ゼロ年代のベルリン展鑑賞

【毎度お馴染み?展覧会告知ポスターを撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

「やっぱり文化の日には文化的なことがしたいよね」
と出かけたのが東京都現代美術館
2008年の文化の日にも全く同じようなことをしていたことに後から気付いたよ。(笑)
3年前に観たのは森山大道とミゲル・リオ=ブランコの共同展示で、「大道・ブランコ・コーヒー」としてブログにまとめてるね。
今回の現代美術館の企画は「1989年の壁の崩壊後、政治、経済、文化の実験場として世界の注目を集めてきたベルリンに住む18組のアーティストの紹介」とのこと。
元々そんなにドイツのアートについて詳しいわけでもないし、特にベルリンと限定されてしまった場合には一人のアーティストも知らない状態での鑑賞となる。
興味を感じることができるのかどうか判らないまま、文化的なモノを求めて美術館に向かったのである。

11月3日は薄曇りの、散歩を楽しむには丁度良い気温の日だった。
東京都現代美術館までの道のりには木場公園が広がっているので、毎回美術館を訪れる時には公園内をゆっくり散歩するのがならわしになっている。
今回もいつも通り散歩を楽しみながら歩くROCKHURRAHとSNAKEPIPE。
都会の喧騒を忘れるような緑に囲まれた公園って気持ち良いねー!
かなりの数のランナーが走っていて、その足の筋肉に見惚れるSNAKEPIPE。
結構な年配の方も走り慣れた様子で、しっかりとした筋肉を保持。
うーん、負けていられませんな!
SNAKEPIPEも頑張って筋力アップしないとね。(笑)

現代美術館の館内は、文化の日だというのにガランとしていて予想していたよりずっと来客数が少なく感じた。
いいねー!ゆっくり鑑賞するには最適!(笑)
関係ないけど、チケットもぎりの女性が菊地凛子に瓜二つでびっくり!
絶対「似てる!」って言われてるんだろうなあ。(笑)
凛子似の彼女から受け取ったリーフレットを見ながら会場を歩く。
ほとんどのアーティストが1970年以降の生まれ。
ということで40歳以下の若手が中心の展覧会なんだね。
18組の中でSNAKEPIPEが気になったのは3組のアーティスト。
それぞれについて感想をまとめてみようかな。

この展覧会ですっかりファンになってしまったのが、シンガポール生まれのミン・ウォン
パゾリーニ監督1968年の作品「テオレマ」を再演した作品なのである。
「テオレマ」というのは、突然現れた謎の青年がきっかけで崩壊していくイタリアのブルジョア階級を描いた物語とのこと。
「実生活を営むヨーロッパにおいても、映画の中でも『よそ者』を演じるウォンが示すのは、アイデンティティとは演じることで存在し補強されるが、その存在を維持するためには演じ続けなくてはならない」
という意味のアートらしい。
この説明を受ければ「なるほど」と思う人もいるのかもしれないけれど、SNAKEPIPEにとっては「ウォーリーを探せ!」みたいに劇中の「ミン・ウォンを探せ!」状態で映像に目が釘付け。

パロディと言ってしまって良いのかどうか迷うところである。
演じている時のミン・ウォンはワハハ本舗梅ちゃんに似ていて、そこもまた大注目!
残念ながら「テオレマ」を鑑賞していないので、ミン・ウォンがどこまで再演しているのか判らなかったけれど、その成り切りぶりには目を見張るものがあった。
だって、家族全員を一人で演じちゃうんだもん!
主人、妻、娘、息子、家政婦、訪問者とざっと数えただけで6人!
特に女装シーンの熱演はすごい!
現代アートの鑑賞で腹を抱えて笑ったのは初めての経験だったかもしれないなあ。(笑)
結局ミン・ウォンがやりたいことは森村泰昌と同じなんだろうね。
森村泰昌は写真を使い、ミン・ウォンはその映像版っていう理解で良いのかもしれないね。
そして劇中の演じているウォン自身を肖像画として油絵にしている展示もあって、興味深かった。
このポストカードがあったら欲しかったなあ!(笑)

