蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる 鑑賞

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【国立新美術館の看板を撮影。いつも通り!】

SNAKEPIPE WROTE:

蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」の開催を知ったのは、国立新美術館の別会場で開催されている「テート美術館展」を調べていたからだった。
どちらの展覧会も非常に楽しみ!
本当は2つを同時に鑑賞しようかと思っていたけれど、体力が持つかどうか不安。(笑)
この夏に行われるビッグ・イベントを一日で消化してしまうのも惜しい。
そのためまずは会期が短い蔡國強展を先に鑑賞することにしたのである。

蔡國強といえば、2015年10月に横浜美術館で開催された「蔡國強展 帰去来」が記憶に残っているよ。
あの時に感じたインパクトは今でも強く残っている。
8年も前だったとは、びっくりだね。(笑)

Netflixで鑑賞できる「空のはしご」という蔡國強のドキュメンタリーも観たっけ。
構想から20年、空へと続く燃えるはしごを架けるプロジェクトなんだよね。
蔡國強の作品への情熱のみならず、バックグラウンドや人柄にも迫り、見ごたえがあったよ。
9年間日本に住んでいた蔡國強、日本語が堪能なんだよね!
親近感が湧くよ。(笑)

今回はどんな展示がされているんだろう?
ワクワクしちゃうよね!

夕方になっても強い日差しが照りつける六本木に、ROCKHURRAHと向かう。
コロナ真っ盛りの頃にはオンライン予約で日時指定が必須だったはずなのに、今はもうオンラインでチケットを購入するだけのサービスになっていた。
オンラインでも直接窓口で購入してもチケットの金額は同じなんだよね。
今回は窓口で購入することにした。

蔡國強展は6月29日から始まっていたので、少し落ち着いた頃じゃないかと見込んだSNAKEPIPEの予想はほぼ当たったかも。
会場が広いせいもあるけれど、苦痛を感じることなく鑑賞することができた。
そして全作品、動画以外は撮影オッケー!
蔡國強の太っ腹な対応に感謝だね。(笑)

展覧会は5つのチャプターで構成されていたようだけど、広い空間に決まった順路はなくて、好きなように歩いて鑑賞することができた。
そのため特に構成を気にせず感想を書いていきたいと思う。
入り口近くに、初期の作品が展示されていたよ。
1985年の「地球はわたしたちの共同の家」は、蔡國強には珍しい油彩画なんだよね。
フランシス・ベーコンの「トリプティク(三幅対)」みたいに、3枚でワンセットの作品。
一番右側の赤い部分は何を意味しているんだろう?

日本の現代美術館が所蔵しているという「胎動II:外星人のためのプロジェクト No. 9」は1991年の作品。
展覧会のタイトル通り、宇宙やビッグバンを思わせる迫力だよね!
中央に、まるで即身仏を思わせる白い人影が見える。
そして右側に、設計図のようなメモ書きが残っているのが面白い。
「こうやって火薬を置くこと」みたいな感じなのかな?(笑)
横幅が6mを超える大型作品なので、遠ざかってかなり後方からじゃないと全体像を把握できないよ。

「闇に帰る」(画像左)と「ノンブランド・非品牌 5」(画像右)は、ガラスと鏡を使用した2019年以降の作品だよ。
砂で曼荼羅を描き、爆破させた「闇に帰る」は、隣に動画が展示されていた。
一度作ってから壊す、という行為がアートなんだね。
どちらの作品も色合いが美しくて、とても気に入ったよ!

