小谷元彦展~Phantom Limb 幽体の知覚

【小谷元彦 SP2:ニューボーン(ヴァイパーA)】

SNAKEPIPE WROTE:

2009年4月に書いたブログ「小谷元彦 SP4と万華鏡の視覚展」でも紹介したことがある現代アーティストの小谷元彦の個展が森美術館で開催されている。
2009年に山本現代という画廊に観に行った顛末は上述したブログに書いてあるね。

「ほんの数点しか展示品がないし、なにせ今回が初めてなので感想を言うことが難しいなあ。
『山本現代』のホームページの中で『キーワードはゾンビ』なんて書いてあったけれど、最近ゾンビ映画を観ているSNAKEPIPEにはピンと来なかった。
今までの作品全ての展示があったら是非観てみたいし、それから感想をまとめたいなと思った。」

と約1年半前に書いていた望みが叶うことになったわけだ。
同行者はいつも通り友人M。
「年内が無理だったら来年ね」
と言っていたけれど、どうにか予定を合わせ、今年のアート鑑賞締め括りとしてめでたく小谷元彦展へ行くことができたのである。

ここで少し小谷元彦について書いておこうか。
1972年京都府生まれ。
東京芸術大学美術学部彫刻科卒業。東京芸術大学院美術研究科修了。
今は芸大の准教授もやってるみたいね。
2003年のヴェネツィア・ビエンナーレ日本館の代表に選出される、という世界的に注目を集めているアーティストである。

もうあと数日寝るとお正月、という年の瀬も押し迫った非常に寒い日。
森美術館のチケット売り場には長い行列ができていた。
「小谷元彦って人気あるんだね」
「年末だから人が大勢いても仕方ないね」
などと言い合っていたSNAKEPIPEとM。
ところが行列してた皆さんは小谷元彦展が目的じゃなかったみたいね。
どうやら森アーツセンターギャラリーで開催している「スカイプラネタリウム」か展望台がお目当てだった模様。
ちょっと安心する。(笑)

いざ「幽体の知覚」展へ。
会場に入るとまず目に飛び込んでくるのは白い壁に白い床。
白い壁に書かれている黒い文字を読むと少し頭がクラクラする感じ。
小谷元彦が白を「攻撃的な色」と指定しているのが解る気がする。
SNAKEPIPEも白い空間にいると落ち着かないんだよね。(笑)

初めに展示されていたのがタイトルの「ファントム・リム」。
少女を写した5枚のカラープリントが並んでいる作品で、よく観て説明を読んで意図が理解できたSNAKEPIPE。
こういうパッと観ただけで、感覚的に「すごい!」と思わない作品は難しいね。
現代アート全体に感じることだけど。

拘束具を付けられた小鹿の剥製とか、ツインになっている狼などはまずは観てびっくりする。
小鹿が愛らしいだけに、より一層ピカピカの拘束具が不気味で残酷に感じられる。
SMの世界につながる感覚なのかな。
ツインの狼はドレスになっていて、下から網タイツにパンプス履いた人間の足が出てたんだけど、これが…。
足のサイズに合ってないし、あまりに凡庸なパンプスだったんだよね。(笑)
せっかくの作品なんだからさー、とブツブツ言い合うSNAKEPIPEとM。
もうちょっとどうにかできなかったのかなあ?
もう一つ残念な展示方法だったのが、2009年4月にも観たSP4の騎馬像。
山本現代で観た時も同じだったのか記憶が定かじゃないんだけど、今回の森美術館ではなんだかベニヤ板に見えるような木の箱に乗せて展示。
その木が非常に安っぽく見えたし、作品の色味とも全然合ってなくて残念。
もうちょっとどうにかできなかったのかなあ?(2回書いてしまった)

小谷元彦は拘束や矯正などに使われる器具に興味があるようで。
手(指)を反らせるための矯正具から発想したというバイオリンのような作品や、木で作られたスカート状のウエスト絞り拷問具みたいな作品などが展示されていた。
人体を変形させたり苦痛を与えたりするような恐怖作品。
以前書いたブログ「医学と芸術展 MEDICINE AND ART」にも似たようなモチーフがあったね。
そう、あの時に書いたのが以下の文章。

