好き好きアーツ!#30 鳥飼否宇 part8–絶望的 寄生クラブ–

【ROCKHURRAHが制作した「THE 小倉!」(笑)】

SNAKEPIPE WROTE:

3月6日は鳥飼先生のお誕生日!
鳥飼先生、おめでとうございます!

好き好きアーツ!#28 鳥飼否宇 part7–死と砂時計–」の最後でも書いていたように、今年はまさに鳥飼否宇先生の年!
「死と砂時計」に続いて刊行されたのが「絶望的 寄生クラブ」である。
発売予定日とされていた2月26日より前の2月21日に入手することができたのは、鳥飼先生のtwitterに情報が載っていたため!
もしかしたら、と近所の本屋に行ってみたら「死と砂時計」と共に平積みにされているのを発見。
応援している鳥飼先生の作品が並んでいるのを見て、ROCKHURRAHと一緒に飛び跳ねそうになってしまった。(笑)
本当に喜ばしいっちゃ!(北九州弁)

「絶望的 寄生クラブ」は「官能的 4つの狂気」以来、約7年ぶりに増田米尊が主人公となる作品である。(記憶違いだったらごめんなさい)
増田米尊!(笑)
綾鹿市にある綾鹿科学大学大学院理数研究科の准教授という肩書を持つ増田米尊は、数学者でありながらもフィールドワークを元に独自の研究を続けている。
「尤度関数を用いた性行為時の女性のよがり声の推定」や「キャバクラ嬢の豊胸指数をもとにした日本人女性のバストサイズの傾向推定」といった、今まで誰も数学と結び付けなかったようなデータを使った研究を真剣に行っているのである。

増田米尊の最大の特徴は、この変態性!
覗き見る、という行為こそが研究のためのフィールドワークなのである。
こんな犯罪スレスレ(犯罪そのもの?)の行為をしているにも関わらず、増田米尊は50歳を超えても未だに童貞!
それを秘密にするのではなく、声高らかにカミング・アウトし童貞主義者ときっぱり言い切るところは清々しいほどである。(笑)
実は妻帯者で、同じ家に住んでいるのにね!

もう1つの増田米尊の特徴は、興奮状態に陥ると頭脳明晰な研究者に変態する体質の持ち主ということだろう。
変態が変態する。
この瞬間があるからこそ、増田米尊が准教授として研究を発表できるんだよね。
そうじゃなかったら単なる出歯亀になっちゃうから。(笑)
「絶望的」はそんな増田米尊の「きせい」という5つの漢字に因んだお話なのである。
その「きせい」に絡めた感想を書こうとした結果、あらすじを詳しく書き過ぎちゃったかなあ。反省!
※ネタバレしているかもしれないので、未読の方はご注意下さい。

第1章 「増田米尊、帰省する」の巻

増田米尊が勤務先である綾鹿科学大学大学院の夏休みを利用して、およそ10年ぶりに帰省するのである。
帰省先がなんと福岡県北九州市の小倉!
これには驚いた!
ROCKHURRAHの実家も小倉だからね。(笑)
そのおかげで(?)SNAKEPIPEも何度か訪れたことのある場所である。
奄美大島在住の鳥飼先生も、ご実家は小倉でしたよね?
まさか増田米尊の帰省先も同じ小倉だったとは!
おや?鳥飼先生の著作「本格的」に増田米尊の出身地としてあったのは、東京都町田市だったような?
現在住んでいるところ、ということにしておこうか。(笑)
いや、増田米尊だったら石神井とか御成門が合ってるのに、と仕事中に思いつき、一人ニヤけるSNAKEPIPE。
増田米尊に負けない変態ぶりですな!(笑)

小倉の駅前周辺の描写があり、情景を思い出す。
北九州弁が忠実に再現されているのを読むと、つい声に出して真似てみたくなってしまう。
実はROCKHURRAHは生まれも育ちも小倉、というわけではないという。
更に小倉を離れてからの期間が長いため、北九州弁についてはっきり覚えていないらしい。
仕方ないので、youtubeにアップされている「北九州弁講座」で勉強までする始末。(笑)
「〜と?」とか「〜なん?」の使い方が難しくて、いつも変な言葉になってしまうSNAKEPIPEである。

兄の家に向かった増田米尊は、普段とは違う体験をしてしまう。
兄嫁や姪からモテモテなのである。
ところが増田米尊、迫られても「童貞主義」を貫き通す。
加えて、お互いに自慰し合う提案をするとは、さすがだよね。(笑)
この箇所を電車で読んでいたSNAKEPIPEは笑ってしまい、周りの人から変人に思われたはず!

