映画の殿 第23号 ジャック・ブラック02

20161030 top2【ぽっちゃりしたジャック・ブラックの魅力全開!】
SNAKEPIPE WROTE:

毎週末に映画鑑賞しているROCKHURRAH RECORDS。
様々なジャンルに挑戦しているけれど、最近増えているのがコメデイ映画かな。
これはかつて「映画の殿」で4回も特集を組んだ我らがウィル・フェレルの影響によるもの。
ROCKHURRAHもSNAKEPIPEもヨーロッパに憧れを抱いているにも関わらず、反応してしまったのがアメリカン・ジョークだったとは!(笑)
どんな国のジョークだったにせよ、結局は下品な下ネタ系が好き、ということなんだろうね。
こんなに堂々と「下品な下ネタが好き」と公言してしまって良いのだろうか。
ま、いいか。(笑)

今回特集するのは「映画の殿 第19号」でも紹介したことがあるジャック・ブラックが出演している映画について。
ジャック・ブラックとは1969年生まれのアメリカ人俳優。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校在学中、ティム・ロビンスの劇団に所属したことがきっかけで俳優の道に進むことになったらしい。
俳優業と並行してカイル・ガステネイシャスDというバンドでも活動している。

はっきり言ってジャック・ブラックのファン、と人前で言うのはちょっと恥ずかしい。
ぽっちゃりした暑苦しい体型に加えて、アクの強さがある人物。
映画を観る前に先入観で「この人キライ!」と見た目で判断されてしまうようなタイプだからね。(笑)
ところが「いかもの食い」には一度食べたらやみつきになるタイプ。
大袈裟な表現だけど、ここらへんもウィル・フェレルと似た感じなんだよね。(笑)
「映画の殿 第19号」では3本の映画を紹介したけれど、その後鑑賞したジャック・ブラック関連の映画をまとめてみよう。
まずは「ハイ・フィデリティ」(原題:High Fidelity 2000年)から。

簡単にあらすじね!

中古レコード店を経営するロブは、同棲していた恋人のローラが突然出ていったことをきっかけに、これまでの失恋トップ5の女性たちを訪ね歩き、自分の何がいけなかったのかを問いただしていく。
そんな中で、彼はさまざまな人々との出会いや会話の中からポジティヴな自分を発見していく。

主人公ロブを演じているのはジョン・キューザック
恐らくこの人が出演している映画は今までほとんど観ていないみたい。
ジョンのお姉さんがジョーンで「スクール・オブ・ロック」の時には校長先生役で出演していたことを知ってびっくり。
名前が紛らわしい姉弟だね。(笑)
実は「ハイ・フィデリティ」にもお姉さん出てるんだよね。
ジャック・ブラックとの共演が多いってことなのかな?

主人公が中古レコード屋を経営という設定に、ROCKHURRAHが羨ましい環境だ、という。
確かにね!
好きな音楽を聴きながら、音楽のことだけを考えていられるのは良いよね!
映画の中でのロブの店はかなり繁盛しているようだったから、余計に羨ましいよね。(笑)
ふと見えるシーンにパンクやニューウェーブ系の80年代モノがあったり、会話にもマニアックな音楽ネタを聞くことができる点にも注目だね!

それにしても今まで恋愛関係にあった女性に会いに行って、自分の悪いところを聞いて回るなんてあり得ない話。(笑)
相手の女性もよく会ってくれたよね。
かつての恋愛についてロブがカメラ目線で話すシーンが面白かった。

中古レコード屋の店員として個性を発揮したのがジャック・ブラック。
この映画で注目されたというのが納得!
音楽オタクという役どころを非常に上手く演技してるんだよね。
いや、ほとんど演技に見えないくらいの自然体だった。(笑)
前述したように、ジャック・ブラック本人もバンドを組んでいるので、この役は当たり役だったんだろうね。
強く印象に残る役だったよ!

もう一人店員がいるんだけど、内気な役は本当の意味でオタクっぽい。
トッド・ルイーゾという役者みたいなんだけど、Wikipediaには情報はなし!
この人も「本当にいそう」なタイプだったね。

ジャック・ブラックの親方(?)であるティム・ロビンスやリサ・ボネット、更にカメオ出演としてブルース・スプリングスティーンまで登場していたね。
ロック好きの人には特に楽しめる映画じゃないかな?