「手術用の器具の展示もあった。
丁寧に装飾までされている美しい切断用ノコギリってどうよ!
まるでオブジェなのに、目的は切断よ、切断!(笑)
このミスマッチが余計に怖い!
この展示はデヴィッド・クローネンバーグ監督の『戦慄の絆』みたいだった。」

インタビューを読むと、小谷元彦が好きな監督はやっぱり二人のデヴィッド、クローネンバーグとリンチだったんだね。
うん、大いに納得。
クローネンバーグの映画に出てきた美しい手術器具を具現化した感じ。
リンチの、あっちなのかこっちなのか判らない境界線上の世界、浮遊感、そして恐怖。
全部感じられるもんね!(笑)
上の写真「ニューボーン」シリーズでは、架空の生物の化石を想像して制作してるみたいなんだけど、その中に「イレイザーヘッド」みたいなのもあったし。
小谷元彦が好きな物、影響を受けた物ってすごく良く解るわあ!(笑)

今回の展示作品の中でSNAKEPIPEが一番気に入ったのが「ホロー」シリーズ。
目に見えない力、存在や現象の可視化がコンセプトとのこと。
まるで蝋が溶けて形になっているような、流れるような曲線の集まりが固まってできている作品群。
白い部屋に展示されてる白い彫刻というのが、テーマにぴったりマッチしてることになるんだね。
じっくり観察しないと形が判らないからね。
「かんぴょう?」
と聞いてきたMに大笑いしたSNAKEPIPEだったけど。(笑)

以前にも何かで書いたけれど、最近の現代アートで興味を持つのは3次元の作品のことが多いSNAKEPIPE。
今回鑑賞した小谷元彦の作品の中にもいくつか「家に飾りたい」作品があった。
同じリンチアンとして、今後の活躍に期待だね!(笑)

小谷元彦「SP4」と「万華鏡の視覚」展

【Paul Pfeifferのマイケルに対抗できるのはロッキーホラーショーだけ?SNAKEPIPE制作】

SNAKEPIPE WROTE:

久しぶりに長年来の友人Mから
「面白そうな展示を観に行かない?」
と誘いの電話があった。
この友人Mは松井冬子展やターナー賞の歩み展などに一緒に行く、アートや映画を一緒に鑑賞する仲なのである。
そして非常に情報収集能力に長けているため、誘いの電話をかけてくるのは専らMの役割になっているのである。

今回誘われたのは「山本現代」というギャラリーで開催されている「小谷元彦」というアーティストの彫刻展。
恥ずかしながらSNAKEPIPE、小谷元彦という名前は初耳で一体どんな作品を制作しているのか全く知らなかった。
そうは言ってもSNAKEPIPEの好みを熟知している友人Mのことだから、的外れの誘いでないことは間違いない。(笑)
一応「山本現代」のホームーページで数点の作品を観ることができたので、なんとなくの雰囲気はつかむことができた。

そしていざ「山本現代」へ。
今回のタイトルは「SP4」で、どうやらSPECTERシリーズの4回目、ということになるらしい。スペクターって…。
デイヴ・スペクター?(笑)それとも007シリーズ?(笑)あ、暴走族!(笑)
と、ふざけてる場合じゃないか。
今回の展示は恐らく実物大の馬の上で刀を持った筋っぽい骸骨(人体の不思議展を思い出した!)、これまた実物大の心臓を手にした裸婦像、頭蓋骨、海綿(スポンジみたいな)をかたどったような壁掛けタイプの黒いスクエア型彫刻が数点、とちょっと品数が少なめ。
「うそ!これだけ?」
とびっくりするSNAKEPIPEに
「きっと奥に別会場があるんだよ」
と返したMも唖然。別会場はなかった。(笑)
白を基調とした空間にそれらの彫刻が割と無造作に置いてあるだけ。
触らないで下さい、などと注意をする係員もいない。
ほんの数点しか展示品がないし、なにせ今回が初めてなので感想を言うことが難しいなあ。
「山本現代」のホームページの中で「キーワードはゾンビ」なんて書いてあったけれど、最近ゾンビ映画を観ているSNAKEPIPEにはピンと来なかった。
今までの作品全ての展示があったら是非観てみたいし、それから感想をまとめたいなと思った。