次に気になったのはフィル・コリンズの「スタイルの意味」という映像作品。
そう、元ジェネシスの…じゃなくて!(笑)
同姓同名の別人で、ターナー賞候補になったこともある1970年生まれのアーティストなんだよね。
イギリス生まれとのことなので、もしかしたら意外と多い名前なのかな?
ちなみにあっちのフィル・コリンズは1951年生まれだから60歳、還暦だね!(笑)
「スタイルの意味」という作品は、何故なのか解らないけど「Oi!/スキンヘッズのブーム」が起きているマレーシアが舞台。
1960年代にイギリスで流行した反体制的なスタイルである、Oi!/スキンヘッズの代表的なファッションであるMA-1にジーンズ、編上げブーツでイキがる若者の集団を記録した作品である。
熱帯雨林気候で、平均気温が27℃という国でMA-1着るのは暑くないか?(笑)
恐らく日本人もそうだと思うけど、マレーシアでOi!を気取っている彼らも、本場イギリス人からは僧侶に見えるんだろうね。
どこかの寺院で、仏像レリーフの前に立たせて撮影したのはそういう意味だったんじゃないかな?
「スキンヘッズのスタイルがいかに『ねじれ』を持って受容されているか」
に焦点を当てたそうなので、きっと「滑稽さ」を表したかったんだろうね。
以前ROCKHURRAHが「ROCK連想ゲーム」で紹介したことがあるジェネレーション69というシンガポールのOi!パンクバンドを知った時に感じた違和感と似た種類なんだろうね。(笑)

最後にもう一つ。
マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフの作品「ネオンオレンジ色の牛」。
これもまた映像作品だったんだよね。
前にも書いたことがあったけど、「現代アート」とされる作品で最近多いのが映像作品だから仕方ないのかもしれないけどね。
本当はチラッと観て「?」と思ったら最後まで観ないSNAKEPIPEなんだけど、今回は一応観たんだよね。(笑)
タイトルは「時計じかけのオレンジ」みたいで何が起こるのか想像がつかない感じだけど、実際の作品は単純なものだった。
地下鉄の線路内や橋の下などの「こんな場所で?」というような場所でブランコをする、というパフォーマンスを記録した映像だったんだよね。
アート、というよりはシルク・ドゥ・ソレイユなどのサーカスっぽい感じ。
なーんて例えで書いたけど、観たことないんだよね。(笑)
もしくは、いつでもどこでも同じ振り付けしてるVISAカードのCFに出演してるマットさんみたいな感じ、とでも言えば良いのか。(笑)
マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフは無許可でゲリラ・パフォーマンスを行うと紹介されていて、止まっているバスや電車の窓をゲリラ的に「無許可で」掃除するアートも行なっているとのこと。
ウチの近所で毎週同じジャンパー着て「ゲリラ的に」掃除している中高年の方々がいるんだけど、もしかしたらアレもパフォーマンスアートなのかも?(笑)

紹介した3つの作品共に共通して感じたのは「現代アート定義領域の拡張」かな。
それぞれをパロディ、ドキュメント、大道芸などと言葉を替えて紹介することもできる作品だったからね。
ただ、やっぱり全体的には物足りなさを感じてしまった。
SNAKEPIPEには現代美術館の常設展のほうが好みだなあ。
もっと面白い企画を用意してもらいたいと思うし、展覧会開催中に図録が用意できていないという事態は避けて欲しいよね。
9月下旬から始まっている展覧会なのに、未だに図録が出来上がっていないなんてちょっとひどい!
図録を購入するのが楽しみなSNAKEPIPEには、特にお気に入りの美術館だけに残念に感じてしまった。

畠山直哉展 Natural Stories

【東京都写真美術館入り口にあったポスター。ビルが写り込んでるところが良いね!】

SNAKEPIPE WROTE:

10月1日より東京都写真美術館で「畠山直哉展 Natural Stories」が開催されている。
畠山直哉氏といえば!
このブログの大好評シリーズである「好き好きアーツ!」の第一弾で特集した、SNAKEPIPE大のお気に入りの写真家なのである。
『「好きな写真家は?」と質問されたら「畠山直哉!」と即答する。
もちろん他にもたくさん好きな写真家はいるけれど、一番は畠山氏である。』
と書いたのが2008年8月のこと。
その中にも記述しているけれど、SNAKEPIPEは1996年頃から畠山直哉氏のファン。
とは言っても最近の活動についてはほとんど情報を得ていなかった。
もっとも畠山直哉氏だけに限らず、写真全体に関して興味を失っていた、というほうが正解なのかもしれない。
最近は全く撮影をしていないしね。
今は様々な作品を鑑賞することに興味が移っていて、展覧会情報をチェックし、面白そうな企画があったら足を運ぶことが楽しみなのである。