2020年の「銀河で氷戯」は横幅9mを超える大型作品で、一枚には収まりきらなかったよ。
ROCKHURRAHがパノラマで撮影してくれた。
ぐるぐるした渦巻きに飲み込まれそうで、めまいがしたよ!
赤い色と流線が、とても中国的に感じる。
任天堂の「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」で、空にドラゴンが舞っている時に流れる音楽が似合いそう。(笑)
人影のように見える白色は、宇宙を漂う魂みたいに見えてくるね。

「cAI™ の受胎告知」は2023年の作品だという。
ガラスと鏡を使った火薬ドローイングの最新作になるんだね!
最初に載せた1991年の「胎動II」から約30年。
作品が洗練されて、色合いや爆破痕の美しさが際立っているよ。
屏風のように展示された作品が他にも数点あって、どの作品も素晴らしいの。
欲しくなってしまったよ。(笑)
蔡國強が進化し続けていることがよく分かるよね!

会場の半分ほどの広さを使って展示されていたのが「未知との遭遇」と題されたインスタレーションだった。
「宇宙にまつわる古今東西のさまざまなイメージをLEDで表現した」という説明があったよ。
くるくると回転したり、LEDの光が七色に変化していく。
タイトルにちなんだモチーフは、特に新鮮味がなく、蔡國強らしさを感じることはできなかったのが残念。

大きな会場から少し外れた場所に「蔡國強といわき」という別会場が設けられていた。
1986年から9年間、日本で生活していた蔡國強にとって、第二のふるさとと呼ぶのが福島県いわき市なんだとか。
2023年6月に、ファッション・ブランドであるイヴ・サンローランの協力を得て、いわきプロジェクト「満天の桜が咲く日」を実行したという。
この映像が素晴らしいの!

Netflixで観た「空のはしご」も感動的だったけれど、浜辺に咲く桜にも驚いたよ。
今まで観たことがない風景を現実化してくれるイリュージョニスト!
構想しているけれど、未だに実現していないプロジェクトが100以上あるという。
これから先に、どんな景色を見せてもらえるのか楽しみだね!

ワールド・クラスルーム 鑑賞

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【展覧会入り口の看板を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

7月5日はROCKHURRAHの誕生日。
おめでとう、ROCKHURRAH!(笑)
ここ数年、誕生日と休日が重なることが少なかったので、今年は休んでお祝いすることにしたよ!
森美術館で開催されている「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」を観に行くことにする。
NHKで放送している「日曜美術館」でも紹介されていたので、どんな作品が展示されているのかある程度知っていたんだよね。
テレビで紹介された作品だけではないので、実物を観てみることにした。
天気の良い暑い日、ROCKHURRAHと六本木に向かう。

前回SNAKEPIPEが森美術館を訪れたのは、2022年3月の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」以来、ROCKHURRAHに至っては2019年12月の「未来と芸術展」からおよそ3年半ぶりの訪問になるんだね。
開館と同時刻に予約していたのにも関わらず、エレベーターを待つお客さんでいっぱい!
こんなに人が多いのかと驚いていたら、どうやら別会場で開催されているディズニー・アニメーションの来場者がほとんどで安心する。
2018年3月に鑑賞した「レアンドロ・エルリッヒ展」で、チケットを購入するまでに約40分程度並んだ苦い経験があったからね。
コロナの影響で、チケット予約制度が確立したのは喜ばしい。
安心感があるからね!

入場すると最初に展示されていたのは、ジョセフ・コスースの「1つと3つのシャベル」。
この作品は撮影禁止だったけれど、テレビでは紹介されていたんだよね。(笑)
同様にヨーゼフ・ボイスが1984年に東京藝術大学で講義をした時の黒板も撮影禁止。
こちらも日曜美術館で説明があった作品だったので、不思議に感じてしまう。
公共放送と一般レベルの撮影の違いってなんだろうね?

撮影オッケーだった作品の感想をまとめてみよう。
展覧会は「国語・算数・理科・社会・哲学・音楽・体育・総合」で区切られていたよ。
かなり「こじつけ」っぽかったけど、面白い試みだよね。(笑)

森村泰昌の作品は「社会」に分類されていた。
画像上は1989年の「肖像(双子)」で、下は2018年の「モデルヌ・オランピア2018」。
マネの「オランピア」をモチーフにした作品を、更にセルフ・カヴァー(?)したということになるんだね。
もう森村さんに何も言うことはありません!
どんどん好きなこと、やっちゃってください!(笑)
楽しみに待ってます!