続いては「愛しのローズマリー」(原題:Shallow Hal 2001年)。
※ネタバレしていますので未鑑賞の方はご注意下さい。

父親の遺言を守り、少年時代から外見の美しい女性だけを追いかけ続けてきたハル。
しかし、もともとチビで小太りの彼、そんな恋が成就するわけもなく、気づいてみればすっかり中年の冴えないおっさん。
そんな彼と偶然出会った自己啓発セミナーの講師が、ハルに内面の美しい女性が美人に見える催眠術をかけてしまう。
そして、ハルが最初に出会った心の美しい女性はなんと体重300ポンド(136kg)巨漢女性!
でも催眠術にかけられたハルの目に映るのはスレンダーな絶世の美女。
さっそく猛烈なアタックを始めるハルだったが……。

言うまでもなく、あらすじにある「ちびで小太りの冴えないおっさん」がジャック・ブラック演じるハルね。(笑)
ナンパに出かけてもフラレてばかり。
高望みし過ぎると言われても父親の遺言には逆らえません!(笑)
美人でグラマーな女性だけが女、なんて聞かされちゃってるからね。

たまたまエレベーターで出会った自己啓発セミナーの講師と話すことになり、 外見だけで女性を判断しないようにと諭されるハル。
その後からハルには信じられないような出来事が起きるのである。

出会う女性がみんな美人!
しかも自分に好意を抱いてくれるではないか!
有頂天になるハルだけど、これはハルの目にフィルターがかけられていたみたいだね。
ハルにはそのフィルターの存在がわからなかったみたい。
ハルは暗示にかかりやすいんだね。(笑)
でもねえ、本人が幸せならそれで良いのかも?

そんな時に出会った絶世の美女、ローズマリーに一目惚れするハル。
ローズマリーを演じているのはグウィネス・パルトロウね。
映画「セブン」(原題:Seven 1995年)ではブラッド・ピット演じる刑事の妻役だったね。
「セブン」 から6年が経過して、まさかあの陰気な奥さん役だったグウィネスがこんな姿で登場するとはね!(笑)
上の画像はフィルターがかかった目でハルが見たローズマリーの姿。
それにしても、手にしたデカパンで少しは察する気がするけどね?(笑)
この映画の中でのグウィネスはかなり体当たり演技していて、椅子から転がり落ちてパンツ丸見えになったり。
頑張ってます!(笑)

ハルの恋は順調に進むけれど、クラブで一緒にナンパをしていた仲間だったマウリシオ(ジェイソン・アレクサンダー) には面白くないみたい。
あんなに高望みしていたのに、ローズマリーのような女性に夢中になるなんて!
映画の中ではチラチラと片鱗は見せるんだけど、ローズマリーの本当の姿は「あとのお楽しみ!」って感じで全体像を見せてくれないんだよね。(笑)
そしてマウリシオはハルの秘密だったフィルターを外してしまう、、、。

じゃーん!ついに本当のローズマリーが姿を現す!
もちろん特殊メイクだってことはわかってるんだけど、それにしても良くできてるよねえ!
グウィネス、よくオッケーしたよね。
頑張りました!(笑)

内面と外見のキレイについて、ここまであからさまな表現をする映画というのも珍しいよね。
フィルターのおかげでローズマリーを美人と思って好きになっていたハルは、フィルターが無くなって素のローズマリーと対面しても好きと言えるのか?がポイントだからね。(笑)
SNAKEPIPEはローズマリーの懐(と体)の大きさが素晴らしいと思ったね!

そういえばテネイシャスDの相方、カイル・ガスもハルの会社の同僚として出演していたことを書いておこう。
ジャック・ブラックが関連している映画には一緒に出ること多いよね。
あ、言うまでもなく左の男性のほうね。(笑)

ジャック・ブラックのファンはもちろんのこと、グウィネス・パルトロウのファンの人も楽しめる映画だと思うので、お勧め!(笑)

最後に「オレンジ・カウンティ」(原題:ORANGE COUNTY 2002年)で締めくくろう!

南カルフォル二ア、オレンジ郡に暮らすショーン・ブラムダーはサーフィンに明け暮れる高校生。
ある日、砂浜に捨てられた小説を手にしたショーンは作品に感銘を受け、小説家になることを決意する。
そして、小説の作者スキナー氏のいるスタンフォード大学進学を目指すのだったが…。

主人公ショーンを演じたのが、トム・ハンクスの息子であるコリン・ハンクス
いつも泣きべそ顔をしていて、いじめられっ子の印象だけど映画の中ではヤンチャな連中とつるんでいる。
日本の俳優、妻夫木聡に似ているように感じたのはSNAKEPIPEだけかな?
ショーンが目指していたスタンフォード大学に、あるアクシデントのため入学できなくなってしまうところから話が始まる。
いや、もし本当にこんなアクシデントが起きたら大変な事件だよ!
マスコミが知ったら責任追及されるだろうし。
そのままになっているところが、さすが映画!
ショーンが自分で奮闘しないとお話にならないもんね。(笑)

