好き好きアーツ!#30 鳥飼否宇 part8–絶望的 寄生クラブ–

【ROCKHURRAHが制作した「THE 小倉!」(笑)】

SNAKEPIPE WROTE:

3月6日は鳥飼先生のお誕生日!
鳥飼先生、おめでとうございます!

好き好きアーツ!#28 鳥飼否宇 part7–死と砂時計–」の最後でも書いていたように、今年はまさに鳥飼否宇先生の年!
「死と砂時計」に続いて刊行されたのが「絶望的 寄生クラブ」である。
発売予定日とされていた2月26日より前の2月21日に入手することができたのは、鳥飼先生のtwitterに情報が載っていたため!
もしかしたら、と近所の本屋に行ってみたら「死と砂時計」と共に平積みにされているのを発見。
応援している鳥飼先生の作品が並んでいるのを見て、ROCKHURRAHと一緒に飛び跳ねそうになってしまった。(笑)
本当に喜ばしいっちゃ!(北九州弁)

「絶望的 寄生クラブ」は「官能的 4つの狂気」以来、約7年ぶりに増田米尊が主人公となる作品である。(記憶違いだったらごめんなさい)
増田米尊!(笑)
綾鹿市にある綾鹿科学大学大学院理数研究科の准教授という肩書を持つ増田米尊は、数学者でありながらもフィールドワークを元に独自の研究を続けている。
「尤度関数を用いた性行為時の女性のよがり声の推定」や「キャバクラ嬢の豊胸指数をもとにした日本人女性のバストサイズの傾向推定」といった、今まで誰も数学と結び付けなかったようなデータを使った研究を真剣に行っているのである。

増田米尊の最大の特徴は、この変態性!
覗き見る、という行為こそが研究のためのフィールドワークなのである。
こんな犯罪スレスレ(犯罪そのもの?)の行為をしているにも関わらず、増田米尊は50歳を超えても未だに童貞!
それを秘密にするのではなく、声高らかにカミング・アウトし童貞主義者ときっぱり言い切るところは清々しいほどである。(笑)
実は妻帯者で、同じ家に住んでいるのにね!

もう1つの増田米尊の特徴は、興奮状態に陥ると頭脳明晰な研究者に変態する体質の持ち主ということだろう。
変態が変態する。
この瞬間があるからこそ、増田米尊が准教授として研究を発表できるんだよね。
そうじゃなかったら単なる出歯亀になっちゃうから。(笑)
「絶望的」はそんな増田米尊の「きせい」という5つの漢字に因んだお話なのである。
その「きせい」に絡めた感想を書こうとした結果、あらすじを詳しく書き過ぎちゃったかなあ。反省!
※ネタバレしているかもしれないので、未読の方はご注意下さい。

第1章 「増田米尊、帰省する」の巻

増田米尊が勤務先である綾鹿科学大学大学院の夏休みを利用して、およそ10年ぶりに帰省するのである。
帰省先がなんと福岡県北九州市の小倉!
これには驚いた!
ROCKHURRAHの実家も小倉だからね。(笑)
そのおかげで(?)SNAKEPIPEも何度か訪れたことのある場所である。
奄美大島在住の鳥飼先生も、ご実家は小倉でしたよね?
まさか増田米尊の帰省先も同じ小倉だったとは!
おや?鳥飼先生の著作「本格的」に増田米尊の出身地としてあったのは、東京都町田市だったような?
現在住んでいるところ、ということにしておこうか。(笑)
いや、増田米尊だったら石神井とか御成門が合ってるのに、と仕事中に思いつき、一人ニヤけるSNAKEPIPE。
増田米尊に負けない変態ぶりですな!(笑)

小倉の駅前周辺の描写があり、情景を思い出す。
北九州弁が忠実に再現されているのを読むと、つい声に出して真似てみたくなってしまう。
実はROCKHURRAHは生まれも育ちも小倉、というわけではないという。
更に小倉を離れてからの期間が長いため、北九州弁についてはっきり覚えていないらしい。
仕方ないので、youtubeにアップされている「北九州弁講座」で勉強までする始末。(笑)
「〜と?」とか「〜なん?」の使い方が難しくて、いつも変な言葉になってしまうSNAKEPIPEである。

兄の家に向かった増田米尊は、普段とは違う体験をしてしまう。
兄嫁や姪からモテモテなのである。
ところが増田米尊、迫られても「童貞主義」を貫き通す。
加えて、お互いに自慰し合う提案をするとは、さすがだよね。(笑)
この箇所を電車で読んでいたSNAKEPIPEは笑ってしまい、周りの人から変人に思われたはず!

普段とは違う経験をした増田米尊は身の危険を感じ、帰省先からトンボ返りしてしまう。
大学に戻り、学会向けの資料に手を付けようとすると、資料が全く別のファイルにすり替わっている。
「処女作」というタイトルのミステリー小説で、更に作中に「問題編」やら「読者への挑戦!」が入っているのである。

第2章 「増田米尊、奇声をあげる」の巻

何故「処女作」 にすり替わってしまったのか?
誰がこんなイタズラをしたのか?
書いたのは誰なのか?
増田米尊は犯人探しを始める。

この中で興味深かったのは「プリン形」と命名されたトップが平らなバストだね!
フィールドワークとして盗撮した、と堂々を告白する増田米尊に、SNAKEPIPEは次第に驚かなくなっている。
だって増田米尊だもんね。(笑)

キャバクラの店名として「ノヴェンバー・ステップス」とあるのは、武満徹の曲名なのかな?
現代音楽についてほとんど知らないけれど、鳥飼先生の著作にある店名には何かあるかも?と思って検索してみたんだよね!

お盆明けに大学に向かい、作り直した資料にもう一度目を通そうとした増田米尊。
ここで奇声をあげるのである。
なんとまた資料が「問題作」という別ファイルに替わっているではないか!

