没後120年記念 月岡芳年展

20121007-top1【太田記念美術館正面入口の看板を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

現在原宿にある太田記念美術館で「没後120年 月岡芳年展」が開催されている。
今年1月に森アーツセンターギャラリーで鑑賞した「没後150年 歌川国芳展」であるが、その弟子にあたる人物が月岡芳年。
そして月岡芳年といえば無残絵、とすぐに連想されるように血みどろの浮世絵が有名なのである。

「おびただしい血が流れる残酷な場面を描いた芳年の血みどろ絵は、谷崎潤一郎や江戸川乱歩、三島由紀夫など、大正・昭和に活躍した文学者たちにさまざまなインスピレーションを与えました。」

と、太田記念美術館のHPに紹介文も載っているね!
浮世絵の世界にほとんど触れたことがないSNAKEPIPEなので、当然のことながら芳年を鑑賞するのはこれが初めて。
とても楽しみにして原宿に向かったのである。

80年代にはほぼ毎週のように渋谷~原宿を歩いて、買い物したりオシャレな人達を観察したりしていたSNAKEPIPE。
空気を吸ってるだけで嬉しかったあの頃…。
ROCKHURRAHも同じだったようで、
「あの頃が懐かしいね」
「あの店まだあるんだ!」
などと語りながら美術館へと歩く。
原宿に浮世絵専門の美術館があることすら知らなかった。
「てっきり大田区にあるもんだと思ってたよ」
とROCKHURRAHが勘違いするのも無理はないよね。(笑)

ほんの数分で太田記念美術館に到着する。
入り口からはとても小さな美術館に見えるんだけど?
しかも「没後120年」で「東京では17年ぶりの大回顧展」と謳っている割には、看板は上の写真一つだけのあっさりした様子。
前回のブログ「ジェームス・アンソール展」の時みたいに美術館に騙された、なんてことにならないかな、と少しだけ不安になる。
ところが展示会場は地下、1階、2階と工夫がされて展示されていたので、不安は解消されたよ。
作品は前期・後期と期間を2回に分けて、芳年の全貌を伝える方法を採るとのこと。
あ、これも歌川国芳展の時と同じだね!(笑)
そしてROCKHURRAHとSNAKEPIPEが前期を鑑賞するところも同じだなあ。

展示は第1章から第5章までの括りに分けられていたので、国芳展の時と同じように今回のブログもそれぞれの章ごとに感想をまとめてみようと思う。

第1章 国芳一門としての若き日々
1850年、数え年で12歳の芳年は浮世絵師歌川国芳に弟子入りする。
15歳でいきなり3枚続の大判錦絵を制作するほどの才能の持ち主だったとは驚きだね!
そしてその絵の見事なこと。
早熟さが良く解るね。
第1章では12歳から27歳の芳年が独立するところまでの期間を展示していたよ。
その中で気になったのはこの浮世絵。
 
「岩見重太郎狒々退治の図」1865年の作品である。
豊臣秀吉に使えた戦国武将、岩見重太郎が邪神(狒々)を倒し、生贄になろうとしていた半裸の女性を助けた場面ということらしい。
上の絵では小さ過ぎてよく観えないと思うけれど、狒々の絵がすごいんだよね。
見目形の想像力、表情の豊かさったら!
そしてその対比となるような女体の妖艶さ。
この時代のポルノ画といっても良いんだろうね!
ただし、若干女性の縮尺(足のほう)が変なように思ったけど、どうだろう?

第2章 幕末の混迷と血みどろ絵の流行
おおっ、ついに第2章で「血みどろ絵」になったよ!
これは歌舞伎や講談の凄惨な刃傷場面を題材とした浮世絵で、やや過剰に血を描写している作品である。
確かにかなりのインパクト!
「すごい!」
「凄まじい!」
と言いながら鑑賞し、その迫力に圧倒される。
刀で斬り殺す様子、切腹の様子、逆さ吊りにした女から夥しい血がボタボタ垂れている様子など、非常に残酷な浮世絵が並んでいる。
1866年から1869年頃の作品で、この2年間の芳年は悪夢にうなされてなかったのかなと心配になっちゃうよね。
ホラー映画を続けて観た後のSNAKEPIPEは、必ず悪夢をみてたからね。(笑)

このチャプターの中で気になったのは血みどろじゃなくて、この浮世絵。
「清盛入道布引滝遊覧悪源太義平霊討難波次郎」という1868年の作品である。
全く同じタイトルの浮世絵が師匠である国芳にもあるけれど、国芳は横に3枚並んだタイプ。
芳年は竪3枚続という大胆な構図を採用している。
滝を背景に落下する人物を表現するためには、最適な方法だったといえるね。
上部の源義平が雷になって復讐する、という題材とのことだけど、まるで後光が差しているかのような放射線は、後の横尾忠則に影響を与えているような感じ。
120年以上前の作品で、こんなに斬新な作品を作っているとは驚きだね!