そのショーンの兄の役で出演しているのがジャック・ブラック。
この作品の中では、ほとんど下着姿だったような?
ダメ兄貴という役柄だけど、良い味出してるんだよね。
ジャック・ブラックの特徴として、最終的には「いいヤツ」という感想に変わってしまう、というのがある。
恐らくそれがジャック・ブラックの持ち味であり、魅力なんだろうね。
「暑苦しい、厚かましい、鬱陶しい」はずだったのに。(笑)

ショーンのガールフレンドを演じたのがシュイラー・フィスク。
この名前でピンときたSNAKEPIPE。
フィスクとはジャック・フィスクだ、と。
敬愛する映画監督デヴィッド・リンチの処女作である「イレイザーヘッド」の中に登場する「惑星の男」を演じたのがジャック・フィスク。
そしてそのジャック・フィスクと結婚したのがブライアン・デ・パルマ監督の「 キャリー」(原題:Carrie 1976年)で主演したシシー・スペイセク
その娘がシュイラー・フィスク、というわけだ。(説明長い)
確かにシシー・スペイセクに似てる。
そばかすが特に似てる!(笑)
高校生カップルを演じている2人が、2人揃って2世タレントだったとはね!

ショーンの両親がこちら!
最初はシャロン・ストーンかと間違ってしまった母親はキャサリン・オハラ、 父親はジョン・リスゴー
つい先日、これもまたブライアン・デ・パルマ監督作品「レイジング・ケイン」を観たばかりで、ジョン・リスゴーの怪演に目を見張ったばかり。
あの異常者がお父さんだなんて!(混同しまくり)
両親も良い味出してたね。

ほんのチョイ役で出演していたのが、ベン・スティラー
ジャック・ブラックとの絡みだったのに、全然コメディ要素がなかったから「似てるけど、違うかな?」と思いながら観てしまった。
消防士の役がとてもよく似合っていたね!

高校生が主人公のため「人間の成長過程」がテーマなんだよね。
そこだけを取ると真面目そうな映画だと勘違いしそうだけど、ジャック・ブラックのおかげ(?)でコメディ映画になっているところがポイントかな。

興味を持った監督や俳優の作品はなるべく鑑賞したいROCKHURRAH RECORDSなので、実はジャック・ブラック関連の映画は他にも鑑賞済なんだよね。
また特集してジャック・ブラックの魅力をお伝えしよう!(笑)

映画の殿 第22号 ハッピーボイス・キラー

【本物の首はどれだ?】

SNAKEPIPE WROTE:

通勤時間に読書をするのが習慣である。
活字中毒とまではいかないけれど、「ここ」ではない別の世界に身を置くことで不快な時間をやり過ごしたいから、かもしれない。
最近は「どうしても」の場合を除いて、ほとんどはスマートフォンに入れた電子書籍を読んでいる。
どうしてもの場合というのは、書籍でしか手に入らない本ってことね。
近年出版された本は電子書籍化されているようだけど、過去の作品に関しては本の形でしか読めないからね。
もちろん過去の作品でも電子書籍化されているものもある。
例えば敬愛する江戸川乱歩の作品とか、ね。(笑)

代表作はほとんど読んでいるはずだけれど、短編小説の中には忘れている作品もあり、再読して益々ファンになっているSNAKEPIPE。
先日読んだ「白昼夢」(1925年)は、乱歩の初期の作品である。
浮気癖のある妻を殺し屍蝋にして、「これでもう妻は私だけのものだ」と満足気な様子で語る男。
そしてその屍蝋にした妻をショーウィンドウに飾っている、と告白するのである。
その後の乱歩の作品に度々登場する、死体をマネキンのように展示する手法の始まりが「白昼夢」だったのかもしれないね?
1925年にこんな作品を完成させているとは!
さすが、乱歩だよね!(笑)

「白昼夢」を連想した映画が「ハッピーボイス・キラー」(原題:The Voices 2014年)である。
イラン出身のマルジャン・サトラピという女流監督の作品である。
フランスで活動しているバンド・デシネ(漫画)の作家でもあり、自身の作品をアニメ化した作品も監督しているようだね。

ジェリー・ヒックファンはバスタブ工場に勤める、風変わりな青年。
しゃべるペットの犬と猫に唆されながら、裁判所が任命した精神科医ウォーレン博士の助けを借り、真っ当な道を歩もうとしている。
彼は職場で気になっている女性フィオナに接近する。
だがその関係は、彼女がデートをすっぽかしたことをきっかけに、突如殺人事件へと発展してしまう。

オフィシャルサイトからあらすじを転用させてもらったよ。
シリアルキラーになってしまう、主人公の頭の中を映像化しているところがポイントなんだよね。
映画のキャッチコピーが「キュートでポップで首チョンパ!」なのは、その映像部分を表現しているからだろうね。

主人公・ジェリーを演じたのはライアン・レイノルズ。
精神科医の治療を受けているシーンで、ジェリーには何か問題があることが分かる。
映画の途中でトラウマになる幼少期の出来事が出てくるまでは、何が原因で「声」が聞こえてしまうのか不明なんだよね。
そう、ジェリーには他人には聞こえない「声」が聞こえてしまうのである。