「畠山直哉個展開催」の情報はまだ暑かった頃に知った。
先のことで待ち遠しい、と思っていたのに…月日の経過の速いことよ。
あっという間に10月になってしまった。
秋晴れの少し汗ばむくらいの気温の日、恵比寿にある東京都写真美術館に足を運んだ。
この美術館に来るのはかなり久しぶりのことだ。
前回行ったのは川田喜久治の展覧会「世界劇場」だったかも?
調べてみたら2003年だって!ひゃあ~!8年も前か~!(笑)
毎回展覧会情報のチェックの中に写真美術館も入っているので、余程SNAKEPIPEの琴線に触れる企画がないってことなんだろうな。
もう少し頑張ってくれよ、写真美術館!

畠山直哉氏首都圏での初個展とのこと、かなりワクワクドキドキしながら会場へ。
「作品にはキャプションがありませんのでお持ち下さい」
受付で作品リストを手渡される。
ふーむ、キャプション無しって珍しいかも?
休日にもかかわらず、人の入りはまばら。
作品鑑賞するのには良い環境だね!(笑)

初めに目に飛び込んできたのは山の写真。
あれ?なんだか違う…?これではまるで山岳写真だ。
「畠山直哉ってこういう写真撮る人なの?」
とROCKHURRAHが怪訝そうに尋ねてくる。
「うっ、違うはず…なんだけど…」
前述したように最近の写真界、そして畠山直哉氏の動向について情報を得ていなかったSNAKEPIPEなので確実な答が返せないのがもどかしい。
「畠山直哉、変わっちゃったのかなあ?」
と首をかしげながら鑑賞している途中だったので、尚更である。

展示順に「もうひとつの山」「テリル」「アトモス」「シエル・トンベ」「ヴェストファーレン」と鑑賞し、撮影年度を確認するとやっぱりSNAKEPIPEが追いかけていた時代より後の外国で撮った写真である。
畠山直哉氏のその後をやっと知ることができたわけだ。(笑)
そしてやっと「ライム・ヒルズ」になり安心してしまった。
やっぱりSNAKEPIPEは「ライム・ヒルズ」のシリーズが大好き!
確かに見比べると「テリル」は雰囲気が似ているかもしれない。
けれども明らかに違うのはインダストリアルなオブジェクトの有無である。
「自然と都市」を表現していた写真集「ライム・ワークス」には工場写真が多く入っていたからね。
そこに魅力を感じていたんだな、と改めて気付く。
どの写真も畠山直哉氏らしい「静謐さ」を感じることはできるけれど、やっぱりなんとなく物足りなさを感じてしまった。
そして以前の写真ではあり得なかった「写真の中に人物が入っている」点にも驚いた。
人を風景の一部と考えて写り込んでも構わなかったのかもしれないけれど、「ライム・ワークス」と「アンダーグラウンド」でファンになったSNAKEPIPEには不満が残る。
SNAKEPIPEが持っている畠山直哉氏の印象は
・日本の風景なのにどこかの外国みたいにカッコ良い無人の風景写真を撮る
・だまし写真のように不思議な風景を切り取る写真家
・現代アートに通じる観念や理論を持ち、写真を語れるインテリ
である。
こんな3種の神器ならぬ、3本の金棒を持つ憧れの写真家のその後の活動が…今回の展示作品とは!
日本の風景を外国の景色に変化させてしまうマジシャン的魔力は、実際に外国の風景に対峙した時に発揮できなかったのだろうか。
今「好きな写真家は」と問われても「2003年頃までの畠山直哉!」という言い方になってしまいそうなのが残念である。
インダストリアル好き、というSNAKEPIPEの好みの問題なんだろうね。

