好き好きアーツ!#22 Pedro Almodóvar part1

【今回特集した映画3本のポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

先日「映画の殿 第3号」にも書いたように、週に3本程度の映画鑑賞をしているSNAKEPIPEとROCKHURRAH。
最近は特に映画監督で選んで鑑賞していなかったけれど、ある1本の映画がきっかけでお気に入りになってしまった監督がいる。

友人Mも映画鑑賞が好きで、面白かった映画を薦めてくれることがある。
「『私が、生きる肌』を観て、どう思うか感想を教えて」
という連絡があったのはもう何ヶ月も前のことだ。
言われるままにレンタルしてきて、鑑賞し終わり、
「なんでそうなるの?」
という萩本欽一じゃないけれど、ヘンな感想を持った。
話の展開が普通じゃないのよ!(笑)
この映画の監督はスペイン人のペドロ・アルモドバル
変わった映画を撮る監督だなあ、他の作品も観たいなあと思ったのである。
次に観たのは「キカ」。
これもまた不思議な展開の映画だった。
この頃にはもうペドロ・アルモドバルに興味津々になっていた。

調べてみると、話題になった「オール・アバウト・マイ・マザー」は当時映画館で鑑賞していたSNAKEPIPE。
でもすっかり内容を忘れてるんだよね!(笑)
観たことがないというROCKHURRAHと一緒にレンタルできるペドロ・アルモドバル監督の作品を全て鑑賞することにした。
今では2人共すっかり大ファンになってしまったのである。

そこでペドロ・アルモドバル監督について「好き好きアーツ!」で特集してみたいと思う。
今まで鑑賞したのは7本の映画なので、数回に分けてまとめていこうかな。
鑑賞した順番ではなく、作品の製作順に書いていこう!
※鑑賞していない方はネタバレしてますので、ご注意下さい。

キカ」 (原題:Kika)は1993年のスペイン映画である。
簡単にあらすじを書いてみようか。

気だてがよく行動的な主人公キカはメイクアップ・アーティスト。
年下のハンサムで少し変わり者のカメラマン、ラモンが恋人である。
そこへ彼の義父の放浪作家が二人の前に現われる。
キカはこのちょっとだらしのない義父に魅かれてしまう。
更に“今日の最悪事件”なる報道番組を持つTVレポーターのアンドレアが絡んできて、匿名で送られたビデオなどからある事件の真相を暴いていく。

この文章だけでは内容がよくわからないし、この映画の奇天烈さを表現しているとは思えないんだけどね。(笑)
「キカ」の魅力はその登場人物のキャラクターが立っているところにあると思う。

主人公であるキカが左の写真。
恋愛を語る主演女優にしては、ちょっと年齢が上のような印象を持つ。
この写真からも判るように、うつみ宮土理に似てるんだよね。(笑)
チャキチャキ行動し、弾丸のように話し続けるところもソックリ!
まさかあんなシーンでも喋りまくるとはね!
陰惨なシーンになるはずなのに、笑ってしまうとは思わなかったな。(笑)
その明るさのおかげで(?)メイクアップアーティストとして成功しているようだ。
ショーをいくつもかけもち、メイクアップアーティスト養成講座の講師としても活躍しているキカ。
プライベートも順調で、年下の恋人と暮らしながらも、上の階に住んでいる恋人の父親とも二股の関係を持っているから驚いちゃうよね!
メイクアップアーティストという職業柄なのか、登場する度にヘアスタイルが変わっていたことにも注目!
キカ役はヴェロニカ・フォルケ、1955年マドリッド生まれ。
1984年のペドロ・アルモドバル監督作品「グロリアの憂鬱」にも出演しているらしい。
ということは、「キカ」の時に38歳くらい?
うーん、もっと年上に見えたのはSNAKEPIPEだけだろうか。(笑)

キカの家でメイドをしているフアナことロッシ・デ・パルマ
一番初めに登場した時から
「ピカソみたいな顔!」
と大注目してしまった。
長い顔に曲がった鼻。
かなり個性的な面構えだから、役者としてはもってこいの風貌だよね。
羨ましいと感じる人も多いかもしれない。
ところがロッシ・デ・パルマは、元々女優志望じゃなかったみたいだね。
wikipediaによれば、カフェで歌っていたところをペドロ・アルモドバル監督に見出されたとのこと。
監督が一目惚れするのも納得だよね!

「口髭を生やす権利が女性にもある」
などと堂々と発言するレズビアンという役どころ。
顔だけじゃなくて、強烈な印象を残すおいしい役だったね、ロッシ!(笑)
ロッシ・デ・パルマは他にも何本ものペドロ・アルモドバル作品に登場しているよ!

ペドロ・アルモドバル監督の作品には劇中劇のような、テレビから流れてくる映像が取り入れられているパターンが多いんだけど、「キカ」の中に出てきたテレビ番組が「今日の最悪事件」という報道番組だった。
その司会、進行、取材全てを一人で請け負っているのが写真左のアンドレア。
アンドレアが着ていた衣装がジャン・ポール・ゴルチェのデザインによるもので、それも話題だったようだ。
ジャン・ポール・ゴルチェといえば、80年代に一世を風靡したデザイナーだよね!
SNAKEPIPEも小物類を手に入れて喜んでたっけ。(笑)
さすがはゴルチェ、アンドレアの衣装も驚くような奇抜さと美しさが同居した素晴らしいデザインだった。
アンドレアの番組は、残酷なシーンもノーカット、プライバシーを一切無視した作りになっていて、通常は放送禁止なはず。
もし本当にそんな番組があったら、一部に熱狂的なファンができそうだけどね?
SNAKEPIPE?
もちろん大ファンになると思うよ。(笑)
この役を演じているのがスペインの女優ビクトリア・アブリル
公式HPではゴルフ場でゴロゴロしてるんだけど、どういう意味かね?(笑)

「キカ」は強烈なキャラクターの女優陣に加えて、ミステリー要素や愛憎劇などが入り混じった極彩色の映画だった。
この色彩をケバケバしいと感じるか、もっと強い毒を欲するかは個人の好みの問題だろうね。
SNAKEPIPEとROCKHUURAHは更なる毒を求めることにしたのである。

次は1999年の作品「オール・アバウト・マイ・マザー」(原題:Todo sobre mi madreである。
前述したように、公開された時に映画館で鑑賞していたSNAKEPIPE。
アカデミー外国語映画賞を受賞したこともあり、当時は大変話題だったと思う。
ところがすっかり内容を忘れてしまっていたので、改めて鑑賞し直すことにした。
およそ13年ぶりに鑑賞したけれど、全然覚えてなかったんだよね!
記憶力の低下が激しいなあ。(笑)
もしかしたら「オール・アバウト・マイ・マザー」は、ある程度年齢がいってから観たほうが良い映画なのかもしれない。(言い訳)
また簡単なあらすじから書いてみようかな。

17年前に別れた夫に関して息子から問われた母マヌエラ。
長い間隠していた夫の秘密を話そうと覚悟を決めた矢先、彼女は息子を事故で失ってしまう。
息子が残した父への想いを伝えるため、マヌエラはかつて青春を過ごしたバルセロナへと旅立ち、そこで様々な女性たちと知り合うのである。

「オール・アバウト・マイ・マザー」の主役、マヌエラ。
あらすじにも書いたように、女手ひとつで息子を育てている。
職業は移植コーディネーター。
事故に遭った息子から臓器を提供するシーンは、観ていて辛くなるほどだった。
いつまでも息子の死から立ち直れないままのマヌエラだったけれど、ひょんなことから息子の事故の原因となった舞台女優の付き人になってしまう。
こんな偶然はそうそうないだろうけど、何故だかスペインだったらアリかもと思ってしまうのはSNAKEPIPEだけだろうか。
マヌエラは人助けが得意で、とても親切な女性だ。
どんな逆境にもめげず、そして人を許すことができる寛大さに勇気づけられる。
演じているのはアルゼンチン出身の女優セシリア・ロス
アルモドバル監督作品の初期から出演している常連とのこと。

マヌエラのかつての仲間、整形手術を施したゲイのアグラード。
整形はしていても性転換手術はしていないという設定である。
ものすごく上手に演じていたので、てっきり本物のそちらの方なのかと思いきや、実際は女性だったと知った時には驚いた!
この女優さんもロッシ・デ・パルマと同じように鼻が曲がっていて、個性的な雰囲気なんだよね。
演じていたのはアントニア・サン・フアン
公式HPはスペイン語での表記なので、はっきりは分からないけれど、もしかしたら絵も描いているのかも。
女優だけじゃなくて監督もしているらしいので、アーティスティックな方なのね!