普段とは違う経験をした増田米尊は身の危険を感じ、帰省先からトンボ返りしてしまう。
大学に戻り、学会向けの資料に手を付けようとすると、資料が全く別のファイルにすり替わっている。
「処女作」というタイトルのミステリー小説で、更に作中に「問題編」やら「読者への挑戦!」が入っているのである。

第2章 「増田米尊、奇声をあげる」の巻

何故「処女作」 にすり替わってしまったのか?
誰がこんなイタズラをしたのか?
書いたのは誰なのか?
増田米尊は犯人探しを始める。

この中で興味深かったのは「プリン形」と命名されたトップが平らなバストだね!
フィールドワークとして盗撮した、と堂々を告白する増田米尊に、SNAKEPIPEは次第に驚かなくなっている。
だって増田米尊だもんね。(笑)

キャバクラの店名として「ノヴェンバー・ステップス」とあるのは、武満徹の曲名なのかな?
現代音楽についてほとんど知らないけれど、鳥飼先生の著作にある店名には何かあるかも?と思って検索してみたんだよね!

お盆明けに大学に向かい、作り直した資料にもう一度目を通そうとした増田米尊。
ここで奇声をあげるのである。
なんとまた資料が「問題作」という別ファイルに替わっているではないか!

第3章 「増田米尊、規制を課す」の巻

またしてもやられてしまったとは!
頭を抱えているところに、例のキャバクラでバイトをしている「プリン形」の横田ルミが登場する。
そして帰省先でも経験したように、ルミから迫られる増田米尊。
「オナニストを愚弄するな!」
と一喝し、ルミを「ズベ公」呼ばわりする。
ここでもまた「童貞主義」を貫いた増田米尊に、「やんや」の喝采を送りたいよね!(笑)

「問題作」にすり替わった資料を再び学会用に仕上げて、札幌で開催される応用数理学会に出席する増田米尊。
「キャバクラ嬢の豊胸指数をもとにした日本人女性のバストサイズの傾向推定」を発表するはずだったのに、スクリーンに登場したのは「出世作」というエロミス(?)であった。

第4章 「増田米尊、気勢をあげる」の巻 

いつの間にか発表する資料がすり替わり、すっかりしょげていた増田米尊の元に、帝都理科大の教授である楠城一太郎が声をかける。
楠城は増田米尊の理解者で、今回発表された「出世作」の謎を解いたと言う。
その説明により、ほとんど官能小説としか思えなかった内容が、実はミステリーだったことを理解する増田米尊。
いや、増田米尊だけではない。
SNAKEPIPEもなるほど、と納得できたよ!
だから「出世作」なんだね。(笑)

「変態、バンザイ!」
と気勢をあげた増田米尊は、そのまま意識を失い倒れてしまう。
なんとその原因は回虫症による貧血だという。
ひーーー!回虫ーーー!
生野菜を口にすることで、体内に卵が入ってしまうという説明にはびっくり!
野菜はよーーく洗って食べようね。
熱を通せるものは通してから食べようね。
熱を通せば大丈夫なんだろうか。
何度以上の熱にすれば良いのだろうか。
調べたいけど、「その手」の写真が載ってたらと思うと怖くて検索できないんだよね。
増田米尊も、寄生虫に関する本に載っていた鳥肌が立ちそうな気味の悪い写真を見てしまったことで、余計に疑心暗鬼になってたもんね。

療養中の増田米尊の元に、以前寄稿した紀要が届く。
予想していた通りに、原稿は「失敗作」にすり替わっていた。

第5章 「増田米尊、寄生される」の巻 

紀要の中にあった生物学科の助教である藤崎健の文章に興味を示した増田米尊は、藤崎に直接話を聞きに行くことにする。
すさまじい寄生合戦と、宿主に依存したまま生き続ける生物の多さ、どのようにして寄生するのか、などのレクチャーを受けるのである。
以前見た寄生された人の写真なども想起されてしまったのだろう、増田米尊は話を聞いている途中で再び意識を失い倒れてしまうのである。

一人の学生と会話をするうちに、すべての謎が明らかになる。
増田米尊は真実を知るのである。
これから先、増田米尊に再会できるのか心配になってしまうね。
何事もなかったように、再登場願いたいね!

劇中劇ならぬ作中作が4編組み込まれているので、連作短編とはいっても、途切れ途切れになった印象がある。
「失敗作」だけは増田米尊の執筆で、以前からの作品で馴染みのある谷村警部補と南巡査部長も登場しているので、唐突な感じはなかったけどね!