第3章 新たな活路―新聞と西南戦争
時代はすでに明治になっていて、新聞が発行されていたようである。
その新聞に錦絵を載せていたのが芳年とのこと。
報道写真ならぬ報道浮世絵とでもいうのかな。
当時の日常的な事件や戦争などを描いている。
これは実際に取材してから描いているわけではないと思うので、聞いた話を想像力を補って創作してたんだろうね。
やっぱり得意の(?)無残な事件に焦点を当てた浮世絵が多いね。
当時の人々がどんな事件に関心を持っていたかも分かって興味深い。
それにしても浮世絵がこんな形に進化していたとは知らなかったよ。
まさしく出版とか印刷の元祖なんだね。
この章で目を引いたのが、新橋や柳橋の芸者を取材して浮世絵にした「新柳二十四時」シリーズ。
タイトルの副題が「午前五時」とか「午後十一時」という時間になっているところにセンスを感じるね。(笑)
その時間に芸者は何をしているかという時系列のような仕上がりになっていて、これはもうフォトジャーナリズムだよ!
そして女の顔が師匠である国芳より、ずっと色っぽく見えるね。
浮世絵の中の女を鑑賞して美しいと思ったのは初めてかな。(笑)

第4章 新時代の歴史画―リアリズムと国民教化

西南戦争が終わった後に芳年が取り組んだのが歴史画と言われる、歴史上の人物を題材とした作品の発表だった。
これは天皇を中心とする政治体制を確立しようと考える明治政府にとっても、国民教化としての教育的な役割を担っていたというから驚いちゃうよね。
ジャーナリズムの次は教科書的な浮世絵とは!
そんなに大々的な仕事をしていた浮世絵師なのに、芳年の名前はあまり有名じゃないんだよね。
SNAKEPIPEも国芳を知ってから調べて知ったくらいだからね。(笑)

第5章 最後の浮世絵師―江戸への回帰
絵入自由新聞社に雇われ、毎日のように新聞に挿絵を描いていた芳年は、大人気作家だったとのこと。
いわゆる浮世絵師というのとは違うから、現代においての評価があまりなされていないのかね?
1892年、54歳で亡くなるまで約40年間、ずっと浮世絵にこだわり続け、「最後の浮世絵師」と呼ばれる芳年。
後年の作品は、その卓逸な構図やデッサン力が見事に花開いて、本当に素晴らしい作品が並んでいる。
この章では下絵と作品、といった2枚同時の展示がされていて、どんな下描きをして作品を仕上げていたのかが解るようになっている。
ROCKHURRAHとSNAKEPIPEは、仕上がった作品よりも下描きの素晴らしさに驚いた!
赤鉛筆(?)を使ったあとに、細いペンのような黒い線で下描きをしてるんだけど、これがまるで漫画とかアニメの下描きみたいなんだよね。
このまま動き出しそうなタッチに、芳年のデッサン力の確かさを感じる。
国芳展では恐らく下絵を見ていないと思うので、今回が初めての浮世絵の下絵鑑賞なのかな。
あんなに完成に近い形で下絵を描いていたとはね!

他にこの章で気になったのが「風俗三十二相」という女性ばかりを描いた作品。
何が気になったのかというと、副題である。
「いたさう」「あつさう」「じれつたそう」「みたそう」といった感じで痛そうな刺青を彫っている途中の女、熱そうにしているお灸中の女などの様子を描いている。
こんな副題と題材を使うなんて、笑いを取るためだったのか真剣だったのかと疑ってしまうほど面白いよね。(笑)

歌川国芳展は、宣伝効果もあったし、元々の知名度の高さもあって、鑑賞するのが大変なほどの観客数だった。
そのため所々は飛ばしたり、順路を変えて鑑賞し、少しでもストレスを感じないように工夫していたことを思い出した。
今回の芳年展は、そこまでの人出ではなかったし、順路を変える必要もなく気に入った絵の前には好きなだけ立ち止まっていられたのが良かった。
こじんまりした美術館だったけど、意外と作品数が多かったのも良かった。

