好き好きアーツ!#38Alex de la Iglesia part3

【ROCKHURRAH RECOREDSが一番最初に触れたイグレシア監督作品がこれ! 】

SNAKEPIPE WROTE:

今年最初の記事なのに、通常と変わらないブログを続けるところがROCKHURRAH RECOREDS流!
時事ネタを書くのは前回のようなPOSTCARDを載せる時くらいだもんね。
ということでアレックス・デ・ラ・イグレシア監督の第3弾をまとめることにしよう。

最初はこちらの作品から。

日本では未公開の作品「オックスフォード連続殺人事件(原題:The Oxford Murders 2008年)」である。
まずはあらすじを書いてみよう。

世界的数学者のセルダム教授に憧れ、イギリスのオックスフォード大学に留学したアメリカ人青年マーティン。
セルダムの古い友人宅を下宿先にしたマーティンは、その家の夫人のもとを訪ねてきたセルダムと出会う。
一緒に夫人の部屋へ向かった2人は、そこで夫人の他殺体を発見してしまう。
セルダムのもとには連続殺人事件を思わせる謎めいたメモが届いていた…。

あらすじにあるアメリカ人マーティンを演じたのが「ロード・オブ・ザ・リング」でお馴染みのイライジャ・ウッド
いつも怯えたような困り顔をしているせいか、実年齢よりも若く見えるのが特徴か。
じゃあSNAKEPIPEも怯えた困り顔をしていれば、若く見えるかも?
えっ、違う?(笑)
実際には「オックスフォード連続殺人事件」の時に26歳くらいだったと思われるので、大学生役に無理はなかったと思う。
ただし、濃厚ラブ・シーンの時にはイライジャ・ウッドがまるっきり子供に見えてしまったね。
お相手はアルモドバル監督作品「トーク・トゥ・ハー」などに出演していたスペイン人女優レオノール・ワトリング
レオノール・ワトリングのほうが体格が良いせいもあるかもしれないけどね?

「オックスフォード連続殺人事件」での最大の見せ場と思われるのがワトリングの「裸にエプロン」なんだよね!
殿方の願望が世界共通というのがよく分かる映像。(笑)
映画の内容はともかく、このシーンのためだけに映画をレンタルしたり、購入する人がいるかもしれない。
レオノール・ワトリング、頑張りました!(笑)

世界的な数学者セルダムを演じたのが、敬愛するデヴィッド・リンチ監督作品「エレファント・マン」で主役だったジョン・ハート
と書いてはみたものの、「エレファント・マン」の時は特殊メイクだったから俳優の素顔は分からないよね。(笑)
今回は数学者というとても知的な役どころなんだけど、本当に教授に見えてしまうくらいぴったりと似合っていた。
SNAKEPIPEだけかもしれないけれど、「ロード・オブ・ザ・リング」のイアン・マッケラン(写真左)や鳥越俊太郎(写真右)、もしくは故・筑紫哲也と区別がつかなくなっちゃうんだよね。(笑)
初老の男性でやや長髪、という類似点が余計に似て蝶なんだろうけど!

ROCKHURRAHと「ヒカシューの巻上公一(写真右)に似てるよね!」と意見が一致したのがマーティンより先にオックスフォード大学に所属していたユーリ役のバーン・ゴーマン(写真左)。
こうして並べてみるとそんなに似てないし、むしろ顔としては漫才コンビ爆笑問題の太田光のほうが近いかも?(笑)
動きやセリフ回しの変態っぽさが巻上公一に近かったのかもしれないな。
あ、SNAKEPIPEはヒカシューの大ファンだからね!(笑)

もう1人特出すべき人物は「シド・アンド・ナンシー」や「ストレート・トゥ・ヘル」で有名な映画監督アレックス・コックスが俳優として出演していたことかな。
数学に没頭するあまり、廃人になってしまう役を好演していたね!
最近は映画を撮っていないのかな?