以前から数枚の写真や情報だけ知っていた「ブラスト」のシリーズが連続写真、しかも大迫力の300インチ大画面で鑑賞することができたのは嬉しかった。
「ブラスト」というのは石灰岩の採掘の際、山を切り崩すために発破をかける現場を小型カメラで連続撮影した作品である。
畠山直哉氏は「光のマケット」など写真を使った現代アート、といったほうがしっくりくるような作品を今までに発表していて、「ブラスト」も勝手にそんな作品なんだろうと予想していたSNAKEPIPE。
今回のパラパラ写真(笑)を鑑賞して、その思いを強くした。
ダイナマイトの爆発により、岩が粉々にコマ送りのように砕け散っていく様子はまるでクレイ・アニメのようで興味深かった。
一羽の鳥が爆発現場から飛び去る最後の展示作品「ア・バード/ブラスト」は、アートとしても秀逸だと思うし、畠山直哉氏の思いを受け取ったような気がした。
このブログではあえて詳しく書かないけれど、畠山直哉氏は岩手県陸前高田の出身なのである。
地震後の地元の写真も展示されていたが、SNAKEPIPEには書くべき言葉が見つからない。

これからの畠山直哉氏がどのように変化していくのか。
また見つめていきたいと思う。

SNAKEPIPE MUSEUM #12 Hans Bellmer&四谷シモン

【なんとも妖しい雰囲気。木立後の人影が効果倍増だよね!】

SNAKEPIPE WROTE:

初めて球体関節人形を見たのはいつだったのだろう。
全く思い出せないほど昔のことだ。
恐らく初めに見たのは四谷シモンの人形の写真集「人形愛」だったと思う。
まるで生きているような精巧さと美しさに魅了されてしまった。
子供が遊ぶ人形とはまるで違う、怖いくらいの存在感。
それから四谷シモンに興味を持ち、シモンがハンス・ベルメールという作家からインスピレーションを得ていたことを知るのである。

ハンス・ベルメールは1902年ドイツ出身のアーティスト。
人形作家、写真家、画家、グラフィックデザインと先週のモホリ=ナギに引き続きマルチな活躍で有名である。
1920年代にはダダイストと交流。
1930年代にナチズムに反対するために等身大の人形を制作し、撮影。
そして写真集を自費出版する。
その写真集がパリのシュルレアリスト達から大絶賛され、交流が始まる。
その後様々なシュルレアリスム展に出品、国際的にも名前が知られていくのである。
日本では1965年に澁澤龍彦がベルメールの球体関節人形を雑誌に紹介したことで、より多くの人に知られるようになったらしい。
この時の雑誌を四谷シモンが読んだんだね。(笑)

ここで簡単に四谷シモンについてご説明しようか。
1944年東京生まれの人形作家、俳優。
幼少の頃より人形制作を好む。
1960年代は唐十郎の「状況劇場」や大島渚監督「新宿泥棒日記」などに俳優として出演。
映画の中で女装姿で歌っているシモンを観たなあ。(笑)
1978年、人形学校「エコール・ド・シモン」開校。
四谷シモンのHPに記載されてたんだけど、なんとシモン作の球体関節人形は販売しているとのこと!
1体500~1000万円だって!
どうする、購入してみる?(笑)

球体関節人形というのは、肘や膝など関節の部分が球体でできていて、腕や足が回るような仕掛けになっている人形のことである。
そのため手足を曲げたり動かすことができ、好みのポーズに設定可能!
より人間に似せることができるよね。

SNAEKPIPEが所持しているハンス・ベルメールの写真集は1冊だけ。
上の写真も載っているハガキサイズの小さい写真集である。
ハンス・ベルメールの人形は、可愛らしさを感じる種類のものではない。
病的で暗く、美しい。
もしベルメールの人形を所持していたとしたら、誰にも知られないように部屋の中でひっそりと愛でるような雰囲気。
そう、まさに江戸川乱歩の「人でなしの恋」にぴったりな感じなんだよね!
乱歩が「人でなしの恋」を書いたのが1926年というから、時代的にはベルメールより前になるんだね。
乱歩の先見の明にまたまた驚き!
現代だったらオタク系でそういう人いるかもしれないけど、大正15年だもんねー!
やっぱり乱歩はすごいよね。(笑)

前述したように「ナチズムに反対するために等身大の人形を制作」したベルメール。
民族の優劣問題を批判するために、わざとねじまげ変形させ皮膚を裂いた人形にしたらしい。
つまり健全な肉体じゃないものを表現したかったんだろうね。
しかしその「批判」はシュルレアリストにも受け入れられ、四谷シモンに衝撃を与え、SNAKEPIPEを含む多くのファンを作っている。
「廃墟写真」などでも似たようなことがあり、途中の段階の写真というのが「建設中」なのか「解体中」なのかたまに判らなくなることってあるんだよね。
嫌いで壊したのか、かわいがって触り過ぎて壊れてしまったのか区別が付かない人形達。
どちらを想像するかは鑑賞者の自由なのかもしれない。
ただ残念ながらベルメールの人形作品を実際に目にしたことはないんだよね。
いつも写真作品の展示のみ!
いつか実物を鑑賞してみたいものである。