作中に登場したすり替わっていた小説のうち3編は、鳥飼先生の独立した短編小説として発表されていたものだったんだよね。
ミステリーとしてちゃんとしたロジックもあって、充分に楽しむことができるので、単独でも存在感がある作品である。
「バカミス」と聞くと、簡単でお手軽だと思われがちだけど、このジャンルをキチンと面白く書けるのは、やっぱり鳥飼先生の才能なんだろうね!

「絶望的」でそれらを一つの連作短編としてまとめられているからなのかもしれないけど、今回は増田米尊が翻弄される設定で、前作までの活躍ぶりがなかったのが心残りかな。
フィールドワークに関しても少し語られただけなので、「これぞ増田米尊!」という変態行為が少なかったのもファンとしてはちょっと物足りない。
一体SNAKEPIPEは何を望んでいるんだろうか。(笑)

3月5日に発売された「生け贄」もすでに入手済!
現在、読み進めているところである。
すでにお馴染みになっている「観察者シリーズ」のメンツとの再会が嬉しい!(笑)
また感想を書きたいと思う。

バカミス最高 一家に一冊鳥飼否宇
鳥飼先生、これからも応援しています!

ビザール・ポストカード選手権!17回戦

【愛がこもっているようには見えないクリスマスカード!】

SNAKEPIPE WROTE:

ビザールな逸品を紹介するビザール・グッズ選手権、今回は約1年ぶりにポストカードを特集してみようか。
ポストカードに関しては過去に3回特集をしている。
そのためなのかSNAKEPIPEの目が肥えてしまったようで、ぐっとくる作品を探し出すのが難しかった。
及第点かな、と思われるカードを紹介してみようね!

まずは大好きな(?)虐待系から!
誤解が生じるといけないのでキチンと説明しておこう。
外国のビンテージ・ポストカードを見ていると、かなりの確率で登場するのが虐待系なんだよね。
過去に特集した中にも、子供を水につけたり、スープとして煮込む寸前の瞬間をとらえたカードがあったよね!
非常に気になってしまうので、いつも紹介してしまうSNAKEPIPEなのである。
今回見つけたのは、なんとサンタクロースと思われる人物が子供をさらおうとしている様子のカード!
本来は子供達へのプレゼントを入れるための袋なのでは?
グリーティング・カードを送る時期として多いのはやっぱりクリスマスと元旦だと思うけれど、悪いサンタを描いている作品は少ないんだよね。
子供の夢を奪わないようにするためなのか?
このポストカード見たらそんな夢は砕けてしまいそうだよね。(笑)


サメに襲われている女性!
なんともショッキングなこのポストカードは1902年の物らしい。
あ、上の方に13/6 1902って書いてあるよね。(笑)
それにしても、悲鳴を上げている女性を見ている前の2人、全然緊張感がなくて、むしろ笑っているようじゃない?
SNAKEPIPEは、そんな2人が気になってこのカードを選んでしまったよ。
一体どんな意味を持っているカードなのか不明。
「まあ、怖い!うふふ!」
「おいおい、食われちまってるぞ〜!あっはっは!」
と言ってるように見えるんだよね。
クラシカルな水着も含めて、珍しいカードには間違い!(笑)
何やら文字がたくさん書いてあるけど、解読できなかった。
何かこの絵と関係のある内容が書いてあるんだろうか?
文章が絵と全く関係なかった場合には、送られた人は困惑しちゃうだろうね!


続いても困惑系のポストカード!
アイガーメンヒユングフラウは「オーバーランド三山」として有名なスイスの山だという。
恐らくそれぞれの山を擬人化したポストカードだと思われるんだけど、右のユングフラウはくしゃみして人を飛ばし、真ん中のメンヒは鼻から何か出してるのが謎!
それとも真ん中のメンヒは嗅ぎたばこを吸ってるの?
うーん、よく分からない。(笑)
このポストカードがスイスの山の宣伝だとしても、これを見て「スイス行きたい!山に登りたい!」とは思わないだろうなあ。


次も謎のカードにしてみよう。
何故ソーセージ?(笑)
「最も幸福な思い出のつながり」って意味不明だし!
思い出のつながりを表現するなら、違う方法もあっただろうにね?
あなたとの思い出に、なんて言われてこのカードもらっても困惑すること間違いなし!
1911年のカードとのことだけど、今から約100年前には一般的な題材だったんだろうか?(笑)


このカードのインパクトもすごい!
一言「ラクダ」とだけ書いてあるんだよね。
どうやらエジプトのポストカードのようなんだけど、ラクダの写真を選ぶにしても何故交尾中の写真にしたのか?
エジプト→砂漠→ラクダという連想は分からないでもないけど、エジプトから絵葉書届いたらコレだったなんて腰が抜けそうだよね。(笑)
SNAKEPIPEは、このポストカードを見た瞬間に大笑いしたけど!