第3章 「増田米尊、規制を課す」の巻

またしてもやられてしまったとは!
頭を抱えているところに、例のキャバクラでバイトをしている「プリン形」の横田ルミが登場する。
そして帰省先でも経験したように、ルミから迫られる増田米尊。
「オナニストを愚弄するな!」
と一喝し、ルミを「ズベ公」呼ばわりする。
ここでもまた「童貞主義」を貫いた増田米尊に、「やんや」の喝采を送りたいよね!(笑)

「問題作」にすり替わった資料を再び学会用に仕上げて、札幌で開催される応用数理学会に出席する増田米尊。
「キャバクラ嬢の豊胸指数をもとにした日本人女性のバストサイズの傾向推定」を発表するはずだったのに、スクリーンに登場したのは「出世作」というエロミス(?)であった。

第4章 「増田米尊、気勢をあげる」の巻 

いつの間にか発表する資料がすり替わり、すっかりしょげていた増田米尊の元に、帝都理科大の教授である楠城一太郎が声をかける。
楠城は増田米尊の理解者で、今回発表された「出世作」の謎を解いたと言う。
その説明により、ほとんど官能小説としか思えなかった内容が、実はミステリーだったことを理解する増田米尊。
いや、増田米尊だけではない。
SNAKEPIPEもなるほど、と納得できたよ!
だから「出世作」なんだね。(笑)

「変態、バンザイ!」
と気勢をあげた増田米尊は、そのまま意識を失い倒れてしまう。
なんとその原因は回虫症による貧血だという。
ひーーー!回虫ーーー!
生野菜を口にすることで、体内に卵が入ってしまうという説明にはびっくり!
野菜はよーーく洗って食べようね。
熱を通せるものは通してから食べようね。
熱を通せば大丈夫なんだろうか。
何度以上の熱にすれば良いのだろうか。
調べたいけど、「その手」の写真が載ってたらと思うと怖くて検索できないんだよね。
増田米尊も、寄生虫に関する本に載っていた鳥肌が立ちそうな気味の悪い写真を見てしまったことで、余計に疑心暗鬼になってたもんね。

療養中の増田米尊の元に、以前寄稿した紀要が届く。
予想していた通りに、原稿は「失敗作」にすり替わっていた。

第5章 「増田米尊、寄生される」の巻 

紀要の中にあった生物学科の助教である藤崎健の文章に興味を示した増田米尊は、藤崎に直接話を聞きに行くことにする。
すさまじい寄生合戦と、宿主に依存したまま生き続ける生物の多さ、どのようにして寄生するのか、などのレクチャーを受けるのである。
以前見た寄生された人の写真なども想起されてしまったのだろう、増田米尊は話を聞いている途中で再び意識を失い倒れてしまうのである。

一人の学生と会話をするうちに、すべての謎が明らかになる。
増田米尊は真実を知るのである。
これから先、増田米尊に再会できるのか心配になってしまうね。
何事もなかったように、再登場願いたいね!

劇中劇ならぬ作中作が4編組み込まれているので、連作短編とはいっても、途切れ途切れになった印象がある。
「失敗作」だけは増田米尊の執筆で、以前からの作品で馴染みのある谷村警部補と南巡査部長も登場しているので、唐突な感じはなかったけどね!

作中に登場したすり替わっていた小説のうち3編は、鳥飼先生の独立した短編小説として発表されていたものだったんだよね。
ミステリーとしてちゃんとしたロジックもあって、充分に楽しむことができるので、単独でも存在感がある作品である。
「バカミス」と聞くと、簡単でお手軽だと思われがちだけど、このジャンルをキチンと面白く書けるのは、やっぱり鳥飼先生の才能なんだろうね!

「絶望的」でそれらを一つの連作短編としてまとめられているからなのかもしれないけど、今回は増田米尊が翻弄される設定で、前作までの活躍ぶりがなかったのが心残りかな。
フィールドワークに関しても少し語られただけなので、「これぞ増田米尊!」という変態行為が少なかったのもファンとしてはちょっと物足りない。
一体SNAKEPIPEは何を望んでいるんだろうか。(笑)

3月5日に発売された「生け贄」もすでに入手済!
現在、読み進めているところである。
すでにお馴染みになっている「観察者シリーズ」のメンツとの再会が嬉しい!(笑)
また感想を書きたいと思う。

バカミス最高 一家に一冊鳥飼否宇
鳥飼先生、これからも応援しています!

好き好きアーツ!#29鳥飼否宇 part7–死と砂時計–

【ROCKHURRAHがジャリーミスタン刑務所を盗撮か?!】

SNAKEPIPE WROTE:

ベストオブ2014の記事でも予告していたように、今年に入ってすぐに嬉しいニュースがあった。
ROCKHURRAH RECORDSが大ファンの作家、鳥飼否宇先生の新刊が出版されたのである。
タイトルは「死と砂時計」。
タイトルだけでもワクワクしちゃうよね、と「好き好きアーツ!#27 鳥飼否宇 part6–迷走女刑事–」で書いていたことを思い出す。

発売日とされていたのは1月10日。
もしかしたらフライングで前日に店頭に並んでいるかもしれない、と新宿の紀伊国屋書店で探してみた。
見当たらない!
検索機で調べてみても「死と砂時計」の情報は出てこなかった。
うーん、残念!
やっぱり10日が発売日なんだね、と当日地元の本屋へ。
ここは割と広い本屋で、種類も豊富に揃っているため、探すのが大変!
ところがさすがは元本屋のROCKHURRAH、なんなく見つけ出してくれたのである。
こうして鳥飼先生の新刊を入手!
通常は先にSNAKEPIPEが読み、その後ROCKHURRAHが読むという順番だけれど、今回はROCKHURRAHが先陣を切った。
読み進めているROCKHURRAHは、面白い!面白いよ!を連発する。
まだ読んでいないSNAKEPIPEには、拷問のような時間だった。
今までROCKHURRAHも、後から読んでたから同じような心境だったんだろうな、と反省。
相手の立場になって初めて解ることって多いよね。