言い換えれば、芳年の作品が全体的に小さかったんだよね。
大判三枚続とはいっても、A4サイズが3枚並んでいる程度の大きさだからね。
もしかしたらその作品のサイズが、せっかくの芳年の迫力を少し小さく見せている原因なのかもしれないね。

そして更に1872年頃には神経衰弱で倒れる、なんてこともあったようなので、精神的にも弱い人物だったのかもしれない。
思うように人気を得ることができなかったことが原因とのこと。
現代でいうところのメンタル的な病気ってことだろうからね。
生真面目な性格だったんだろうな。

月岡芳年は、師匠である歌川国芳や、同門である河鍋暁斎のような型破りな面はなかったけれど、構図の見事さと無残絵の迫力、そのインパクトは強烈である。
国芳のように鮮やかな色彩ではないため、ちょっと渋めのトーンに鮮血の赤がよく映える。
そういう効果的な演出も含めて、この時代の第一線の浮世絵師であり、恐らく後の時代のイラストや漫画に与えた影響は多大だろうね。

国芳、芳年と鑑賞して、今まで浮世絵の世界に益々興味を持ったSNAKEPIPE。
また機会があったら違う作家の作品も鑑賞していきたいね!

ジェームス・アンソール~写実と幻想の系譜~

20120930-top1【今回の展覧会に行くキッカケになったアンソールの「陰謀」】

SNAKEPIPE WROTE:

とある小冊子をたまたま見ていた時に、その中で紹介されていたのがジェームス・アンソールの展覧会だった。
そこに載っていたのが上の絵、「陰謀」だったのである。
「仮面や骸骨などのグロテスクなモチーフ」や「シュルレアリスムや表現主義に影響を与えた」など、SNAKEPIPEの興味を惹く言葉がズラリと並んでいる。
ジェームス・アンソールなんて画家、今まで聞いたことがない!
これは観に行かなければ!(笑)

そして出かけた新宿西口にある損保ジャパン東郷青児美術館
この美術館に行くのは全く初めてである。
それにしても美術館名、長くないか?(笑)
西口に行くことがあっても、勤務でもしていない限りは、あのビル群に用事がある人ってあんまりいないよね?
損保ジャパンビルの42階に美術館があることすら知らなかったSNAKEPIPE。
ROCKHURRAHも同じだったようで、わざわざ美術館に行く道のりを検索してくれていたよ。
「ビルの正面から左に曲がって4つ目の階段から上がると美術館入り口に出る」
という細かいところまで教えてくれて、ありがとう。(笑)
歩いている途中で話しかけたら
「数えているんだから話しかけられたらわからなくなる」
という返答が。
たかだか4つなのにね!(笑)
そのROCKHURRAHの細かい気遣いのおかげで(?)、無事に美術館に到着。
1階にはアンソールを紹介するビデオが流れていて、ちゃんとソファまで用意されている。
ビデオは帰りに観ることにして、まずは42階会場へ向かう。

ここで簡単にジェームス・アンソールについて書いてみようか。
アンソールは1860年、ベルギー生まれの画家である。
北海沿岸の海岸リゾート地であるオーステンデに生まれ育つ。
両親はここで観光客相手の土産物屋を営んでいて、貝殻や民芸品、そしてカーニバルで使用する仮面などを売っていた、とのこと。
そう、上述した「仮面のモチーフ」は、ここから来てるんだよね。
そしてベルギーのカーニバルって一体何だろう、とこれも調べてみたよ。
「ジルのカーニバル」もしくは「バンシュのカーニバル」と呼ばれる、仮面を付けた道化師が木靴を踏み鳴らしながら行進する祭りが有名らしい。
他にもアールスト、道化師シネル、ブランムーシ、マルメディといったカーニバルがあるみたいだけど、どれも仮面を付けたり仮装するタイプのお祭りなのね。
写真で見る感じでは、マルメディのカーニバルで使用されている仮面がアンソールの絵画に出てくる顔によく似ているように思ったよ。
上の写真がそのカーニバルなんだけど、どお?