2009年に森美術館で開催された「アイ・ウェイウェイ展」に行かなかったことを今でも後悔しているSNAKEPIPE。
当時は「中国の現代アーティスト」と聞いても、あまりピンと来なかったんだよね。
「漢時代の壷を落とす」は3枚の連続写真で構成された作品。
漢時代とは前漢と後漢の総称らしく、紀元前206年から紀元後220年までの中国王朝を指すという。
手前も貴重な壺らしいんだけど、「コカ・コーラ」のロゴが描かれていて、社会的なメッセージを投げかけているんだろうね。

パンクロック・スゥラップの作品は、どうやら2017年9月の「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」で鑑賞していたSNAKEPIPE。
作品リストに説明がされていたので、当時撮影した画像を確認してみたら、撮影していたことが判明。
「この作品面白いね」などとROCKHURRAHに話かけていたけれど、2017年のことを失念していたよ。
パンクロック・スゥラップはPUNK ROCKではなくPangrokで、多様なメンバーで構成されたマレーシアのコミュニティだという。
「どうやら3つの国家の統治は簡単にはいかなそうだ」というタイトルの作品は、マレーシア、フィリピン、インドネシア3国の連合体に関しているらしい。
社会派アート集団なんだね。

「Lime Works」から大ファンになった畠山直哉の作品も展示されていたよ。
2011年10月に東京都写真美術館で開催された「畠山直哉展 Natural Stories」以来、まとまった展示を鑑賞するのは久しぶりかもしれないと思っていたら、2017年の「ヨコハマトリエンナーレ」でも作品を鑑賞していたことが分かった。
記憶力が低いなあ。(笑)
「陸前高田シリーズ」は、静謐で彼方が霞み、儚い印象を受ける作品だった。
撮影地を知らないと、日本ではない場所のように見えるスタイリッシュさは健在だね!

青山悟の作品は、「六本木クロッシング2010」「ヨコハマトリエンナーレ2017」でも鑑賞したね。
工業用ミシンでミッチリと刺繍された作品は、インパクトがあるよ。
室内を暗転させ、ポッカリと浮かび上がる展示方法は効果的だったね。
久しぶりに観たけれど、やっぱりとても好きな作品群だよ!
ウチにある工業用ミシンでも作成できるんだろうか?(笑)

今回の展覧会で最も驚いたのがアラヤー・ラートチャムルンスックのビデオ作品だったよ。
「授業」というタイトルで、教授としてアラヤー本人が出演し、引き取り手のない6体の遺体に死についての講義をしている。
ブラック過ぎるブラック・ジョークだよね!
アラヤーの経歴を調べると、「タイのシラパコーン大学で版画を学び、ドイツのブラウンシュヴァイク美術大学に留学し修士号を取得。その後、30年にわたりチェンマイ大学で教鞭をとる(森美術館より)」というから、驚いてしまう。
アラヤーも「サンシャワー展」に出品していたらしいけど、ビデオ作品は最後まで鑑賞することが少ないので記憶に残りにくいよね。
今回の作品はバッチリ覚えたよ!(笑)

宮島達男の作品は見間違うことがないよね!
少し離れて鑑賞すると、床に反射した光まで含めて美しい赤色を堪能できる。
画像は引いた状態(上)とアップ(下)を2枚つなげているよ。
上部は、まるでマーク・ロスコみたいだね!
近づくと、無数の数字が並んでいる。
LEDの一つ一つが生命を表し、9から1へとスピードを変えてカウントしているという。
0は死を意味し暗転するんだとか。
そしてまた9からスタートするというので、輪廻転生なんだね。
デジタルと仏教的な思想が融合した作品、素晴らしい!

