「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 鑑賞

20240121 top
【松濤美術館入り口の看板を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

「この展覧会が気になる」
ROCKHURRAHから誘われたのは渋谷区立松濤美術館で開催されている『「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄』だった。
かつて写真の勉強をしていたSNAKEPIPEには聞き覚えのある写真家の名前が並んでいる。
そしてタイトルに「前衛」という単語があるじゃないの!
この言葉に弱いんだよね(笑)
松濤美術館は、2023年5月の「エドワード・ゴーリーを巡る旅」以来になるよ。
雨から雪になるかもという寒い日、ROCKHURRAHと一緒に出かけたのである。

残念ながら松濤美術館は展示作品の撮影が禁止されているんだよね。
「ここだけはオッケー」みたいに指定された場合のみ、許可されていたことがあったっけ。
『前衛」写真の精神:なんでもないものの変容』は、2023年4月の千葉市美術館からスタートして新潟、富山と巡回し、最後に松濤美術館での開催になっているらしい。
他の美術館でも撮影禁止だったのかな?

渋谷に着くと、予報通り雨が降ってきた。
松濤美術館までは道のりが長いので、ポチポチだけど傘をさして歩くことにする。
渋谷からは徒歩15分、井の頭線神泉駅からは徒歩5分。
次回は駅を変えてみるか?などと話しているうちに到着。

会期終了が近いせいか、会場内にお客さんは少なかった。
以前は展示作品を観るために、列ができていたことを思い出す。
今回はストレスなく鑑賞できるね!

展覧会は年代順に3つの章で構成されていた。
「第1章 1930-40年代 瀧口修造と阿部展也 前衛写真の台頭と衰退」では、瀧口修造がシュルレアリスムについて紹介する文章が載った雑誌が展示されていたよ。
瀧口修造とは、近代日本を代表する美術評論家、詩人、画家であり、日本でシュルレアリスムを最初に紹介した人。
展覧会の説明では「瀧口修造がダリの家を訪問したら偶然マルセル・デュシャンに会った」と書いてあったよ。
すごいエピソードだね。(笑)

瀧口修造がピカソの「泣く女」やマン・レイのモデルとして有名なドラ・マールについて書いていた時に「ドオラ・マアァル」(うろ覚え)のように記載されていて面白かった。
画像は、瀧口修造の詩と阿部芳文のシュールな絵とのコラボで1937年の作品ね。
鉛筆で描かれた不思議な形の絵がとても気に入ったよ。
阿部芳文(展也)という画家を知ることができて良かったね。

下郷羊雄の「超現実主義写真集メセム属」も、強く印象に残ったよ。
これは多肉植物をオブジェとして撮影した作品集だという。
多肉植物と聞くと「植物男子 ベランダー」の「多肉 愛の劇場」を思い出してしまうね。(笑)
1940年に200部限定の私家版として制作されたという「メセム属」、多肉植物のフォルム自体のユニークさはもちろんだけど、コラージュした作品などもあって興味深い!
下郷羊雄の名前も初めて知ったよ。
勉強になるね!

1930年代に大阪で活動していた小石清には以前から興味があったSNAKEPIPEは2点だけでも、作品が展示されていることが嬉しかった。
展覧会は前期と後期で展示作品の入れ替えがあったらしいので、左の画像「疲労感」は鑑賞できなかったよ。
これは1936年の作品で、まさに「前衛」だよね!
Photoshopだったらレイヤーで作業できるだろうけど、アナログで制作するのは至難の業だったはず。
小石清の作品をもっと観てみたいよ。

「第2章 1950-70年代 大辻清司 前衛写真の復活と転調」は大辻清司が主役だったよ。
大辻清司とは写真家であり、写真教育者としても有名な人物だという。
大御所なので名前は知っていたけれど、写真作品をじっくり観たことなかったかも。
1953年の作品「アサヒグラフ APNのためのカット」がとてもカッコ良かった!
Asahi Picture Newsの3つの頭文字をあしらったオブジェを造形作家が構成し、大辻清司が撮影した作品が毎号コラム欄に発表されていたんだとか。
55回続いたというから人気があったんだろうね。
それにしても「APN」を「あぷん」って読んでたという記事があったけど、ほんとかな?(笑)

1957年の作品「航空機」もモロに「前衛」!
光った白と影の黒をクローズアップで撮影している。
遠くからだとまるで岡本太郎の作品のようにも見えるよ。
ズバッと切り取った大胆さもシビレる。
モノクロ写真の魅力に溢れてるよね。
今まであまりよく知らなかった大辻清司の作品を鑑賞できて良かったよ!

