デュラン・デュラン : アンステージド鑑賞

【「Duran Duran: Unstaged」のプロモーション映像】

SNAKEPIPE WROTE:

2015年2月に書いた「ふたりのイエスタデイ chapter07」でも予告していたように、敬愛する映画監督デヴィッド・リンチが監督したデュラン・デュランのライブビジュアル映像「Duran Duran: Unstaged」がついに公開された!
TOHOシネマズ新宿が4月17日歌舞伎町にグランドオープン、そのオープニングの映画の1本に選ばれたらしい。
週末にでも観に行こう、とウキウキしていたSNAKEPIPEだったけれど…映画上映時間を調べてびっくり。
一日を通して上映していたのはオープン初日だけで、その後からは深夜枠の1日1回限りの上映になっている。
まさかと思うけど、リンチ=ミッドナイトというイメージのせいだろうか?
映画の開始が22時を過ぎていて、終了時間は24時を過ぎるとは!
こんな上映時間じゃ行きたい人も行かれないよ!(怒)
デュラン・デュランのファンだとすれば、どう考えても40歳以上の女性客がほとんどのはず。
女性が24時を過ぎる夜中の映画に行くかどうかなんて、簡単に予想できるでしょっ!
そんな上映時間のせいで、客足が少なかったのは目に見えている。
いつ行こうか迷っているうちに、4月いっぱいで上映が終了することが判明!
この怒り、一体どうしてくれよう。
行きたくても行かれない人のことを全く考慮しないで、いきなり打ち切るとは!
あれだけ前段階で情報出しておいて、何が全国ロードショーだ!
ほんの一部の映画館でだけ上映して、しかも深夜の時間帯。
楽しみに待ち焦がれていた人の気持ちを踏みにじる、TOHOシネマズには頭に来たよ。
良い映画館だと思っていたのに、今回の件でかなりのマイナスイメージ。
「早い時間帯の上映はないんですか?」
と長年来の友人Mも電話で問い合わせたらしいけど、対応はひどかったという。
結局友人Mは鑑賞できないままになってしまった。
あんなに楽しみにしてたのにね!

夜中になって終電を逃して、万が一新宿に泊まることになっても仕方ない!
それでもどうしても観たい、というSNAKEPIPEの強い気持ちにROCKHURRAHも同行してくれることになった。
もちろんROCKHURRAHも楽しみにしていた一人だからね!
そして映画打ち切りの4月30日、久しぶりに夜の新宿に出向いたSNAKEPIPEとROCKHURRAHである。

夜の歌舞伎町はかなりご無沙汰だね。
最後に行った新宿ロフトのライブからは数年経っているはず。
全然夜のお出かけもしてないしね。(笑)
平日だったけれど、やっぱり歌舞伎町はいつでも人がいっぱいだね。
TOHOシネマズ新宿は、歌舞伎町入り口にあるドン・キホーテのある交差点からもしっかり確認できた。
これなら方向音痴のSNAKEPIPEでも迷うことはなさそう。(笑)

このビルは下層階は飲食やショップが入り、真ん中に映画館、その上はホテルになってるんだよね。
そのホテルの宿泊客をターゲットにしているのか、歌舞伎町という場所柄なのか不明だけど、24時を過ぎる終了時間に設定した上映が多いのが特徴みたい。
SNAKEPIPEが目当てにしているデュラン・デュラン以外にも、数本の映画が同じような時間帯で上映されていたからね。
アニメの「名探偵コナン」を深夜に観る人ってどんな人なんだろうね?

ついに劇場への入場時間になった。
上映開始の10分前である。
座席を予約した段階では、SNAKEPIPEとROCKHURRAH以外には3席だけ予約されていたけれど、蓋を開けてみると全員で20名程度の観客がいた。
女性で1名で来ている人も数名発見!
予想通り、当時のデュラン・デュランのファンだと思われる年齢層が多かったね。(笑)
もちろんSNAKEPIPEも同年代!
男性1名で来ている人も見受けられて、ちょっと意外だったね。

深夜枠にもかかわらず、やっぱり新作映画の予告や宣伝はかなりの時間を割いてでも上映するんだよね。
終電気にしながら来ている人からみると、この時間を削ってくれたら15分は早く終わるのになあと思ってしまう。
そう感じたのはSNAKEPIPEとROCKHURRAHだけかしらん?(笑)

「Duran Duran: Unstaged」がやっと始まった!
冒頭でデヴィッド・リンチが登場する。
アレ・ブレを駆使したザラついた粒子の中。
「この指をパチンと鳴らすとショーの始まりさ」
まるで摩訶不思議なおとぎ箱を開けて、その暗黒の世界に連れて行く魔術師のようなセリフに心が踊る。
いかにもリンチっぽい雰囲気だからね!