「オックスフォード連続殺人事件」は事件の謎解きに難解な数学的・論理学的要素を盛り込んだギジェルモ・マルティネスの原作が元になっているけれど、映画は全く難解ではない。
そのため何回も観なくて大丈夫!(ぷぷぷ!)
数学を知っていればもっと楽しめるのに、ということも全然ないと思われる。
もしかしたら原作はある程度の知識がないと難しいのかもしれないね?
「オックスフォード連続殺人事件」は今まで鑑賞してきたイグレシア監督の作品とは一味違う感じかな。
あまりハチャメチャじゃないし、タイトルバックも「らしくない」し。
所々で非常にスタイリッシュだな、と思うシーンはあるけどね!

続いてはイグレシア監督の一番初めに鑑賞した作品である「気狂いピエロの決闘(原題:Balada triste de trompeta 2010年)」ね!
ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)と金オゼッラ賞(脚本賞)を受賞し、ゴヤ賞では特殊効果賞やメイクアップ賞やヘアスタイル賞を受賞しているイグレシア監督の記念すべき作品なのである。

上に貼った「気狂いピエロの決闘」のリンクがWikipediaなんだけど、そこに書いてある「あらすじ」が素晴らしい!

とあるサーカス団のピエロと道化師が、美女を巡って血みどろの争いを繰り広げる

いくらなんでも短過ぎかな?(笑)
非常に簡潔でSNAKEPIPEは気に入ったよ!
一言付け加えるとすると、道化師とピエロの違いについてね。
道化師というのがクラウンを意味し、ピエロとは涙を描いているクラウンのことをいうらしい。
日本ではあまり区別しないで、全てをピエロと呼んでいるよね。
「気狂いピエロの決闘」ではクラウンとピエロの戦いが描かれているので、道化師とピエロという書き方に統一するので混乱されないように!

短いあらすじの中に出てきたピエロを演じたのが、我らがカルロス・アレセス!
アイム・ソー・エキサイテッド!鑑賞」や「映画の殿 第6号」他、数多くの記事で散々取り上げているから「またか!」と思われる方も多いかもね?(笑)
いじめられっ子が狂気を孕んでいく姿が本当にぴったり!
一番初めはそんなカルロス・アレセスの魅力に気付かず、更に他のキャストにも目を留めず鑑賞してしまったので、随分経ってから鑑賞し直したんだよね。
カルロス・アレセスの全裸シーンは本当にすごい!(笑)

こちらも何度も記事にしている「アイム・ソー・エキサイテッド!」や「カニバル」などで有名なアントニオ・デ・ラ・トーレ!
あらすじに書いてあった道化師役を演じているよ。
アントニオ・デ・ラ・トーレがカメレオン俳優であることも、今まで書いてきているんだけど、この時のアントニオ・デ・ラ・トーレは凶暴な悪い野郎を見事に演じていたよ。
あとになって調べて、初めてアントニオ・デ・ラ・トーレと判明し驚いた記憶がある。
スペインのデ・ニーロだよ、ほんと!(笑)

このピエロと道化師が血みどろの戦いを繰り広げる原因となる美女というのが曲芸師で道化師の恋人である。
演じたのはカロリーナ・バング、イグレシア監督作品の常連にして、ついに監督のワイフになってしまった女優ね!
この時のカロリーナ・バングは本当に宙吊りの曲芸を見せてるんだけど、練習したのかなあ。
とても上手だったよ。
彼女がちょっかいを出したせいで、ピエロは本気になり争いへと発展したことを考えると、一番悪いのはカロリーナ・バングかな?(笑)


前述したように、最初に観た時には出演者に気を配っていなかったので、スペインはもちろん世界各国での人気映画「トレンテ」シリーズのサンティアゴ・セグーラが重要な役で出ているところを失念してたんだよね。
ピエロのお父さんという役で、やっぱり職業はピエロ。
祖父もピエロだったというから代々受け継いでたんだね。
お父さんの時代がスペイン内戦真っ只中の1937年ということになっていて、ピエロの服装のまま戦場へと駆り出されるシーンがすごい。


かつて敬愛する映画監督デヴィッド・リンチが「Happy Violence」と提唱した、笑いと暴力の融合とでもいうのだろうか。
ROCKHURRAHが好きだったホラー映画の中にも笑いの要素があったというから、その系譜なのかもしれないけれど、恐怖と笑いがごたまぜになっている不思議なシーンがイグレシア監督のスタイルなのかな、と思う。
そしてそのシーンがとても好きだ!(笑)