「第3章 1960-80年代 牛腸茂雄 前衛写真のゆくえ」は、大辻清司から写真を学んだ高梨豊と牛腸茂雄の作品が展示されていた。
SNAKEPIPEは写真家だった父親から、この二人の写真家の話を聞いていたことを思い出したよ。
「すごい写真家だ」と褒め称えていたっけ。
スナップショットや人物写真を目指している人にとっては「垂涎の的」となる作品を発表している写真家ということになるのかな。
画像は牛腸茂雄の作品。
「あの世」と「この世」の境界のようで、吸い込まれそうな一枚。
遠くの光に向かって、輪廻のチャンスを逃すまい、と走っているように感じてしまう。
いつかは自分も経験することを見せられたような怖い写真だなと思ってしまった。
想像力を掻き立てられる作品だよね。

「前衛」という言葉に惹かれて出かけた展覧会、新しい発見もあり鑑賞できて良かったよ!
1930年代の日本にも印象的な作品がたくさんあったね。
誘ってくれたROCKHURRAHに感謝だよ!

映画の殿 第62号 韓国ドラマ編 part17


【4つのドラマの動画が表紙を飾ってるよ!】

SNAKEPIPE WROTE:

およそ1ヶ月前に更新したばかりの「映画の殿 韓国ドラマ編」、また4本のドラマを備忘録を兼ねて書いていこう。
正月休みがあったから、ドラマ鑑賞の時間が長かったのかな。(笑)

最初は「無人島のディーバ(原題무인도의 디바 2023年)」から。
「恋慕」や「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」などでお馴染みのパク・ウンビンが主役なんだよね。
以前来日した時の映像をテレビで見た時、ドラマでみるより可愛かったのが印象に残っているよ。
それぞれのドラマでは全く違うタイプを演じていたので、今回はどんな演技を見せてくれるのか楽しみ!
あらすじとトレーラーはこちら。

16歳のモクハは、父の家庭内暴力に耐えきれずオーディションを受けるために船で家出を試みるが、父に捕まりそうになったことで船から落ちてしまう。
そのまま無人島に流れ着き完全自給自足の無人島生活を送ることに……。
たまたま清掃ボランティアで人が訪れた際に発見され、15年ぶりに社会復帰することになる。
無人島に辿り着いた16歳の頃から憧れ続けたディーバになるため、ただひたすらに夢への道を突き進んでいく。(FILMAGAより)

16歳から15年間も無人島でサバイバルした後、歌手になるなんて奇想天外な設定だけど、パク・ウンビンの演技力のせいか不自然さを感じない。
離島出身という役のために、「なまってる」喋り方にしていたんじゃないかな。
素潜りでアワビなどを採っているシーンがあったり、歌手を目指しているところから、2013年のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」の雰囲気に近い気がしたよ。
韓国ドラマを観続けているので、標準語とは違うことに気付くようになってるからね。(笑)

驚いたのはパク・ウンビンの歌唱力とダンス!
ドラマの中で使用されている曲はパク・ウンビン本人が歌っていることを知って驚いた。

ギターも弾いてたしね。
2024年2月にはNHKホールでコンサートの予定もあるらしいので、演技以外でも活躍してるんだね。
演技力に加え、歌にダンス、楽器までこなし、時代劇では馬術や殺陣まで習得する努力家のパク・ウンビン。
次はどんな作品を見せてくれるのか、今から楽しみだよ!(笑)

「ザ・ファビュラス(原題:더 패뷸러스 2022年)」は、ファッション業界で働く4人の若者達の物語なんだよね。
最近、若者って言わないか!(笑)
男女4人の中で、顔を知っていたのは「花郎」や「ユミの細胞たち」に出演していたミンホだけ。
今回はカメラマンで、あまりにも親切過ぎる役だったよ。
トレイラーを載せておこうね。

SNAKEPIPEが気になったのは、ファッション・デザイナーでゲイのジョセフ!
毎回個性的な帽子やファッションで楽しませてくれたよ。
オーバー気味の感情表現が面白かった。
イ・サンウンという名前らしい。
他の出演作を調べてみよう!

