘルが自首してきた時にも、好色そうな視線だったし。
刑事の隣に写っているのはアルモドバル監督作品の常連、カルメン・マウラ。
警察関係者という設定で、なにかとアンヘルの面倒を見ていたよ。
公私混同して、アンヘルを抱きかかえたりしてたから、余程気に入ってたんだろうね。(笑)

アルモドバル監督は性の問題や宗教をテーマにした作品が得意だよね。
「マタドール」では(特殊な)性癖が最大のポイントになっていた。
SNAKEPIPEが一番初めにフェティシズムを描いた映画を観たのは、ジョン・ウォーターズ監督作品だったかもしれないな。
もしかしたらアルモドバル監督も観ていたかも?(笑)
そういえばジョン・ウォーターズ監督の「セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズ (原題:Cecil B. Demented 2000年)」の中で、崇拝する映画監督の中にアルモドバル監督の名前も入っていたことを思い出す。
CULT映画ア・ラ・カルト!【06】JOHN WATERS part2」に感想をまとめていたね。
ROCKHURRAHが編集してくれたビデオがあるので、ご参照くだされ!

映画のラストで刑事以下数名が心中を止めるために奔走する。
ところがその日は皆既日食に当たる日だったんだよね。
あと一歩で2人を止められるというところで日食が始まってしまう。
全員が「あ、日食だ!」と空に目を転じた瞬間、心中が決行されてしまう。
このタイミングの絶妙さ!
「間に合わなかったけれど、2人はとても幸せそうだ」
という刑事の言葉で締めくくられ、映画は終わるのである。

三島由紀夫が「聖セバスチャンの殉教」に惹かれていたような感覚が、「マタドール」のフェティシズムに近い感じがする。
若者が痛みをこらえながら死にゆく様に「美」を見出し、憧憬を抱くのかもしれない。
苦痛や死に嘘がないところも魅力だろうと想像する。
こう考えると「マタドール」のフェティシズムも、決して理解できない種類ではないのかな?
劇中劇(映画内映画)でも愛する人の死に接するシーンがあったしね。

死に魅せられた、同じ性癖を持つ男女が惹かれ合う。
究極の愛を求め合うということは、すなわち心中になってしまうんだよね。
一般的には受け入れられないだろうけど、当人同士は真剣そのもの。
まるで大島渚監督の「愛のコリーダ」だよ。
SNAKEPIPEは、「愛のコリーダ」も「マタドール」も純愛映画だと思うな。
あえて漢字を変えるなら殉愛映画、とでも言うべきか?

32年前の映画「マタドール」、鑑賞できて嬉しかったな!

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