人を笑わせるはずのピエロや道化師が恐怖の存在に変身する、というのも同じ原理だよね。
かわいい人形が光の当て方で怖く見えたりするような。
知っていた顔とは違う意味を持つのが怖いんだろうね。
ホラーと笑いの共存については、一度深く掘り下げて考察したいテーマかな!(笑)

「気狂いピエロの決闘」のタイトルバックも素敵なんだよね。
先に書いた1937年からピエロの時代になるまでの世界の歴史を写真で綴っていく、言ってみればフォトアルバム形式なの。
使われている写真が秀逸なので、とてもお洒落に見えるんだよね。
1枚1枚を見せる秒数はかなり短くて、少しでも気を抜くと次のシーンに移ってしまう。
右は歴史的に(スペインで?)有名な人物なのかSNAKEPIPEは知らないんだけど、その次の写真として「フラッシュ・ゴードン」のミン皇帝が映り込んでいるのが面白い。
一瞬だから気付いていなかったけれど、今回ゆっくり再生していて分かった左の画像。
下着姿のグラマーに隠れていたのは、体を槍で突かれている人物。
これもまた2つの要素の融合なんだね。
イグレシア監督も気に入ってるシーンだろうね。

今回の2作品で現在鑑賞できるイグレシア監督の映画は全て観ていることになるのかな。
本当は「どつかれてアンダルシア (仮)(原題:Muertos de risa 1999年)」のような初期の作品が観たいんだけど、残念ながらDVD化されてないんだよね。
初期の作品のDVD化を是非お願いしたいものだ!

好き好きアーツ!#37 鳥飼否宇 part13–異界–

【静謐で荘厳な森をROCKHURRAHが創作したよ。少し恐ろしい感じがするね。】

SNAKEPIPE WROTE:

今年最後のブログは鳥飼否宇先生の旧作を再読するシリーズで締めさせて頂くことにしよう。
過去数回に渡る鳥飼先生に関するシリーズ「トリカイズム宣言」では、「観察者シリーズ」と呼ばれる作品群について感想をまとめていて、前回書いた記事の最後には「次は樹霊」と予告していたSNAKEPIPE。
ところが今回感想をまとめるのは「異界」。
おっとこれは意外!(ぷぷぷ)
「異界」にしてもいーかい?(スミマセン)
「観察者シリーズ」を連続しなくても良いのでは?というROCKHURRAHの助言に従ってみたのである。

「異界」は2007年に発表された作品である。
主人公は南方熊楠という江戸末期生まれの博物学者、生物学者で民俗学者。
「歩く百科事典」と称される程のものすごい博識だったらしい。
鳥飼先生の小説で実在の人物が登場するのは、「異界」だけだよね。
左の画像が南方熊楠なんだけど、かなり現代的に見えるよね?
誰か似ている人がいそうだけど、思いつかないなあ。(笑)
ここで少し南方熊楠について調べてみようか。

1867年 大政奉還の年に南方熊楠は生まれる。
日本史で習った懐かしい言葉。(笑)
幼少の頃から驚異的な記憶力を持ち、神童と呼ばれたらしい。
1887年 渡米しパシフィック・ビジネス・カレッジに入学する。
南方熊楠は18の原語を操ったらしい。
渡米前から英語は話せたんだろうか?
1891年 キューバ、ハイチ、ベネズエラ、ジャマイカなど3ヶ月ほど中南米に滞在する。
サーカス団と一緒だったという。
1892年 ニューヨークからロンドンに渡る。
科学雑誌「ネイチャー」に寄稿したり、大英博物館東洋調査部員として東洋美術を担当していたという。
更に亡命中の「中国革命の父」孫文とも親交があったというから驚いちゃうよね!
1900年 ロンドンより帰国。
1941年 満74歳没。