聞こえるだけではなく、会話も成立しているんだよね。
一緒に暮らしている猫のMr.ウィスカーズと犬のボスコが人間の言葉を喋るのである。
邪悪な道へ導こうとするMr.ウィスカーズに対して、人道的な道を説くボスコ。
その2人(2匹?)と会話しながら、次々と殺人に手を染めてしまうジェリー。
精神科医から処方された薬を服用した途端、Mr.ウィスカーズとボスコと会話ができなくなってしまう。
つまり、薬が効くと妄想の世界から追い出されてしまうってことなんだよね。
精神科医からは絶対服用を言いつけられているけれど、妄想世界のほうが楽しい!と服用を拒否するジェリー。
ボスコとMr.ウィスカーズの声が聞こえなくなると、SNAKEPIPEも寂しくなってしまった。
いつも「動物と会話できたらどんなに楽しいだろう」と考えているので、その夢が映画の中で叶っているからね。(笑)
SNAKEPIPEも妄想の世界に浸りたいタイプなのかも?

あらすじに出てきた気になる同僚・フィオナを演じたのがジェマ・アータートン。
イギリスから来た美人という設定で、社内では憧れの的といったところ。
ジェリーがアタックして来るのを、かなりバカにした様子で無視している。
はずみで殺人事件に発展したけれど、恐らくジェリーの内心では怒り心頭だったはずだよ。
ジェリーの味方をするわけじゃないけど、フィオナの態度にも問題あるな、と感じたからね。

現実のフィオナとはうまくいかなかったけれど、フィオナの同僚・リサとはかなり良い感じになっていたジェリー。
リサを演じていたのはアナ・ケンドリック。
そのままジェリーにも幸福が訪れてくれたら、と願っていたけれど…。
なかなかうまくはいかないものだね。
親切心が徒となってしまった。
リサもフィオナと同じ運命に。ゴーン。(合掌)

そして「キュートでポップで首チョンパ!」な場面がこれ!
自分が殺して冷蔵庫に保管(?)している首が生き生きと、笑いながら喋るところなんだよね。
前述したように、映画の大半はジェリーが見えた状態、妄想の世界を映像化しているからね。
猟奇殺人なのにポップ、というアンビバレントが発生する仕組みなのよね。
はっ、またアンビバレントなんて使ってるよ。(笑)

正気を失った人の頭の中を覗く映画で思い出すのは、ターセム・シン監督の「ザ・セル」(原題:The Cell 2000年)かな。
あの映画も映像美が素晴らしかったなあ!
また鑑賞してみよう。(笑)
「ハッピーボイス・キラー」は主人公の脳内映像の映像化に加えて、どうしてシリアルキラーになってしまったのか、というプロセスも描いているのが興味深い。
映画の殿 第2号」で特集したシンディ・シャーマン監督作品「オフィスキラー」も、死体を集めて自分だけの世界を作る話だったね。
主題は似ているけれど、「ハッピーボイス・キラー 」の残忍なのに明るい映像、というのは新しい感じがする。

先日鑑賞した「シリアルキラー展」以来、なるべくシリアルキラー関連の映画を観るようにしているROCKHURRAH RECORDS。(←変?)
そんな映画の中でも、邪悪というよりは明るい「ハッピーボイス・キラー」は異色作だろうね。
机に乗せた首に食べさせているのはシリアル。
シリアルキラーにかけてるんだね!
喋る首に向かって「殺してごめんね!」だし。(笑)

マルジャン・サトラピ監督は、もしかしたらSNAKEPIPEと同じようにデヴィッド・リンチ監督やジョン・ウォーターズ監督のファンなのかな?
リンチの作品にも登場するようなダンスシーン(例えばインランド・エンパイア)が、「ハッピーボイス・キラー」にもあるんだよね。
被害者と加害者が楽しそうに歌い踊るなんて驚きだし、しかも唐突に始まるのには腰を抜かすほど。(大袈裟)

リンチやジョン・ウォーターズが愛する時代、50’s(フィフティーズ)要素満載なのもこの映画の特徴なので、余計に2人の監督の影響を感じてしまうね。
ジェリーが住んでいるのはボーリング場の2階。
50年代にはボーリングが盛んだったらしいからね。
一緒に観ていたROCKHURRAHが「羨ましい」と言う。
ガランとした広い場所で、隣近所に誰もいない環境は確かに憧れちゃうね!(笑)
車じゃないと行かれないような場所、というのも犯行に適していたんだろうね。
ジェリーが会社で着ていた「つなぎ」のピンク色も、いかにも50’sのカラーだし。
劇中で流れる音楽も50年代っぽかったしね。
マルジャン・サトラピ監督はイラン出身でフランスで活動しているのに、アメリカの50’sっぽい、というのが不思議。(笑)