マヌエラが付き人をやることになった舞台女優がウマ・ロッホ。
ウマとは煙のことでベティ・デイヴィスに憧れて始めたタバコの煙から芸名を付けたというほどのヘビースモーカーである。
ウマ・ロッホは共演している年下の女優に夢中になり、心をかき乱されている。
「キカ」にもレズビアン役が出てきたけれど、ここでも同性愛者が登場だね。
1960年代から活躍しているマリサ・パレデスは、この映画の時に53歳くらいだったのかな。
いかにも大物女優という雰囲気が似合っていて、とてもキレイだった。

シスター・ロサはお金持ちの家に生まれながらも、ボランティア活動にいそしむ女性である。
ところがその分け隔てのない行動が、ロサを不幸にしてしまうとは残念だ。
ロサの父親は認知症のようで、妻以外の区別がついていないようだ。
娘であるロサに会っても
「年齢は?身長は?」
という意味不明の質問をするところが印象的だった。
それを聞いてどうするつもりなんだ?って。(笑)

ロサ役を演じたのはペネロペ・クルス
恐らく現在のスペイン人女優の中での知名度はナンバーワンなんじゃないかな?
スペインだけじゃなくて、ハリウッド映画にも出演してるし、次回のボンドガール候補なんて記事もあったしね!
その栄光のきっかけになったのが「オール・アバウト・マイ・マザー」でのロサだったみたい。
ペドロ・アルモドバル監督とは前作の「ライブ・フレッシュ」に出演していたようなので、「オール・アバウト・マイ・マザー」が2作目になるのかな。
それ以降もペドロ・アルモドバル監督作品の常連として、様々な役を演じているね。

それぞれの女性が何かしらの悩みを抱えながらも、たくましく生きている姿を描いた映画なんだよね。
登場人物がみんな個性的なので、単なる感動物語ではないところがポイントかなあ。
ペドロ・アルモドバル自身が同性愛者とのことなので、性差について作品を通して訴えているのかもしれない。
Wikipediaによると映画評論家のおすぎは「生涯のベスト1映画」にしているらしい。
共感できる部分が多かったからなのかもしれないね?

映画の最後に出てきた言葉を書き写してみよう。

ベティ・デイヴィス、ジーナ・ローランズ、ロミー・シュナイダー。
女優を演じた女優たち
すべての演じる女優たち
女になった男たち
母になりたい人々
そして私の母に捧げる

これらの言葉からも「女性」に向けて作られた映画だったことが解るよね。
そして「オール・アバウト・マイ・マザー」がペドロ・アルモドバル監督の女性賛歌3部作と呼ばれる1作目になったんだね。


続いては2002年の作品「トーク・トゥ・ハー」(原題:Hable con ella
また簡単にあらすじを書いてみようか。

交通事故のため昏睡状態のまま、病室のベッドに横たわる女性アリシア。
4年もの間、看護士のベニグノは彼女を世話し続け、応えてくれないことが判っていても、毎日アリシアに向かって語り続けていた。
一方、女闘牛士のリディアもまた競技中の事故で昏睡状態に陥っている。
彼女の恋人マルコは突然の事故に動転し悲嘆にくれていた。
そんなベニグノとマルコは同じクリニックで顔を合わすうちいつしか言葉を交わすようになり、互いの境遇を語り合う中で次第に友情を深めていくのだった。

「トーク・トゥ・ハー」での主役は、ペドロ・アルモドバル監督作品には珍しく男性である。
映画はパフォーマンスを鑑賞しているシーンから始まる。
これはピナ・バウシュというドイツ人バレエ・ダンサーの代表作「カフェ・ミュラー」で、ご本人が踊っていたらしい。
映画の最後のほうにもパフォーマンスの舞台が出てくるんだよね。
バレエやパフォーマンスに不慣れなSNAKEPIPEは難解だったなあ!
ところがそのパフォーマンスを鑑賞しながら涙を流していたのが、主役の一人であるマルコである。
非常に感受性が豊かで、過去の出来事と鑑賞しているアートを結びつけて悲しみにくれてしまう。
職業はジャーナリストで、海外旅行ガイドなども執筆して生計を立てているようだ。
「トーク・トゥ・ハー」の中で何回も泣いてしまう涙もろさ!
男性俳優でここまで泣く演技を観たのは「殺し屋1」以来かも?(笑)

演じていたのはアルゼンチンの俳優、ダリオ・グランディネッティ
アルゼンチンでは有名な俳優だそうで、いくつもの賞を受賞している経歴の持ち主とのこと。
かなり頭髪が薄めの方なんだけど、東洋人と違って堂々としているせいか、とても知的に見えるんだよね!

もう一人の主役は介護士のベニグノ。
ややぽっちゃり気味の体型と、角度によっては二重顎になってしまう丸い顔は、主役にしては珍しいタイプかも?
それが逆に目立って、SNAKEPIPEは目が釘付けになってしまった。 (笑)
もしかしたらペドロ・アルモドバル監督がちょっと似た体型なので、自己投影させた分身的な意味での配役なのかもしれないね。
ベニグノは15年間ずっと母親の介護だけをして青春時代を過ごしてきた、ちょっと変わった経歴の持ち主。
その時に介護以外にも美容に関する技術を習得し、介護士として病院に勤務するのである。
演じていたのはハビエル・カマラ
「トーク・トゥ・ハー」以外にもペドロ・アルモドバル監督作品には多く出演している。
最新作とされる「I’m So Excited」でもハビエル・カマラが主役なんだよね!
なんだかこっそり応援したくなるタイプの俳優だね。(笑)

ベニグノの熱心な介護を受けるアリシア。
精神科医の父親を持ち、バレエ教室に通う女性である。
このバレエ教室の教師がアリシアの母親代わりをしているというほど、2人の仲は親密だ。
この教師役を演じているのがなんとチャップリンの娘なんだって!
そう、あのチャールズ・チャップリンよ!
ジェラルディン・チャップリンはロイヤルバレエアカデミーで学んだ、なんて書いてあるから本当にバレエの人だったのね。
映画デビューは「ライムライト」って、なんだか映画の歴史を勉強している気分になっちゃう。(笑)
ジェラルディン・チャップリンの首の筋は「今いくよくるよ」に負けてないね!
アリシアを演じたレオノール・ワトリングも実際にバレエをやっていたというから、付け焼刃の演技じゃないんだね。
他にもペドロ・アルモドバル監督作品に出演しているね。

マルコの恋人で女闘牛士のリディア。
闘牛について詳しくないSNAKEPIPEなので、実際にどれだけの女性闘牛士がいるのか不明だけど、比率では男性が圧倒的に多いだろうね。
闘牛士と聞いて男性を思い浮かべる人が多いはずなので、この設定もペドロ・アルモドバル監督式の性差を表しているのかな。
試合に出る前に闘牛士の衣装を着るシーンがあり、とても一人では着られないほどフィットしていて、ボタンなどは誰かに手伝ってもらわないとはめられないことを知る。
刺繍や装飾が素晴らしかった。
帽子は手編みニットみたいに見えたのは気のせいか。
今度あんな形の帽子編んでみようかな。(笑)
リディアを演じていたのはロサリオ・フローレス
引き締まった体型で、本当に闘牛士に見えてしまった。
ロサリオ・フローレスはギタリストのアントニオ・ゴンザレスを父親に、歌手で俳優だったロラ・フローレスを母親に持つ芸能一家出身とのこと。
映画デビューは6歳くらいなのかな。
闘牛士役が似合うのもなるほど、という感じだね!