今から100年程前の人物とは思えないよね。
2015年の現在だってアメリカの大学行ってイギリスの大英博物館からお給料貰うなんて人はなかなかいないもんね!
しかもサーカス団の手伝いでキューバなどの南米にまで足を伸ばすとは。
研究熱心だからこそ、とも言えるけど命知らずの冒険家だったんだね。
もちろん度胸だけではない、並外れた博識と語学力、そして情熱があったからこそ海外でも活躍できたのは言うまでもないことだね。
孫文やディケンズ、柳田国男との交流や、昭和天皇にキャラメルの箱にいれた粘菌標本を渡した、など仰天エピソードもたくさんある奇想天外な人物だよね。(笑)

「異界」はそんな南方熊楠が外国から帰国し、故郷の和歌山県の那智の森で植物の採集をしているところから始まる。
明治36年、1903年が舞台である。

那智といえば。
ROCKHURRAH RECOREDSが最近興味を持っている、滝で有名な場所!
日光の華厳の滝、茨城の袋田の滝と合わせて日本の三大名瀑と言われているんだね。
栃木と茨城は関東地方だけど、和歌山県には気軽に行かれないよ。
いつか行ってみたいなあ!

そんな自然豊かな森に毎日通っては、観察と採集を続け、標本を作りに精を出している南方熊楠には弟子がいた。
福田太一という地元では有名な酒蔵の息子である。
お坊ちゃん育ちの太一と熊楠が、「観察者シリーズ」でいうところのトビさんとネコのような関係なんだよね。
そう、南方熊楠はもうトビさんそのものと言っても良いくらい。
だって南方熊楠こそプロのウォッチャーだもんね!(笑)

実在の人物を主人公にしているけれど、そこはやっぱり鳥飼先生の小説だから!
ミステリーになっているんだよね。
和歌山県の田舎町で起こった事件を南方熊楠が解決するの!
弟子の太一から狐憑きの少年の目撃情報がもたらされ、その後産婦人科で新生児が誘拐される事件が起こるのである。
更に殺人事件まで発生してしまう…。

改めて読み返してみると、鳥飼先生のその後発表されている小説の題材があちこちに散りばめられていることに気付く。
寄生、アルビノ、狐憑き等々。
「観察者シリーズ」のファンなら、当然興味が湧くこと間違いなし!
いや、「観察者シリーズ」を読んでいない、そこのあなたもね!(笑)

たまたま残り数ページを残して中断していたSNAKEPIPE。
続きの、ここからが凄かった!
またもや瞬きしないで読んでいたと思う。(笑)
2重3重と繰り広げられるトリックは、SNAKEPIPEをまるで手のひらで転がすように翻弄する。
「うーむ、そうだったのか」と読み終わってから、「あの時のあれね!」などと伏線を思い出したり。
とても面白かった!(笑)
「異界」は一回じゃダメね!(オヤジギャグ健在!)

南方熊楠を主人公にした続編はないのかなあ?
SNAKEPIPEが一番気に入っているのが、他人を罵倒する熊楠の言葉なんだよね。(笑)
よくもそこまでポンポン言葉が出るよ!と感心しちゃう。
実際に癇癪持ちだったらしい熊楠なので、きっと本当に弾丸みたいな言葉を発してたんじゃないかな?
あの言い回しをまた読みたいなあ!(笑)

好き好きアーツ!#36 Alex de la Iglesia part2

【 どちらもイエローが印象的なポスターだね!】

SNAKEPIPE WROTE:

今回の「好き好きアーツ!」はアレックス・デ・ラ・イグレシア監督の第2回目。
前回のイグレシア監督作品は「刺さった男」と「スガラムルディの魔女」を特集したんだよね。
その2作品は2011年と2013年に公開された、イグレシア監督の中では最近のもの。
今回は少し時代をさかのぼって、2つの作品を紹介しましょ!

まずは「13 みんなのしあわせ(原題:La Comunidad  2000年)から。

簡単にあらすじを書いてみよう。

不動産会社で分譲アパートのセールスをしている女性ジュリアは、ひょんなことからとあるアパートに住む一人暮らしの老人の死に遭遇する。
この老人、なんと3億ペセタの大金を20年間隠し持っていたのだ!
ジュリアは偶然その事実を知り、アパートからの持ち出しを図ろうとするが、同じアパートの住人たちもその大金の存在を知っていた。
果たしてジュリアは大金を持ち出すことができるのか?