愛する人を殺して、ずっと自分だけの物にしておくという点が乱歩の「白昼夢」と「ハッピーボイス・キラー」の共通項かな。
そしてどちらの殺人者も、事件後とても幸せそうだったのが印象的なんだよね。
きっと「ハッピーボイス・キラー」の映像のように、妄想世界に生きているからだろうね。
もし乱歩が「ハッピーボイス・キラー」を鑑賞したら、どんな感想を持つだろう、と想像すると楽しくなる。
もしや、これも妄想世界か?(笑)

映画の殿 第21号 さよなら、人類

【面白グッズを営業中のサムとヨナタン。陰気だなー!】

SNAKEPIPE WROTE:

週に何本かの映画を観る習慣は継続している。
例えば「スター・ウォーズ」のような大ヒット作を鑑賞することもあるけれど、どちらかと言えばアメリカ以外の国の作品に興味を持つことが多い。
最近のレンタルDVDは本編が始まる前に「これでもか」というくらい、長い時間をかけて同ジャンルの新作案内を「強制的に」付き合わせる傾向にある。
中には早送りすらさせてくれない仕様になっているものまであって、苦痛に感じることもあるほど。
宣伝するのは自由だけど、強制させられるのはイヤだよね?
たまには新作の中に「面白そう」と思う作品もあり、次に借りる候補にすることもある。
今回紹介する「さよなら、人類」(原題:En duva satt på en gren och funderade på tillvaron 2014年)も、新作案内で知った作品である。

「さよなら人類」と書いて検索すると、初めにヒットするのはイカ天バンドである「たま」の「さよなら人類」なんだよね。(笑)

わざわざ載せなくて良い?(笑)
ちょっと懐かしかったものだから!
「さよなら、人類 映画」って書かないとちゃんと検索できないので、皆様気を付けましょうね!

「さよなら、人類」はスウェーデン人の監督、ロイ・アンダーソンの作品である。
えっ?ローリー・アンダーソン?

これもわざわざ載せないでも。(笑)
ちょっと懐かしかったものだからね!(2回目)
80年代を経験した人は間違い易いから、気を付けようね!

脱線から本筋に話を戻そうか。(笑)
「さよなら、人類」についてだったね。

公式ページから簡単なあらすじを引用させてもらおう。

面白グッズを売り歩くセールスマンコンビ、サムとヨナタンが物語の中心となり、さまざまな人生を目撃する。
喜びと悲しみ、希望と絶望、ユーモアと恐怖を、哲学的視点をスパイスにしてブラックな笑いに包み込む傑作!

前述したように、新作案内を観て「さよなら、人類」に興味を持つことになったSNAKEPIPE。
どうして気になったんだろう?
少し淡い、地味なトーンが北欧の風景を感じさせる映像。
寂しい気分になるブルーグレーのフィルターがかかったような色。
セリフの少なさは、どんなストーリーが展開されるのかを不明にする。
中にはあるんだよね、ほんの何分かの予告を観ただけで「あーなってこうなって最後はこんな感じで終わりだよね」と予想できてしまう映画!
もしかしたらその予想は外れるのかもしれないけど、観たいと思う気分は著しく削がれてしまうよね。
SNAKEPIPEは特に権威に弱いわけではないけれど、「ヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞」と言われると、更に興味が増してしまう。(笑)
ブラック・ユーモアというのも惹かれるしね!

いよいよ鑑賞!
「3つの死」と題されたショートフィルムが始まる。
この3つの物語がかなりブラック!
死を扱っているにも関わらず、「フッ」と片側の頬を持ち上げるようなニヒルな笑いを誘うんだよね!
別にニヒルじゃなくてもいいけど!(笑)
「3つの死」が終わると、あらすじにあるサムとヨナタンが中心になった物語が展開する。
これも場面場面を組み合わせたような、いうなれば「4コマ漫画」が連続している雰囲気なんだよね。

特徴的なのは、定点に置かれたカメラ。
まるで自分がこちらから見ているかのように錯覚してしまう。
通常映画の場合は、例えば驚いた主人公の顔をアップにするなど、カメラの焦点が変化するんだよね。
「さよなら、人類」にはそれが一切ないの。
アンダーソン監督は構図にこだわり、絵作りを第一に考えているんだろうなと思ったSNAKEPIPE。
そうしてみると、絵としての完成度の高さが解るんだよね。

以前「SNAKEPIPE MUSEUM #04 Cindy Sherman」の中で、ジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」について書いたことがある。

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」は、全てのシーンが一枚写真として完成している、言うなれば連続スチール写真映画だったんだ!