「トーク・トゥ・ハー」にはまたもや劇中劇ならぬ劇中映画がある。
「縮みゆく男」というサイレント映画ということになってるんだけど、これは全くのオリジナルなんだよね。
科学者の彼女が開発した薬を飲んだ男の体が手のひらサイズにまで縮んでしまう話だった。
まるで手塚治虫の「ブラック・ジャック」に出てきた話みたいだけど、さすがはペドロ・アルモドバル監督!
映画の結末はかなり変わっていた。
そしてその映画を鑑賞したことがきっかけで、介護士ベニグノは犯罪行為に手を染めてしまうのである。

ベニグノがアリシアに、マルコがリディアに、そしてベニグノとマルコに芽生えた、それぞれの愛。
人によって基準は色々だから、もしかしたら不道徳とか不謹慎などと感じる人もいるかもしれない。
SNAKEPIPEも話の展開に「なんでそうなるの?」と、再び同じ感想を持ってしまったからね!(笑)
ただハッキリ言えるのは、そこに愛は存在していたということかな。
例えそれが一方的なものであったにしても、ね。

3本の作品についてペドロ・アルモドバル監督特集第1回目をまとめてみたよ。
SNAKEPIPEがとても気に入っているのは、作品中に登場する女性達のあけすけな会話のシーン。
確かに女同士だったら、特にスペインだったら(?)こんな会話をしてるだろうな、とニンマリしてしまうのだ。
ペドロ・アルモドバル監督は脚本も手掛けているので、自然な女の会話をよく知ってるよね!
本筋とは関係ないところで印象に残すのも、さすがだと思う。

次回の「好き好きアーツ!」もペドロ・アルモドバル監督作品特集の続きを書いてみるよ。
どうぞお楽しみに!

好き好きアーツ!#21 DAVID LYNCH—Mulholland Drive

【マルホランド・ドライブのトレイラー】

SNAKEPIPE WROTE:

SNAKEPIPEは毎日夢を見る。
そして夢を断片的にでも朝まで覚えている。
一体どこからの発想なのかも分からないほど奇想天外なストーリーや意味不明の単語まで登場して、翌日ROCKHURRAHに聞いてもらう度に不思議がられるのだ。
「夢日記を付けてみたら?」
と何度も勧められている程、ユニークな夢が多いようだ。
通常の場合、自分の夢は人に話しても退屈させるだけだと思うけれど、ROCKHURRAHが面白がってくれるので、ちょっといい気になってしまうね。(笑)

今回の「好き好きアーツ!」はデヴィッド・リンチ監督迷宮系3部作(?)の第2弾として「マルホランド・ドライブ」を特集してみたいと思う。
どうして冒頭にSNAKEPIPEの夢について語ったのか。
それはいずれ明らかになるであろう!(予言)

「マルホランド・ドライブ」(原題:Mulholland Drive)は2001年に制作されたシュール・ネオ・ノワール映画と書かれているね。
誰がこんな言葉を考えたんだろうか。(笑)
サイコロジカル・スリラーという分類もされているらしい。
文章だけ読んでいるとサッパリ訳が分からなくなりそう!
「マルホランド・ドライブ」の前のリンチの作品は「ストレイト・ストーリー」という、感動で涙が溢るヒューマンドラマで、配給会社がなんとディズニー(!)だったんだよね。
リンチがディズニー?とびっくりしたのは1999年のこと。
リンチアンなので当然のように「ストレイト・ストーリー」は劇場で観たけれど、
「リンチ、大丈夫かな?もうこっちには戻らないんじゃ…」
と不安を感じていたところに次回作として発表されたのが「マルホランド・ドライブ」だったのである。
恐らく同じように危惧していたファンはたくさんいただろうなあ。
「マルホランド・ドライブ」を鑑賞し終わって、ホッと一安心。
やっぱりリンチはリンチ、だったんだよね。(笑)

では早速「マルホランド・ドライブ」について書き進めてみようか。
「マルホランド・ドライブ」は時系列に物語が進行しないし、同じようなシーンがまた別のシチュエーションで登場したり、同じセリフが複数の人物によって語られたりする、いくつものエピソードで構成されている映画である。
そのためさっぱり意味が分からないと思う人が多いだろうし、SNAKEPIPEも実際に映画館で一番初めに鑑賞した時には首をかしげてしまった。
個人個人の好きな感じ方で良いと思っているから、謎解きをしようとは思わないので、それらを期待して読んでいる方を裏切ってしまうだろうね。(笑)

リンチによって提示された10のヒントがあるので、参考までにご紹介しようか。

  • 1
  • Pay particular attention in the beginning of the film: At least two clues are revealed before the credits.
    映画の冒頭に、特に注意を払うように。
    少なくとも2つの手がかりが、クレジットの前に現れている。
  • 2
  • Notice appearances of the red lampshade.
    赤いランプに注目せよ。
  • 3
  • Can you hear the title of the film that Adam Kesher is auditioning actresses for? Is it mentioned again?
    アダム・ケシャーがオーディションを行っている映画のタイトルは?
    そのタイトルは再度誰かが言及するか?
  • 4
  • An accident is a terrible event — notice the location of the accident.
    事故はひどいものだった。その事故が起きた場所に注目せよ。
  • 5
  • Who gives a key, and why?
    誰が鍵をくれたのか? なぜ?
  • 6
  • Notice the robe, the ashtray, the coffee cup.
    バスローブ、灰皿、コーヒーカップに注目せよ。
  • 7
  • What is felt, realized and gathered at the Club Silencio?
    クラブ・シレンシオで、彼女たちが感じたこと、気づいたこと、下した結論は?
  • 8
  • Did talent alone help Camilla?
    カミーラは才能のみで成功を勝ち取ったのか?
  • 9
  • Note the occurrences surrounding the man behind Winkie’s.
    Winkiesの裏にいる男の周囲で起きていることに注目せよ。
  • 10
  • Where is Aunt Ruth?
    ルース叔母さんはどこにいる?