主人公ジュリアを演じたのはスペインを代表する女優カルメン・マウラ
アルモドバル監督作品でもお馴染みだよね。
あらすじにあったように、不動産のセールスをやっているんだけど、よくも次々と取り繕いながら嘘八百が言えるなあと感心しちゃうほどのお喋り上手。(?)
この映画が15年前の作品ということは、カルメン・マウラが55歳くらいなのかな?
そんな熟女、カルメン・マウラのシャワーシーンも見逃せないよ!(笑)

一癖も二癖もある住人たちだけど、その中でも印象的だったのがスター・ウォーズ・オタクのチャーリー。
エドゥアルド・アントゥニャという俳優が演じているんだけど、前述したカルメン・マウラのシャワーシーンで身悶えするんだよね。
ちょっとマザコン気味のオタクを見事に演じていたよ。(笑)
イグレシア監督がカルロス・アレセスに出会っていなかったら、エドゥアルド・アントゥニャが「気狂いピエロの決闘」の主役に抜擢されていたかもしれないよね?
スペインではハゲ・デブ系俳優が台頭してることが分かるよ。(笑)

大金持った老人の死を待ちわびていた住人たち。
狙われているのを知っていた老人は一歩も外に出なかったという。
そもそも3億ペセタって日本円でいくらなの?
現在はユーロに変わり、ペセタという通貨は使用されていないので、はっきりは分からないけど日本円で2億5千万くらいなのかな?
間違っていたらスミマセン!
老人が死んだら住人たちがお金を奪おうとしていたんだね。
笑顔で近付いてくる人には要注意、という教訓を知ることができるね。

ほんのちょい役なんだけど、アントニオ・デ・ラ・トーレも出演していたね。
カフェのボーイの役で、ちゃんとセリフもあったけれど、よく観てないと見逃してしまうかも。
アントニオ・デ・ラ・トーレは主役も脇役もこなす俳優で、役ごとに全く違う顔を見せるスペイン版デ・ニーロといったところか。
かなりの数、スペイン映画を観ているので過去の作品の中に知った顔を発見することもあって楽しい。(笑)

「13 みんなのしあわせ」のタイトルバックもとてもスタイリッシュだったね。
3つのシーンをROCKHURRAHが編集してくれたのが右の画像ね。
ちょっとカクカクした動きにして、昔のホラー映画のように仕立てた逸品!
イグレシア監督のタイトルバック集があったら、エンドレスで流しておきたいくらい。
「13 みんなのしあわせ」はお金をめぐるドロドロした映画には違いないんだけど、笑いあり、ちょっとエロあり、アクションありのスペイン映画らしいミクスチャーが楽しめる作品だね。
カルメン・マウラの体当たり演技には感心しちゃうよ!(笑)

続いては「マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾(原題:800 balas 2002年)」ね。

最初にあらすじから。

かつてはマカロニ・ウエスタンのロケ地として栄えたスペイン・アルメリア地方の撮影所「テキサス・ハリウッド」。
ブームも去った今は、元スタント・ガンマンたちがしがない実演ショーで細々と食いつないでいた。
そんなある日、ウエスタン村の座長を務める元スタントマン、フリアンのもとに、彼の孫だと名乗る少年カルロスが現われる。
最初はカルロスを邪険に扱うフリアンだったが、やがて少しずつ心を通わせていく。
そんな時、カルロスの母ラウラが進めている土地買収事業の候補地に、フリアンのウエスタン村が突如浮上してくるのだった。

マカロニ・ウェスタンというジャンルは、本当はROCKHURRAHの得意とするところ。
大好きだったらしくて、次々と俳優や監督の名前が出てくるよ。
イグレシア監督もマカロニ・ウェスタンへのオマージュとしてこの作品を作ったのかな。
あらすじにあった「テキサス・ハリウッド」は実在するテーマパークなんだよね。
HPにある画像中央には、今回紹介している「マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾」の主人公フリアンの姿も見える。
フリアンを演じたのはサンチョ・グラシアという60年代から俳優として活躍している大ベテラン。
どうやらマカロニ・ウェスタンの俳優としても有名みたいだけど、日本のページでは詳細がわからなかったよ。
かつてクリント・イーストウッドのスタントをやっていた、という設定でウエスタンをこよなく愛する人物を好演していたね。
2012年に亡くなっているようで、とても残念!
頑固だけど、本当は気が優しい役をもっと見たかったな。