と結論付けたSNAKEPIPE。
絵作りを第一に考えている映画ということになるね。
映画の殿 第16号」で特集したのはタルコフスキー監督の「ストーカー」。
この映画についても似た感想を持ったSNAKEPIPE。

「ストーカー」も「ストレンジャー・ザン・パラダイス」と同じで、写真集を観る感覚の映画だと感じたSNAKEPIPE。
しかもそれは廃墟写真集なんだよね!(笑)

引用ばかりで申し訳ない。
映画の中にも、まるで写真集みたいに撮られている作品があるということを言いたくて書いてみたよ!

今回鑑賞した「さよなら、人類」は、写真集というよりは画集を観ているように感じたSNAKEPIPE。
スナップショットを描いたような画家、例えばエドワード・ホッパーの作品などに近い感覚かな。

そこで!
今回の「映画の殿」では、「さよなら、人類」をあえて油絵風に加工して載せてみることにしたよ。
映画とは違う雰囲気で楽しめるんじゃないかな?
書いている文章は映画とは全く関係なくて、絵として観た時のSNAKEPIPEの勝手な感想なのでよろしくね!(笑)

先に書いた定点カメラがよく分かる場面だよね。
窓から外を眺める男。
恐らくキッチンだと思われる場所で、夕食の支度をしている背中を向けている女。
男の表情はよく分からないけれど、これから楽しい食事が始まるというよりは、深刻な話をしなければならないために憂鬱だ、と考えこんでいるように見えてしまう。

日曜日に、いつもよりゆっくり眠っていた夫婦が、電話によって起こされた情景と想像する。
電話の主はかつての旧友?
それとも母親から?
もう少し惰眠を貪っていたかった夫は、すっかり目覚めて話に夢中になっている妻とその相手から完全に除外され、孤独を感じているように見える。

大きなデスク、革張りのソファ、鷲?がダイナミックに描かれた絵画のあるオフィスにいるのは、恐らく政治家か会社の重役クラスの重鎮に間違いないだろう。
そんな金持ちそうな男が、渋面で電話を受けているということは、きっと何か重大な問題が起きているに違いない。
会社の金を横領していた事実がバレた?
パパラッチにスキャンダルを握られた?
何にせよ、この男に一大事が起こっているように見える。

賑やかだった店内は閑散としている。
仕事帰りに軽く飲み、同僚と上司の悪口を言い合い、ウサを晴らす。
これで明日はまたリセットされた1日の始まり。
ところが中にはリセットできない人もいる。
もしかしたら愚痴を言い合う相手もいないのかもしれない。
帰っても迎えてくれる家族がいないのかもしれない。
閉店まで1人で店にいる男には強い寂寥感が漂っているように見える。

何事かを考えながら窓から身を出し、通りを眺める男。
後ろにいる女はスリップ姿なので、直前までベッドにいたようだ。
今日で終わりにしよう、と言うつもりなのになかなか言い出せない。
女も2人の関係が終焉に近付いていることは薄々気付いていた。
沢田研二の「時の過ぎゆくままに」を彷彿とさせる情景に見えてしまう。(古い!)

エドワード・ホッパーの作品に1番近いのはこれかな。
夜のレストラン。
映画の中ではもっと暗い時間だったのに、加工していたら明るくなってしまった。(笑)
レストランの中にいる人を外から見ると、自分だけが孤独に感じてしまう。
この経験をしたことがある人、多いんじゃないだろうか。
写真家アッジェが撮った写真や、ユトリロの絵画のように見える。

SNAKEPIPEが想像した勝手な物語は映画とは関係ないので注意!(笑)
絵だけを見て、色んなお話作ってみるのも楽しいかもしれないね。

ロイ・アンダーソン監督の「さよなら、人類」は「散歩する惑星」(原題:Sånger från andra våningen 2000年)、「愛おしき隣人」(原題:Du levande 2007年)と合わせて3部作になっているらしい。
SNAKEPIPEが鑑賞したアンダーソン監督の作品は、「さよなら、人類」が初めてだったけれど、他の2作品も同じように「絵作り」されているのだろうか。
また機会があったら確認してみたいと思う。

映画の殿 第20号 サウンド・オブ・ノイズ

【目的不明(?)、謎の音楽テロ集団。名前はまだない】

ROCKHURRAH WROTE:

前にちょっとだけ予告した通り、今回からブログのテーマをリニューアルしてみた・・・と書いてそのつもりでいたんだが、テーマ入れ替えの直後に大問題が発生(今日に日付が変わった頃の出来事)。
テスト環境でうまくいってた部分が本番の方では全く生かされてなくて白紙に近い状態になってしまっている。原因は現在究明中だけど、まさかこんなところで致命的なミスをするとは。トホホ。
受験に失敗した人みたいだが仕方ないね。
だからリニューアルは先送りにする事になってしまったよ。
読んでる人にとっては何も変わってないけどね。