四谷シモンの人形は「四谷シモン–人形愛」展(小田急美術館)で鑑賞したことがある。
調べてみたらなんと2000年の8月!
ぎょっ、今から11年前か~!(遠い目)
初日の閉館間際に駆け付け、じっくり鑑賞。
1体1体の人形の素晴らしさを実際に観ることができて、本当に嬉しかった。
初めて観た写真集「人形愛」から長い年月が経過しての実現だからね。
感慨無量だったよ!
そしてこの日は展覧会初日だったために、オープニングパーティが開催される予定だったみたいで四谷シモン、ご本人も会場にお目見え!
生シモンに喜んでいるところに
「あら、龍子夫人よ!」
「かわいらしいわぁ~」
と後からヒソヒソ声が聞こえる。
龍子夫人といえば…?
そうだ!確か澁澤龍彦の奥様の名前だったはず!
チラと盗み見るSNAKEPIPE。
その時にお幾つだったのか分からないけれど、少女がそのまま大人になった空気を持った女性だった記憶がある。
その女性はシモンとも楽しそうに歓談していたので、多分間違っていないと思うな!
展覧会のことも鮮明に覚えているけれど、あの時の生シモンと龍子夫人の姿もしっかりと瞼に焼き付いている。

2004年に木場にある東京都現代美術館で「球体関節人形展」が開催されていた。
押井守監督「イノセンス」公開記念の企画で、様々な人形を鑑賞することができるというもの。
この企画、長年来の友人Mと行くのをとても楽しみにしていたSNAKEPIPE。
なのになんと約束の日当日、友人Mと大喧嘩!
人形展に行くのが中止になっちゃったんだよね。(笑)
うーん、今から考えても残念だったなあ。
またこんな企画があったら是非鑑賞したいね!

モホイ=ナジ/イン・モーション

【JR佐倉駅から出ている川村記念美術館行きのバス停にて撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

9月17日からDIC川村記念美術館にて「視覚の実験室 モホイ=ナジ/イン・モーション」展が開催されている。
この美術館、千葉県民でも知らない人が多いのじゃなかろうか。
地理的にはほとんど成田という佐倉市にあるため、成田空港に用事がある方だったら通過し名前くらいは知ってるかもしれないけどね?
かくいうSNAKEPIPEも千葉県民でありながら、今まで佐倉駅で下車したのはたった一度だけ。
その時も川村記念美術館に行くのが目的だったけれど、今から何年も前のことだし、思ったより到着に時間がかかり閉館30分前に入館、あたふたと鑑賞して帰ったはず…。
と、いうことでSNAKEPIPEお得意の「あんまりよく覚えていない」記憶といえよう。(笑)
ただ、その「あたふたと鑑賞」した絵画のことだけはよく覚えている。
お目当てはマーク・ロスコの「ロスコ・ルーム」だったのである。
もう一度ゆっくり鑑賞してみたい、と思いながら長~い月日が経過。(笑)
今回「モホイ=ナジ」展が開催されることを知り、あわよくば「ロスコ・ルーム」も鑑賞できたらいいな!と期待を込めて開催日初日に佐倉に向かったのである。
「モホイ=ナジ」と今回の展覧会名に合わせて書いてみたけれど、SNAKEPIPEにとっては「モホリ=ナギ」のほうがしっくり来る。
今まで目にしてきた表記が「モホリ=ナギ」だったからだ。
表記って時代で変化するんだね?
ここから先は「モホリ=ナギ」で統一しようと思うので夜露死苦!