先に書いた「13 みんなのしあわせ」に続き、なんと今作でもカルメン・マウラが登場してるんだよね。
「スガラムルディの魔女」にも出演していたし、イグレシア監督の常連でもあるんだね。
今回は小学生くらいの男の子の母親で、あらすじにある土地買収を行っているラウラという役どころ。
元スタントマン、フリアンとは因縁のある関係なので、フリアン側に立ってしまうと嫌な女になってるよ。
それにしても小学生の母親役にはちょっと無理があったような?(笑)

「テキサス・ハリウッド」にいるフリアンの同僚たちも、みんな良い味出してるんだよね。
保安官と「ならず者」、絞首刑にされた人、棺桶屋などそれぞれが自らの役に成り切ってショーを盛り上げている。
クリント・イーストウッドとの思い出の品を展示しているコーナーもあり、かなりインチキ臭くて面白い。
日本にもかつて鬼怒川に「ウエスタン村」があったけれど、2006年より閉鎖されているという。
ウエスタン大好きなROCKHURRAHですら一度も訪れたことがなく、未だに後悔しているとか。
今からだったら、スペインの「テキサス・ハリウッド」に行ってみようか?(笑)

この作品のタイトルバックもカッコ良かった!
モノクロと赤、という非常にシンプルな色使いが効果的なんだよね。
左は撃たれて倒れる人物をモンタージュしたシーンを、ROCKHURRAHが3つ並べて編集したもの。
今までこんな映像を観たことがない!
イグレシア監督独自のセンスなんだろうね。
かなり衝撃的で驚かされたよ。
この映像だけでも観る価値あり!だよね。

ROCKHURRAH註:ジュリアーノ・ジェンマの「怒りの荒野」のタイトルバックに近いセンスを感じる。
映画が始まる前のタイトルバックの重要さは前回も語っているけれど、本で言えば装丁だと思うし、DVDのパッケージでも同じことが言えるよね。
ジャケ買いしたくなるかどうか、の判断基準になると思うな!

「 マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾」も「13 みんなのしあわせ」も、どちらも「戦い」を描いている映画だったよ。
かたや自分の信念を貫くため、かたやお金を奪取するためという違いはあるけどね。
イグレシア監督の作品はブラックな要素がたくさんあるのに笑ってしまう、ジャンルに囚われないところが良いんだよね。
次回の「好き好きアーツ!」もイグレシア監督の作品を特集する予定だよ!
どうぞお楽しみに。(笑)

好き好きアーツ!#35 Alex de la Iglesia part1

【「スガラムルディの魔女」のポスター。スペイン版ね!】

SNAKEPIPE WROTE:

数年前より続いているスペイン熱は未だにおさまらず、面白そうな映画をチェックしては鑑賞している。
そうは言っても、スペイン映画ってほとんど劇場公開されることはないし、DVDでだけ販売されたりレンタル用として流通することが多いんだよね。
日本映画以外は、全くDVDにすらならない作品もいっぱいあるし!
スペイン映画ではないけれど、例えばアメリカでは大人気のウィル・フェレルの作品ですら、日本では劇場公開されないんだもんね。
日本の映画業界は興行収入のことしか考えていないんだなあ。
せめてスペイン語を完璧に理解することができたら原語のまま鑑賞できるのに。
今からでも頑張ってみる?(笑)

今回の「好き好きアーツ!」はスペインの映画監督、アレックス・デ・ラ・イグレシアの作品についてまとめていきたいと思う。
スペイン人俳優アントニオ・デ・ラ・トーレと間違えたり、 歌手のフリオ・イグレシアスと混ざってデ・ラ・イグレシアスと言ってしまったりするのはSNAKEPIPEだけ?(笑)
イグレシア監督の名前が一躍有名になったのは、かつて「映画の殿 第6号」の中で少しだけ触れたことのある「気狂いピエロの決闘」という作品がヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)と金オゼッラ賞(脚本賞)を受賞して注目されたからなんだよね。
もちろんその前にも作品を制作していて、大好きなサンティアゴ・セグーラが主役の「どつかれてアンダルシア」はスペインで大ヒットしたらしい。
残念ながら未見で、どうしても観たい映画のランキング上位の作品なんだよね。
TSUTAYAの発掘良品で扱ってくれないかなー?