アンソールは初めからグロテスクモチーフの絵画を描いていたわけではない。
当時流行していたのは庶民の肖像や朝食の静物画で、アンソールもその流れに乗った絵画も描いている。
そしてグロテスクモチーフを描いた当初は、異端児扱いされ、人々の嘲笑を受けたらしい。
ところがそれらの作品のほうが、後の時代には評価されることになるんだよね。
そして実際、グロテスクモチーフの作品はとても面白いね。

損保ジャパン東郷青児美術館のチケット販売、チケットもぎり、「会場はこちらです」とわざわざ教えてくれた案内係、美術館会場内での監視役の人達すべてが、かなりの年配者でびっくり。
もしかして、元は保険外交員だった人が定年退職後にバイトしてるのかな、などと勝手な想像をしながら会場を歩く。
アンソールが生まれた1860年代にはこんな絵画が主流だったんですよという年表やら、その時代の他の人の絵画まで展示されていて、勉強にはなるけれども観に来たのはアンソールなんだけどな、という2つの思いが揺れ始める。
そしてアンソールの写実時代の展示が長い、長い!
一体いつになったらグロテスクモチーフが出てくるんだろう、とちょっとイライラしてきてしまう。
更に、バタバタ走り回る子供を連れた外国人にも大迷惑する。
この走り回る子供は、「入ってはいけません」のラインより中に入り、絵に触ろうとして監視員も手を焼いていたようだった。
その他の客も、今まで行った美術館では見かけないタイプが多く、
「もしかしたら損保ジャパンが顧客にチケット配ったのかな」
という疑惑まで浮上。
タダなら行くか、みたいな感じの客層に思えたからね。

そしてやっとほとんど最後のセクション辺りでグロテスクモチーフの絵画が登場。
えっ、たったこれだけ?
あんなにグロテスクという単語を用いて宣伝してきたのに…。
一番上に載せた「陰謀」と「首吊り死体を奪い合う骸骨たち」を観ることができただけでも良かったのかな。
この「首吊り死体」はアンソール本人で、骸骨の1つは母親で、もう1つは誰か忘れた。(笑)
そして左下で横たわっているのが死んだ父親、という解説だったはず。
生涯独身だったアンソールにとっての家族というのは、両親と自分との関係だけだったんだね。
ん?その解説聞かないほうが面白かったように感じるのはSNAKEPIPEだけかしら?(笑)

大抵の場合、鑑賞した展覧会の図録は購入するSNAKEPIPEだけれど、今回のアンソールは写実時代の作品展示があまりに多過ぎたので図録はパス!
骸骨と仮面の絵画のポストカードだけを購入することにした。
他にはどんな商品があるのかな、と店内を物色してビックリ!
店内には「ひまわり」グッズがいっぱいなんだよね。

この損保ジャパン東郷青児美術館というのは、1987年安田火災海上保険時代にゴッホの「ひまわり」を53億円で落札してるんだよね。
この件に関しては、かつて「収集狂時代 第1巻」でも書いてるんだけど、バブルの時代の象徴的な出来事だよね。
ゴッホなんて全然興味がないから、今まで気にしていなかったけれど、今回初めてその「ひまわり」も鑑賞することになってしまったROCKHURRHAとSNAKEPIPE。
だって、一番最後のブースに鎮座してるんだもん。
まさかあの絵まで鑑賞対象に含まれていたなんて知らなかったよ!

なるほど、だからミュージアムショップには「どうだ!」と言わんばかりにひまわりグッズがあふれていたのか。
ひまわり複製画、ひまわりポストカード、ひまわり携帯ストラップ、ひまわり柄の缶入りクッキー!(笑)
もしかして以前に購入した53億円を少しでも回収しようとしてないか?
だってアンソールの展覧会、あれで1000円は高いもんね。
きっと「ひまわり基金」に充てられてるんだろうなあ。
だったら53億円なんて使うことないのにね、などと言いながら久しぶりにインドカレー「ボンベイ」で食事。
やっぱり美味しい!
これで少し機嫌が直る。(笑)

今回のアンソール展だけでは満足できなかったので、
「こんな絵を鑑賞したかった」
という絵を何枚か選んでみたよ。
下に挙げる絵は、今回の展示には含まれていなかったんだよね。
アンソールの「幻想」を伝えるには、このジャンルの絵画を加えないと!

The Assassination(暗殺)と題された1890年の作品。
それぞれに役割分担があったり何かしらの意味があるんだろうけど、そんな解釈なしでも充分だね。
まるで神州纐纈城を思わせる題材で、非常に怖いのにコミカルにも見えてしまうから不思議。
この稚拙そうに見える部分が余計に恐怖を煽るよね。

Skeletons Fighting over a Smoked Herring(燻製にしんを巡る骸骨の戦い)というタイトルの1891年の作品。
これもまたコミカルさに溢れているけれど、モチーフは骸骨なんだよね。
死んでも尚欲深い人物、なんて意味なのかしら?
これじゃあ成仏できないね?(笑)

Self-Portrait With Masks(仮面の中の自画像)は1899年の作品。
アンソールの絵画に特徴的なのが「上向きの鼻の顔」が多いこと。
どうやら付き合っていた彼女が「上向きの鼻」だったようで、その彼女のポートレートも写実時代に描いてるんだよね。
タイトルはそのまま「上向きの鼻の女」だったかな。(笑)
自分の彼女のことをそんな風に言わなくても良いのにな、と思いながら鑑賞していたけれど、その鼻のインパクトが強くアンソールに残っていたのかな。 上の絵の中にもいっぱい「上向きの鼻」があるよね!