ついにSNAKEPIPEの順番になり、読み始めることとなった。
なんと!今回の作品は鳥飼先生には珍しく、外国が舞台になっているじゃないの!
ジャリーミスタン首長国という架空の国が舞台である。
具体的な場所は記されていないけれど、中東にある小国らしい。
周りは砂漠で、その砂漠にぽつんと死刑囚専用の刑務所が建っている。
何人か脱獄に挑戦した囚人がいたらしいけれど、1人の成功以外は全て未遂に終わっているという。
ほぼ脱獄不可能な刑務所、ということで良いかな?
もし脱獄に成功しても、囚人には身体のどこかにチップが埋め込まれているため、GPSで所在の確認ができてしまう仕組み。
身体のどこにチップが埋め込まれているのかが不明なので、自分で取り出すこともできないのである。

ジャリーミスタン首長国は人権擁護を叫び、死刑を良しとしない国が増えていることに目を付けた。
死刑は廃止したいけれど、凶悪犯は排除したい。
最高刑を終身刑にした場合、その囚人を死ぬまで刑務所内で養っていかなければならないことになる。
その経費は国が賄うことになるわけだよね。
なんならウチで囚人引き取って、死刑やりましょか、ダンナ?と持ちかけ、商売にしたのがジャリーミスタン首長国なのである。
死ぬまでかかる経費よりも、引き取り料金のほうが安上がり、更に凶悪犯を国外に移送できるという一粒で二度美味しい話に飛びつく国が跡を絶たないのは想像に難くない。
なるほど、人が嫌がる仕事を引き受け、喜ばれながら金儲けするとは、なかなかジャリーミスタン首長国は商売上手だよね!(笑)
この設定が非常に面白いよね。
本当にありそうな話なんだもん。

刑務所の中にいる囚人は全員が死刑囚のため、一定の就労とジャリーミスタン語の習得の義務以外には、ある程度の自由が与えられているというのも特殊な状態なんだよね。
ジャリーミスタン首長国の首長である、サリフ・アリ・ファヒールの一存で執行日が決定するまでは、という期限付きだけど。
名前を呼ばれてしまうと、4日後には死刑執行。
執行前には15分だけ広場で告解の時間を与えられ、好きなことを喋って良いことになっている。
当然だけれどジャリーミスタン語でね!
鳥飼先生の新作は、その刑務所の中で起こる事件を、同じ刑務所内の囚人が解決していく前代未聞の連作短編なのである。
それぞれの短編ごとに感想を書いていこうかな!

1: 魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室 

死刑が確定した囚人は、執行までの4日間は独房に入れられることになっているのも、ジャリーミスタン刑務所のルールである。
その独房にいる2人の死刑囚が死刑執行の前日に殺されてしまう、という事件が発生する。
困った刑務官はある囚人の元に相談しに行くのである。
ここで探偵となる囚人の紹介をしようか。

ドイツ系ルーマニア人で、刑務所内での最長老とされるトリスタン・シュルツである。
シュルツはジャリーミスタン刑務所の第二収容棟の棟長で、齡80を越えているように見えるのにも関わらず、足腰が丈夫で頭脳明晰なため、何か起こると頼りにされる存在なのである。
シュルツは事件解決のために、助手として新入りのアラン・イシダを指名する。
アラン・イシダは日系アメリカ人。
30歳くらいの、線が細く知性的な、ジャリーミスタン刑務所では珍しいタイプの囚人とのこと。
こうして探偵と助手のコンビが結成される。
そしてシュルツはあっさりと事件を解決してしまうのである。

後から聞いたところでは、ROCKHURRAHは読んでいる途中でトリックに気付いたらしい。
もちろん事件の真相までは分からなかったはずだけど!(笑)
SNAKEPIPEは全然トリックにも気付かなかったよ。
まさかあんな話だったとはね!(笑)

SNAKEPIPEは第1話で登場した、スグル・ナンジョウという日本人が怖かったなあ!
ナンジョウもジャリーミスタン刑務所の囚人で、その刑務所にいるのが当然だと誰もが感じる、正真正銘のサイコパスなんだよね。
犯罪者に関する本をかなり多く読んでいたSNAKEPIPEだけど、ナンジョウは日本人には珍しいタイプ!
この種類は白人男性が多い、と読んだ記憶があるけれど、最近は少し変わってきてるかもしれないね?

第1話の登場人物の中で、少し気になる名前があったね。
アメリカ人のクリス・コベインという囚人は、もしかしたらニルヴァーナのカート・コバーンとクリス・ノヴォセリックの名前を使用しているのでは?
コバーンとコベインだからカタカナ表記に違いはあるけど、スペルがCobainだとしたら同じかな、と。
鳥飼先生の著作には、名前遊び(といったら良いのか)があるので、勘ぐってしまうね。(笑)

第1話からグイグイ内容に引き込まれる。
刑務所内の情景がはっきり脳内で映像化されているのである。
ROCKHURRAHじゃないけど、面白い!面白いよ!だね、ほんとに!