映像は時々一部に色彩が入るけれど、ほとんどモノクロームの世界である。
うわー!デュラン・デュランだ!(笑)
動いている姿を見るのは、何年ぶりになるんだろう?
いや何十年ぶり、が正確な表現だろうね。

実は「Duran Duran: Unstaged」は2011年の3月に開催された一日限りのライブなので、今から4年前の映像ということになるんだよね。
デュラン・デュランのメンバーやデヴィッド・リンチ監督にとっては、すでに過去のことになってるだろうな。
4年が経過して、やっと日本でも公開される運びとなったんだね。
この映画でのリンチの役割は一体何かというと、デュラン・デュランのライブ映像に合わせて、ファイナルカットやphotoshopみたいにレイヤーで映像をかぶせていく、あえて言うならVJ(ビジュアル・ジョッキー)だったんだよね。
この映像はリアルタイムでネット配信されていたようで、自宅でライブを楽しんだ人も多かったみたい。

セットリストは以下の通り。

1.「Return To Now」
2.「All You Need Is Now」
3.「Being Followed」
4.「Planet Earth」(with ジェラルド・ウェイ)
5.「Friends of Mine」
6.「Notorious」(with ベス・ディットー)
7.「Blame the Machines」
8.「Hungry Like The Wolf」
9.「Safe (In the Heat of the Moment) 」 (with マーク・ロンソン)
10.「Leave A Light On」
11.「Ordinary World」
12.「The Man Who Stole A Leopard」 (with ケリス)
13.「Girl Panic!」 (with マーク・ロンソン)
14.「Careless Memories」
15.「(Reach Up for The) Sunrise」
16.「Rio リオ」
<アンコール>
1.「Come Undone」 (with ケリス)
2.「Bond Medley」〜「A View To A Kill 」 (with マーク・ロンソン)
3.「Girls on Film」(with all guests)

何十年ぶり、と言いながらも知っている曲が約半分くらいはあるんだよね!
懐かしさもあり、今でも現役で活動しているメンバーの姿が観られて本当に嬉しかった。
「あの人は今」みたいな画像を見て、まるで別人になっている姿に驚いたりガッカリすることが多い中で、デュラン・デュランのメンバーはそんなに大きな変化がなかったのも良かったね。
もちろん年齢が進めば、ある程度シワが増えたり、多少贅肉が付くのは仕方ないけれど、メンバー全員が許容範囲内だったからね。(笑)


そして驚くのは、その演奏力の高さ!
SNAKEPIPEがかつてデュラン・デュランのライブを観た時には演奏がどうのなんて気付きもしなかったけれど、あれからかなりのライブ鑑賞経験をしているからね。(笑)
これでも多少は耳が肥えたかもしれないよ。ん?表現が変かな?
かつて鑑賞したライブでは、ギターは少し小柄なアンディ・テイラーだったけれど、現在のメンバーはアンディ以外の4名になっている。
サイモン・ル・ボンのボーカルは当時のまま、というよりは今のほうがより伸びやかで声量が増しているように感じた。
ジョン・テイラーのベースはROCKHURRAHが「すごい!」と言っていたけれど、ビンビン重低音が響いていた。
ドラムのロジャー・テイラーもパワフルだったね。
ニック・ローズのキーボードも印象的な音が出ていた。
デュラン・デュランは当時アイドル・グループだと思ってその演奏については何も考えていなかったけれど、かなり実力のあるライブ・バンドだと知ったよ!(笑)
言ってみればフィルム・コンサートになるんだろうけど、画面を観ているよりはライブ会場にいるような気分になって興奮したね!

それでは今回の鑑賞における大事な目的である、デヴィッド・リンチ監督の映像処理について感想を書いてみようか。

最初は「てんかん」の人が発作を起こしてしまうような光のフラッシュが点滅し、曲のリズムに合わせて工場の機械が規則的にピストン運動するような映像がかぶさっていた。
これまたいかにもリンチ!(笑)


更に「いかにも」な映像は続き、4曲目の懐かしい「 Planet Earth」では夜の闇に浮かぶ家にリンチの作品で観た紙粘土細工のような「いびつな人の顔」が漂う。
「うわー!リンチだ!」
大喜びするSNAKEPIPEである。(笑)
上の写真は違う曲の時の映像で、同じように「いびつな顔」が使用された例ね!