これらのヒントに即答できるのは、「マルホランド・ドライブ」を何回も鑑賞されている方だろうね。
そして当然ながら熱狂的なリンチアンだと思う。
SNAKEPIPEは2つ、すぐに答えられない問いがあるけれど、あまり気にしないな。
このヒントによって謎解きができるとも思えないしね。(笑)
ではあらすじに感想を加えながら書いていこう。
※毎度のことながらネタバレしていると思いますので、鑑賞前の方はご注意下さい。

男性2人と共に車に乗っていた黒髪の女性は、突然同乗者からピストルを向けられ、殺されそうになったところを前方からの暴走車両の激突により命を救われる。
同乗者の男性2名は即死だったようで、生き残っていたのは黒髪の女性だけ。
足がカクカク、フラフラしながらも逃げる。
旅行に出かけるため家を留守にするという女性の空き家に侵入することに成功。 その家で身を隠すことにする。

ここで突然場所が変わる。
ウィンキーズというダイナーで自分が見た夢について語る男と聞く男。
この男2人の関係については謎。
語っている男(写真上)の顔がものすごくインパクトあるんだよね!
眉の太さ、額の狭さ、笑っても全然笑ってない目とか全てがヘン!
きっとリンチはこの役者の顔が気に入ってキャスティングしたに違いない。(笑)
夢を見た男は、その夢が悪夢だったので正夢ではないことを確かめたいと言う。
見た夢に沿って行動する2人。
すると夢は正夢で、悪夢通りウィンキーズ裏手には「恐ろしい顔」の男がいた!
それを目にした途端、夢を見た男は恐怖のあまりに失神してしまう。

空き家で眠り続ける黒髪の女。
「女はまだ見つからないのか?」
謎の人物から人物へ、謎の通話が数回繰り返される。
どうやら黒髪の女性の行方を追っているようだ。
この一連の通話の中で、一番の大物だと思われるのが上の写真の人物!
そうです!「ツイン・ピークス」ファンなら誰もが知っている、あのダンスする小人であるマイケル・J・アンダーソンの登場!
リンチがずっと映画化しようと進めてきたプロジェクトである「ロニーロケット」でも アンダーソンを起用する予定だった話をどこかで読んだことがあるよ。
「ツイン・ピークス」以外でも是非出演してもらいたいって思ったんだろうねえ。

女優を夢見てハリウッドを目指してきたベティ。
隣にいる白髪の女性はたまたま飛行機で乗り合わせて意気投合した人。
ベティは叔母が留守にしている間、叔母の家で居候することになっている。
しかしそこには、自動車事故に遭い、こっそり侵入した黒髪の女性がいた!
てっきり叔母の知り合いだと勘違いしたベティは、何者かも分からない黒髪の女性を歓迎する。
名前を尋ねると「リタ」と答える黒髪の女性。
たまたま壁に貼ってあったリタ・ヘイワースのポスターから借用した名前だ。
具合が悪そうにしたリタをベッドに眠らせるベティ。

場面が変わり、ライアン・エンターテイメントのビルの一室。
監督やプロデューサーらが映画の打ち合わせを行なっている。
そこに後から登場するのがカスティリアーニ兄弟という映画界の黒幕。
この兄弟は「This is the girl」(まさにこの子だ!)とカミーラ・ローズという女優を推薦するために会合に来たのである。
「This is the girl」とフレーズが似ている「This is it」は、「ブルーベルベット」の中に出てきた店の名前だったなあ。
このフレーズがリンチの好みなんだろうね。(笑)

エスプレッソを注文した兄弟のうちの一人。
エスプレッソが気に入らなかったらしく、白いナプキンに含んだコーヒーをケローンと吐き出してしまう。
おや?なんとこのおかしな役を演じているのは、リンチ作品には欠かせない作曲家のアンジェロ・バダラメンティじゃないの!(笑)
セリフはほとんどなかったけれど、非常に印象的なおいしい役どころ!
役者としても活躍していたとは驚きだね。 (笑)

監督にはキャスティングの権利が一切なくて、黒幕が暗躍して映画やスターが作られてるんだよ、という業界裏話のような逸話。
このエピソードが、リンチが描きたかった「ハリウッドの闇」の一つなのかもね?

次のエピソードは、ハリウッド有名人の電話番号を記録してあるノートを奪うために、殺人を犯す男の話。
1人だけを殺すはずが、ひょんなことから3人を殺すハメになってしまう。
殺人なのに笑いが出てしまうという、ブラックユーモアに溢れたシーン。
これもリンチ得意の「ハッピー・バイオレンス」なんだろうね。

出張先の叔母と電話をしていたベティは、リタが叔母とは全く関係のない女性だということを知る。
実は事故のために記憶がない、というリタ。
リタのバッグに何かヒントがあるかも、とバッグを開けてみる。
そこにはたくさんの札束と謎の青い鍵が入っていた。
リタが一つだけ思い出した単語は「マルホランド通り」。
恐らくそこに行く途中で事故に遭遇したはずだ、というリタの言葉を確かめるために警察に電話をし、本当にマルホランド通りで事故があったことを知る。
コーヒーを飲みに入ったウィンキーズのウエイトレスの名前から、ダイアン・セルウィンという名前を突然思い出すリタ。
電話帳で調べてみると、ダイアン・セルウィンが実在していることが判明。
もしかしたら記憶を蘇らせる手掛かりになるのでは、とベティとリタはダイアン・セルウィンの住所を訪ねるのである。

映画が自分の思い通りにならないことに怒り狂った監督アダム・ケシャーは、カスティリアーニ兄弟の車をボコボコにした後、自宅へ。
そこで妻の浮気現場を目撃、腕っ節の強い浮気相手に反撃され追い出されてしまう。
いつの間にかクレジットカードは凍結、資産もゼロになっている。

秘書から「カウボーイ」に会うように指示を出され、ビーチウッド・キャニオンという夜中の牧場に会いに行く。
「カウボーイ」は、本当にカウボーイの格好をした謎の人物だった!
ほとんど表情がなく、目に光もなくてまるで蝋人形のような顔立ち。
「マルホランド・ドライブ」は至るところに「ハリウッド映画」へのオマージュが散りばめられているので、もしかしたらこの「カウボーイ」はジョン・ウエインを意図してるのではないかと感じるのはSNAKEPIPEだけかな?
だから死んだような目をして、喋り終わった途端に一瞬で消えたんじゃなかろうか?
カウボーイはみんな同じ格好だからSNAKEPIPEの思い過ごし?(笑)

「カミーラ・ローズを見たら、彼女だ!と言うこと」
カスティリアーニ兄弟の意見が絶対だったようで、従わなければ監督生命も奪われかねないようだ。
それにしても「カウボーイ」のセリフ「人の態度はその人の人生を左右する」はなかなかの名言だよね!(笑)

オーディションに向かうベティ。
これは父親の親友との恋愛を描いた作品で、相手役の俳優が若い女を相手にするためなのか、やる気満々の「いかにも」な男なんだよね。(笑)
それに応え、着衣のままだけれどエロティックな雰囲気を醸し出し迫真の演技をするベティ。
その場にいた人達はすごい新人が現れた、と喜ぶ。

別のスタジオではアダム・ケシャーがカウボーイの指示通りに自身の映画のためのオーディションをしている。
しかし、これは出来レース。

カミーラ・ローズ(写真上)が出てきた瞬間、アダム・ケシャーはまるで自分が決めたかのように
「This is the girl」
と言うのである。
「カウボーイ」の言いつけ通りにしたアダム・ケシャーは、これで安泰といったとことか。(笑)
このアダム・ケシャーのオーディションは、すっかりリンチ・ワールドになっていてフィフティーズ全開なんだよね!(笑)
この時のオーディションの映画のタイトルが、リンチ・ヒントの3番めだよ!