杉本博司の「観念の形」シリーズは初めて鑑賞する作品だよ。
三次関数の数式を立体化した小さな模型を撮影したんだとか。
展示された作品の横に書かれていた数式を解くと、あの形になるんだろうね。
建築家がイメージする世界を肖像写真として作品化したという解説を読んだよ。
説明を受けなくてもカッコ良い作品群だけど、説明を受けて更に魅力が増したね!(笑)

2022年7月にミヅマアートギャラリーで開催された「くぼみに眠る海」の宮永愛子も展示されていたよ。
感想をまとめたブログで「全体的にロマンチックな少女趣味だったため、
SNAKEPIPEは少し居心地が悪くなった」と書いている。
今回の展示は全てナフタリンで作成された靴で、可愛らしい作品だったよ。
やっぱりSNAKEPIPEには向いてないかも。(笑)

福岡の太宰府天満宮に所蔵されているという田島美加の作品。
背面からのライトにより、淡い色彩が浮かび上がり神秘的だったよ。
それはまるで原始の記憶を呼び起こすようなイメージ。
夕暮れ時や朝日が昇る空を見ていた遠い祖先を連想してしまう。
田島美加は、ロサンゼルス生まれの日本人だという。
アメリカに生まれ育ったアーティストの作品をもっと観てみたいね!

ヤン・ヘギュの「ソニック・ハイブリッド」は、とてもユニークな作品だった。
まるで子供が描いたロボットみたい。
鑑賞した時は静止していたけれど、どうやら動くみたいだね。
画像左の緑と紫の作品は「移り住む、オオタケにならって」という副題が付いている。
オオタケとは、大竹伸朗ではなく大竹富江というアーティストのことだって。
背景も含めてカラフルで楽しい空間だったよ!

ヤコブ・キルケゴールの「永遠の雲」は、薄衣のようなスクリーンに繰り返し雲が映し出されるビデオ作品だったよ。
ベンチに座って鑑賞してみる。
空っぽの空間に浮かぶ雲は、ゆったりしていて観続けると意識が飛びそうになる。
重低音のサウンドも含めての作品なんだけど、SNAKEPIPEの好みとしては音がないほうが良かったかも。
調べてみるとヤコブ・キルケゴールは、サウンドと映像のアーティストなんだとか。
音がないほうが好きと言ってごめんなさい!(笑)

「ワールド・クラスルーム」は全体的に物足りない展覧会だったかも。
ワールドと銘打ってる割には、アジア中心だったし。
今まで全く知らなかった作品に興奮することが少なかったからね。
前述したように「こじつけ」感が強いな、というのが正直なところ。
次の展覧会に期待だね!(笑)

ポール・ジャクレー フランス人が挑んだ新版画 鑑賞

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【太田記念美術館前の看板を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

太田記念美術館で開催されている「ポール・ジャクレー フランス人が挑んだ新版画」が気になる、とROCKHURRAHが言う。
フランス人の浮世絵ってどういうことだろうね?
ポール・ジャクレーという名前も初めて聞くよ。
まずは経歴を調べてみよう。

1896 パリに生まれる
1899 3歳の時に来日
1907 若礼(ジャクレー)という号で日本画を学ぶ
1929- 毎年南洋諸島に滞在
1934 若礼版画研究所を設立
1945 長野県軽井沢に疎開
1960 糖尿病により死去

明治29年にジャクレーの父親がフランス語の教師として来日して、その後母親と一緒に来日してるんだね。
一時フランスに帰国したようだけど、生涯を日本で過ごしたフランス人なんだって。
日本語はもちろんのこと、書道や音楽、ダンスなどの日本文化を習い、浮世絵と同じ技法で木版画を制作したという。
ジャクレーが着物姿でポーズを取っている画像を見ると、日本文化に慣れ親しんでいる様子がよく分かるよね!
フランス人が手掛けた浮世絵、確かに気になるよ。