世界的ファッション・デザイナーであるティエリも強烈なインパクトを残したね。
奇人変人で有名という役どころで、周りの人が迷惑しちゃう。
それでも優遇されるのがセレブなんだね。
演じていたのはイム・ギホン。
「秘密の森」「人間レッスン」「イカゲーム」に出演していたらしいので、見てるはずだわ。(笑)

親友4人の中でスーパーモデル役をやっていたパク・ヒジョンは、本当にモデルなんだね。
ショーの中でのウォーキングも、非日常的なメイクも似合っていたし。
たまに「三食ごはん」に出演しているユ・ヘジンに似て見えてしまい、注目していたよ!(笑)
正直で飾りっ気がなくて、こういう女性は好きなタイプ。
2011年の映画「サニー 永遠の仲間たち(原題:써니)」にも出演していたようなので、他の作品でも活躍してるんだね!

「ザ・ファビュラス」は主役の2人がイマイチで、特に女優のほうに魅力を感じなかった。
ファッション業界の裏側を知ることもなかった。
脇の俳優陣が面白かった点が良かったことだよ!

最高の愛〜恋はドゥグンドゥグン〜」で、チャおばさんことチャ・スンウォン演じるトッコ・ジンのライバルとして出演していたユン・ゲサンが主役のドラマを観ることにした。
「誘拐の日(原題:유괴의 날) 2023年」は、女流作家ジョン・ヘヨンの同名小説を原作にしているんだとか。
「最高の愛」の時には、容姿端麗で家柄も性格も良い男で、カッコつける時には目を細めていたゲサン。
今回はどんな役なんだろう。

娘の病院代を準備するため前妻ヘウンの提案を受け入れ、11歳の少女ロヒを誘拐することにしたミョンジュン。
誘拐を実行するべく向かった彼の車に飛び込んできた少女は、まさしくロヒその人だった。
気を失ったロヒを家に連れ帰ったミョンジュンは、目覚めたロヒが記憶がないのをいいことにロヒの父親に成りすまして危機を回避し、計画どおりロヒの両親から金を取るために電話をかけるが、連絡がつかない。
もどかしくなり家まで行ってみると、ロヒの両親は何者かによって殺害され冷たい死体となって運び出されるところだった。
殺人の濡れ衣を着せられないようにと、慌ててロヒを連れて身を潜めることにしたミョンジュンを、優れた頭脳を持つロヒは次第に疑い始める。(Amazon Primeより)

 

ゲサンの情けない表情と、大人びた少女との関係が面白い!
最初は生意気に見えるロヒだけど、回を重ねるうちに子供らしい顔を見せたり、天才少女ぶりを発揮して頼もしい存在に見えてくる。
ロヒ役のユナは2011年7月生まれというから、12歳なんだね。
韓国は子役のうちから、大人顔負けの演技力があるよね。
ゲサンも良い味出していて、役にぴったりだったよ。

誘拐犯を追う刑事として出演していたパク・ソンフン。
この俳優は「ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜」では、高校時代にいじめをしていて、社会人になってからは女遊びをしていた不届き者!
最初に観た時の印象が強いと、どうしてもイメージを払拭できないSNAKEPIPE。
今回は人情のある刑事役だったけれど、「きっと悪さするに違いない」と勘ぐりながら鑑賞してしまった。(笑)
ゲサンと緊張感があるようでないような、微妙さが良かった。

犯人と被害者が友好的になるとされる「ストックホルム症候群」に近いけれど、被害者であったはずの少女が優位に立ち、誘拐犯と協力して事件を究明するのは新鮮だったよ。
誘拐犯と被害者、警察と犯人のように、ぷっつり2分割していない「曖昧さ」が一般的なミステリーやサスペンスと違っていたんだろうね。
「誘拐の日」はお勧めのドラマだよ!(笑)

最後は「クイーンメーカー(原題:퀸메이커 2023年)」!
次は何をみようかな、とNetflixで予告を観ていて決めたんだよね。
「敏腕フィクサー」が主人公と書いてあって気になるよ。
意味を調べてみると「政治・行政や企業の営利活動における意思決定の際に、正規の手続きを経ずに決定に対して影響を与える手段・人脈を持つ人物を指す」とのこと。
裏から手を回して方向性を決定すると聞くと、抜け道を知っているずる賢い人、として悪役のイメージを持ってしまう。
どんなドラマなのか、あらすじを書いてみよう。