前置きが非常に長くなってしまった。
今回はイグレシア監督の第1弾として割と最近の作品2本を特集しよう。
まずは2011年の「刺さった男(原題:La chispa de la vida)」から。

簡単にあらすじを書いてみようか。

失業してどん底状態にある元エリート男性・ロベルトは遺跡発掘現場に迷い込み、高所から転落。
命は助かったけれど、後頭部に鉄筋が刺さった状態で身動きがとれなくなってしまう。
ロベルトをめぐってメディアや関係者らが狂騒を繰り広げる。
ロベルトの運命やいかに?!

と、まあこんな感じでタイトル通りに「刺さってしまった」ロベルトなんだよね。
ロベルトを演じたのはホセ・モタという俳優なんだけど、今まで他の作品で見たことないみたい。
2年間も失業状態にあるというのに、生活できているところが不思議だったんだよね。
奥さんと家族を大事にしている様子が良く伝わってきたよね。
その奥さんとの思い出の土地を歩こうと思っただけなのに、事故に遭ってしまうとは!

ロベルトの妻ルイサを演じたのがサルマ・ハエック
一番最初にサルマ・ハエックを見たのはロバート・ロドリゲス監督の「デスペラード」だったね。
なんて美しい人!とすっかりファンになったSNAKEPIPE。
今回のルイサ役も好演していたね!

「刺さった男」にはスペイン映画ではお馴染みの俳優がたくさん出演していたところも見逃せないね。
ブランカ・ポルティージョ(写真左)はアルモドバル監督の「ボルベール」で「母が村で唯一のヒッピーだったのよ」と自慢していた役が印象的だったっけ。
イグレシア監督と名前を間違えてしまうアントニオ・デ・ラ・トーレも出演していたよ。
「ほら!デ・ラ・トーレ!」とSNAKEPIPEが指摘しても、「違うでしょ?」と信じなかったROCKHURRAH。
カメレオン俳優だから化けるのが上手いのは解るけど、ROCKHURRAHは特に疎いのかもしれないね。(笑)

元同僚として出演していたのが我らがサンティアゴ・セグーラ!
タイトルバックに名前を発見した時から「いつ登場するんだろう」と期待してしまう俳優だよね。
出てくるだけで笑ってしまう。
大ファンの俳優を様々な作品で観られるのは嬉しいね!

刺さってしまったロベルトとルイサには子供が2人いるようなんだけど、その子供達がおかしい!
1人は男の子でなんとバッチリ化粧に長いレザーコート、アクセサリーをジャラジャラ着けたビジュアル系バンドにいるような出で立ちなんだよね。
こんな服装で父親を心配しているんだもんね。

そしてもう一人は女の子なんだけど。
息子とは正反対の、真面目を絵に描いたようなダサ子ちゃんなんだよね。(笑)
分厚いメガネに英国調のコート。
この子供たちの登場を遅らせたのは、きっとイグレシア監督のギャグの一つだったのかな、と推測するよ。

1人の男が事故に遭っただけなのに、マスコミは猛烈な取材合戦をして、選挙のことしか頭にない市長や人命より遺跡の保護を優先したい館長の態度、就職を断った会社が評判を落とさないように身を守ることだけを考えたりするエゴ剥き出しの狂騒が見どころなんだよね。
人は身勝手で自分のことが一番大事、といういや〜なところが良く描けているね。
ここらへんがイグレシア監督のブラックなところなんだよね!
テレビ局のアナウンサー役だったのが、イグレシア監督と昨年結婚した監督の作品の常連カロリーナ・バング。
「気狂いピエロの決闘」ではサーカスのヒロイン役で出ていたよね。
そして次に紹介する「スガラムルディの魔女」でも登場するよ!