タクシーに乗り、記憶を蘇らせる手掛かりを求めて、ダイアン・セルウィンのアパートに向かうベティとリタ。
アパート周辺にはサングラスをかけた怪しげな人物が何人もいる。
裏口から入り、なんとかダイアン・セルウィンの部屋までたどり着く。
ノックをしても出ないので、窓から侵入してしまう。
部屋の中で見たのは、ダイアン・セルウィンと思われる女性の死体だった!
このシーンはまるでホラー映画みたいで、本当に怖いんだよね。
部屋に入った時から鼻に手をやり、臭いを防ぐような仕草を見せていたので、予想はしていたものの、かなり本格的な死顔メイク(というのか)。
慌てて逃げ出す2人。
その後、身の危険を感じたリタは黒髪を切り、金髪のウィッグで変装するのである。
この後、ベティとリタのラブシーン!
えっ、なんで急にこうなるの?とびっくりな展開に戸惑ってしまうね。(笑)
身の危険を共有したことで、まるで吊り橋効果のように恋愛感情に発展してしまったのかもしれない。

一緒のベッドで手をつないで眠る2人。
リタが寝言で「Silencio」と繰り返す。
これはスペイン語で「お静かに」という意味らしい。
何度も声に出しているので、ベティが起きだす。
「一緒に行ってもらいたいところがあるの。今すぐに!」
急に何かを思い出したようなリタに従い、夜中の2時に2人は揃って「クラブ・シレンシオ」という怪しげな劇場へと向かう。
そこでは「バンドがいない、全てが録音された音」という摩訶不思議なステージが繰り広げられている。

ステージで歌うのはロスアンゼルスの泣き女、レベッカ・デル・リオ
言語はやっぱりスペイン語で、曲のタイトルは「Llorando」という。
迫力満点の見事なアカペラを披露してくれる泣き女。
歌詞がとても重要だと思われるので、字幕から拾って載せてみよう。

しばらくは元気だったの
笑顔でいられたわ
でもゆうべあなたに会ってあなたの声を聞いた時、私は取り乱さなかったわ
だからあなたには分からなかったのね
あなたを慕って泣いていることに
あなたを思って泣いているのよ
あなたはさよならを言って私を置き去りにした
私は一人で泣いている
なぜなのかしら
あなたに会っただけで また私は涙にくれる
あなたを忘れたと思っていたわ
でもこれは本当のこと
以前にも増してあなたを愛してる
でも私に何ができるの
あなたの愛は冷めてしまった
だから私は永遠にあなたを慕って泣き続けるだけ
あなたを思って泣き続けるだけ

なんとも悲痛な心の叫びを表現して、泣き女は失神してしまう。
あれ?映画の中で失神者は2人目だね!
そして録音されているだけあって、失神した後も歌声は続いているよ。(笑)
歌声を聴いていたベティとリタも肩を寄せ合い泣きじゃくっている。
泣き女節が伝染したのか、それとも何か思うところがあるのか?
このシーンがリンチの7番目のヒントの箇所だね。
SNAKEPIPEは前述したように、歌詞がポイントだと思うな!

失神してしまった泣き女を見届け、涙を拭こうとバッグを開けた時、ベティはバッグの中に青い箱を発見する。
リタのバッグに入っていた謎の青い鍵がピタリと符合しそうな、三角形の穴も見える。
きっとこれが鍵穴に違いないね!
自宅に戻り、いよいよ青い箱を鍵で開けようとする時、何故だかベティの姿が見えない。
ドキドキしながら一人で鍵を差し込むリタ。
箱を開けると中には暗闇が広がっている。
その闇に吸い込まれるように画面が黒くなり、次のシーンでは床に転がる青い箱だけが映し出される。
うーん、なんとも暗示的なシーンなんだよね。
ベティがいなくなったこと、青い箱の中身とか、ね。(笑)

青い箱が開いてから、映画は更にショート・シークエンスの連続になってくる。
一応映画の進行通りに書き進めていくけど、文章だけ読むと意味不明かもしれないね。(笑)

赤い髪の女が部屋にいる。
ベティの叔母でカナダに行っていたはずでは?
何もなかったわよね、と室内を点検。
床に転がっていたはずの青い箱は見当たらない。

ダイアン・セルウィンと全く同じポーズでベッドに横になっている黒髪の女性。
「へい、かわい子ちゃん、起きる時間だよ」
ドアを開けて入ってきたのは「カウボーイ」だ。

また同じ姿勢でベッドに横になっている女性。
今度は金髪の女性に変化している。
誰かがドアをノックしている。
起き上がったのはベティだったはずの女性。
訪ねてきたのは部屋を交換した、以前の住人。
金髪の女性がダイアン・セルウィンということになるのかな。
「刑事2人があなたを捜してたわよ」
聞いた途端に動揺するダイアン・セルウィン。
「カミーラ、帰ってきたのね」
リタだったはずの黒髪の女性に笑いかけながら、次第に泣き始める。
ダイアンの妄想とか幻覚が映像化されているようだ。

またしてもカミーラとダイアンのラブシーン。
「もうやめましょう」
カミーラから一方的に別れを切り出されるダイアン。
「原因は彼ね?」
カミーラもダイアンも女優で、カミーラは映画監督のアダム・ケシャーと恋仲になっていたのだった。
この場面は実際にあった記憶だと思われる。

着飾ったダイアンの元にカミーラから電話がある。
カミーラがダイアンをパーティに誘っているようだ。
ここで映画冒頭の車のシーンと全く同じマルホランド通りを走る車の映像。
車に乗っているのはダイアンだ。
途中で迎えに来たカミーラに案内されて向かったのはアダム・ケシャーの家だった。

パーティの席で、映画界で働く叔母の遺産が入ったためカナダの田舎町からハリウッドを夢見て上京したこと、カミーラの口利きで女優を続けていられるという話をするダイアン。
聞いているとかわいそうになってしまうような惨めな状態のダイアンである。
そんなダイアンを横目で見ながら、カミーラは意地悪く他の女とイチャついて見せたり、挙げ句の果てにアダム・ケシャーと結婚することも発表し、ダイアンをイジメ抜くのである。
「カウボーイ」が室内を横切る。
悔し涙を流すダイアン。
そんなダイアンの視線を充分に感じていながらも、カミーラは知らん顔である。
んまあ、なんて嫌な女なんでしょ!
恋人関係にあった相手に対してそこまで意地悪できるとは、相当性格悪いよね。 それでもダイアンは、執着心とか嫉妬心を飼い馴らせなかったみたいね。

場面が変わって、またウィンキーズ店内である。
ダイアンが男に会っている。
これはドジを踏んで3人を殺すハメになった男じゃないか?
「This is the girl」
そう言ってダイアンが男に写真を渡す。
この写真はカミーラだね。
自分を捨てて監督との結婚を決めたカミーラへの復讐として、お金で殺しの依頼をしているようだ。
「片付いたらこの鍵を置く」
男が見せたのは青い鍵!
何の鍵かと尋ねると、男はただ笑うだけである。
またここでも「This is the girl」 という同じセリフが登場し、青い鍵も出てきたね。

赤いライト。
ウィンキーズの裏手だ。
映画の初めに登場した「悪夢を見た男」が遭遇した「恐ろしい顔の男」が青い箱を手に座っている。
「恐ろしい顔の男」が青い箱を袋に入れた後、小さな初老の男女が笑いながら袋から出てくる。
この初老の男女は、ベティが飛行機で乗り合わせた人達じゃないか?

テーブルに乗っている青い鍵。
殺し屋の男の仕事が片付いたのだろうか。
その鍵をじっと見つめるダイアン。
ドアをノックする音。
ドアの隙間から侵入する小さな初老の男女はゲラゲラ笑っている。
笑い声はいつの間にか悲鳴に変わり、ノックの音が強くなってくる。
小さかったはずの初老の男女は、いつの間にか等身大に変化し、笑いながらダイアンを追い回す。
錯乱状態になったダイアンはピストルを自らの口に当て、引き金を引く。
「恐ろしい男の顔」と「クラブ・シレンシオ」のオーバーラップ。
笑い合うベティと金髪のリタが薄ぼんやりと映し出される。
背景はハイウッドの夜景である。
このシーンはダイアンの人生回顧(ライフレビュー)なのではなかろうか。
愛にも夢にも絶望してしまったダイアンの最期である。

クラブ・シレンシオ。
青いライトの中、ステージには誰もいない。
青いライトが徐々に消えていく様子を見やっていた青い髪の観客の女性が一言。
「Silencio」

青い髪の女性は、ベティとリタが「クラブ・シレンシオ」を訪れた時にも座っていたんだよね。
この女性だけが残っていて、更に青い髪、というのもポイントなんだろうな。
「マルホランド・ドライブ」には青色がたくさん出てくるよね。
青い箱、青い鍵、青い髪、青い光。
それらの関係を考えると謎解きになるのかもしれないね?