ほんの数行の紹介文と1、2枚の絵(写真)だけで興味を持って出かけた展覧会だったので、ちょっと騙された感があったことは事実である。
アンソールに、ではなくて、損保ジャパン東郷青児美術館に、である。
ま、これも行って観たから言えることなんだけどね!
ただ、今まで全く名前も絵画も知らなかったジェームス・アンソールの存在を知ることができたのは収穫だった。
シュルレアリスムの前の時代にこんな画家がいたとはね!
きっとまだまだ知らないアーティストいっぱいいるんだろうな。
SNAKEPIPEの探求は続くよ!(笑)

田村彰英—夢の光/鋤田正義—SOUND&VISION

20120812_top【東京都写真美術館の看板を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

「鋤田正義の展覧会があるよ!」
とROCKHURRAHがやや興奮気味に話しかけてくる。
鋤田正義って誰?(笑)
どうやら写真家のようだけど、SNAKEPIPEは全く今まで名前すら知らない方。
まずはROCKHURRAHに語ってもらいましょ。

鋤田正義の名前を知らなくても、70〜80年代のロックやパンク、ニュー・ウェイブのレコードを買い漁った人ならば、必ずどこかでこの人の写真を見た事があるに違いない。
それくらいにロックの世界では有名な写真家だ。
ROCKHURRAHもデヴィッド・ボウイ「Heroes」のレコード・ジャケットをはじめ、T-REX、イギー・ポップYMOなどなど、 数多くの ミュージシャンのジャケットや音楽雑誌などで昔から知っていた。
「ロックマガジン」や「Zoo(音楽雑誌「Doll」の前身)の表紙 とかでもこの名前は有名だったもんね。
実はロック名盤というような王道のレコードをほとんど持ってなかった、ひねくれ者のROCKHURRAHでさえ知ってるメジャーな写真家だったわけだ。
海外でここまで活躍するSUKITA恐るべしと思ったものだ。
誰でも知ってるメジャーどころのミュージシャンだけでなく、ジェームス・チャンスのコントーションズや東京ロッカーズ、また「時に忘れられた人々(ウチのブログのシリーズ記事)」も真っ青な「完全に忘れてたよ」と言いたくなるような時代の仇花ミュージシャンまで分け隔てなく、カッコ良く撮ってるところがすごい。<以上、ROCKHURRAH談>

うーん、なるほど。
展覧会が開催されるのは東京都写真美術館とのことなので、まずはHPで情報を集めることにする。
「デヴィッド・ボウイのこの写真は観たことあるよ!あっ、YMOも!」
これは是非行ってみよう!と話が弾む。
写真美術館での他の展示はなんだろう、と調べて非常に気になったのが田村彰英の展覧会。
なんと日本にある米軍基地を撮った作品が展示されてるなんて、これも絶対鑑賞しなければ!
ROCKとミリタリー好きのROCKHURRAHとSNAKEPIPEにピッタリの企画だね!

世の中はお盆休みに入っているせいか、東京の人口が普段より少ないように思える8月11日。
電車も恵比寿界隈もガランとしていて心地良い。
いつもこれくらい密度が低いと過ごし易いのになあ。(笑)
ただしいつ雨が降ってもおかしくない高い湿度は不快だね。
降るなら降ってしまえばすっきりするのに。

前回東京都写真美術館に来たのは、2011年10月「畠山直哉展 Natural Stories」なので、約1年ぶりということになるね。
もしかしたらその時と現在の東京都写真美術館のチケット販売方法違ってないかな?
前は展覧会単品と全てのフロア鑑賞券みたいな2種類だったように記憶しているんだけど、今回は3つの会場で料金が発生する展覧会を開催していたせいか、2つ以上展覧会を鑑賞したい場合の料金はお高め。
ちなみに3つの会場全てを鑑賞する場合には1名様1700円もかかる計算だよ!
こんな料金設定だと、何かしらの値引きがある人以外は来館しなくなっちゃうよ? ROCKHURRAHとSNAKEPIPEは田村彰英と鋤田正義の2つ鑑賞したいので1250円也。
まずは地下会場で開催されている鋤田正義から鑑賞することにした。