大企業ウンソングループで働くファン・ドヒは、ウンソングループの会長とその家族のためにどんな汚い手を使っても尽くしてきた。
しかし、部下の悲劇によりウンソンと袂を分かつことを決意。
ウンソングループの暴走を止めるため、人権弁護士オ・ギョンスクをソウル市長に当選させようと熾烈な選挙戦に飛び込む。(シネマトゥデイより)

 

フィクサー役のファン・ドヒを演じるのはキム・ヒエ。
2020年の「夫婦の世界」で有名とのことだけど、ROCKHURRAH RECORDSでは関心が低いジャンルなので、知らなかったよ。(笑)

第一話から、フィクサーとしての手腕を発揮してぐいぐい引き込まれてしまった。
マスコミをどう誘導するか、何をしたら人がどう反応するかなど、心理学的な側面も含めて作戦を練るファン・ドヒ。
大企業ウンソングループの「クイーンたち」に仕え、十分な見返りも受けている。
韓国ドラマに出てくる金持ちというのは、どうして「ろくでなし」が多いんだろう?
問題が起きた時の尻拭いのためにフィクサーが雇われているみたいだよ。
あらすじにある「部下の悲劇をきっかけ」として、ウンソングループと過去の自分の過ちに気付くんだよね。
もっと早い段階で「これはおかしい」と思ってたはずなのに、引き返す勇気がなかったんだろうね。

人権弁護士オ・ギョンスクを演じたのはムン・ソリ。
正義感にあふれ、はっきりした物言いをするため、好き嫌いが分かれるタイプかもしれない。
SNAKEPIPEは、こういう人は好きだよ。(笑)
ムン・ソリは「大統領の理髪師」や「お嬢さん」「リトル・フォレスト 春夏秋冬」などに出演していたらしいけど、あまり覚えていない。
ファン・ドヒがオ・ギョンスクを「クイーン」に仕上げるために、イメージを作っていくシーンが面白かった。
人前に出る職業の人たちは、同じようなことをやっているんだろうね。

ウンソングループは新たなフィクサーを用意するんだけど、それがイ・ギョンヨン演じるカール・ユン。
イ・ギョンヨンといえば「未生~ミセン~」「ミスティ」で知った顔!
今でもつい「専務」と呼んでしまうよ。(笑)
ファン・ドヒとの頭脳プレイのような展開を見せるカール・ユンだけど、「人として越えてはいけない線がある」と口にしたすぐ後に、その線などなかったかのような発言をする悪い役だった。
イ・ギョンヨンは無精髭でもイタリア人っぽいし、地位が高い役が良く似合うよね。
出演するとドラマや映画に重みが出る俳優なので、貴重な存在だと思うよ。

4つのドラマについて書いてみたよ!
「無人島のディーバ」も「誘拐の日」も面白かったね。
Netflixでは新作がどんどん配信されるし、過去の作品に気になるものもあるし。
時間が許す限り、鑑賞していきたいね!

アニッシュ・カプーア_奪われた自由への眼差し_監視社会の未来 鑑賞

20231224 top
【ジャイルギャラリーの入り口を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

先週のブログ、「ケリス・ウィン・エヴァンス 『L>espace)(…』」の記事の続きを書いていこう。
展覧会を「はしご」した話だよ。
表参道で必ず立ち寄る場所といえばジャイルギャラリー!
2024年1月まで開催されているのが「アニッシュ・カプーア_奪われた自由への眼差し_監視社会の未来」なんだよね。
今回キュレーションしているのは、「デヴィッド・リンチ大好き」な飯田高誉さん!
飯田さんが企画した展覧会は難しいことが多いんだけど、リンチアンとして共通しているので、なるべく足を運びたいと思っているSNAKEPIPEだよ。
今回はアニッシュ・カプーアなので、ワクワクしながらROCKHURRAHと一緒に会場へ。

アニッシュ・カプーアについては2008年6月の「ターナー賞の歩み展」や2022年5月の「Anish Kapoor: Selected works」などで記事にしているよね!
大好きなアーティストだよ!