2: 英雄チェン・ウェイツの失踪

唯一ジャリーミスタン刑務所から脱獄に成功した、チェン・ウェイツという囚人を捜索することを命じられるシュルツとアラン。
今回は看守長直々のご指名を受けるのである。
シュルツの賢さが刑務所全体に知れ渡っている証拠だよね!
ジャリーミスタン刑務所では刑務官と囚人との垣根が低いと感じてしまうのは、シュルツが関係している場合に限るのかもしれないな。

調査に際して度肝を抜かれるのが、捜索のために外出を許可されること!
いくら手枷足枷されているにしても、死刑囚が塀の外に出るなんて聞いたことないよね!
チップが埋め込まれているのも、安心材料なんだろうけど。
様々なことが常識外れのジャリーミスタン刑務所、と改めて思うね。

この話の途中で、今度はSNAKEPIPEももしかしたら?と予想をしていた。
そしてその予想は当っていたけれど、もちろん動機や方法は分からなかった!(笑)

シュルツはここでも難なく課題をクリア!
事件があったらシュルツに頼もうと考える人が増えるのも納得だよね。

この話で国枝史郎の「神州纐纈城」の中のエピソードを思い出したSNAKEPIPE。
伴源之丞と園女が月子の元を訪れる、あのシーンね!

3: 監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦

刑務所内の治安を守るために監察官がいるらしい。
何か困ったことはないか?と聞いてくれるのは、死刑囚にとって有難い存在だろうね。
ジャリーミスタン刑務所では、監察官が調査のために囚人から話を聞く期間が決まっているという。
今回は監察官が囚人に話を聞いている期間に起きた事件の話である。

ジャリーミスタン刑務所は、死刑囚しかいないので、囚人も看守も、全ての人が荒れた人種なのかと思うと、意外にも道徳的で常識があり驚いてしまう。
なんで死刑囚になってしまったのか。
運命の悪戯としか言いようがないような、やむにやまれぬ理由があるんだろうね。
ジャリーミスタンでは死刑囚=凶悪犯として整合しない場合もあるようだね。

またしてもシュルツとアランのコンビは事件を解決してしまうのである。
この話ではなんとも言えない気持ちにさせられたSNAKEPIPE。
ここまでしなくても、と思ってしまうのはSNAKEPIPEがワーカホリックじゃないせいかな?(笑)

4: 墓守ラクパ・ギャルポの誉れ

ジャリーミスタン刑務所では一定の就労とジャリーミスタン語の習得だけが義務である、と冒頭でも書いたよね。
ジャリーミスタン語だけが世界各国から集められた死刑囚の共通言語であり、通達を知るためにも自分の意志を伝えるためにもジャリーミスタン語は必要不可欠だからね!
ただしアラビア語に近い言語のため、人によっては全く覚えることができないという。
学校で英語の授業を6年間習っているはずの一般的な日本人のほとんどが、英語をマスターしていないくらいだから。(笑)
アラビア語に近い言語では、更に難易度アップだろうね!

この話の主人公であるチベット人、ラクパ・ギャルポは6年もの間収監されていたのにも関わらず、一言もジャリーミスタン語を話していないという。
刑務所内での共通語であるジャリーミスタン語を話さなくても、生活できていたところは驚嘆してしまうね!
今回は、そのラクパ・ギャルポにかけられた、ある疑惑に関する調査をする話である。

ラクパ・ギャルポ本人から話を聞きたいと思っても、ジャリーミスタン語を話さないので無理なんだよね。
このもどかしさったら!
それなのにシュルツはまたしても謎を解いてしまうのである。
シュルツの話を聞けば大いに納得!
人それぞれ慣例や考え方があるからね。
理解するしないは別として、様々な思想が存在することは事実だもんね!

5: 女囚マリア・スコフォールドの懐胎

今まで出てきていなかったけれど、ジャリーミスタン刑務所には女囚専門の居住区があるらしい。
その女囚居住区に13ヶ月間収容されている女囚が妊娠した、という。
その謎を解くべくシュルツとアランが女囚居住区に向かうのである。

「女囚」と聞くと、続けて出てくる単語は「さそり」になってしまうね。(笑)
そして女囚居住区の担当医であるライラを、「イルザ」のダイアン・ソーンに見立ててしまったSNAKEPIPE。
うーん、勝手に想像しまっくてるね!(笑)

そんな想像に拍車をかけるような、マリア・スコフォールドの驚くような秘密!
えっ、マリアって「そういう」人だったの?
「そういう」人だと「そういう」ことができるの?
などと「そういう」を3回も書いてしまったけれど、かなり衝撃的なお話なんだよね。
「そういう」人が実際に存在していることは知っているけれど、詳細は良く知らないからなあ。
果たしてシュルツはこの難問を解くことができるのだろうか?

SNAKEPIPEの心配をよそに、シュルツはちゃーんと説明してくれていたので安心した。
そしてまさかの展開がっ!
本当にこれで良いのか、アラン?

6: 確定囚アラン・イシダの真実

今までシュルツの助手として活躍してきたアラン・イシダに、死刑執行の日が確定してしまう。
執行日が確定するとアランは独房に入れられ、残された時間は4日のみとなる。
この期間を人生の振り返りにしてはどうか、と面会に来たシュルツから勧められたアランは、ジャリーミスタン刑務所に来ることになった親殺しの事件を語り始めるのである。

アラン・イシダの母親マーガレットは遺伝子工学を、アランは生物学を学び、進化生態学を志したと書かれている。
進化生態学って聞いたことのない言葉だよ。

生物の生態や行動を、進化の結果として形成され
維持されてきた秩序であると考え、
その過程における自然淘汰の働き方を考察することで
解明しようとする学問

ネットで調べてみたらこんな説明がされていた。
最適制御理論、統計的決定理論、ゲーム理論などに基づいて解析されると説明が続いているので、数学にも強くないとダメみたいね。
更に野外での実験や観察データによって検証されるということは、体も動かしてデータの収集も行うってことだよね。
アランの話は、もしかしたら鳥飼先生そのものなのでは?(笑)

ハーバード大学の大学院で学んでいたアランに悲劇が起こってしまう。
偶然が重なるとこんなことになってしまうのか、とアランを気の毒に思ってしまうよね。
容疑者となり、警察で取り調べを受けるアラン。
クリーブランド市警察のスコット・マイモーン警部とデヴィッド・ハーマン刑事がアランを担当している。
この箇所を読んでいたROCKHURRAHが
「あっ!判った!」
と叫んでいたことを思い出す。
あの時の叫びはなんだったの?と聞いてみた。
ペル・ユビュに間違いないんだよ!」
ん?一体何の話なの?