ひ~!
軽くまとめるつもりがこんなに長くなってしまった!
「マルホランド・ドライブ」は複雑だから簡単に、なんて無理だよね。(笑)
迷宮系3部作の1作目である「ロスト・ハイウェイ」にも出てきた、同じ俳優が演じる複数の役柄というのが「マルホランド・ドライブ」にも採用されているね。
ベティ/ダイアン、リタ/カミーラという2人の女性。
恐らく本当はダイアンとカミーラなんだろうな。
その2人以外にもたくさんの人物の本当の姿が釈然としないよね。
どの時系列が正しいのか、現実にあった事と妄想や夢との違いの分かりにくさに加えて青い箱と鍵やら「クラブ・シレンシオ」のような怪しげな場所が混在しているので、何回観ても難解なんだよね。(ぷっ!)

「マルホランド・ドライブ」の解釈については、様々出ているようだ。
青い箱を開ける前までを前半でダイアンの妄想(もしくは夢)として、箱が開いた後がダイアンの現実とする意見が大多数みたい。
確かに青い箱のシーンから後の部分というのは、細かいエピソードが連続しているので混乱してしまうよね。

時系列に直して鑑賞しても良し。
リンチによって提示されたそのままを、解釈などせずに受け入れるも良し。
SNAKEPIPEは「謎は謎のままで良い」というリンチの言葉通り、後者でいこうと思う。

このブログの冒頭で書いた夢の話の続きを書いてみよう。
夢の中では、テレビでしか見たことがない人と会話していたり、行ったことがない場所にいたりする。
つながるはずのないAとBが混在したり、Cの場所からいきなりDの地点に移動していることもある。
脈略のないストーリーが展開されることも多いよね。
そういった夢ではお馴染みの手法を採用したのが、「マルホランド・ドライブ」なんだろうね。
自分の夢でも整理して説明できないんだから、他人の夢を見させられたら困惑するに違いない。
理不尽で整合性がないのは当たり前!
わからなくたって いいじゃないか ゆめだもの みつを

好き好きアーツ!#20 鳥飼否宇 part5–憑き物–

【いくつかの画像をアレンジして作ってみたよ!】

SNAKEPIPE WROTE:

大ファンの作家、鳥飼否宇先生の「観察者シリーズ」「物の怪」が発売されたのは2011年9月のこと。
興奮しながら読み、拙い感想は「好き好きアーツ!#12 鳥飼否宇 part3 –物の怪–」としてまとめさせて頂いている。
「観察者シリーズ」とは何かということに関しても、説明させて頂いているので、ご存知ない方はご参照下さいませ!
この時にも鳥飼先生から直々にコメントを頂戴してるんだよね。(笑)
鳥飼先生、いつも当ブログを読んで頂きありがとうございます!

待ちに待った「観察者シリーズ」次回作の刊行を知り、早速予約注文をしたSNAKEPIPEとROCKHURRAH。
そして鳥飼先生の最新作「憑き物」は無事に到着!
タイトルのおどろおどろしさが気になるね。
京極夏彦坂東眞砂子の小説にも出てきた題材だけど、まずは初めに≪憑き物≫の意味について調べてみようか。

人に乗り移って、その人に災いをなすと信じられている動物霊や生霊・死霊。
これに取りつかれると,精神に変調をきたすといわれる。
狐憑き・犬神(狗神)憑き。物の怪。(大辞林より)

≪憑き物≫は家系によって起こるとされ、その一家は≪憑き物筋≫と呼ばれたそうだ。
≪憑き物筋≫は憑いた霊を使役し呪う能力があると恐れられ敬遠されながらも、他人に憑いた霊を払い落とすことができるという評判もあり、民間宗教として成立していたという。
「狐憑き」に関する最古の記述が「今昔物語」にあるというから驚いちゃうよね!
憑依する動物はキツネの他にも「人狐(にんこ)」、「クダ」、「ヤコ(野狐)」、「ゲドウ(外道)」、「犬神(狗神)」、「オサキ」、「イヅナ(飯綱)」など、聞いたことがない名前もたくさん登場してバラエティ豊富!(笑)
それらの伝承は日本各地に残っているようだ。

動物霊が憑く以外に、トランス状態に入って「霊」との交信をするシャーマニズムも≪憑き物≫といえるよね。
パッと思いつくのは青森のイタコや、 映画で観たブードゥー教の儀式で卒倒するような憑依シーン、他には映画「エクソシスト」で悪魔に取り憑かれた少女も有名だよね。
死者の言葉や神霊・精霊の代弁者としての役割を果たす霊媒師。
シャーマニズムにも種類がたくさんあって、世界中で行われ認知されている宗教現象ということがわかる。
どのタイプの≪憑き物≫にしても、信じる信じないを個人に託すような、ちょっと胡散臭いオカルト的な存在と言っていいのかもしれない。
付け焼刃で説明文を書いたので、もっと詳しい説明が必要な方は専門書を読んでね。(笑)

調べたら余計におどろおどろしさが増してしまった≪憑き物≫という言葉。
鳥飼先生は一体どんなお話を展開されているんだろう?
さあ、勇気を出してページをめくってみようか。(笑)
「憑き物」は4つの短編で構成されている。
いつもと同じようにそれぞれについて感想を書き進めてみようかな!
※細心の注意を払って書いているつもりですが、万が一ネタバレになるような記載があった場合はお許し下さい。特に未読の方は注意願います。

1:幽き声

植物写真家のネコこと猫田夏海が登場!
なんだか旧友に会ったような気分でホッとしてしまう。
「久しぶり~!元気?」
って感じかな。(笑)
写真好きな女性というだけでもネコとは共通点があるけれど、やっぱりネコも人が多いのが苦手だったとは!
ネコとは仲良くなれると思う。(笑)
そのネコが岩手県の早池峰山に行くところから話が始まる。
山麓最奥部のひっそりとした民宿に泊まり、そこで偶然惨劇に遭遇するのである。
美少女の出現。
地元限定のシャーマニズム。
物理的・地理的な密室状態。
怪しげな要素満載ね。(笑)
事件のあらましについて、神野先輩の店「ネオフォビア」で語るネコの横で話を聞いてきたのが「観察者」(ウォッチャー)鳶さんこと鳶山久志。
読んでいた「逆光」を閉じる、と書いてある。
確か「中空」の時には「重力の虹」だったよね。(笑)

それにしても鳶さん、またネコに厳し過ぎ!
上の画像の動物達についての違いが判る人ってあんまりいないよね?(笑)
鳶さんが羅列した動物達を並べてみたんだけど、顔のアップだけだと余計に難しいかも。
「嘆かわしい」とまで言われてしまって、ネコがかわいそうになってしまう。
生物に関しての妥協は一切許さないけれど、ネコが遭遇した事件に興味を持った鳶さんは、ネコと謎解きの旅に出るのである。
あれよ、あれよという間に謎を解いてしまった鳶さん。
なるほど、そういうことだったのねえ。

年齢を重ねると、聞き分けることのできる周波数に変化が生じることを知ってびっくり!
気付かないうちに蚊に刺されていたのは加齢のせいだったのね。(笑)
大変勉強になりました!