最後はこれ!
TITUSとTITIAと名付けられた7.1フィート(約216cm)の2人組がメインで写っているカードね。
どうやらこれはMARK SANDS MFG. CO., INC.という店のポストカードで、TITUSとTITIAはこの店のマスコットキャラクターみたい。
今でもこの店があるのか調べてみたけど、ネットでは出てこなかった。
恐らくビンテージ物のカードだろうから、店も残っていないのかもしれないね。
単なるスナップショットをポストカードにしちゃった感じは、ビザール・ポストカードを特集した1回目に登場したフィンランドの80年代を感じさせるカードに雰囲気が近いよね。
なんとも言えないトホホ感が素晴らしいこのポストカードも、コレクションに加えたい逸品だね。(笑)

今回のビザール・ポストカードは前述したように「及第点は取ってるかな」レベルで、どうしてもこれだけは外せない!というほどのインパクトを持った作品は少なかったかな。
前回から約1年経過しているので期待していただけに、ちょっと残念。
またしばらくしたら検索してみよう。
SNAKEPIPEの目がギラギラするような逸品に出会えるかもしれないからね!(笑)

SNAKEPIPE MUSEUM #30 David Altmejd

【どの角度から観ても面白い!独特の美学を感じる作品】

SNAKEPIPE WROTE:

興味を感じるような展覧会情報を調べていたけれど、特に何もない時にはお決まりのアート検索。
美術館に行かなくても、ネットで作品を鑑賞するのも楽しいからね!
日本で開催される展覧会は、世界中のアーティストのほんの一部を紹介しているだけだろうし?
まだまだ未知の、ワクワクさせてくれるようなアーティストがいるはず!
今回こんなSNAKEPIPEの期待に応えてくれたのは、カナダ出身のDavid Altmejdだった。

デヴィッドは読めるけど、Altmejdは?
どうやらアルトメジョと読むらしいね。
デイビット・アルトメジョ、と書いてある記事を見つけたので、表記をこれで統一してみようか。
デヴィッド、も違ってたみたいだし。(笑)

デイビット・アルトメジョは1974年カナダのケベック州生まれ。
ケベック州だけは公用語がフランス語なんだよね。
そのためデイビット・アルトメジョに関する記事もほとんどがフランス語で書いてあって読めないの。(笑)
現在フランス語を勉強中の、長年来の友人Mに翻訳頼もうかと思ったくらいだよ!
少ない情報の中から分かったのは、ケベック大学モントリオール校とコロンビア大学を卒業していること。
2003年にイスタンブール・ビエンナーレ
2004年にホイットニー・バイエニアル
2007年にはカナダ代表としてベニス・ビエンナーレに出品したことくらいかな?(笑)

デイビット・アルトメジョは下着、プラスチック製の花、安物アクセサリーなどの様々なアイテムを使用して彫刻作品を制作する。
その寄せ集めた素材も要因なのかもしれないけれど、アルトメジョの作品は、まるで異常者が犯行の戦利品を自慢気に飾っているような雰囲気を持っているように感じてしまうんだよね。
その独特の美学に惹かれてしまうSNAKEPIPEだよ!(笑)

毎週末毎に楽しみに鑑賞していた「ブレイキング・バッド」を鑑賞し終えてしまったので、次に鑑賞しているのがドラマ「ハンニバル」である。
上のアルトメジョの作品(The Vessel 2011年)が、まさに「ハンニバル」で観たばかりの殺人現場に似ていてびっくり!
もちろんアルトメジョのほうが早いんだけど、アート作品と殺人現場が「似て蝶」っていうのもすごい話だよね?
そんなところからも前述したような「犯行の戦利品」と感じてしまったのかもしれないよね。

左の画像は「Untitled 3 (Rabbit Holes)  」2013年の作品である。
どうして「Rabbit Holes」というタイトルにしているのかは調べられなかったよ。
直訳すると「うさぎの穴」だよね?
人間の頭部だけが転がされ、顔面部分にはぽっかりと穴が開いている。
もし、これが美術館の中ではなくて、散歩中に出会った光景だったら?
かなり怖いだろうね!
「Rabbit Holes」はシリーズ化されていて、アルトメジョはたくさん作品を制作しているんだよね。
テーブルの上に乗っているのは「Untitled 6 (Rabbit Holes)  」で、こちらも2013年の作品とのこと。
顔面部分がくりぬかれた頭部と、完全に真っ二つになった断面だね。
この作品を観て思い出したのが、東京国際フォーラムで観た「人体の不思議展」。
あれは本物の人体が展示してあったけど、グロテスクには感じなかった。アルトメジョの作品のほうが生々しくみえてしまうよ。