ペル・ユビュの初期のメンバー名が
・デヴィッド・トーマス
・トム・ハーマン
・スコット・クラウス
・トニー・マイモーン
・アレン・ラヴィンスティン
だと教えてくれた。
確かに、名前を入れ替えると警部と刑事の名前になるよね!これに気付いたROCKHURRAHが大興奮してたってわけか。
鳥飼先生の小説のファンの中でも、こんなところに気付いて叫ぶのはマニアックなROCKHURRAHくらいじゃないかね?(笑)

マニアックと言えば、アランの死刑執行の日が3月6日で、この日は鳥飼先生の誕生日だということに気付いた人、いるかな?
SNAKEPIPEはすぐに分かったんだよね!(笑)

独房で面会に来てくれるシュルツに、今までの人生を語っていたアランは、幼い頃から疑問に感じていた問題を解決する糸口を見つける。
シュルツのくれたヒントで全てのピースがカチッと収まったアランは、告解の場で解決した問題と、今までの人生について語り始めるのである。

ここからはびっくり仰天のオンパレード!
アランの推理もさることながら、それから続く展開はスピード感満載!
早く次のページを読みたくて、焦って一気に読んでしまった。
もしかしたら息をしていなかったかもしれない。(笑)
ラストまでの約10ページは、またもやSNAKEPIPEの脳内で完全に映像が出来上がっていて、その情景を目の当たりにしているようだった。

読了して、大満足!(笑)
なんて魅力的な人物設定と舞台背景!
架空の国ではないのかも、と真剣にGoogleで検索してしまったほどである。
「死と砂時計」の続きがあったら読んでみたいよね!

鳥飼先生は2014年11月に「迷走女刑事」を発売し、2015年1月に「死と砂時計」が刊行されているよね。
この期間の短さに驚いていたROCKHURRAH RECORDSだったけれど、なんと2015年2月26日には「絶望的――寄生クラブ」が発売されるという!
そしてなんとこの物語は…SNAKEPIPEが大好きな増田米尊が主人公!
わーい、やったー!増田米尊だー!(笑)
と喜んでいると
「あれ?あれれれ?」
ROCKHURRAHが驚いた顔をしている。
なんと!2015年3月5日には観察者シリーズ「生け贄」が発売されるというのである!
えーーーーっ!
鳥飼先生の新作が毎月刊行されるなんて、ビッグサプライズだよ!
2014年はホドロフスキーYEARだったけれど、2015年は鳥飼先生YEARになりそうだね!

そうそう。
ホドロフスキーといえば、「リアリティのダンス」の続編の製作が発表されたことも書いておきたいな!
ホドロフスキーの青年時代を映画化する「エンドレス・ポエトリー」は2016年2月完成予定とのこと!

待ち遠しいニュースがたくさんあって、ウキウキしちゃうよね!
まずは増田米尊との再会を楽しみにしていよう。(笑)

好き好きアーツ!#27 鳥飼否宇 part6–迷走女刑事–

【「迷走女刑事」の中で店名として登場したソフト・マシーン】

SNAKEPIPE WROTE:

大ファンの作家、鳥飼否宇先生の新作が発売される情報をもたらしてくれたのはROCKHURRAHだった。
Kindleのような電子書籍を読むための端末が人気のご時世だからなのか、鳥飼先生の新作はハードカバーではなく新刊として文庫本で登場!
実際SNAKEPIPEも通勤電車で読むのはスマートフォンに落とした電子書籍だもんね。
でもこれって、新作じゃなくて前に発表した作品の文庫化じゃないの?
だってタイトル同じじゃない?
おや?よく読んでみると「迷走女刑事」!
2012年に発表されたのは「妄想女刑事」!
鳥飼先生のファンと言っておきながら、読み違えるとはファン失格‥‥‥。
いやいや、しょんぼりする必要なし!
鳥飼先生の新作が読めるんだもんね!(笑)

近所には本屋が何軒もあるので、発売日当日に出向けば問題なく手に入ることは分かっていたけれど、発売の情報を知ったその時にネットで予約注文した。
確実に入手できることがはっきりしないと安心できないんだよね。(笑)
あとは到着を待つのみ!楽しみだ。
お待ちかねの発売日当日。
郵便ポストにメール便が到着!
やったー!
慌ててページをめくるSNAKEPIPE。
早速読み始めたのである。

前作では妄想し、本作では恐らく(?)迷走するであろう主人公の宮藤希美と、前作でコンビを組んでいた荻野正則が居酒屋で飲んでいるシーンから小説が始まる。
キュートなルックスに似合わず酒豪の宮藤に付き合うように、下戸の荻野が烏龍茶を飲んでいる。
どうやら本作では、宮藤と荻野がペアで捜査しているのではなく、それぞれが新しい相棒を得ているという。
ここで新しい登場人物の紹介だね。
宮藤の相棒は甲賀忍者の末裔で、武芸十八般に通じているという望月暁子。
武芸十八般とは弓・馬・槍・剣・水泳・抜刀・短刀・十手・銑鋧(しゅりけん)・含針・薙刀・砲・捕手・柔・棒・鎖鎌・錑(もじり)・隠(しのび)のことらしい。

そして暁子が得意としているのが手裏剣、鎖鎌、十手とのこと!
2012年に行った明治大学の博物館で実物を観たっけ。(笑)
常にこれらの武器を携帯してるんだろうか?(笑)
宮藤と同い年だけれど、ノンキャリアのため刑事歴は宮藤より長い。
「踊る大捜査線」でもよく出てきた構図だね。
そんな叩き上げで、ルックスも男まさりの力強い女だからこそ宮藤に反感を抱いてしまうのも仕方ないのかもしれない。
本作でSNAKEPIPEが1番注目したのは彼女!
友達になりたい、というよりは見ていたいんだよね。
ネタが豊富そうで。(笑)