2:呻き淵

中国地方・大山での撮影を終えたネコは、山間部の農村でしばらくオフタイムを過ごすことにした。
たまたま知り合った土地の有力者の家に居候するのである。
仕事のためとはいえ、日本全国を飛び回り、時間的にかなりの余裕のあるネコの暮らしぶりは羨ましいね。
毎日の通勤ラッシュなんて無縁だろうからね。(笑)
散歩しながら写真を撮り、ゆったりした時間を過ごすネコ。
そしてある日ネコは、見るはずのないものを見てしまうのだった・・・。

この「呻き淵」が「憑き物」の中で一番怖かった!
昔から伝わる伝承。
集落から離れた廃屋。
そして怪奇現象。
ネコが体験したシーンは、SNAKEPIPEの頭の中で完璧に映像化され、ぞわぞわと恐怖が全身を包み込む!
もうこれはホラーだよっ!
生物系オタク・ミステリーホラー!(意味不明)
昔よく一人で撮影に行き、無人の場所を歩いた経験があるSNAKEPIPEには想像しやすかったのかもしれないね。
またもや合流した鳶さんの出現で、謎は一気に解明されていく。
ははあ、なるほどねえ。

「呻き淵」の中でとても気になったのは、土地の有力者の奥さん。
この奥さん、語尾を濁して喋るクセがあるんだよね。
濁していながら、意外と重要な事を言ってるところが面白かった。(笑)
きっとモヤモヤさせられるんだろうなー!
本当にこういう人、いそうだよね。

3:冥き森

3つめのお話の舞台は鳥飼先生がお住まいの奄美大島である。
絶滅危惧種の野生ランを撮影をするためにネコが訪れた奄美大島には、ネコの高校時代のクラスメイトが嫁いでいたのだった。
しばらくぶりの再会シーンは、読んでる妙齢の女性にはキツいなあ。
「全然変わってないねー!」
はSNAKEPIPEも使う言葉だし、よく聞く言葉でもある。
何割かはサービスだったのか。(しょぼーん)
相手に本気で言ってもらえるように努力しないと。(笑)

女同士の近況報告というのは、とりとめもなく長時間続くものだ。
話があちこちに飛んだり、また戻ったりしながら、なんとなく自分なりに話を解釈し、納得することも多い。
元クラスメイトとネコも、明るいうちから酒を飲みながら、そんな時間を過ごしていたのだろう。
その話の流れの中に霊媒師の話が登場する。
病気の夫を占ってもらうために、霊媒師を呼ぶのだという。
そしてその祈祷の席にネコと、たまたまその家に立ち寄った鳶さんも同席することになるのである。

この霊媒師のインパクトがすごい!
白装束で車椅子に乗った、100歳を越えているようなヨボヨボの老人。
勾玉のネックレスを首から下げ、枯れた樹の皮で編んだ冠をかぶっているなんて、まさに宗教的な正装って感じ。
SNAKEPIPEには、この霊媒師の姿が草間彌生と重なっちゃうんだよね。(笑)
草間彌生が本の中で、離人症だったことや幻覚や幻聴に襲われた経験について語っていたことや、村上龍原作・監督の映画「トパーズ」で占い師役を演じていたことも由来しているのかもしれない。
そういえば、CMでオカッパのヅラをかぶった樹木希林を草間彌生と間違えてしまったんだけど、似てると思った人も多いと思う。
SNAKEPIPEは、霊媒師のイメージを草間彌生(もしくは樹木希林)に固定したまま読み進めてしまったよ。 (笑)

「冥き森」は「観察者シリーズ」の中でも特殊な部類に入る物語じゃないかな。
鳶さんが謎解きをして事件を解決する、という基本的な流れは同じなんだけど、○○が×××××××××じゃないこと、△△△が○○を××していなかったこと、などが特殊だと感じた理由なんだよね。
詳しく語れないから山口百恵の「美・サイレント」風に記述してみたよ。(笑)
鳶さんの博識と考察力や観察力による種明かしは、毎度のことながらスッキリするね!

ところが!
最後のページで再び疑問が湧いてしまう。
鳶さんの顔が蒼白になった?
えー!意味が解らないよー!

4:憑き物

そうだった。
もう一つ話が残っているんだった、と安堵するSNAKEPIPE。
4つ目のお話は、奄美大島での事件から3ヶ月が経過し、事件について神野先輩の店「ネオフォビア」でネコが語るシーンから始まる。
時系列になっていることから、「冥き森」のラストの意味も解明されるのではと期待しちゃうね。(笑)
神野先輩とネコに、自分に憑き物が憑いている、と言い出す鳶さん。
その憑き物の正体を暴くべく、再びネコと一緒に謎解きの旅に出るのである。

「冥き森」と「憑き物」は、映画での題材にもなっているし、実際にニュースにもなっているような問題が扱われている。
核心に触れる部分なので詳しくは語らないけれど、毎年のように新たな脅威が発見されるのは、とても怖いと思う。

最後の謎解きも完了して、鳶さんに憑いていた物も落ちたようだ。
その代わりまた、最後のネコの言葉に謎を感じてしまったSNAKEPIPE。
でももしかしたらそれは、鳶さんに限ったことじゃないのでは?(笑)

約1年半ぶりの「観察者シリーズ」である「憑き物」を、短時間で一気に読み切ってしまった。
ページをめくるのがもどかしいほどのスピード。(笑)
とても面白くて、大満足だった!
ひとつだけSNAKEPIPEが物足りなさを感じたのは、ジンベーが登場しなかったことかな。
きっと個展の準備で忙しかったんだったんだろう、と勝手に想像する。(笑)

それにしてもネコの事件遭遇率の高いこと!
「こういう場面には比較的慣れてます」
と発言した場面では笑ってしまった。
そして待ち合わせてもいないのに鳶さんとバッタリ出くわすのは、やっぱり縁があるんだろうね。
憎まれ口を叩きながらも、仲の良いネコと鳶さんコンビは微笑ましい。
今度はどんな事件に遭遇するんだろう?
次回作も楽しみにお待ちしております! (笑)

好き好きアーツ!#19 DAVID LYNCH—LOST HIGHWAY

【ロスト・ハイウェイのトレイラー】

SNAKEPIPE WROTE:

2000年より前のこと、自分でHPを制作し、例えば写真作品を発表したり、観た映画の感想を書き連ねていたことがある。
あの頃はまだホームページビルダーを使ってたりして、恥ずかしいページだったんだよね。(笑)
もうどこにも残っていないことを望むなあ。
その時にも当然のように敬愛するデヴィッド・リンチ監督の映画について書いた。 「ブルーベルベット」について、かなり真剣に感想をまとめたっけ。(遠い目)
ROCKHURRAH RECORDSのブログを開始してから、リンチの様々な話題を取り上げているけれど、映画についてはほとんど書いていないことに気付いたよ!
こんなに長い間リンチの作品に触れていながら、なんたる失態!
これから少しずつ、リンチ作品を振り返って紹介していきたいと思う。

ロスト・ハイウェイ」(原題:Lost Highway 1997年)
マルホランド・ドライブ」(原題:Mulholland Drive 2001年)
インランド・エンパイア」(原題:Inland Empire 2006年)

上記の3本は「こっち」と「あっち」というような複数の世界を行き来する映画だ。
リンチは「イレイザーヘッド」より前から夢想シーンを織り交ぜた映像作りをしているし、シュールな映画は特にこの3本だけということはないけれど、ここ最近の3部作として扱っていきたいと思う。
今回は3部作の1番目「ロスト・ハイウェイ」について書いていくことにする。
1997年というと16年前になるんだねー。
割と最近観たと思ってたのに。(トホホ)