さて、今回「映画の殿」で取り上げるのは2010年のスウェーデン/フランス合作映画「サウンド・オブ・ノイズ」だ。

こちらが思ったよりは色々なところで話題になったようで、知名度も高いみたい。
ストーリーはごく単純で、音楽を使ったテロ行為とそれを追う刑事の話。ん?これじゃ簡単すぎるか?もう少しは書かないとブログ記事として成立しないから何か書いてみよう。

冒頭、ドラムセットを積んだバンが女の運転で走ってゆく。ドラムの男が激しく叩き始めると車も連動したかのようにスピードアップするという手法だ。スピード違反で白バイが追っかけてくると後ろからドラムを撒き散らして追手を振り切る。
最初は車の中でドラマーのオーディションでもやってるのかと思ったが、これでこの二人組が過激な行為をやっているコンビという事がわかってくる。
この過激派組織というにはチャチ過ぎる二人組、組織名などはよくわからなかったが何か大きな事をやってやろうと目論んでるらしい。

人を顔立ちだけで判断するのはアレだが、首謀者の女が割と年配のタレ目であまり音楽関係に見えないし、ましてやテロ行為を企むような人間にも見えないけど一応、この映画のヒロイン。いいのかこれで?
パッと見た感じがスペインの大女優、カルメン・マウラの若い頃に似てると一瞬だけ思ったが・・・画像探しても似てる写真がひとつも見つからなかったので感想は却下しよう。うん、別に似てないね。

相棒のメガネ男もまた大人しそうな中年男。この顔を見てROCKHURRAH家の2人はものすごくピンときた。
過去に何度も紹介したけど、スペインが誇るコメディアン、サンティアゴ・セグーラの映画に出てない時の顔立ち(写真右)にソックリなのだ。スペイン本国ではシリーズ5まで製作された大ヒット映画「トレンテ」シリーズで知られる怪優なんだが、日本ではまだまだ知名度低いね。日本では最初のひとつがDVD化されてるだけ。話題が出たから便乗して言ってるだけなんだが、是非ともこの機会に全部DVD化して欲しいよ。
写真の左側が「サウンド・オブ・ノイズ」のテロリストの方。ただ顔立ちが似てるだけでそこまで強烈な個性がなかったのが残念。

この2人が4つの楽章から成る作品=音楽テロ行為を発案するんだが、それを実行するためにさらに4人のドラマーが必要になり、2人は人材を探してゆく。
凄腕のドラマーで既存のグループでは扱いきれないほど、型にはまってないアグレッシブさを持つ人物。そして彼らのテロ行為に賛同してくれるようなアナーキストという基準のようだが、これは割とすんなり見つかってあっという間に6人の集団が結成される。そんなのが近場に数人いる?あっけなさ過ぎじゃないか?
怒涛のティンパニ奏者とかすごい勢いでシンセ・ドラムを叩く男とか、なかなか面白そうなメンツなのに、この辺のメンバーの個性がイマイチ活かしきれてない感じがするのも残念。

そして集まった6人のテロリストが企てるのは街の中で繰り広げる音楽的テロ行為というわけ。身近にある何かを使って楽器にし、それで音楽を奏でてゆくんだが、これは即興でもなくてある種の音楽を「その楽器の代わりになるもの」で表現しただけのものだ。どちらかというと綿密な計算の結果にしか見えない。
タイトルにあるようなノイズではなく、やってる音楽もそこまで変わったジャンルとは言えないが、前衛的な実験映画ではないわけだからそれは仕方ないんだろう。

街中で単に耳障りな音を出しただけでテロ行為になるのかどうか?、そして何の目的で集団はそういう行為をしているのかは不明だが、器物破損だの住居侵入だの罪の材料になるような事をしているのは確か。

ここで捜査を始める刑事というのが実はこの映画の主人公なんだが、著名な音楽家の一家に生まれたくせに楽器が出来なくて音痴、音楽的な才能がないという設定。
名前だけ立派にアマデウスなどと呼ばれているが、音楽も騒音も嫌いで、ある種の音が聴こえなくなったり耳から出血したり、肉体的にも精神的にもどうなのか?と思える人物だ。しかも音楽的なエリートの家族とも確執があるようで・・・。
映画は割とコメディっぽく進行してゆくから狂言回しのような存在は必要なのかも知れないが、この刑事の聴こえなくなる基準もわかり辛くて「警察VSテロ集団」という図式はあってもいいけど、この悩みを持った人物が主役じゃなくてもいいんじゃないか?と思ってしまったよ。単にROCKHURRAHの理解力が足りなかっただけかも知れないが。