6月なのに青空が広がる暑い日、ROCKHURRAHと一緒に原宿に向かう。
表参道駅は先月出かけたけれど、JRの原宿駅を使うのは本当に久しぶりかも。
2人とも若い頃から馴染んでいる場所なので、全く迷わずに太田記念美術館に到着。(笑)
早速会場の中へ。
そこまで多くはなかったけれど、そこそこお客さんが入っていた。
一人で来ている人がほとんどだったので、静かに鑑賞することができたのが良かったよ!
作品の感想をまとめていこう。
太田記念美術館では撮影が禁止されていて残念だった。
載せた画像はSNAKEPIPEの手によるものではないので、ご了承ください!

作品を目にした途端「キレイ!」と感嘆の声が出る。
南方の女性を描いた画家といえばゴーギャンが有名だよね。
ありのままの、野性味溢れる生命体として被写体を捉えたゴーギャンに対して、ジャクレーの作品には優美さが漂う。
浮世絵の大首絵みたいに、人物を大きく描いて背景には手を加えていないんだよね。
なんとも言えない中間色の美しさ。
版画作品でこんな色を観たのは初めてかも。

横座りしている女性が眺めているのは極楽鳥だという。
赤いターバンの布と鳥が呼応していて、見事な構図。
優雅な極楽鳥を間近で鑑賞できるなんて、羨ましいね!
上の女性たちも同様だけど、身につけている服の模様が細かく表現されていて、異国情緒をより一層感じさせるよ。
昭和初期に毎年海外を訪れ、水彩画を描いていたというジャクレー。
その絵を基に版画にしていたという。
モデルになった島の女性たちが、これらの作品を目にしたら喜ぶだろうね。(笑)

ジャクレーが男性をモデルにした作品もあるんだよね。
左は人形を手にしている中国の少年。
背景の黄色、敷物の赤、青い着物というくっきりした色使い。
背景を細かく描きこまないのに、ぽっくりを履いた人形や横に置かれた装身具は細かく描写されているよ。
右はモンゴルの王族が鷹狩りをしている様子だって。
すでに鳥やうさぎを仕留めていて、優秀な鷹のようだね。
モンゴル王族の着衣はもちろん、鷹や帽子についた孔雀の羽がいかにも日本画らしくて素晴らしい!
ジャクレーの作品を鑑賞すると、海外旅行に行った気分になっただろうね。

左は、真珠の飾りを頭に着けた満州の婦人だって。
とても裕福な身分なのか、身につけているもの全てゴージャスじゃない?
中でもSNAKEPIPEの目に留まったのは、薬指と小指につけた装身具。
これは「指甲套(しこうとう)」と呼ばれるアクセサリーで、身分の高さを表していたんだとか。
薄い絹から見える表情に貫禄があるよね!
右は陶磁に腰掛ける中国旧家の上流婦人だという。
タイトルを知らなかったら、男性に見えてしまうね。
まるで花輪和一が描いた漫画みたいな顔立ち、とROCKHURRAHとひそひそ話す。
もしかしたらジャクレーからの影響を受けたかもしれないよね?

今回の展覧会で最も惹かれたのが「満州宮廷の王女たち」という連作だよ!
日本の浮世絵では通常の場合、多くても20回の摺りで完成させるらしいけれど、「満州宮廷の王女たち」は223回摺っているんだって!
摺りが少ない作品でも113回だというから驚いてしまう。
これほど回数を重ねた理由は「色を出すため」だったというから、ジャクレーの美意識の高さが良く分かるよね。
ジャクレーには彫師と摺師がいて、摺師の談話によれば摺ることは問題ないけれど、色が難しかったらしい。
SNAKEPIPEが驚くのは、そこまで摺っても問題ない和紙があったこと。
特別注文していたらしいけど、ジャクレーの絵師としての才能以外にも、材料やスタッフの存在全てが噛み合って、唯一無二の作品が完成したんだね!