「ロスト・ハイウェイ」についてのあらすじは必要ないだろう。
妻の浮気を疑った夫が、挙句の果てに妻を殺す、という話だからね。
えっ、乱暴過ぎ?(笑)
Wikipediaに冒頭部分などの記載があるので、そちらを参考にされるとよろしい。
SNAKEPIPEは気になった部分だけを紹介していくつもり。
自分のためのメモみたいな感じかな。
それでもネタバレになることもあるので、観てない方は注意して下さい


リンチの映画には必ずといって良い程登場するのが異形の役者。
「ロスト・ハイウェイ」ではロバート・ブレイクがミステリーマンを演じている。
白塗りメイクでまばたきしないまま話をする、かなり不気味な存在!(写真左)
そのままでも充分異形なのに、逆光で見えない妻・レネエの顔が、いつの間にかミステリーマンになっているシーンがあるんだよね!
右の写真なんだけど、ロン毛のヅラを被って、女装よ!
旦那であるフレッドが「ヒィッ!」と声を上げるんだけど、これはかなり怖いよね。
どう、こんな人が隣に寝てたら?(笑)

ミステリーマンの正体は、人によって解釈があると思うけれど、やっぱりフレッドの妄想とか想像の産物ということで良いように思う。
ラスト近くでミステリーマンがフレッドに何やらゴニョゴニョと耳打ちする。
この耳打ちっていうのは、リンチファンにはお馴染みだよね。
ツイン・ピークス」でローラ・パーマーがクーパー捜査官に耳打ちする、あのシーンね。
今、Wikipedia読んで初めて知ったけど、クーパー捜査官のフルネームって
「デイル・バーソロミュー・クーパー」っていうんだね?
バーソロミューといえば、バーソロミュー・くま!
もしかしてクーパー捜査官の名前をもじったのかな?
話が脱線してしまった。(笑)

ミステリーマンは耳打ちしたあと、すっかり画面から消えちゃうんだよね。
直前まで持ってたピストルも、いつの間にかフレッドの手に渡ってるし。
それ以降は登場しない。(この表現で良いのかは疑問だけど)
「自分なりの解釈で記憶する」と話していた、フレッドの記憶にはもう出てこない、ということで良いのかしらね。


解釈が人それぞれ違ってくるだろうと思われる、もう一つはビデオテープ。
何者かによって届けられる謎のビデオ・テープは、最初はフレッド宅の外観だけを写した「不動産屋よ、きっと」レベルの軽いものだった。
一番最後に出てきたのは、上の画像のような凄惨な殺害現場。
サブリミナルのように、パッパッと画像が移り変わるので、何度も静止させながら確認すると、完全に上半身と下半身を真っ二つにされ、手足がバラバラに切断された現場を観ることができる。
カメラに向かって泣きながら大声を上げる血まみれのフレッド。
どうあがいても、このビデオが証拠で有罪判決間違いないでしょう。
ところで、このビデオテープは本当に実在してたんだろうか?


SNAKEPIPEが大好きなシーンは、ミスター・エディことディック・ロラントが交通ルールを守らないヤツをコテンパンにやっつけるところ。
後ろから来た車が煽ってきた、というのが怒りの理由。
更に追い越して行く時に、中指立てるポーズで挑発してきたところで、キレ・モードにスイッチオン!
スピード上げて前の車を追いかけ、後ろから追突すること数回。
銃を突きつけ、運転手を引きずり出し、殴る蹴るの暴行を加える。
これだけなら普通なんだけど、ここで説教するのが面白い。
「おまえみたいなバカのせいで昨年は5万人事故で死んでるんだ!」
なんて非常にマトモな演説を、強面の人が言うパラドックス的な感覚。
ここらへんがリンチの言う「ハッピー・バイオレンス」なのかもしれないね?
キレるキャラクターは、「ブルーベルベット」のフランク・ブースこと、デニス・ホッパーが秀逸だったよね。
ディック・ロラント役のロバート・ロッジアも、かなり良い味出してたね。


フレッドの妻であるレネエ(もしくはアリス)は、ポルノ女優だった!
そのポルノ映像が上の写真なんだけど、ここだけカットしてみると、マドンナに見えてしまうのはSNAKEPIPEだけかしら?
ディック・ロラントと、いかにも不健全な商売してます風の男・アンディは、ポルノ映画やスナッフ系のビデオを制作・販売していたようだ。
そこにレネエも加わり、結婚後も彼らとの関係を断ち切らなかった。
クラブで演奏をするのが生業の夫が外出すると、レネエはかつての男達に会いに出かける。
レネエの本来の姿は、フレッドの妻ではなかったのかもしれないね。
夫婦間の冷めた会話や態度、視線の動かし方は、全然フレッドを愛してるようには見えないからね。
どうしてフレッドとレネエが結婚したのか、馴れ初めを聞いてみたいよね!(笑)


ディック・ロラントとアンディが制作していたビデオを、皆で酒を飲みながら鑑賞しているシーンがある。
そのビデオは、今だったらR指定がされてしまうような内容なんだけど、その中にマリリン・マンソンが出てるんだよね。
それが上の写真!
マリリン・マンソンはこの映画のサントラにも「I Put A Spell On You」で参加していて、「アイラブユーーー」とヒステリックに叫んでる。
そんな風に愛してると言われたら、相手は逃げるわ!って感じね。(笑)
多分これはスナッフ系のビデオだと思うので、リンチファンからみると羨ましい限り!
リンチの映画に死体で出られる、もしくは殺される役をやるっていうのは憧れだもんね。(←解ってくれる人はいると思う)


上はラスト近く、フレッドが逃走を図ってる時の映像の静止画像。
流して観てる時には、フレッドの顔がカクカクしてたり、歪んでいたり、目が素早くあらぬ方向を見たりして精神や肉体が崩壊していく様を見ている気分になる。
実際、その時のフレッドは妻殺しのみならず、他に2人を殺し追われている身だから、壊れていくのは仕方ないのかもしれない。
静止画にして気になったのは、上の写真の口と、またまた登場のフランシス・ベーコン!
左の絵は口だけの部分なんだけど、良く似てるよね。
「ツイン・ピークス」の時にも、叫ぶ口を映像として取り入れていたリンチだけど、今回は歯がガタガタになってるよね。
これはもうフレッドではない、他の何者か、だね。
「Who are you?」ってミステリーマンにも尋ねられてたもんね、フレッド。

フレッド/ピート、レネエ/アリスの入れ替わりや、「ドグラ・マグラ形式」の作り、そしてミステリーマンやビデオテープの存在については、例えばリンチ評論家の滝本誠氏などが詳しく論じてくれてるから、SNAKEPIPEみたいな素人が発言することもないだろう。
「謎は謎のままでいい」
というリンチの言葉通り、シークエンスの羅列として楽しめば良いと思っている。
2007年5月の記事「かもめはかもめ、リンチはリンチ」に、少しだけ「ロスト・ハイウェイ」について書いていたSNAKEPIPE。

リンチは実際に瞑想をしているし、夢と現実の境がないような映像が得意なので、支離滅裂で筋が通ってないストーリーでも何の問題もなく提示してくる。
リンチの夢想の世界をすべて理解なんてできないのは当然だろう。

すでに6年前、なんとも簡潔に感想を要約して書いてたね。(笑)
それをもう少し掘り下げて書くことができて、良かった。
また日を改めて「好き好きアーツ!」の特集として、リンチの迷宮系3部作第2弾「マルホランド・ドライブ」を書く予定である。
今からとても楽しみだ。