最初の方の病院でのテロ行為はなかなかバカっぽくて笑えたから期待して観たんだけど、刑事のサイドストーリーとかロマンスとか、話を膨らませたかった気持ちが強すぎて、音楽テロというナンセンスな行為自体の純粋度が減ってる気がしたよ。傍から見たら意味もないような行為でもアートの要因になるわけだからね。

この映画は元々短編映画だったものを長尺にしたものだと言うが、その短編の方が評価が高いのもうなずける。無駄な部分がないからね。

身近にあるものを使って楽器にした人は過去から現在まで幾多もいたわけで、この映画に使われたような音楽も目新しいものではない。
有名なところではストンプのように誰でも知ってるような集団もある。
が、ROCKHURRAHは特に知らないので何も語らず。例に出すまでもなかった。

個人的な好みで言えばビー・バップ・デラックスの「Surreal Estate」を思い出す。これはその辺にあるグラスやナベやおもちゃの楽器とかを使って演奏されていた。こういう稚気が感じられるような音楽が子供の頃から好きだったな。
別にこれが代表的なわけではなくて、今、たまたま思い出しただけに過ぎない。

80年代に最も有名だったのはドイツの前衛音楽集団、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンがやってたパフォーマンスだろう。
ROCKHURRAHがしつこいくらいに何度も書いているドイツのニュー・ウェイブ、通称ノイエ・ドイッチェ・ヴェレの中でも最も有名なバンドのひとつだ。
1980年代初頭にデビューした彼らは既成の楽器プラス、建築現場にあるようなドリルやチェーンソー、鉄板やコンクリートなどを使った即興的なパフォーマンスにより話題になった。 いや、もしかしたらすごい練習した結果がこういう演奏なのかも知れないが、偶然性に頼る部分が多いと想像するよ。

ノイバウテンについてはウチのブログで大昔に簡単だけど書いてたな
彼らも工事現場みたいなところで色々打ち鳴らすというようなパフォーマンスもやってるし、ライブ会場で床に穴を開けるという器物損壊もやっていた。
例えばパンクの衝動の中にもこういったカオスな要素はあるだろうけど、その部分を専門的に突き詰めたようなバンドが80年代には続々登場していて、ノイバウテンもそういった範疇にあった。
この映画のテロリストが目指したような事を既に80年代初期に実践していた先輩と言えるかもね。と言うよりは見た目も攻撃性もこちらの方がよほど筋金入りだな。
何かやたら「この」とか「その」とか「そういった」とかが多い文章になってしまったな。

上の映像は「爆裂都市」や「狂い咲きサンダーロード」などで有名な石井聰互監督が撮った廃墟パフォーマンスの模様で「1/2 Mensch(半分人間)」などという素敵なタイトルが付いていた。あの時代のニュー・ウェイブを体験した人にとっては観てて当たり前、の映像だったよね。ブリクサや他のメンバーもすごいが肉体労働者系ノイズ・パフォーマーのF.M.アインハルトが大活躍。ものすごい躍動感(?)だね。

ノイバウテンに限らず、インダストリアル・ミュージックやノイズ/ジャンク系の世界では少なからずメタル・パーカッションや既存の楽器以外で演奏をするミュージシャンが多い。これが特徴や個性や魅力となってはいるんだが、この手の音楽に対して免疫のない人にとってはどれも大差ない騒音でしかないのも確かだ。

ROCKHURRAHが育った北九州もドイツと似た工業地帯で(単なる想像)、街中や本当に稼働中の工場じゃ無理だが、ちょっと田舎の埋立地に行けば無人地帯もたくさん。廃鉄骨や廃鉄パイプなどは簡単に入手出来たという環境だった。
家に持って帰ったりはしなかったが、一人でデイ・クルップスごっことかしていたのを思い出す。「俺の体の筋肉はどれをとっても機械だぜ」などという崇高バカ理念で機械と人類の一体化を目指したのもノイバウテンと同時代だったな。

(註:探したビデオがなくなってたので別のビデオで代用。下の文章と違う映像ですがご了承下さい)

現場にあるものを使って音楽にした例をもうひとつ。これは別にリアルタイムでやってるわけじゃなかろうが、映像と音楽のバランスが良かったので挙げてみた。
フェアライトなどのサンプラーが出始めの頃はマシン性能の限界がネックとなっていたが、近年だったらやりたい事は大体出来るというような時代になってるんだろうかね。作ったのが誰なのかわからんが、機械工具以外に作業服のジッパー開け閉めとかまで音楽にしてるのがうまい。

結局、ROCKHURRAHのいつものパターンだが、映画本編については大して書かなかったな。ストーリーに余計なものが入ってるとかは個人的な感想なので観る前の人は気にしないでね。やってる音楽テロ行為自体はよく出来てるし、こういう変わったジャンルの映画はもっと色々出て欲しいよ。

ではまたHej då! (スウェーデン語で「さようなら」)