ライブの中盤では曲のタイトルに応じたような映像が混ざる。
例えば「 Hungry Like The Wolf」では狼の顔のアップだったり、「The Man Who Stole A Leopard」では豹のフィギュアが出てきたり。
煙や光、工場系の機械などはかなりの頻度で登場していたね。
・ゴム手袋を嵌めた手に乗る白い玉
・ゴム手袋で握るフォーク
・釘を打つ
などの意味不明な映像もレイヤーとしてかぶさっている。


中でもインパクトが強かったのが、 人形かな。
曲に合わせて両手を拡げ、踊っていたのは1体。
次第に2体、3体とどんどん増えていって、最終的には7体のヌードダンサーになった。(笑)
ニップレスとして「D」が両乳首に使用されているのはデュラン・デュランの頭文字を取ったんだろうか。
そして顔にはモザイクがかかっている。
こんなお遊び映像で良いんだろうか?(笑)

アンコールでまたもやリンチはやってくれた! 

バーベキュー・コンロで焼くウインナーを叩き落としたり、ネズミと犬(?)のパペットが曲に合わせて踊っているシーンがあるのだ。
ちょっとリンチ、面白過ぎでしょ!(笑)
SNAKEPIPEは笑い過ぎて涙を流してしまったよ!


ふざけているようにも見えてしまう映像のオンパレードだけど、SNAKEPIPEは、リンチの処女作である「Six Men Getting Sick (Six Times) 」を思い出していた。
テイストが全然変わっていないんだよね。(笑)
好きなもの、好きなことはずっと好き!と筋が通っていて、やっぱりリンチは最高だね!

「Duran Duran: Unstaged」を鑑賞して、この映画が全く一般受けはしないことが良く解った。
デュラン・デュランのファンだったら、リンチの映像が邪魔と感じてしまうかもしれないしね?
この映画を観て大喜びするのはリンチのファンだけかな。
SNAKEPIPEとROCKHURRAHは大満足で映画館を後にしたからね!
心配していた終電も逃さないで、無事に帰れたことも良かったね。(笑)

もう一つだけ書きたいのは、またもやTOHOシネマズへの不満の話。
と書いてから気付いたけど、パンフレットを作っているのはどこなんだろうね?
映画館?配給会社?広報?
どこでもいいけど、その作った所への不満ね!
この手の映画には珍しくパンフレットがあったので、ROCKHURRAHが購入してくれた。
帰宅後見てびっくり。
A2サイズを4つ折にしてA4サイズにした紙1枚だったんだよね!
表面は一応(?)ポスター、裏面は映画の内容についての文章が記載されているけれど、その情報は映画の公式HPの内容と同じもの。
このレベルだったらフリーで配っても良いのでは?
500円を取る必要があるんだろうか?
去年フリーペーパーとして配られていた「ホドロフスキー新聞」のほうが余程内容も濃く、印刷もキレイだったよ。
こんな騙しの、詐欺まがいの行為をするのはお粗末だし、許せないよね。

客の目線になって、もっと色々な勉強をして欲しいものだ。

Looking for Johnny ジョニー・サンダースの軌跡 鑑賞

【新宿シネマカリテ前のポスターより。あっち向いたジョニー】

ROCKHURRAH WROTE:

ジョニー・サンダースのドキュメンタリー映画が公開されるのを知ったのは定期的にチェックしているアートや映画の情報サイトで記事を見かけた時だった。
見つけた瞬間は「ああ、またか」という印象しかなく、大喜びで興奮したりというファンの心理とは程遠いものだった。

パンクやニュー・ウェイブ関係のこういったドキュメンタリー映画を今まで一体いくつ観てきただろうか?主要なものは大抵観てると思うけど、面白いと思えるものはほんのわずか。
それ以外は大体同じパターンで、予告を観た時点でほとんど内容がわかってしまうんだよね。
しかしジョニー・サンダースはROCKHURRAHの中でも特別な思い入れのあるミュージシャンなのは確か。例えドキュメンタリー映画として面白くはなくても一度は観ておきたいという心もある。期待を裏切られた時の落胆を想像しての「ああ、またか」という気持ちだったわけだ。

これはROCKHURRAHの好みだが、当時の関係者がそのミュージシャンやバンドについて語ってるばかりの形式はどれも大して興味深くない。
ひどいのになるとあまり関係あったとは思えない人間まで出てきてしたり顔で語る。
この手のパターンのドキュメンタリー映画を観ると映像や音楽もぶった切られてて、本当にこのバンドに対しての愛情があるのか?と疑うような構成のものが多いね。「これは貴重な資料だ!」などと思って観てる人もいるのだろうか?