この日は「小谷元彦」だけでは物足りなくなってしまい、もっと何か観たくなってしまった。
「そういえば森美術館で面白そうなのやってるよ。確か万華鏡がどうのって」
と急に思い出したように言うM。
万華鏡!まるで乱歩じゃん!
俄然元気が出てきたSNAKEPIPE。
行こ、行こ!六本木!(笑)

さて森美術館では「万華鏡の視覚」と題した、ウィーンにあるティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションからセレクトされた現代美術展が開催されていた。
うん、うん。なかなか面白そうな感じ。
わくわくしながら会場へ。
おや、目玉の作品として大きく写真で扱われてるCarsten Höllerのぐるぐる電球いっぱいの作品、まるで今年のウチの年賀状
ドイツのアーティストと感覚が似てるなんて非常にウレシイ!(笑)
作品の中を歩ける仕掛けになっているので、体験してみた。
感想は「サーカスの火の輪をくぐる動物になった気分」である。
個人的には作品の周りが全部鏡だったら、もっと視覚の幻惑や空間の広がりにとまどいを覚えたりして不思議感覚が味わえたのに、と少し物足りなさを感じた。
電球ももっとピカピカに明るいほうがクラクラして楽しかっただろうし。(笑)

以前「ターナー賞の歩み展」の時にも書いた、
"現代アートというと前述したように、理念や思想のような「難しい」と感じてしまう要素が多いけれど、SNAKEPIPE流の鑑賞法としては「かっこいい!」「ウチに持って帰りたい」などの感覚的なものでいいかな、と思っている"
の精神そのままに今回も鑑賞したSNAKEPIPE。
今回のSNAKEPIPEの一番はLos Carpinterosというキューバのアーティストの作品。
崩壊したブロック塀、飛び散ったブロックをテグスで空中に吊り、時間の停止した様子を立体で作っちゃいました、という作品。
まるで畠山直哉の「BLAST」の実物版という感じで最高に好みである。(笑)
「カッコイイ!」と作品の前に立つSNAKEPIPEに
「1人1本テグスを切っていい、とかだったらもっと面白いのにね!」
と感想を言ってたM。
それじゃあ「時間の停止」にならなくなっちゃうじゃん。(笑)

印象に残ったのはPaul Pfeifferというハワイのアーティストが「Live Evil 」という頭のない踊るマイケル・ジャクソンを鏡で左右に映したビデオ作品。
頭がなくてもマイケルと分かるところもすごいけれど、マイケルの映像をこんな形で使っていいんだろうか、とヘンな心配をしてしまった。
ほら、肖像権とかね。(笑)

他はいかにも現代アート風というか、観念と理屈と言葉が必要な作品が多かったように思えた。
そういう作品はさらっと流して観ることが多いので、会場を回っている時間は非常に短かったかな。(笑)
また「ウチに持って帰りたい」ような作品にめぐり合いたいものである。

奇想のモード 鑑賞

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【庭園美術館の入り口を撮影。ド派手なピンクが目を引くね!】

SNAKEPIPE WROTE:

2022年になって初めて、長年来の友人Mと会う約束をした。
せっかくなので、展覧会や映画など何か鑑賞したいよね!
「ここはどうだろう?」と、お互いにアイディアを持ち寄って検討する。
SNAKEPIPEは東京オペラシティギャラリーで開催している「ミケル・バルセロ展」を提案する。 
友人Mは東京都庭園美術館の「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」が面白そうだと言う。
シュルレアリスムに目がないSNAKEPIPEなのに、その展覧会はノーチェックだった!
教えてくれてありがとう、友人M!(笑)
今回は庭園美術館に行くことにしたのである。 

曇っていて風が強い、とても寒い日に目黒に向かう。
服装失敗したかも、と思いながら待ち合わせ場所である庭園美術館まで歩く。
前回来たのは2019年3月の「岡上淑子 沈黙の奇蹟」以来なので、およそ3年ぶりになるんだね。
先に来ていた友人Mと合流し、早速会場に向かう。
何度来ても、旧朝香宮邸に「うっとり」しちゃう!
それなのに重要文化財なので、館内の撮影ができないんだよね。
アール・デコの雰囲気とアートとの融合が素晴らしいんだけど、撮影不可なら仕方ない。
新館の撮影はできたので、たくさん撮ってきたよ!
そのため今回のブログは、購入した図録の画像も併せて載せているよ。