ここで簡単なDIC川村記念美術館についてのご説明を。
「DIC川村記念美術館は、DIC株式会社がその関連グループ会社とともに収集した美術品を公開するために、1990年5月、千葉県佐倉市の総合研究所敷地内に設立した美術館です。これまでに収集された作品は1000点を超えています。」
とHPに説明がされている。
そう、ここは国立でも市立でもない美術館なのである。
30ヘクタールという広大な敷地には総合研究所と美術館の他に、草花や樹木を鑑賞できる自然散策路があり一般へ無料開放している。
美術館目的よりも、この自然観察が目的で訪れる人が多いような?
京成佐倉駅からJR佐倉駅を経由して、美術館まで無料の送迎バスも完備!
至れり尽くせりですな!(笑)
そして約30分ごとに回っているバスに乗って美術館に向うことに。
このバスがかなり立派でびっくり!
30人くらいが座れるような大型バスで、鉄道会社が持ってる地域のバスよりもキレイで豪華。
バス停も屋根付きベンチ付きとは!
こんなバスに行きは5人、帰りは4人という状態でゆったり景色を眺めながら送迎してもらった。
素晴らしいね、川村記念美術館!(笑)

約20分程の乗車で、DIC川村記念美術館の看板が見えてきた。
看板からすでに敷地内に入っているのに、バス降車場までまだ距離がある。
降車場から更に徒歩でしばらく歩いてからやっと美術館が見えてくる、というなんとも広い敷地にびっくり!
美術館の手前には池が広がり、白鳥が泳いでいた。
「ゆったりしていてとても良い場所だね~!」
と初めて来たROCKHURRAHも満足そう。(笑)
こんな庭園だったらちょっと散歩に、と訪れる人が多いのも納得。
残念ながらこの日はとても暑かったので、ROCKHURRAHとSNAKEPIPEは美術館へ急いだ。
美術館の入り口になにやら巨大な物体が!
フランク・ステラの作品「リュネヴィル」である。
ステンレスとアルミナブロンズで制作された立体作品だ。
おおっ!インダストリアルー!(笑)
解体した破片を寄せ集めたような、ダイナミックさに圧倒される。
ハウルの動く城」を思い出したよ!(笑)

前述したように、この日は「モホリ=ナギ」展の初日だったので、もっと混雑しているかと思いきや意外にもそれほど人は多くなかった。
「モホリ=ナギ」の展示会場に行くまでに、川村記念美術館所蔵作品をゆったり鑑賞する。
川村記念美術館には、印象派からシュルレアリスムに至るまでの幅広い所蔵作品があるのだ。
展示は年に数回入れ替えをするようなので、行ってみないとどの作品を鑑賞できるのかわからない。
今回興味深かったのはマックス・エルンストだった。
やっぱりシュール好きだからかな。(笑)
この美術館の目玉は入り口にあったフランク・ステラのコレクションと、マーク・ロスコの「ロスコ・ルーム」。
フランク・ステラのコレクションはかなり充実していて、1950年代の作品から1990年代までの作品を網羅。
大型作品が多く、特に立体作品に興味津々だったSNAKEPIPE。
家に広い壁があったら是非一つ飾ってみたいものですな!(笑)

そして次は、マーク・ロスコの鑑賞。
世界に四ヶ所しか存在しないという「ロスコ・ルーム」のうちの一つが千葉県内にあるとは驚き!
軽く説明しておくと「ロスコ・ルーム」とは、マーク・ロスコの作品だけでできている部屋のことである。(まんまじゃん!)
これはマーク・ロスコが他人の絵が並ぶのを嫌い、自分の絵だけを展示する空間を作りたかった願いを実現した部屋、とのこと。
壁一面を覆うように展示されている7枚の大きなキャンパス。
赤が迫ってくる感じで、最初は「うわっ!」と思う。
どす黒い赤はちょっと怖い感じもする。
でもしばらくその空間に身を置いてじっくり鑑賞していると、とても心地良くなってくるのが不思議だ。
川村記念美術館HP内の説明には「赤い広がりとなった彼岸への窓あるいは扉といえる」って書いてある。
なるほど!それでなんだか吸い込まれそうな感覚になるんだね!
えっ?余計に怖い?(笑)
初めて鑑賞したROCKHURRAHも気に入ったようで、良かった!
ミュージアムショップでポストカードを販売していたけれど、「ロスコ・ルーム」はその空間を体感しないと意味がないような気がするんだよね。
あの怖・気持ち良さ(ヘンな言葉だけど)は、是非現場で経験して頂きたいな!

番号案内に沿って館内を進んで行くと、やっとメインの「モホリ=ナギ」展に到着。
ここまでがかなり長い道のりだったな。(笑)
ここで簡単にモホリ=ナギについて説明をしてみよう。
1895年ハンガリー生まれ。
絵画、写真、彫刻、グラフィックデザイン、舞台美術、映画と視覚に関係するアート全般で活躍する。
ドイツの綜合芸術学校「バウハウス」では教鞭を取り、その後シカゴに設立された「ニュー・バウハウス」では校長を務める。
マルチアーティストの先駆け的存在なのである。
そして今回の川村記念美術館の企画は「日本で最初の本格的な回顧展」とのこと。
これは期待できそう!