話がそれるけどこの手のドキュメンタリーよりも面白かったのがどこまでが現実か虚構かわからないタイプのもの。ピストルズの「グレート・ロックンロール・スウィンドル」やジョイ・ディヴィジョンで有名なマンチェスターのファクトリー・レコードについて焦点を当てた「24アワー・パーティ・ピープル」、これなどは真面目に回顧するドキュメンタリーなんかよりずっと楽しめた作品だったよ。

まあそういうわけでこの映画の予想はたぶん苦手な方のタイプのドキュメンタリーだとは思ったけど、SNAKEPIPEに話したら「DVDになるかどうかわからないから行ってみよう」ということになって、まさかの公開初日、第一回目の上映に行くことになった。
「観に行ける場所にいて観る機会があるならやっぱり観た方がいい。面白いかどうかは観たから言える事だから」というのがSNAKEPIPEやこのブログにしょっちゅう登場してる友人Mの持論なのだ。言われてみれば確かにそうだ。こりゃ一本取られたよ。新宿まで電車一本で行けるんだから考えるまでもないね。

シネマカリテは新宿駅を出たすぐのところにある小さな映画館でアクセス的には最高の場所にある。実はここは初めて行くところだったが、さすがの怪しい二人(道に迷いやすい)でもすんなりたどり着いた。
かなり早い時間に着いたにも関わらず、すでに行列が出来ている。たぶんジョニー・サンダースの映画ではなく別の映画の観客なんだろうと思いはしたが、ウチは事前にネット予約しておいたからその点は安心だ。
ここでやる午前中の回を鑑賞したわけだが、入ってみると予想外、いやウスウスと予感してた通りの人種が集まってて意外と大盛況。
年齢層高くてしかもまだまだロック現役、といういでたちの客層が多いね。おそらく自称「下高井戸のジョニー」とか「阿佐ヶ谷のシルヴェイン」「新小岩のアーサー・ケイン」などなど、ここに集結していたのではなかろうか?
いかにも、ジョニー・サンダースの客層としては想像通りだよ。

ジョニー・サンダースはパンク好きの人なら知らぬ人はいないくらいの伝説のロックンローラー、死ぬまでドラッグ漬けを貫いたジャンキーなギタリストとして有名。
今ここでROCKHURRAHが語らなくても誰でも語るくらいのメジャーなアーティストだ。
映画はそのジョニーがトボトボと歩いてる映像から始まる。

1970年代初期、イギリスで流行していたグラムロックに対するアメリカからの回答、というような位置付けでデビューした異端バンドがニューヨーク・ドールズだった。
単なる化粧や女装というよりも一段と悪趣味にデフォルメされたドギツいルックスはこの当時のロックの中でもかなり異質なもの。
後の時代のドラァグ・クイーンやオカマ・バーなどで顕著なスタイルの元祖的存在かも知れない。

そしてこのニューヨーク・ドールズのギタリストがジョニー・サンダースだった。
映画の中で語られてるように「地毛であるとは思えない」ようなイビツに盛り上がった長髪でギターをかき鳴らして素晴らしくアクの強いロックンロールを奏でる。これがニューヨーク・ドールズの魅力だった。
しかしこのバンドはジョニー以外も全員クセモノ揃いで強烈なインパクトを観るものに与えていた。
「観る」などと軽々しく書いたけどその当時はビデオもDVDももちろんなく、動いてるドールズの姿を知ったのはずっと後になってからなんだけど。
※ちなみに今回採用したこれ以降の動画はどれも映画の方とは特に関係ない映像なので勘違いしないように。

ROCKHURRAHの言葉や説明なんか要らないと思えるけど、これが最も有名な全盛期メンバーの頃のライブ映像だ。デヴィッド・ヨハンセンの野太い声もジョニーのギター・プレイも最高。
そしてこの映像の一番左でフライングVのギターを弾いてるのが盟友、シルヴェイン・シルヴェイン、今回の映画でメインに回想するのが彼なのだ。
ずっとジョニー・サンダース関連を追い続けたわけじゃないから顔もその名前を聞くのも実に久しぶり、いやー太ったけどそこまで面影なくなってないね。
ニューヨーク・ドールズはセンセーショナルな話題性のあるバンドだったけどあまりに異端すぎて知名度ほどは売れなかった。メンバーのジョニー・サンダース、彼が死ぬ直前まで腐れ縁で付き合ってきたドラマーのジェリー・ノーランなど、ドラッグと深い関係にあるという問題だらけの危なさもマイナスのイメージだったようだ。そしてよくあるようにマネージメントやメンバー間の亀裂が元で解散してしまう。
ちなみに解散前の最後の時期に彼らをマネージメントしていたのがセックス・ピストルズやパンクの仕掛け人として有名なマルコム・マクラーレン。ドールズやニューヨーク・パンクの影響を受け、その後にロンドン・パンクが発生する。
ドールズの残した全部の曲が好きなわけじゃないが「Pills」や「Trash」などパンクに影響を与えた名曲は大好きで今でも愛聴している。個人的には一生古臭くない素晴らしいキワモノの世界だと思う。