顔付きの作品もあるんだよね。
左の画像は「Untitled」は 2011年の作品である。
人間の頭部が逆さになっている…おや?
逆さにも見えるし、そのままでも顔になっているんじゃない?
子供の頃に人の顔を逆さから見て、別人の顔に見えて大笑いしたことを思い出す。
この作品はそんな他愛もないアイデアから生まれた物なのか?
はたまた異常犯罪者っぽく、頭をこんな感じで飾ってみたあとからオマケみたいに白い粘土を貼り付けて遊んでみたのか。
アルトメジョの作品は、鑑賞する側のイマジネーションも沸かせてくれるね。


アルトメジョは素材に鏡や鉄を使用することも多いようで、上の作品「The  Eyes」は先に紹介した「人体の不思議展」のような異常者系作品とはまるで違う性質の作品に見えるよね。
「The  Eyes」は2008年の作品だというので、こちらの制作時期のほうが早いんだね。
この作品は11☓18フィートとのことなので、約3.35m☓5.48mの大型作品なんだね。
金属的な冷たい光が反射する、インダストリアルな作品も素晴らしいよね!
金属と人体系のコラボ作品もあるようで、アルトメジョの世界を実際に観てみたいなあ。

2014年10月10日〜2015年2月1日の会期でパリ市立近代美術館でアルトメジョの回顧展を開催していた模様。
その後3月〜5月にルクセンブルクのMUDAM美術館、6月〜9月にモントリオールのMACM美術館で公開されるとの情報が!
10月からは森美術館で開催、なんてことになったら嬉しいのになあ!

好き好きアーツ!#29鳥飼否宇 part7–死と砂時計–

【ROCKHURRAHがジャリーミスタン刑務所を盗撮か?!】

SNAKEPIPE WROTE:

ベストオブ2014の記事でも予告していたように、今年に入ってすぐに嬉しいニュースがあった。
ROCKHURRAH RECORDSが大ファンの作家、鳥飼否宇先生の新刊が出版されたのである。
タイトルは「死と砂時計」。
タイトルだけでもワクワクしちゃうよね、と「好き好きアーツ!#27 鳥飼否宇 part6–迷走女刑事–」で書いていたことを思い出す。

発売日とされていたのは1月10日。
もしかしたらフライングで前日に店頭に並んでいるかもしれない、と新宿の紀伊国屋書店で探してみた。
見当たらない!
検索機で調べてみても「死と砂時計」の情報は出てこなかった。
うーん、残念!
やっぱり10日が発売日なんだね、と当日地元の本屋へ。
ここは割と広い本屋で、種類も豊富に揃っているため、探すのが大変!
ところがさすがは元本屋のROCKHURRAH、なんなく見つけ出してくれたのである。
こうして鳥飼先生の新刊を入手!
通常は先にSNAKEPIPEが読み、その後ROCKHURRAHが読むという順番だけれど、今回はROCKHURRAHが先陣を切った。
読み進めているROCKHURRAHは、面白い!面白いよ!を連発する。
まだ読んでいないSNAKEPIPEには、拷問のような時間だった。
今までROCKHURRAHも、後から読んでたから同じような心境だったんだろうな、と反省。
相手の立場になって初めて解ることって多いよね。

ついにSNAKEPIPEの順番になり、読み始めることとなった。
なんと!今回の作品は鳥飼先生には珍しく、外国が舞台になっているじゃないの!
ジャリーミスタン首長国という架空の国が舞台である。
具体的な場所は記されていないけれど、中東にある小国らしい。
周りは砂漠で、その砂漠にぽつんと死刑囚専用の刑務所が建っている。
何人か脱獄に挑戦した囚人がいたらしいけれど、1人の成功以外は全て未遂に終わっているという。
ほぼ脱獄不可能な刑務所、ということで良いかな?
もし脱獄に成功しても、囚人には身体のどこかにチップが埋め込まれているため、GPSで所在の確認ができてしまう仕組み。
身体のどこにチップが埋め込まれているのかが不明なので、自分で取り出すこともできないのである。