あとから気付いたんだけど、鋤田正義の展覧会はこの日が初日だったのね。(笑)
時間が割と早めだったせいもあり、お客さんの入りはそこまで多くなかったので鑑賞し易いね!
値段が高めのせいだからか、お客さんの年齢もやや高め…。(笑)
はっ、その「高めの年齢層」の中にROCKHURRAHとSNAKEPIPEも入ってるってことか!(ガーン)
鋤田正義の有名な作品が70年代から80年代というのも理由なんだろうけどね。
いや、モデルが有名人だから写真がすごい、というだけじゃないよ!
ファッション雑誌に掲載されたという広告写真の素晴らしさったら!
1968年の作品とのことだけど、今観ても斬新でカッコ良いんだよね。
こういう業界からスタートしてるから、やっぱりセンスが違うんだろうね。

20120812_01鋤田正義の作品として最も有名なのは、やっぱりデヴィッド・ボウイなんだろうね。
会場入ってすぐの壁一面もボウイ。
山本寛斎デザインのコスチュームに身を包んだボウイは、両性具有の謎の美しい人物。
そして「Heros」のジャケット写真のコンタクトプリントが興味深い。
様々な表情を見せるボウイもさることながら、選択したコマに赤いダーマトグラフで印が付いているのに目が釘付け!
採用されたコマも、実際に使用されている時にはトリミングされていたとは!
せっかく6×6で撮影しているのに、残念だねえ。

他に展覧会で面白かったのが、ポスターみたいに作品を天井から床まで下げて展示していたブース。
様々なアーティストを撮影してるんだねえ。
そしてROCKHURRAHと名前当てクイズをするのも楽しかった。
さすがROCKHURRAHはほとんどのミュージシャンの名前を言い当ててたよ!
顔を見ても名前が思い出せない人がいたり、普段とは全然違う顔で写っている人を発見したりもしたけどね。
日本人と外国人の割合が半々くらいで、いかに鋤田正義が海外でも有名なのかが良く分かる。

肖像写真家、と聞いてパッと浮かぶのはナダールアウグスト・ザンダー(古い!)、ハーブ・リッツアニー・リーボヴィッツかな。
世界の著名人を撮影している、有名な写真家達だ。
日本人で世界的に有名なアーティストを撮影している人なんて今まで全く知らなかったので、今回の展覧会にはびっくりした。
鋤田正義にはもっと頑張ってもらいたいなあ。
ただ、2012年の現在、どうしても撮影したいと思えるような人物はいるんだろうか?
鋤田正義に是非聞いてみたいものだ。

20120812_02さて次は展覧会場2階で開催されている田村彰英「夢の光」展へ。
実をいうと田村彰英の名前は昔買っていたアサヒカメラなどで見かけた気がするんだけど、「代表作は何?」と聞かれても答えられないSNAKEPIPE。
あまり予備知識がないまま会場入りする。
ではここで田村彰英のプロフィールをご本人のHPから引用させて頂くことにしよう。

1947年 東京生まれ。
20歳の時に撮影した作品が、ニューヨーク近代美術館の永久保存になる。
多くの作品が東京国立近代美術館、山口県立美術館、東京都写真美術館、川崎市市民ミユージアムなどに永久保存になる。
その他多くの写真展を開催。
東京綜合写真専門学校、東京造形大学の講師として30年間歴任。
黒澤明監督作品の応援スチールとして、「影武者」「乱」「夢」「八月のラプソデイー」に参加。
アサヒカメラ、日本カメラのフォトコンテスト審査員歴任。2002年度全国高校総合文化祭,写真部門審員長担当。
2003年度日本カメラフォトコンテスト、カラースライドの部審査員担当。

東京綜合写真専門学校に在学していた時から、校長であった重森弘淹から「徹底して感性的な写真家」との高い評価を受けていたと書いてある。
40年以上続く写真活動の軌跡をたどった今回の展覧会は見ごたえ充分!
それぞれのセクションごとに感想をまとめてみようか。

『BASE』
1960年代後半から1970年代前半にかけて、国内の米軍基地を撮影したシリーズ。
航空雑誌を見てカメラマンになりたいと思い写真を始めたと語っている飛行機好きの田村彰英らしく、「BASE」の主役は飛行機だ。
確かに「大人社会科見学—横田基地日米友好祭2010—」の時に、間近に見た戦闘機は金属的な輝きと無駄のないフォルムが美しかったからね!
そしてアメリカへの憧れというのも良く分かるなあ。
モノクロームで表現されるアメリカらしい白いフェンスの写真がカッコ良い!