そして荻野の相棒になったのは、宮藤の場合と同じように荻野とは正反対の特徴を持つ三谷浩二朗。
女性に人気がありそうなルックスの新人だというから荻野は完全な引き立て役になっちゃうね。
でも実は三谷は‥‥文章にするのは差し控えておきましょ。(笑)
本作は2組のペアが難事件に挑むお話なのである。

事件ファイル1 三人の数学教師の問題

大学の数学教師の死体が河川敷で発見されるところから話が始まる。
調査をする宮藤と荻野。
テンポの良い二人の掛け合いは相変わらず面白いね!
趣味全開の荻野の発言は刑事らしくないし。(笑)

SNAKEPIPEが大注目だったのはやっぱり望月暁子だね。
灯火目付という視力の鍛錬法により、視力が3.0あるという。
いつの間にか視力が0.02くらいになっているSNAKEPIPEには信じられないよ!
灯火目付、本当に効果あるんだろうか?
今からでもやってみようか!もう遅い?(笑)

数学教師の事件なだけあって「フェルマーの最終定理」についての説明がされていたね。
「ドラゴン・タトゥーの女」で主人公リスベットが夢中になっていた問題だったことを思い出したよ。
実は最近になって理数系の面白さに気付いたSNAKEPIPE。
学生の頃から好きだったら良かったのに!
きっと「ブレイキング・バッド」を見てから、化学に興味を持つ人もいるだろうね?
えっ、動機が不純?(笑)

宮藤は自慢の妄想がなかなか発揮できない様子。
まだ本人は何が理由だったのか気付いていないんだね。(笑)
ところがヒョンなところで、またもやロッターズクラブのバーテン・御園生独、登場!
宮藤にヒントを与えてくれるのである。

めでたく事件は解決。
まさかそんなことだったとは!
「んなバカな!」と叫んでしまったSNAKEPIPE。
こんな事件は前代未聞だよ。(笑)

事件ファイル2 三枚の天狗の面の問題

代議士の子供が誘拐される事件が発生する。
ところが宮藤希美は相棒である望月暁子と共に、誘拐事件とは別の骨董品を扱う「夢幻堂」の壺盗難事件の捜索に駆り出されたのである。

この「夢幻堂」のオヤジが良い味出してるんだよね!(笑)
宮藤希美をクドミ、望月暁子をモチコと勝手に名付けてしまう。
実際に関わると面倒なタイプだろうけれど、本当は誰かに構って欲しくてたまらない孤独な老人なんだろうと推測できるよね。
この古物商で望月暁子が棒状の手裏剣に見惚れるシーンが良かったね。
あまり手裏剣に詳しくないSNAKEPIPEなので調べてみると、武術の世界での手裏剣とは棒状のタイプが一般的らしい。
忍術について勉強になるなあ。(笑)

この事件の中で最も興味を感じたのは、話の中に登場する油絵!
青系の暗い絵の具が塗り重ねられ、まるで子供の落書きのような人物や動物が描かれている絵とは?
人物が死にかけのアザラシやトドとかセイウチに見えてしまう具象画ってどんなだろう?
SNAKEPIPEが思い浮かべたのはリンチの油絵だね。
最近のリンチはリトグラフで作品を制作することが多いみたいだけど、80年代後半から90年代に描いていたのが、まさに大人の落書きのような油絵!
参考にした画像は1996年の「Dr. Howl’s Philosophy」という作品ね。
こんな雰囲気の絵だったら、観てみたいな!

事件に関しては読んでいる途中で、
「もしかしたら?」
と真相を予想したSNAKEPIPE。
そして結論は当たっていたんだけど、理由までは推理できなかった。
そして更にまさかそんなことだったとは!(笑)

事件ファイル3 三体の不明死体の問題

続いはゴミ屋敷で発見された男性の全裸死体にまつわる事件である。
確かにゴミ屋敷というのは、どこに何があるか判別できないだろうから、死体の隠し場所としては最適かも!(笑)
捜索にはものすごく時間がかかるだろうからね。
この小説の中でも、捜索は難航していて、何が物証なのかを判断するのにも苦労している様子。
こんな舞台を事件現場に設定されるとは、さすがは鳥飼先生!
何が出るかな?何が出るかな?(ごきげんようのサイコロ風)

3つ目の事件の頃には、宮藤と望月はそれなりに意気投合しているようで安心した。
お互いの役割を認識したということかもしれないけれど、1番近くで長い時間を過ごす同僚とは気持ち良く付き合えるほうが良いからね!

この事件で望月暁子が使用したのが、直径4センチほどの中央の輪に長さ35センチほどの3本の分銅鎖が付いた微塵と呼ばれる武器である。
扱い方次第では敵の骨を木っ端微塵に打ち砕く威力をも発揮することから「微塵」と名付けられたというから恐ろしいよね!
そして金剛力士像のように憤怒の表情を浮かべている記述もあったので、本当に敵に回すとロクなことがない女性なので、宮藤希美は仲良くなれて良かったよね。(笑)

事件には驚くべき真相が隠されていて、SNAKEPIPEは横溝正史を思い出したよ!