ジャリーミスタン首長国は人権擁護を叫び、死刑を良しとしない国が増えていることに目を付けた。
死刑は廃止したいけれど、凶悪犯は排除したい。
最高刑を終身刑にした場合、その囚人を死ぬまで刑務所内で養っていかなければならないことになる。
その経費は国が賄うことになるわけだよね。
なんならウチで囚人引き取って、死刑やりましょか、ダンナ?と持ちかけ、商売にしたのがジャリーミスタン首長国なのである。
死ぬまでかかる経費よりも、引き取り料金のほうが安上がり、更に凶悪犯を国外に移送できるという一粒で二度美味しい話に飛びつく国が跡を絶たないのは想像に難くない。
なるほど、人が嫌がる仕事を引き受け、喜ばれながら金儲けするとは、なかなかジャリーミスタン首長国は商売上手だよね!(笑)
この設定が非常に面白いよね。
本当にありそうな話なんだもん。

刑務所の中にいる囚人は全員が死刑囚のため、一定の就労とジャリーミスタン語の習得の義務以外には、ある程度の自由が与えられているというのも特殊な状態なんだよね。
ジャリーミスタン首長国の首長である、サリフ・アリ・ファヒールの一存で執行日が決定するまでは、という期限付きだけど。
名前を呼ばれてしまうと、4日後には死刑執行。
執行前には15分だけ広場で告解の時間を与えられ、好きなことを喋って良いことになっている。
当然だけれどジャリーミスタン語でね!
鳥飼先生の新作は、その刑務所の中で起こる事件を、同じ刑務所内の囚人が解決していく前代未聞の連作短編なのである。
それぞれの短編ごとに感想を書いていこうかな!

1: 魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室 

死刑が確定した囚人は、執行までの4日間は独房に入れられることになっているのも、ジャリーミスタン刑務所のルールである。
その独房にいる2人の死刑囚が死刑執行の前日に殺されてしまう、という事件が発生する。
困った刑務官はある囚人の元に相談しに行くのである。
ここで探偵となる囚人の紹介をしようか。

ドイツ系ルーマニア人で、刑務所内での最長老とされるトリスタン・シュルツである。
シュルツはジャリーミスタン刑務所の第二収容棟の棟長で、齡80を越えているように見えるのにも関わらず、足腰が丈夫で頭脳明晰なため、何か起こると頼りにされる存在なのである。
シュルツは事件解決のために、助手として新入りのアラン・イシダを指名する。
アラン・イシダは日系アメリカ人。
30歳くらいの、線が細く知性的な、ジャリーミスタン刑務所では珍しいタイプの囚人とのこと。
こうして探偵と助手のコンビが結成される。
そしてシュルツはあっさりと事件を解決してしまうのである。

後から聞いたところでは、ROCKHURRAHは読んでいる途中でトリックに気付いたらしい。
もちろん事件の真相までは分からなかったはずだけど!(笑)
SNAKEPIPEは全然トリックにも気付かなかったよ。
まさかあんな話だったとはね!(笑)

SNAKEPIPEは第1話で登場した、スグル・ナンジョウという日本人が怖かったなあ!
ナンジョウもジャリーミスタン刑務所の囚人で、その刑務所にいるのが当然だと誰もが感じる、正真正銘のサイコパスなんだよね。
犯罪者に関する本をかなり多く読んでいたSNAKEPIPEだけど、ナンジョウは日本人には珍しいタイプ!
この種類は白人男性が多い、と読んだ記憶があるけれど、最近は少し変わってきてるかもしれないね?

第1話の登場人物の中で、少し気になる名前があったね。
アメリカ人のクリス・コベインという囚人は、もしかしたらニルヴァーナのカート・コバーンとクリス・ノヴォセリックの名前を使用しているのでは?
コバーンとコベインだからカタカナ表記に違いはあるけど、スペルがCobainだとしたら同じかな、と。
鳥飼先生の著作には、名前遊び(といったら良いのか)があるので、勘ぐってしまうね。(笑)

第1話からグイグイ内容に引き込まれる。
刑務所内の情景がはっきり脳内で映像化されているのである。
ROCKHURRAHじゃないけど、面白い!面白いよ!だね、ほんとに!