ドールズと別れをつげたジョニーが次に関わったのがリチャード・ヘルとのハートブレイカーズだった。これまたニューヨーク・パンクの代名詞とも言える人物でトム・ヴァーラインとテレヴィジョン、ジョニー・サンダースとハートブレイカーズで短い間活動していた伝説のツワモノだ。自身のバンド、ヴォイドイスの「ブランク・ジェネレーション」などはパンクの世界で燦然と輝く名盤だったね。
そのヘルが去った後でジョニー・サンダースがギターとヴォーカルを務めたのが一般的に知られるハートブレイカーズというわけ。
今回の映画でも回想する役として出てくるもう一人のシンガー&ギタリスト、ウォルター・ルー、ビリー・ラス、それにジョニーとドールズ時代から一緒だったジェリー・ノーランによる最強バンド。ドールズよりもさらに薬物依存度を高めたこの危険な4人組は「L.A.M.F.」という大傑作アルバムをひっさげ、ロンドン・パンクにも影響を与えまくった不良の大御所みたいな存在だった。
ギブソンのレスポール・ジュニア、通称TVモデルと呼ばれる50年代のギターを愛用(「中國石」というステッカーが貼ってある)し、時に調子っぱずれのグニャグニャしたギター・ソロを弾く。その音色はうまいとかヘタとかを超越してジョニー・サンダースにしか弾けないような特徴を持ってて、一度ファンになった者にはたまらない魅力だった。そしてあのルックスとファッション・センス。彼の影響を受けてお手本にしたミュージシャンがいかに多いことか。

映画の中でハートブレイカーズの頃を回想するのは上の映像で左側に写っているウォルター・ルーだ。彼らの代表曲と言えば「Born To Lose」や「Chinese Rocks」が有名なんだが、この辺のライブ映像でジョニーよりもある意味で目立ってる男がウォルターだ。しかし映画の回想ではすっかり会社役員風のメガネ男になっててビックリしたぞ。マジメになったのか?
ベースのビリー・ラスはこの頃はリーゼントの老け顔でマフィアっぽかった風貌の男だったのに、回想ではパンクじじいみたいになっててこれまたビックリしたぞ。回想のインタビューは近年なのでみんな見る影もない。オンリー・ワンズのピーター・ペレットはまだマシだったがそこのギタリストとテレヴィジョンのリチャード・ロイドが二大デブおやじになってしまってるし、ああ見たくない世界。

ニューヨーク・ドールズ、ハートブレイカーズとパンクに影響を与えたジョニー・サンダースだったが70年代後半からはソロ活動も行っており、この時代はいわゆる珠玉の名曲なども残していて、ソングライターとしての才能も素晴らしかった。ボブ・ディランが「こんな曲を書きたかった」と言ったほどの名曲「You Can’t Put Your Arms Around A Memory」やシド・ヴィシャスに捧げられた「Sad Vacation」などの哀愁の曲も忘れられないね。

映画ではあまり回想されなかった(ような記憶)が、元スナッチのパティ・パラディンとジョニーの美男美女デュオによる「Crawfish」の気怠い雰囲気は個人的に大好きだった。二人で銃を撃つギャング映画風のプロモーション・ビデオも存在するんだが、画像が最低なのでここでは紹介しなかった。

そしてジョニー・サンダースは1991年に38歳で死んだ。
早すぎた死だと惜しむ声もあればドラッグまみれの人生にしては長生きだったという声もある。白血病にかかっていたという説もあるし暗殺されたという説もあるらしい。
ヘロイン漬けのジャンキーの死についてアメリカの警察はロクな調べもない、というのもリアルに聞こえるよ。そりゃそうだ。
しかし最後にシルヴェイン・シルヴェインが言ってた「アイツはその時が死ぬ時だったんだろう(うろ覚えだけどそんな感じのこと)」という言葉が最もふさわしいと思った。
その翌年、ドールズ時代からの名ドラマー、ジェリー・ノーランも死亡している。