撮影についての許可を確認し、会場内へ。
入った瞬間、目に飛び込んできた風景がこれ。
「ぎゃっ」
叫んでしまいそうになるインパクトの強さ!
紙にガッシュで描かれた絵画作品と共に、赤黒い物体がそこかしこに点在している。
壁にも絵の具が飛び散っていて、まるで殺人事件現場に立っているかのよう。
ちなみにガッシュというのは、不透明水彩という絵の具のこと。
重ね塗りに適した水彩絵の具だという。
ペンキに近い感じになるのかもしれないね。

ウィーンでの展覧会で、カプーアは「大砲アート」とでも名付けたくなるパフォーマンスを見せている。
今回の「赤黒い物体」は似た雰囲気じゃない?
体を張ったアートは、まるで白髪一雄か!って思っちゃうね。(笑)

この展覧会に似合う音楽は何か、ROCKHURRAHと打ち合わせる。
BGMに選んだのがこちら!

Throbbing Gristleの「Beachy Head」だよ!
曲名の「Beachy Head」とは、イングランド・イーストボーン近くにある岬だという。
観光地としても有名らしいけれど、自殺の名所としても知られているんだとか。
不穏な雰囲気が、今回のカプーアの展覧会に似合っているように思うよ。
音を聴きながら、続きを観ていこう!

次の会場にも謎の物体が中央にドーンと置かれている。
壁の角にも、天井に迫るほどの高さにまで伸び上がるように成長している姿を確認。
そう、まるで生命体みたいなんだよね。
溶岩や肉塊にも見えるけど、今回は「謎の生命体」ということにしておこうかな。(笑)
「謎の生命体」が増殖していき、会場全体を覆ってしまいそうに感じたよ。

絵画作品はすべて「Untitled」となっていて、2022年制作とのこと。
アニッシュ・カプーアは現在69歳なので、68歳で描いた作品なんだね。
強烈な色彩と大胆な筆使いに、パワーがみなぎっている。
横尾忠則が86歳で100点以上の新作を短期間で描いていることにも驚いたけれど、今回のカプーアも圧巻!
力強さに満ちた作品を観て、SNAKEPIPEの体温が高くなってきたみたい。
エネルギーを注入され、血流が速くなったような感じかな?(笑)

展覧会のタイトルである「奪われた自由への眼差し_監視社会の未来」に関して、キュレーターの飯田さんがサイトに解説を載せている。
カプーアの作品を鑑賞することで、自身の情動に気付くという。
先に「体温が上がり、血流が速くなったようだ」と感じたSNAKEPIPE。
まさにこの状態だったのかも?(笑)
「赤は神秘的な色」と語るカプーアは、意識的に赤色を使用した作品を制作していたので、鑑賞しているうちに闘牛の牛みたいに興奮状態に陥ったのかもしれないなあ。

展覧会用に動画が配信されていたよ。
とてもカッコ良い!

今まで鑑賞したことがあるカプーアの作品は、鏡や金属を使用した立体作品だけだったので、絵画作品は初めてだったかも。
エネルギッシュな作品群を鑑賞できて、とても嬉しかった!
こんな素晴らしい企画を無料で体験させてもらって、本当にありがたいね。
飯田さんの次のキュレーションにも期待だよ!

ケリス・ウィン・エヴァンス 「L>espace)(…」鑑賞

20231217 top
【エスパス ルイ・ヴィトン東京エレベーター前の看板を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催されるケリス・ウィン・エヴァンスの展覧会「L>espace)(…」を知ったのは、数ヶ月前のことだった。
たまたまポスターを目にして気になっていたんだよね!
ケリス・ウィン・エヴァンスの名前は初めて聞くよ。
一体どんなアーティストなんだろうね?

1958年 ウェールズ生まれ
1980年 英国ロンドンのセント・マーチンズ・スクール・オブ・アートで美術学士を取得
1984年 ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのフィルム & テレビジョン専攻で修士号を取得
1986年まで 映画監督デレク・ジャーマンの助手を務める
1988年 短編映画「ディグリーズ・オブ・ブラインドネス」を発表
90年代初頭 彫刻またはインスタレーションに分類されるさまざまなメディアを用いた作品に移行

エヴァンスの作品はニューヨーク近代美術館やテートモダン、ポンピドゥー・センターなどに所蔵されているという。
ネオンなどの光や音、ビデオを使用したスタイルなんだとか。
そして経歴の中で注目したいのが、デレク・ジャーマンの助手だったところ!
デレク・ジャーマンといえば、やっぱり「ジュビリー」かな。
トレイラーはこちら。