入り口入ってすぐに展示されていたのが、ヤン・ファーブルの甲冑。
これは玉虫の羽根を使って制作されているんだよね。
さすが曽祖父が、あの「昆虫記」を書いたファーブル!
キッチリひ孫にも、その精神が伝承されてるよね。
一体何匹の玉虫を使用したんだろう?
死後にも輝きを失わないという玉虫に驚いたよ。

19世紀半ばにつくられたという髪の毛を使用したジュエリー。
画像はブローチで、喪に服す意味以外にも愛情表現として身につけることも多かったという。
こうした細工ができる職人がいたってことだよね。
他にも透かし模様にしたピアスやブレスレットなどが展示されていたよ。
小谷元彦の髪の毛を編み込んで制作されたドレスも圧巻だった。
黒い髪の毛には情念がこもってるように感じられて、おどろおどろしかったよ。
金髪とは違う印象を持ってしまうのは何故だろう?

有名ブランドであるシャネルのデザイナー、ココ・シャネルと同時代にライバル的な存在だったというエルザ・スキャパレッリ
 「ショッキング」という名前がついた香水瓶がキュートだよね!
SNAKEPIPEはスキャパレッリの名前を聞いたのは初めてだったけれど、この香水瓶を完成に導いたのが女流画家のレオノール・フィニという説明を読んで嬉しくなった。
2015年に「SNAKEPIPE MUSEUM #33 Leonor Fini」で紹介したことがあるからね! 
レオノール・フィニに感じたエネルギッシュな女性像は、おそらくスキャパレッリにも通じるのだろうと想像する。
他にもドレスやアクセサリーなど、たくさんの作品が展示されていたよ。
スキャパレッリについては、もう少し調べてみたいと思った。

1939年にサルバドール・ダリが描いたという、雑誌「ヴォーグ」の表紙。
ダリが雑誌の表紙になってるなんて、豪華だよね!
そして調べて驚いたことに、なんと「ヴォーグ」の創刊は1892年とのこと。
そんなに歴史がある雑誌だったとはね。
更に時代が古い、1862年創刊の「ハーパース・バザー」の表紙を多く手がけたのが、ROCKHURRAHと一緒に2017年3月に「グラフィズムの革命展」を鑑賞したカッサンドル! 
知ってる名前が出てくると嬉しいね。(笑)
ダリと同時代のカッサンドルの作品も多く展示されていたよ。 

第6章「裏と表」で、まさかヴィヴィアン・ウエストウッド(セディショナリーズ)のデザインが展示されているとは思わなかったよ。
パンクのイメージでしか捉えてなかったガーゼ・シャツだけど、確かにシュールだね!(笑)
他に、マルタン・マルジェラやドルチェ&ガッバーナの作品などが展示されていたよ。
マルジェラは、他のチャプターでも作品が展示されていたので、シュルレアリスムを現代に取り込んでいるデザイナーと言えるのかもしれないね。

撮影禁止である旧朝香宮邸での展示が終わり、新館へと向かう。
ここからは撮影可能!(笑)
第8章は「ハイブリッドとモード」。
画像は舘鼻則孝の「太郎へのオマージュ」作品群ね。
岡本太郎を意識して制作され靴やヘアピンなどが、迫力満点で展示されている。
シルバーで光ってて、とても好き!(笑)
他に花魁の高下駄からインスピレーションを得たという、ヒールがない靴も多数展示されていて見事だった。

友人Mが一番楽しみにしていたのが串野真也の作品!
人間が履くことで「キメラ」を想起させることを主題にしているという。
足を通さなくても、すでに「キメラ」な作品が多くて、夢中で写真を撮ってしまった。
ガラスに光が反射してしまうので、SNAKEPIPEの画像はイマイチだけどね。(笑)
どの部分にどんな革や素材を使用しているのか、とても興味があるよ。
実際に履こうとは思わないけれど、ずっと観ていたくなる作品だった。
1980年代生まれの面白い日本人デザイナー2人の作品を観られて、とても良かったよ!

「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」展は、館内の雰囲気とマッチしていて、素晴らしい展覧会だった。
コロナじゃなかったら、もっと感嘆の声を上げたり、友人Mと語らいながら鑑賞できたのになあ。
次回はどんな企画を立ててくれるのか、楽しみだね!