映画は特にドラマティックなところもなく、割と淡々としたもので予想通り。しかしライブ映像なども少なくて一曲まるまる使われるシーンもなく、本当に当事者のインタビューの方がジョニー・サンダース本人の映像、特に歌ってギターを弾くシーンよりも重要という扱いがやっぱり気に食わない。「当時」などと言えばもう30年も前の映像しか残ってないのは確か。それはこの監督(スペインの監督らしい)の撮った映像ではないのが当たり前だが、もう少し音楽満載の内容であって欲しかった。
偉大なミュージシャンのドキュメンタリーは今後も同じパターンで作られ続けるだろうけど、観に来るファンは回想する人じゃなくて本人のファンなのだから、その辺をちゃんと考えた演出にして欲しいものだ。
ジョニー・サンダースの演奏は途中でフェイドアウトするくせに、エンドロールでジョニー・サンダースにまつわる別の人の歌だけはちゃんと流すというのもどうかと思うよ。
ここで元サブウェイ・セクトのヴィック・ゴダードによるそのものズバリ「Johnny Thunders」という曲がかかったのが個人的には嬉しかったのでまあいいか。ピストルズのアナーキー・ツアーでハートブレイカーズと共にドサ回りしたヘロヘロなヴォーカルの変人。

書きたい事がもっとあったはずなのに肝心な部分で何かが抜け落ちてるなあ。映画を観た当日に帰って来て感想を書くというのが初めての経験だから、不完全なのは仕方ない。
もうさすがに限界なので今日はこれで勘弁してね。
ではまた来週。

SNAKEPIPE MUSEUM #31 Malcolm Morley

【戦闘機よりも上空からの俯瞰画像は「Dakota」2015年の作品だよ!】

SNAKEPIPE WROTE:

現在ニューヨークにあるSperone Westwater Galleryで開催されているのが、Malcolm Morleyの同ギャラリーで5回目になる個展である。
実はこのアーティストについては、今まで一度も聞いたことも観たこともないんだよね。
たまたま目にしたアート情報のページにあった上の画像に一目惚れ!
これは誰の作品なんだろう、と調べてみたのである。

マルコム・モーリーはロンドン生まれ、1958年からはニューヨーク在住のアーティスト。
生まれたのは1931年、現在御年83歳!
ええっ!?上の画像「Dakota」は今年の作品なんだけど?
こんなにカラフルでポップな絵を描く83歳とは!
ホドロフスキー監督もびっくり、じゃない?(笑)
そしてStingの曲通りの「English Man In NewYork」とは。
経歴を調べて驚いたのが、第2次世界大戦で家が燃えたため、家族共々ホームレスだったということ。
どうやら「かっぱらい」のような罪で3年間刑務所にも入っていた、という記事も読んだよ。
そんな境遇だった子供時代なのに、やっぱり才能があったんだね。
美術学校に通い、ニューヨークに移住してからは大学で美術を教えていたというから、なんとも波瀾万丈な人生だよね!
1984年にはターナー賞も獲得!
これはターナー賞の第1回目の受賞者になるんだね!
そんなアーティストのことを全く知らなかったとは!
もしかしたら2008年に鑑賞した「ターナー賞の歩み展」で観ていたようだけど?
全く記憶にないSNAKEPIPEだよ。(笑)

マルコム・モーリーはフォト・リアリストとして有名らしい。
これはスーパーリアリズムともいわれる、写真そっくりに描く手法のことね。
確かに左の画像を観ても、とても絵画とは思えないよね。
疾走感溢れるロードレース、「YAMAHA」の文字もくっきりしてるし!
この絵と一番上の画像との共通点というと、「乗り物」というところか?

どうやらマルコム・モーリー、小さい男の子が乗り物が好きというのと同じレベルのように思われる。
左の画像「Cosair and Santa Maria」は 2011年の作品で、マルコム79歳の作品なんだよね。
戦闘機と海賊船はお気に入りのモチーフのようで、繰り返し描いているみたい。
この絵の中には絵画中絵画にまた船が描かれているくらいだもんね!
それぞれが重なり合う構図も、子供が何も考えずに好きな物をなんでも入れて描いてしまったかのようで、素晴らしい。
もちろんマルコム・モーリーの構図はバッチリ計算されてるけどね!

戦争や戦いをモチーフにした作品も多いんだよね。
左の「Cromwell」は2014年の作品。
まるでポスターみたいなイラストっぽい雰囲気だよね。
文字が入っているから余計にそう感じてしまうんだろうけど?
クロムウェルって歴史の授業で聞いたことがあるような気がするね。
恐らく1599年生まれのオリバー・クロムウェルのことを描いていると思われる。

イングランドの政治家、軍人、イングランド共和国初代護国卿。
鉄騎隊を指揮してエッジヒルの戦いやマーストン・ムーアの戦いで活躍し、ニューモデル軍の副司令官となる。

やっぱりNew Model Armyなんて言葉が出てくるんだよね!
マルコム・モーリーの好みがよく解るなあ!