細やかな絵とビビッドな中間色は、豪華絢爛で華やかだった。
ジャクレーの作品は、アメリカ人が好んで買い求めたというエピソードも納得だよ。
東洋の神秘という言葉通りの、エキゾチックで極彩色の世界を独り占めできるんだもんね。(笑)

印刷やインターネット画像では色が違っていて、実物のほうがくっきりしていて鮮やかだったよ。
今まで知らなかったジャクレーの世界を観られて良かった!
教えてくれたROCKHURRAHに感謝だね。

横尾忠則 銀座番外地 Tadanori Yokoo My Black Holes 鑑賞

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【gggの壁一面に高倉健がっ!】

SNAKEPIPE WROTE:

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(通称ggg)で開催しているのは、「横尾忠則 銀座番外地 Tadanori Yokoo My Black Holes」。
これは版画やポスターなどにするための原画や、版下など作品に仕上げるまでのプロセスを見せてくれる企画展だという。
2021年7月には東京都現代美術館で「GENKYO展」、2021年10月には21_21 DESIGN SIGHTで「The Artists展」など、横尾忠則の展覧会を鑑賞してきたけれど、舞台裏を覗かせてくれるとは楽しみ!
ROCKHURRAHと一緒に銀座に出かけたのである。

gggに到着すると必ず建物の外観を撮影するSNAKEPIPEだけれど、壁一面に高倉健が描かれていて驚く。
過去に数回、gggで横尾忠則展を開催していたようだけど、ROCKHURRAHとSNAKEPIPEは鑑賞していなかったみたいだね。
もしかしたら今までにも、壁一面に横尾作品が描かれていたのかもしれないな。

会場に入り、念のため撮影について問い合わせ、許可を確認する。
受付前に置かれていた作品集などに目をやっていたSNAKEPIPEは、ROCKHURRAHの驚きの声を聞く。
「ちょっと!これ、見て!」
指差す場所には訪問者が名前を記す芳名帳があり、開かれたページの最初の行に
「みうらじゅん」
と書いてあるじゃないの!
あの「みうらじゅん」も同日の、もしかしたら10分前かもしれない時刻にgggを訪れていたことが判明したから狂喜しちゃうよね。(笑)
「これは大変!」
慌ててスマホを取り出し、芳名帳を撮影しようとした瞬間、
「撮影はご遠慮ください」
と受付から注意を受ける。
まあ、確かに個人情報だからね。
スミマセン、とスマホをしまうSNAKEPIPE。
その後も他のお客さんが同様の行為を受付から注意されているのを目撃したよ。(笑)
「みうらじゅん」の人気ぶりがよく分かる。
そしてニアミスで「みうらじゅん」に遭遇できたかもしれないと思うと、とても残念だよ。

芳名帳のある受付から背後に広がる展示スペースを見ると、壁やケースには、所狭しと作品が展示されている。
企画展のサイトによれば「1960年から80年代に制作された作品資料、18000点の中から250点を厳選した」らしい。
無料の展覧会で、ここまでのボリュームとは信じられないくらいの太っ腹!
先に書いた「The Artists展」も無料だったことを思い出す。
大企業がスポンサーになって実現する文化振興、本当にありがたいよね。

今回の企画展には作品リストがなかったようだよ。
作品の展示ではないからね。(笑)
60年代の雰囲気が色濃く見える雑誌の表紙が並んでいる。
2021年1月にgggで開催された「石岡瑛子 グラフィックデザインはサバイブできるか」でも、ポスター作成にあたり色指定やフォントの調整など、本人が指示をメモしている展示があったっけ。
印刷物の作成には、多くの段階があることがわかるね。