この映画については2018年3月に「映画の殿 第28号 パンクロッカー、スクリーンに現る」としてROCKHURRAHが記事にしてくれているので、そちらを参照してね!
独特の感性を持った映画監督の助手をしていたと聞くと、エヴァンスに興味が湧いてくる。
エスパス ルイ・ヴィトンの訪問予約をして表参道に向かったのである。

12月なのに夏日に迫る気温の高い日で、薄手のコートを脱いでしまうほど。
ピカピカの日差しに、日傘を用意すれば良かったと後悔したSNAKEPIPEだよ。
あと10日でクリスマスなのにね!(笑)

いつ行ってもルイ・ヴィトンの入り口では尻込みしてしまうSNAKEPIPE。
ROCKHURRAHも同じだったようだよ。
傘を傘袋に入れてくれたこともあったっけ。(笑)
買い物客ではなく、作品鑑賞のためだけに訪れているのにもかかわらず、ドアマン(?)が丁重にエレベーターまで案内してくれる。

7Fの会場に到着。
予約していたことを告げると、係の女性がにこやかに対応してくれる。
作品の撮影がオッケーなこと、作品の説明が載っているサイトの案内など、とても丁寧だよ。
ガランと広い会場に目をやると、最初に飛び込んでくるのは日差し!
エスパス ルイ・ヴィトンはガラス張りなので、まるで温室のような暖かさ、いや暑さ!(笑)

着ていたコートを脱ぎ、作品に近づいてみる。
「A=F=L=O=A=T」というタイトルの作品は、20本のガラス製フルートで作成され、音が鳴っていた。
大昔のSF映画に出てくる宇宙から来た生物みたいで、とても好き。
パリのフォンダンシオン ルイ・ヴィトンのために作られた作品なんだって。
ルイ・ヴィトンの説明に「この作品は少し変わった不気味な存在感を放っています」と書かれているよ。
その不気味さが良いんだね!(笑)

途中でROCKHURRAHも気付いたようだけど、今回の展覧会は夜になってから鑑賞すべきだったんだろうね。
明るい日差しの中でキレイに見えたのは松の作品「Still life(In course of arrangement…)Ⅱ」だね。
ゆっくりと回転する松には、何もトキメキはなかったのが正直なところ。
テキストがネオンで光る仕掛けになっている作品も、ほとんど空と一体になっていたもんね。
観ただけでは趣旨が伝わらないので、エヴァンスについて説明しているエスパス ルイ・ヴィトンの説明を引用させていただろう。

エヴァンスが作り上げるのは、意味の迷宮です。
空間に形となって現れる引用や原典のあるテキストは、しばしば不可解な難問の様相を呈します。
ポスト象徴主義や前衛の文学に垣間見られる遊びの要素や難解な側面が、インスピレーションの大きな源となっているのは明らかでしょう。(中略)
コンピュータに接続されている光が、その画面に流れていくウィリアム・ブレイクの詩や、フェミニスト理論家のジュディス・バトラー、神学者のミシェル・ド・セルトー、あるいはマルキ・ド・サドからの引用文をモールス信号の点滅で伝えるのです。
光を用いて不明瞭なステートメントを伝えるという手法に象徴されるような矛盾を顕在化させるのがこの作家の特徴です。
彼の見方では、詩は「実験のエキゾチシズム」と呼ばれるものから生まれ、その多義性の重なりの中で、事実とフィクション、現実とその分身、打ち立てられた確信と矛盾した感情などの間にある曖昧な領域を探求することができるのです。

「意味の迷宮」やら「矛盾を顕在化」「曖昧な領域を探求」といった文言が並んでいるので、かなり難解で複雑な作品なんだね。
アーティストの意図を理解してから鑑賞したら、もっと面白かったのかもしれない。

夜になると、こんな感じに見えるらしい。(笑)
この空間を目に前にしたら「うわっ」と声が出たかもしれない。
説明がなくても驚きや喜びを感じたかも。
光やネオンの作品を鑑賞する時には時刻を考えないといけないね。
そのためには事前に予習する必要ありだわ。
エスパス ルイ・ヴィトンは大失敗してしまったけれど、この後もう一つの展覧会を「はしご」したんだよね。
さて、ROCKHURRAHとSNAKEPIPEは何を観てきたのか?
次回をお楽しみに!(笑)