もう一点、ポスターみたいな作品を載せてみようか。
「Italian Fighter Pilot (Ace)」は2011年のシリーズ。
第2次世界大戦中の戦闘機乗りの中でも、撃墜王にスポットを当てているとのこと。
アメリカ、ベルギー、イギリス、ドイツ、イタリア、ロシアの撃墜王をモチーフにしているらしい。
自分自身も第2次世界大戦で悲惨な体験をしているマルコムだけれど、子供の頃飛行場の近くに住んでいたので、かくれんぼをして遊んでいた思い出があるという。
子供心を持ち続けている点は、まるで横尾忠則のようだよね!

こんなにカッコ良い絵を描く80代のじーさん、大ファンになったよ!

好き好きアーツ!#31 鳥飼否宇 part9–生け贄–

【アルビノ大集合!おや、一文字違いも入ってるぞ?】

SNAKEPIPE WROTE:

鳥飼否宇先生の第4弾は「生け贄」!
2014年12月から、毎月鳥飼先生の新作が刊行されているのである。
全て別のシリーズで、それぞれの新作に拙い感想を書き、そしてその感想に対して鳥飼先生ご本人からコメントを頂戴する、というファン冥利に尽きる経験をさせて頂いた。
鳥飼先生、本当に感謝しています!

ついに観察者シリーズ最新作「生け贄」を読了!
スペシャルなディナーを堪能したように、読了後は大満足で自然に笑みがこぼれてしまう。
あー!美味しかった!(笑)
早食いのSNAKEPIPEは、あっという間に平げてしまった。
同じようにご馳走を堪能したROCKHURRAHと、食後のコーヒーを飲みながら感想を話し合う。

それでは「生け贄」についての感想を書いていこう。
2週連続で鳥飼先生の作品を取り上げることができるのは初めてのことだよね!
※ネタバレしないように書いているつもりですが、未読の方はご注意下さい。

観察者シリーズとは、大学サークルの野生生物研究会に所属していた4人が、卒業後して20年近く経っても連絡を取り合い、奇妙な事件に巻き込まれる話なのである。
4人のプロフィールについては、以前書いた記事「好き好きアーツ!#12 鳥飼否宇 part3 –物の怪–」で説明させて頂いているので、ご参照あれ!

「生け贄」はメンバーの中での紅一点、ネコこと猫田夏海が仕事をしているところから始まる。
ネコは一体いくつになったんだろう。
シリーズを通して読んでいるので、今ではすっかり知り合いの気分になっているSNAKEPIPE。
恐らく40歳を過ぎているはず。
それでも一番初めに登場した時から、雰囲気が変わっていない感じ。
SNAKEPIPE自身もそうだけど、精神年齢が高校生だった頃とあまり違いがないんだよね!
良く言えば若い。
成長していない、とも言える。(笑)
ネコも恐らく似たタイプと推測する。
勝手に思い込んでるだけかもしれないけど、共感を覚えることが多いキャラクターである。

植物写真家であるネコは、トサシモツケ(左の画像)を撮影するために高知県にいた。
撮影に成功したため緊張が緩んだのか、川に転落!
更にじん帯を切ってしまい、近くの民家でお世話になるのである。
その家は明神といい、白崇教という新興宗教の本部だったのである。

明神家は高知県南西部でカツオ漁船の網元として名高く、漁船を所有し、なんと明神港という私有の漁港まで持っている大金持ちである。
その明神家に、アルビノの男の子が生まれる。
その子が海に転落し、海中で白いサメからお告げを受けたことから、白いサメを「タイガ様」として崇める白崇教が始まる。
そして明神家の広大な敷地内に、「白崇御殿」と呼ばれる白崇教の施設が建設されるのである。

白いサメを崇める宗教とは!
実際白い動物を神の使いと考え、その姿を見ると縁起が良いとされる言い伝えは世界各国にあるよね。
例えば白いヘビは、パッと思い浮かぶし。
夢で見ただけでも幸運が舞い込んだり、金運が上がるとされているらしいね。
あれ?実は白いヘビの夢を見たことがあるSNAKEPIPEだけど、金運上がってないなあ!(笑)

アルビノについての説明はWikipediaによると

メラニンの生合成に係わる遺伝情報の欠損により
先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体である

ということになる。

白い動物は、その希少性や見た目の美しさから、
神の使いや吉凶の前ぶれなどとして畏れられ、
古くから信仰の対象として地元の人たちに
大切にされてきた

という記述もあるね。
「続日本紀」に赤い眼をした白い亀の記述があって、それが「宝亀」という元号の由来になったそうだ。
768年の出来事らしいけど、「鳴くよウグイス平安京」の794年より前のことになるんだねえ。
昔から白い動物が珍重されていたことが分かるよね!