江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」の文字が見える。
装丁を担当したのかもしれないね。
こんな本があったら欲しいよ!
右側は1997年に「サンストリート亀戸」のオープンを告知したポスター。
このポスター、実はSNAKEPIPE所持していて、以前は部屋に飾ってたんだよね。
下絵を発見したROCKHURRAHが慌ててSNAKEPIPEを呼びに来てくれた。
ラフなスケッチの段階で、ほぼ完成図に近い状態だと分かり感激する。
ポスター作成の第一ステップだろうね。
とても嬉しかったよ!
「サンストリート亀戸」は今はもうなくて、「カメイドクロック」という商業施設になっているらしいから、歴史を感じてしまうね。(笑)

画像左は「電報シリーズ」といったら良いのか、コラージュ作品に見えるんだよね。
水兵と恋人(?)は、女性が「ぞんざい」な描き方をされていて可愛らしい。(笑)
赤と青は愛し合う男女を描いたクローズアップだね。
この2枚がとても気に入ったSNAKEPIPEだよ!
画像右はアーチ状に「TADANORI YOKOO」と書かれていて、60年代に制作された「Climax at the Age of 29」と同じように見えるよ。
中央で首を吊っているポスター、見たことないかな?
こちらも制作のプロセスがよく分かって興味深い。
グリコのポーズの、顔部分を横尾忠則本人に差し替えたバージョンが完成形みたいだね。(笑)

建物の壁にも描かれていた「新網走番外地」の高倉健。
3枚並んでいて、右と真ん中をミックスさせて一番左の作品になっているのかな?
版画に近い方法だよね。
浅丘ルリ子は横尾忠則のアイドルだった話は以前読んだことがあるよ。
ヌードを想像して作成されたシルクスクリーンの原画なのかな。
線画の時点でこの完成度の高さは素晴らしいよね。
横尾忠則が刀を持ってポーズを決めているのは「一柳慧作曲 オペラ横尾忠則を歌う」のレコード・ジャケットで使用された作品だね。
1969年発売のレコードということは、大島渚監督の「新宿泥棒日記」と同じ年。
グラフィック・デザイナーとしてだけではなく、俳優や歌手などでも活躍していたんだね。

会場は1Fと地下に分かれている。
第2会場へは階段を使うんだけど、そこから企画展のタイトル通り「ブラック・ホール」へと入っていくんだよね。
紫と緑のライトが暗闇をほんのりと照らす。
階段が見づらかったのか、前を歩いていた初老の男性が足を踏み外すシーンを目撃してしまった!
気をつけないと怪我しちゃうね。(笑)
ROCKHURRAHと無事に(?)地下に到着したよ。

地下は真っ暗で、作品にだけ照明があたっているので、とても見やすい!
撮影した画像も、くっきりだよね。
ピカソや俵屋宗達、モネやマティスのパロディのような作品が並んでいた。
子供の頃から模写が得意だったという横尾忠則、さすがに上手!(笑)
暗闇に鮮やかな色彩が浮かんで、とても美しかったよ。

横尾忠則が精神世界に通じていることは、以前から知っていた。
死をテーマにした作品も多いし、天使やUFOについて対談している本を読んだこともあったっけ。
載せた画像左は仏像の手で右は幽体離脱を描いているみたい。
横尾忠則にとって、眠って夢を見ることも現実の一部であるというので、毎晩幽体離脱しているといえるのかもしれない。
江戸川乱歩の「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」という言葉とは違って、横尾忠則にとっては「うつし世も 夜の夢もまこと」ということなんだろうね。

これらの作品を観た時に、荒木経惟の「センチメンタルな旅」を連想したSNAKEPIPE。
アラーキー同様、横尾忠則も愛妻家で有名だからね!
奥様との思い出を描いているのかな、と勝手に想像したよ。
載せた画像は初めて観た作品だね。

250点もの作品を充分に満喫させてもらったよ!
60年代からの作品資料をずっと保管していることもすごいと思う。
普段は見られない制作過程を鑑賞できて、とても興味深かったね!