事件ファイル総括 三件の重大事件の問題

タイトル通り3つの事件の締め括りである。
もうそれぞれの事件は解決してるじゃない?
そう、もう事件は解決してるんだけどね。
宮藤希美の元にまたもやバーテン・御園生独が登場する。
そして宮藤希美は「世界の真理」を知るのである。

最後の最後まで「やられた〜!」って感じだったね。
大満足のSNAKEPIPEである。(笑)

ミステリー小説でキモになる部分は書きたくないので、核心に触れないような感想しか書けないのがもどかしいね。
鳥飼先生の魅力を充分お伝えできていない気がして残念だけど、非常に楽しい読書時間を過ごせて嬉しかったな!
そして来年、2015年1月10日にはまたまた鳥飼先生の新作が発売だよ!
死と砂時計」なんて、タイトルだけでもワクワクしちゃうよね。
早速予約しないと!(笑)

好き好きアーツ!#20 鳥飼否宇 part5–憑き物–

【いくつかの画像をアレンジして作ってみたよ!】

SNAKEPIPE WROTE:

大ファンの作家、鳥飼否宇先生の「観察者シリーズ」「物の怪」が発売されたのは2011年9月のこと。
興奮しながら読み、拙い感想は「好き好きアーツ!#12 鳥飼否宇 part3 –物の怪–」としてまとめさせて頂いている。
「観察者シリーズ」とは何かということに関しても、説明させて頂いているので、ご存知ない方はご参照下さいませ!
この時にも鳥飼先生から直々にコメントを頂戴してるんだよね。(笑)
鳥飼先生、いつも当ブログを読んで頂きありがとうございます!

待ちに待った「観察者シリーズ」次回作の刊行を知り、早速予約注文をしたSNAKEPIPEとROCKHURRAH。
そして鳥飼先生の最新作「憑き物」は無事に到着!
タイトルのおどろおどろしさが気になるね。
京極夏彦坂東眞砂子の小説にも出てきた題材だけど、まずは初めに≪憑き物≫の意味について調べてみようか。

人に乗り移って、その人に災いをなすと信じられている動物霊や生霊・死霊。
これに取りつかれると,精神に変調をきたすといわれる。
狐憑き・犬神(狗神)憑き。物の怪。(大辞林より)

≪憑き物≫は家系によって起こるとされ、その一家は≪憑き物筋≫と呼ばれたそうだ。
≪憑き物筋≫は憑いた霊を使役し呪う能力があると恐れられ敬遠されながらも、他人に憑いた霊を払い落とすことができるという評判もあり、民間宗教として成立していたという。
「狐憑き」に関する最古の記述が「今昔物語」にあるというから驚いちゃうよね!
憑依する動物はキツネの他にも「人狐(にんこ)」、「クダ」、「ヤコ(野狐)」、「ゲドウ(外道)」、「犬神(狗神)」、「オサキ」、「イヅナ(飯綱)」など、聞いたことがない名前もたくさん登場してバラエティ豊富!(笑)
それらの伝承は日本各地に残っているようだ。

動物霊が憑く以外に、トランス状態に入って「霊」との交信をするシャーマニズムも≪憑き物≫といえるよね。
パッと思いつくのは青森のイタコや、 映画で観たブードゥー教の儀式で卒倒するような憑依シーン、他には映画「エクソシスト」で悪魔に取り憑かれた少女も有名だよね。
死者の言葉や神霊・精霊の代弁者としての役割を果たす霊媒師。
シャーマニズムにも種類がたくさんあって、世界中で行われ認知されている宗教現象ということがわかる。
どのタイプの≪憑き物≫にしても、信じる信じないを個人に託すような、ちょっと胡散臭いオカルト的な存在と言っていいのかもしれない。
付け焼刃で説明文を書いたので、もっと詳しい説明が必要な方は専門書を読んでね。(笑)

調べたら余計におどろおどろしさが増してしまった≪憑き物≫という言葉。
鳥飼先生は一体どんなお話を展開されているんだろう?
さあ、勇気を出してページをめくってみようか。(笑)
「憑き物」は4つの短編で構成されている。
いつもと同じようにそれぞれについて感想を書き進めてみようかな!
※細心の注意を払って書いているつもりですが、万が一ネタバレになるような記載があった場合はお許し下さい。特に未読の方は注意願います。

1:幽き声

植物写真家のネコこと猫田夏海が登場!
なんだか旧友に会ったような気分でホッとしてしまう。
「久しぶり~!元気?」
って感じかな。(笑)
写真好きな女性というだけでもネコとは共通点があるけれど、やっぱりネコも人が多いのが苦手だったとは!
ネコとは仲良くなれると思う。(笑)
そのネコが岩手県の早池峰山に行くところから話が始まる。
山麓最奥部のひっそりとした民宿に泊まり、そこで偶然惨劇に遭遇するのである。
美少女の出現。
地元限定のシャーマニズム。
物理的・地理的な密室状態。
怪しげな要素満載ね。(笑)
事件のあらましについて、神野先輩の店「ネオフォビア」で語るネコの横で話を聞いてきたのが「観察者」(ウォッチャー)鳶さんこと鳶山久志。
読んでいた「逆光」を閉じる、と書いてある。
確か「中空」の時には「重力の虹」だったよね。(笑)

それにしても鳶さん、またネコに厳し過ぎ!
上の画像の動物達についての違いが判る人ってあんまりいないよね?(笑)
鳶さんが羅列した動物達を並べてみたんだけど、顔のアップだけだと余計に難しいかも。
「嘆かわしい」とまで言われてしまって、ネコがかわいそうになってしまう。
生物に関しての妥協は一切許さないけれど、ネコが遭遇した事件に興味を持った鳶さんは、ネコと謎解きの旅に出るのである。
あれよ、あれよという間に謎を解いてしまった鳶さん。
なるほど、そういうことだったのねえ。

年齢を重ねると、聞き分けることのできる周波数に変化が生じることを知ってびっくり!
気付かないうちに蚊に刺されていたのは加齢のせいだったのね。(笑)
大変勉強になりました!