2: 英雄チェン・ウェイツの失踪

唯一ジャリーミスタン刑務所から脱獄に成功した、チェン・ウェイツという囚人を捜索することを命じられるシュルツとアラン。
今回は看守長直々のご指名を受けるのである。
シュルツの賢さが刑務所全体に知れ渡っている証拠だよね!
ジャリーミスタン刑務所では刑務官と囚人との垣根が低いと感じてしまうのは、シュルツが関係している場合に限るのかもしれないな。

調査に際して度肝を抜かれるのが、捜索のために外出を許可されること!
いくら手枷足枷されているにしても、死刑囚が塀の外に出るなんて聞いたことないよね!
チップが埋め込まれているのも、安心材料なんだろうけど。
様々なことが常識外れのジャリーミスタン刑務所、と改めて思うね。

この話の途中で、今度はSNAKEPIPEももしかしたら?と予想をしていた。
そしてその予想は当っていたけれど、もちろん動機や方法は分からなかった!(笑)

シュルツはここでも難なく課題をクリア!
事件があったらシュルツに頼もうと考える人が増えるのも納得だよね。

この話で国枝史郎の「神州纐纈城」の中のエピソードを思い出したSNAKEPIPE。
伴源之丞と園女が月子の元を訪れる、あのシーンね!

3: 監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦

刑務所内の治安を守るために監察官がいるらしい。
何か困ったことはないか?と聞いてくれるのは、死刑囚にとって有難い存在だろうね。
ジャリーミスタン刑務所では、監察官が調査のために囚人から話を聞く期間が決まっているという。
今回は監察官が囚人に話を聞いている期間に起きた事件の話である。

ジャリーミスタン刑務所は、死刑囚しかいないので、囚人も看守も、全ての人が荒れた人種なのかと思うと、意外にも道徳的で常識があり驚いてしまう。
なんで死刑囚になってしまったのか。
運命の悪戯としか言いようがないような、やむにやまれぬ理由があるんだろうね。
ジャリーミスタンでは死刑囚=凶悪犯として整合しない場合もあるようだね。

またしてもシュルツとアランのコンビは事件を解決してしまうのである。
この話ではなんとも言えない気持ちにさせられたSNAKEPIPE。
ここまでしなくても、と思ってしまうのはSNAKEPIPEがワーカホリックじゃないせいかな?(笑)

4: 墓守ラクパ・ギャルポの誉れ

ジャリーミスタン刑務所では一定の就労とジャリーミスタン語の習得だけが義務である、と冒頭でも書いたよね。
ジャリーミスタン語だけが世界各国から集められた死刑囚の共通言語であり、通達を知るためにも自分の意志を伝えるためにもジャリーミスタン語は必要不可欠だからね!
ただしアラビア語に近い言語のため、人によっては全く覚えることができないという。
学校で英語の授業を6年間習っているはずの一般的な日本人のほとんどが、英語をマスターしていないくらいだから。(笑)
アラビア語に近い言語では、更に難易度アップだろうね!

この話の主人公であるチベット人、ラクパ・ギャルポは6年もの間収監されていたのにも関わらず、一言もジャリーミスタン語を話していないという。
刑務所内での共通語であるジャリーミスタン語を話さなくても、生活できていたところは驚嘆してしまうね!
今回は、そのラクパ・ギャルポにかけられた、ある疑惑に関する調査をする話である。

ラクパ・ギャルポ本人から話を聞きたいと思っても、ジャリーミスタン語を話さないので無理なんだよね。
このもどかしさったら!
それなのにシュルツはまたしても謎を解いてしまうのである。
シュルツの話を聞けば大いに納得!
人それぞれ慣例や考え方があるからね。
理解するしないは別として、様々な思想が存在することは事実だもんね!

5: 女囚マリア・スコフォールドの懐胎

今まで出てきていなかったけれど、ジャリーミスタン刑務所には女囚専門の居住区があるらしい。
その女囚居住区に13ヶ月間収容されている女囚が妊娠した、という。
その謎を解くべくシュルツとアランが女囚居住区に向かうのである。

「女囚」と聞くと、続けて出てくる単語は「さそり」になってしまうね。(笑)
そして女囚居住区の担当医であるライラを、「イルザ」のダイアン・ソーンに見立ててしまったSNAKEPIPE。
うーん、勝手に想像しまっくてるね!(笑)

そんな想像に拍車をかけるような、マリア・スコフォールドの驚くような秘密!
えっ、マリアって「そういう」人だったの?
「そういう」人だと「そういう」ことができるの?
などと「そういう」を3回も書いてしまったけれど、かなり衝撃的なお話なんだよね。
「そういう」人が実際に存在していることは知っているけれど、詳細は良く知らないからなあ。
果たしてシュルツはこの難問を解くことができるのだろうか?

SNAKEPIPEの心配をよそに、シュルツはちゃーんと説明してくれていたので安心した。
そしてまさかの展開がっ!
本当にこれで良いのか、アラン?