展覧会はモホリ=ナギの歴史順に
1.ブタペスト 1917~1919 芸術家への道
2.ベルリン 1920~1922 ダダから構成主義へ
3.ワイマール-デッサウ 1923~1928 視覚の実験
4.ベルリン-ロンドン 1928~1937 舞台美術、広告デザイン、写真、映画
5.シカゴ 1937~1946 アメリカに渡ったモダンアートの思想
と、5つのパートに分けて展開されていた。
SNAKEPIPEが最も強く惹かれたのは1920年代から始まる構成主義とタイポグラフィ(グラフィックデザイン)だった。
見事な色彩感覚と構図。
左のリトグラフ(版画)にしても、絶妙なバランスで安定感があるよね。
ダダとロシア構成主義の影響を受けている、と説明を受けても、ダダもロシア構成主義についても詳しくない。
別に「~主義」みたいに区分けしなくても、とても好きになれば全く関係ないとも思うし。
ただ、モホリ=ナギ自身はかなり主義・主張があり、自分の行っているアート活動を「〇〇宣言」として理論化している。
その「〇〇宣言」こそがモホリ=ナギの活動を理解する核なんだろうけど、SNAKEPIPEは評論家じゃないからね。(笑)
1920年代にこんなにスタイリッシュなことをやってたなんて!と感動するだけで良しとしようか?

次の作品もROCKHURRAHと一緒に
「ひー!カッコ良過ぎー!」
と二人でガラスケースに齧りつかんばかりに凝視し、目をキラキラさせながら鑑賞したお気に入り。
これは芸術学校「バウハウス」の教師たちが実験的な創作や理論をまとめた全14巻のバウハウス叢書。
学校「バウハウス」の教科書みたいなものか?
世界中のアーティストに影響を与えたらしい。
そのうちの9冊をモホリ=ナギがカバーデザインし、装幀も担当しているのだ。
左はオランダ出身の抽象画家・モンドリアン著作の「新しい造形」。
そしてグラフィックをモホリ=ナギ。
おー!なんて豪華なコラボなんでしょ!(笑)
「バウハウス」と聞いて、パッと思い付くのはピーター・マーフィーがいたバンドの「バウハウス」。
ROCKHURRAHやSNAKEPIPEは、最初にバンドを知り、バンド名の由来からドイツの学校「バウハウス」を知ったのである。
特にROCKHURRAHはバンド「バウハウス」を聴きまくり、その影響で学校「バウハウス」にも特別な思い入れを持っていたとのこと。(わかりにくい表現)
その直線的な機能美がいかにもドイツ的で、100年経っても全く色褪せないデザインだと思える。
タイポグラフィのコーナーに入ってからは、妙に興奮気味だったROCKHURRAH。
結局、ROCKHURRAHは絵よりもポスターやグラフィックデザインが好きみたいね!
SNAKEPIPEは、豪華教師陣が揃っていた芸術学校「バウハウス」で学びたかったなあ!(笑)

以前からSNAKEPIPEがモホリ=ナギについて知っていたのは写真の分野だけだった。
写真の教科書みたいな本には必ずといっていいほど載っているし、例えば写真美術館の所蔵品にもモホリ=ナギの作品があるしね。
今回の展覧会では、もちろん様々な写真作品(コラージュやフォトグラムなど)も多数展示され、映画の上映や「ライト・スペース・モデュレータ」なる光の反射と影を投影する装置なども鑑賞することができた。
写真以外の活動について知らなかったSNAKEPIPEなので、全貌を知ることができて本当に良かった。
モホリ=ナギの作品はサイズが小さいものが多く、活動があらゆる分野に及んでいるために、一堂に集結するのが難しいのかもしれないね。
「モホリ=ナギ」展チラシには「まるでレオナルド・ダヴィンチのように多彩」と書かれていたけれど、SNAKEPIPEはマン・レイが近いように感じたけどどうだろうか?
今回の企画はかなり大掛かりで、大回顧展の名前にふさわしい良い展覧会だったと思う。
川村記念美術館はゆったりしていて、とても気持ちの良い美術館なのでまた機会があったら行ってみたいな!