スガラムルディの魔女(原題:Las brujas de Zugarramurdi)」は2013年の作品である。
スペインの映画賞であるゴヤ賞で8部門を受賞、70万人以上の観客を動員した、という宣伝文句だけでもすごい作品だということが分かるよね!

簡単にあらすじを書いてみようね!

失業し、妻ともうまくいかなくなったホセ率いる強盗団は白昼堂々宝飾店を襲撃、ホセは息子らと共に偶然通りかかったタクシーに飛び乗り逃げる。
パトカーの追跡をかわすうちに道に迷ってしまった一行は、魔女伝説が伝わるスガラムルディ村にたどり着く。
人食い魔女たちの洗礼を受ける中、強盗団を追ってきた者たちも加わり魔女軍団と人間の壮絶バトルが始まるのだった。

あらすじにあったように、スピーディな強盗シーンが非常に面白い。
それぞれがまるで大道芸人みたいな変装をしてるんだよね。
キリスト、兵士、透明人間、スポンジ・ボブ、ミニーマウスになって、顔がすぐには判別できないようにして強盗をする。
あえて目立つ格好をして犯罪を犯すとはね!(笑)
そしてもうひとつ珍しいのが、子連れだったというところ。
子供まで強盗団の一員として活躍しちゃうなんて、倫理規定に厳しい国ではあり得ないんじゃないかな?
そもそもキリストに変装して強盗って時点でアウトかもしれないね?
そのキリストになっていたのが「雑魚」や「アイム・ソー・エキサイテッド!」に出演していたウーゴ・シルバ。
「雑魚」の時はアル・パチーノに似てると思ったけど、 役どころのせいだったのかな?
緑色の兵士は「空の上3メートル」でニヤけた顔をしていたマリオ・カサス。
「UNIT7」や今回はそこまでニヤけていなかったね。(笑)

一方の魔女軍団もスペインを代表する女優カルメン・真裏、じゃなくて(笑)マウラを筆頭に怖い女性たちがいっぱい!
上の写真の時はスーツ着て人間っぽくしてるから、それほどじゃないけど魔女になるとこんな状態! (写真左)
カルメン・マウラ、今年で70歳だって。
若い頃とそこまで顔に変化がないよね?
まだまだ頑張って演技を続けて欲しいものだ。
3人の魔女の一番左が、イグレシア監督と結婚したカロリーナ・バングね。
今回はバイクに乗り、ほとんどモヒカンというヘアスタイルだったよ!(写真右)
途中、半裸でセクシーポーズをキメてるシーンが見どころかも。(笑)

タイトルバックに名前を発見していたので、いつになったら登場するんだろうと心待ちにしていたのがサンティアゴ・セグーラとカルロス・アレセス!
ついに出て来た、と思ったら!
まさか2人揃って女装とは。(笑)
ROCKHURRAHがダイジェスト版として編集してくれたよ!
カルロス・アレセスは、本当にこんなおばちゃんいるわ、って感じでぴったりだよね。
同じくぽっちゃり体型のハビエル・カマラが「バッド・エデュケーション」で笑いを取るタイプの女装姿を披露していたけど、カルロスは本物の女性に見えるよ。
サンティアゴ・セグーラの女装も、意外と似合っていたね。
こういう女性もいそうだもん。
この写真を見る度に笑ってしまうので、辛いことがあった時にはこのページを見よう!(笑)

イグレシア監督の特徴として「タイトルバックがカッコ良い」点が挙げられる。
これから始まるという時に、より気分を盛り上げてくれるんだよね!
SNAKEPIPEの今までの経験でいうと、タイトルバックが良い映画は大抵面白い。(笑)

「スガラムルディの魔女」はホラー・コメディと分類されるのかな。
ホラーとコメディが一緒というと、以前観た「人狼村 史上最悪の田舎」も同じタイプだったかも?
イグレシア監督の作品はブラックな部分が多くて面白いね。
他の鑑賞済作品も次回以降にまとめていきたいと思っている。
やっぱりスペイン映画は良いね!(笑)