『家』 『道』
「家」は1967年から2年を費やして造成された宅地に家が建っていく様子を撮影したシリーズ。
「道」は1976年から5年かけて横浜横須賀道路が作られていく様子を写したシリーズとのこと。
定点観測、ということになるよね。
長い年月をかけて、何度も同じ場所を繰り返し撮影するという行為だけでもすごいのに、それを作品にしちゃうところがもっとすごい!(笑)
そしてi家」が前述したニューヨーク近代美術館のディレクターだったジョン・シャーカフスキーの目に留まることになるのである。
きっと田村彰英という人はコンセプトを考えるのも得意な人なんだろうね。
衝動だけで撮影しない写真家って、右脳と左脳の両方が発達しているんだろうなあ。

『午後』
1971年から1973年までの3年間、30回シリーズとして美術手帳に連載されていたシリーズとのこと。
今回の展覧会の中で一番SNAKEPIPEが感銘を受けたのがこのシリーズなんだよね。
モチーフの選択。
構図の決め方。
光と影のバランス。
そのどれをとっても非の打ちどころがなく、完璧としかいいようがない。
きっと写真を良く知らない人が観たら
「この写真は一体何?」
としか思わないかもしれない。
でも写真を作品として完成させたいと思って撮影をしたことがある人なら、きっとこのシリーズを観て歯ぎしりするはずだ。
SNAKEPIPEも観ていて悔しくなった。
だって、SNAKEPIPEが目指していた方向の全てが、先に撮影されていたことに気付いたからね。

『湾岸』
HouseやRoadと同じような定点観測のスタイルだけれど、ポジフィルムを使用し2枚1組で展示する方法にしたシリーズ。
2枚の写真の違いは時間的なズレの場合と、視点的なズレの両方があり、まるで間違い探しをするように鑑賞してしまった。(笑)
この撮影方法や展示方法も、いわゆる写真家の作品というよりは、現代アートに属している感じがするね。
レンズに付けたフィルターのせいなのか、カラーの色味がとてもキレイだった。
このシリーズのポストカードがあったら購入したかったなあ!

「湾岸」シリーズのプリント方法が「発色現像方式印画」と書かれているのが非常に気になる!
今まで観たことがある写真の展示で、こんな種類あったのかなあ?
「湾岸」のプリントの色味のせいなのか?
何か新しい方法なのか?
帰宅してから調べてみて納得。
結局は普通のカラー印画紙のことだったんだね。
最近はモノクロ写真の場合にもシルバー・ゼラチン・プリントって書いてあるように、いわゆる「暗室に入って現像した印画」のことを指すとのこと。
フィルムを知っている世代には当たり前のことだけど、最近はデジタルカメラを使い、プリンターで印刷する写真もあるからね。
そのための表記だったと判って愕然としちゃったよ。
これもまた時代、なのかねえ。(とほほ)

『赤陽』
8×10カメラに100年以上前に製造されたレンズを使用して風化した木造建築を撮影したシリーズ。
1989年よりスタートした元号「平成」に逆らうかのように、「赤陽」は過ぎ去った昭和へのノスタルジーだ。
少しでも昭和的な風景を残しておきたい、という記録者としての意味もあっただろう。
そして恐らく一番大きな理由は「昭和が好きだから」じゃないだろうか。

『名もなき風景のために』
撮り方によってはドキュメンタリー写真なんだろうけど、田村彰英の手にかかると単なる記録写真じゃなくて作品になってしまうから不思議だ。
カメラマンと写真家の違いがよく解る。
そして2011年に鑑賞し、残念に感じた畠山直哉にもこんな仕事をして欲しかったな、と改めて思ってしまった。

『BASE2005-2012』
デビュー作であるBASEから40年を経て、また田村彰英が基地を撮影しているシリーズ。
やっぱり好きな物は好き、という感じで戦闘機の写真が並ぶ。
うん、解るよ!だってカッコ良いもんね!(笑)
今回は6枚しか展示されていなかったので、まだシリーズとしてどうのと感想は言えないけれど、きっとまた違った切り口で魅せてくれるように思う。
どんなシリーズが出来上がるのかとても楽しみだ。