アルビノは神の化身として明神家では優遇される。
現在、ネコこと猫田夏海がお世話になっている明神家にいるアルビノの女性、雅も例外ではない。
現在の白崇教の二代目教主から可愛がられ、副教祖の身分を与えられている。
雅には双子の妹がいて、その名前が、純!
おおおっ!純とはっ!(笑)
二卵性双生児のため、純はアルビノではない。
同じ双子でも雅のような扱われ方をしていないため、被害妄想気味である。
普段から夢見がちで追憶趣味のある28歳の純、さすがにツインテールは子供っぽいと思うけど、何故だか妙にシンパシーを感じてしまうSNAKEPIPE!
「名は体を表す」は本当のことだと思うな!(笑)
この純が、ギプスで動けないネコの面倒を見てくれるのである。

実はネコが居候している時、明神家は喪中だったのだ。
明神純の祖父が漁船沈没により亡くなってしまったのである。
「明神家は白崇教に全く関わっていない漁業一筋の家族もいるところが珍しいし、閉鎖的な空間だけれど、横溝正史の作品にあるような古い因習や香山滋の『怪異馬霊教』とは違うんだよね」
とROCKHURRAHが言う。
なるほど!大抵宗教関係というと、一族全てが信仰しているパターンがほとんどだろうね。
純の祖父は漁業を生業としていたため、事故に遭ってしまったんだね。
そんな明神家が更なる悲劇に見舞われるのである。

行った先々で見事に事件に遭遇してしまうネコは、つくづく災難だよね。
えっ、そうじゃないとお話にならないって?(笑)
「生け贄」ではギプス姿だったので、一人で動き回ることができないのはもどかしかったに違いない。
でもそのおかげで鳶さんが禁を破り、珍しい体験ができたのは良かったのかな?(笑)
鳶さんとは、ネコの大学時代の3学年上の先輩、現在は自称「観察者(ウォッチャー)」、「観察者シリーズ」の由来でもある鳶山久志のことね!
決して鳶職人の鳶さんではないので、お間違えなく!(笑)
ヘルプを求めた時、鳶さんは音信不通。
やっと来てくれた時には泣きそうになったり、鳶さんがびっくりするような嘘をついた時には大慌てするネコは、とってもかわいいね!
ネコにとっての鳶さんは先輩であり師匠であり、最も信頼を寄せている男性だと思うから一喜一憂しちゃうんだろうね。
ネコと鳶さんの関係は、とても微笑ましい。(笑)

「生け贄」の設定は2009年となっていたので、現在より過去の出来事になるんだね。
携帯電話からスマートフォンに移行する人が増え始めたのは、これより少し後のことだと記憶している。
ギプスで身動きが取れず、調査もままならないネコが「使い勝手の良い検索ツール」として頼ったのがジンベーだった。
電話でだけの登場だったけど、偽博多弁が聞けたのは嬉しい。(笑)
以前も書いたことがあるけれど、実はSNAKEPIPEが「観察者シリーズ」の中で友達になりたいと思っているのがジンベーなんだよね!
ちなみにROCKHURRAHは、今回登場しなかった神野先輩のファンだって。
自分の持っているバーで好きな音楽聴きながら仕事している身分が羨ましいらしい。(笑)
ジンベーは個展で忙しそうだけど、次回作では是非奇抜なファッションを見せて欲しいよね!

鳶さんはネコから事件の話を聞いた段階で、結論を弾き出していたみたいだね。
実はROCKHURRAHも、読んでいる途中で
「わかった!」
と叫び、「ある推理」を言葉にしていたんだよね。
そしてなんとそれはピッタリ的中!
もちろん鳶さんみたいな合理的な説明はなかったけれど、命中には恐れいった。
聞いた時SNAKEPIPEは、「そうかなー?」って答えてたからね。

鳶さんは生物に関する知識の豊富さと博識から、土着的な部分に科学的なメスを入れ、難題を軽々と解いてしまった。
まさかそんな話だったとは!
何度もページを行きつ戻りつ、読み返しちゃったよ。(笑)

「生け贄」は、予想していたよりも遥かにスケールの大きな、ちょっとやそっとじゃ思いつかない「すごい話」だったよ!
土着的な部分の解明というと京極堂を思い出すけれど、鳶さんは飄々と簡潔に説明してくれるのでわかりやすい。
これが鳥飼先生の持ち味なんだよね!
ネイチャーミステリー「生け贄」、大満足だよ!
「観察者シリーズ」最高だよね!(笑)

ここでふと気付いてしまった。
毎月新作メニューを楽しんでいたけれど、もう来月はないんだよね!
少しガッカリするSNAKEPIPE。
いや、まてよ。
今まで何度も食べている大好きなメニューを、また食べれば良いんだ、と気付く。
そうだ、鳥飼先生の旧作を再読しよう!
今まで書いていなかった感想が書けたら良いな。