2:呻き淵

中国地方・大山での撮影を終えたネコは、山間部の農村でしばらくオフタイムを過ごすことにした。
たまたま知り合った土地の有力者の家に居候するのである。
仕事のためとはいえ、日本全国を飛び回り、時間的にかなりの余裕のあるネコの暮らしぶりは羨ましいね。
毎日の通勤ラッシュなんて無縁だろうからね。(笑)
散歩しながら写真を撮り、ゆったりした時間を過ごすネコ。
そしてある日ネコは、見るはずのないものを見てしまうのだった・・・。

この「呻き淵」が「憑き物」の中で一番怖かった!
昔から伝わる伝承。
集落から離れた廃屋。
そして怪奇現象。
ネコが体験したシーンは、SNAKEPIPEの頭の中で完璧に映像化され、ぞわぞわと恐怖が全身を包み込む!
もうこれはホラーだよっ!
生物系オタク・ミステリーホラー!(意味不明)
昔よく一人で撮影に行き、無人の場所を歩いた経験があるSNAKEPIPEには想像しやすかったのかもしれないね。
またもや合流した鳶さんの出現で、謎は一気に解明されていく。
ははあ、なるほどねえ。

「呻き淵」の中でとても気になったのは、土地の有力者の奥さん。
この奥さん、語尾を濁して喋るクセがあるんだよね。
濁していながら、意外と重要な事を言ってるところが面白かった。(笑)
きっとモヤモヤさせられるんだろうなー!
本当にこういう人、いそうだよね。

3:冥き森

3つめのお話の舞台は鳥飼先生がお住まいの奄美大島である。
絶滅危惧種の野生ランを撮影をするためにネコが訪れた奄美大島には、ネコの高校時代のクラスメイトが嫁いでいたのだった。
しばらくぶりの再会シーンは、読んでる妙齢の女性にはキツいなあ。
「全然変わってないねー!」
はSNAKEPIPEも使う言葉だし、よく聞く言葉でもある。
何割かはサービスだったのか。(しょぼーん)
相手に本気で言ってもらえるように努力しないと。(笑)

女同士の近況報告というのは、とりとめもなく長時間続くものだ。
話があちこちに飛んだり、また戻ったりしながら、なんとなく自分なりに話を解釈し、納得することも多い。
元クラスメイトとネコも、明るいうちから酒を飲みながら、そんな時間を過ごしていたのだろう。
その話の流れの中に霊媒師の話が登場する。
病気の夫を占ってもらうために、霊媒師を呼ぶのだという。
そしてその祈祷の席にネコと、たまたまその家に立ち寄った鳶さんも同席することになるのである。

この霊媒師のインパクトがすごい!
白装束で車椅子に乗った、100歳を越えているようなヨボヨボの老人。
勾玉のネックレスを首から下げ、枯れた樹の皮で編んだ冠をかぶっているなんて、まさに宗教的な正装って感じ。
SNAKEPIPEには、この霊媒師の姿が草間彌生と重なっちゃうんだよね。(笑)
草間彌生が本の中で、離人症だったことや幻覚や幻聴に襲われた経験について語っていたことや、村上龍原作・監督の映画「トパーズ」で占い師役を演じていたことも由来しているのかもしれない。
そういえば、CMでオカッパのヅラをかぶった樹木希林を草間彌生と間違えてしまったんだけど、似てると思った人も多いと思う。
SNAKEPIPEは、霊媒師のイメージを草間彌生(もしくは樹木希林)に固定したまま読み進めてしまったよ。 (笑)

「冥き森」は「観察者シリーズ」の中でも特殊な部類に入る物語じゃないかな。
鳶さんが謎解きをして事件を解決する、という基本的な流れは同じなんだけど、○○が×××××××××じゃないこと、△△△が○○を××していなかったこと、などが特殊だと感じた理由なんだよね。
詳しく語れないから山口百恵の「美・サイレント」風に記述してみたよ。(笑)
鳶さんの博識と考察力や観察力による種明かしは、毎度のことながらスッキリするね!

ところが!
最後のページで再び疑問が湧いてしまう。
鳶さんの顔が蒼白になった?
えー!意味が解らないよー!

4:憑き物

そうだった。
もう一つ話が残っているんだった、と安堵するSNAKEPIPE。
4つ目のお話は、奄美大島での事件から3ヶ月が経過し、事件について神野先輩の店「ネオフォビア」でネコが語るシーンから始まる。
時系列になっていることから、「冥き森」のラストの意味も解明されるのではと期待しちゃうね。(笑)
神野先輩とネコに、自分に憑き物が憑いている、と言い出す鳶さん。
その憑き物の正体を暴くべく、再びネコと一緒に謎解きの旅に出るのである。

「冥き森」と「憑き物」は、映画での題材にもなっているし、実際にニュースにもなっているような問題が扱われている。
核心に触れる部分なので詳しくは語らないけれど、毎年のように新たな脅威が発見されるのは、とても怖いと思う。

最後の謎解きも完了して、鳶さんに憑いていた物も落ちたようだ。
その代わりまた、最後のネコの言葉に謎を感じてしまったSNAKEPIPE。
でももしかしたらそれは、鳶さんに限ったことじゃないのでは?(笑)

約1年半ぶりの「観察者シリーズ」である「憑き物」を、短時間で一気に読み切ってしまった。
ページをめくるのがもどかしいほどのスピード。(笑)
とても面白くて、大満足だった!
ひとつだけSNAKEPIPEが物足りなさを感じたのは、ジンベーが登場しなかったことかな。
きっと個展の準備で忙しかったんだったんだろう、と勝手に想像する。(笑)

それにしてもネコの事件遭遇率の高いこと!
「こういう場面には比較的慣れてます」
と発言した場面では笑ってしまった。
そして待ち合わせてもいないのに鳶さんとバッタリ出くわすのは、やっぱり縁があるんだろうね。
憎まれ口を叩きながらも、仲の良いネコと鳶さんコンビは微笑ましい。
今度はどんな事件に遭遇するんだろう?
次回作も楽しみにお待ちしております! (笑)