今回鑑賞した2人の写真家共、フィルムを使って撮影をしてるんだよね。
デジタルでは表現しきれない部分を再認識することができたように思う。
SNAKEPIPEもかつてはフィルムを使用し、自分で現像~焼き付けやってたからね。
金銭的な問題、省スペース化、簡略化が技術の進歩を生んだんだろうけど、お金かかっても、場所を取って面倒なことでも、残しておいたほうが良いアナログなことっていっぱいあるんだろうね。
SNAKEPIPEも昭和に戻りたくなったよ。(笑)

SNAKEPIPE MUSEUM #17 David DiMichele

20120722-012【Pseudodocumentation: Apollonian and Dionysianより】

SNAKEPIPE WROTE:

どこかの美術館で楽しそうな企画やってないかな、と検索しても何故だか連休や夏休みになると子供向けの、SNAKEPIPEやROCKHURRAHが全く興味を示さないような展示ばかりが目につくことが多い。
子供が行きたがるような企画にしないと親もついていかないし、儲けにならないのは理解できるけどねえ。
世の中お子様中心に回っていない、と考える人間もいるんだから、もうちょっと企画なんとかしてもらいたいよね!

仕方ないのでまたネットで検索。
何か面白そうな作品ないかしら?
ん?こ、これはっ!(笑)
あっさりSNAKEPIPE好みの作品に出会ったよ!


David DiMichele
というアメリカ人アーティストで、どうやら1980年代から活躍している模様。
日本で紹介されている記事を発見することができなかったばかりか、ご本人のHP、もしくはギャラリーのサイトで作品を目にすることはできてもプロフィールに関して知ることができたのはほんの少しだけ。

・カリフォルニア大学バークレー校でアートを勉強
・2008年にロサンゼルスのアーティストフェローシップで大賞を受賞
・その後ニューヨークとロサンゼルスで個展を開催
・ロサンゼルス現代美術館でグループ展にも参加

など、少しだけ情報を手に入れることができた。
何年生まれで現在何歳なのか、どうしてアートを志すようになったのかなどの詳細は全く不明。
こんなに面白い作品を制作するアーティストなのに残念だなあ。

最近はPseudodocumentationというシリーズを制作しているとのこと。
これは「偽りのドキュメント」と訳して良いのかしら?
実際に作品を作り、それを写真として展示する方法らしい。
だから個展、とはいっても写真の展示みたいだね。
本当はこんな現物を観てみたいよ。
どんなにワクワクすることだろう。
SNAKEPIPEが好んで撮っていた写真の雰囲気に非常に近いからね!

SNAKEPIPEは撮影というと歩きに歩きまくって、偶然出会った事象を撮影するという手法(?)を採用していたけれど、David DiMicheleは自分の好きな光景を自分自身で作りあげているんだね。
SNAKEPIPEが出会いたかった、撮影したかった光景を見事に再現してもらっているようでヨダレが出てくるね!(笑)
David DiMicheleが使う素材がガラスやロープ、鉄(?)などの無機質なのも好みだ。
アメリカ人アーティストというよりは、ヨーロッパ的な雰囲気を感じるのも興味深いしね!

「巨大な作品のように見せているけれど、実際は小さな作品」なんて書いてある文章をネット上で発見!
人が一緒に写ってる作品を鑑賞する限りではとても大きく見えるよね?
上の作品は、何やら大きな体育館のような施設の中に溶岩とかコールタールのような液体が流れ出ているように見えるけど…。

おや?
また別のサイトで左の写真を発見してしまった!
写真に写っている人物はDavid DiMicheleご本人なのでは?
上の作品を制作している過程だとすると、これが種明かしということになりそうだよね!
これだとやっぱり作品はかなり小さいみたいじゃない?
ということは人だと思っていたのも、小さい人形か何かを使っていたのか、合成で写してたのかもしれないね?
うー!騙されたー!(笑)
だからタイトルが「偽りのドキュメント」なのか!

最近のSNAKEPIPEは写真や絵画などの2次元の作品よりも、立体作品を扱う現代アートが好みなので、立体を作って写真で展示するDavid DiMicheleのやり方は好感が持てるなあ。
名前がDAVIDなのも気に入った。(笑)
それにしてもDavid Di Micheleというサッカー選手がいるようで、検索するたびに全然違う記事に遭遇してしまって苦労したよ!
もっとDavid DiMicheleに活躍して頂いて、名前が混同されないようにお願いしたいよ。
こんなに面白いアーティストなんだから、日本でも誰か企画して展覧会開いてくれないかなー?
実際に作品を鑑賞してみたいよー!