6: 確定囚アラン・イシダの真実

今までシュルツの助手として活躍してきたアラン・イシダに、死刑執行の日が確定してしまう。
執行日が確定するとアランは独房に入れられ、残された時間は4日のみとなる。
この期間を人生の振り返りにしてはどうか、と面会に来たシュルツから勧められたアランは、ジャリーミスタン刑務所に来ることになった親殺しの事件を語り始めるのである。

アラン・イシダの母親マーガレットは遺伝子工学を、アランは生物学を学び、進化生態学を志したと書かれている。
進化生態学って聞いたことのない言葉だよ。

生物の生態や行動を、進化の結果として形成され
維持されてきた秩序であると考え、
その過程における自然淘汰の働き方を考察することで
解明しようとする学問

ネットで調べてみたらこんな説明がされていた。
最適制御理論、統計的決定理論、ゲーム理論などに基づいて解析されると説明が続いているので、数学にも強くないとダメみたいね。
更に野外での実験や観察データによって検証されるということは、体も動かしてデータの収集も行うってことだよね。
アランの話は、もしかしたら鳥飼先生そのものなのでは?(笑)

ハーバード大学の大学院で学んでいたアランに悲劇が起こってしまう。
偶然が重なるとこんなことになってしまうのか、とアランを気の毒に思ってしまうよね。
容疑者となり、警察で取り調べを受けるアラン。
クリーブランド市警察のスコット・マイモーン警部とデヴィッド・ハーマン刑事がアランを担当している。
この箇所を読んでいたROCKHURRAHが
「あっ!判った!」
と叫んでいたことを思い出す。
あの時の叫びはなんだったの?と聞いてみた。
ペル・ユビュに間違いないんだよ!」
ん?一体何の話なの?

ペル・ユビュの初期のメンバー名が
・デヴィッド・トーマス
・トム・ハーマン
・スコット・クラウス
・トニー・マイモーン
・アレン・ラヴィンスティン
だと教えてくれた。
確かに、名前を入れ替えると警部と刑事の名前になるよね!これに気付いたROCKHURRAHが大興奮してたってわけか。
鳥飼先生の小説のファンの中でも、こんなところに気付いて叫ぶのはマニアックなROCKHURRAHくらいじゃないかね?(笑)

マニアックと言えば、アランの死刑執行の日が3月6日で、この日は鳥飼先生の誕生日だということに気付いた人、いるかな?
SNAKEPIPEはすぐに分かったんだよね!(笑)

独房で面会に来てくれるシュルツに、今までの人生を語っていたアランは、幼い頃から疑問に感じていた問題を解決する糸口を見つける。
シュルツのくれたヒントで全てのピースがカチッと収まったアランは、告解の場で解決した問題と、今までの人生について語り始めるのである。

ここからはびっくり仰天のオンパレード!
アランの推理もさることながら、それから続く展開はスピード感満載!
早く次のページを読みたくて、焦って一気に読んでしまった。
もしかしたら息をしていなかったかもしれない。(笑)
ラストまでの約10ページは、またもやSNAKEPIPEの脳内で完全に映像が出来上がっていて、その情景を目の当たりにしているようだった。

読了して、大満足!(笑)
なんて魅力的な人物設定と舞台背景!
架空の国ではないのかも、と真剣にGoogleで検索してしまったほどである。
「死と砂時計」の続きがあったら読んでみたいよね!

鳥飼先生は2014年11月に「迷走女刑事」を発売し、2015年1月に「死と砂時計」が刊行されているよね。
この期間の短さに驚いていたROCKHURRAH RECORDSだったけれど、なんと2015年2月26日には「絶望的――寄生クラブ」が発売されるという!
そしてなんとこの物語は…SNAKEPIPEが大好きな増田米尊が主人公!
わーい、やったー!増田米尊だー!(笑)
と喜んでいると
「あれ?あれれれ?」
ROCKHURRAHが驚いた顔をしている。
なんと!2015年3月5日には観察者シリーズ「生け贄」が発売されるというのである!
えーーーーっ!
鳥飼先生の新作が毎月刊行されるなんて、ビッグサプライズだよ!
2014年はホドロフスキーYEARだったけれど、2015年は鳥飼先生YEARになりそうだね!

そうそう。
ホドロフスキーといえば、「リアリティのダンス」の続編の製作が発表されたことも書いておきたいな!
ホドロフスキーの青年時代を映画化する「エンドレス・ポエトリー」は2016年2月完成予定とのこと!

待ち遠しいニュースがたくさんあって、ウキウキしちゃうよね!
まずは増田米尊との再会を楽しみにしていよう。(笑)