好き好きアーツ!#42 鳥飼否宇 part16 –ブッポウソウは忘れない–

【ポプラ社の乱歩シリーズ風にROCKHURRAHが作成】

SNAKEPIPE WROTE:

大ファンである鳥飼否宇先生の新作が刊行された。
鳥飼先生の名義としては2015年3月の「生け贄」以来ということになるんだね。
そして本格ミステリ大賞受賞後初の作品、お待ちしておりました!(笑)

タイトルは「ブッポウソウは忘れない(とり研の空とぶ事件簿)」。
出版社であるポプラ社に情報が載っていたので転用させて頂こう。

目撃者はインコ?

大学の鳥の研究室を舞台に巻き起こる不思議な事件の数々。 そこに隠された「とリック」の秘密とは!?

第16回「本格ミステリ大賞」受賞作家が挑む 草食系ミステリ!

鳥の研究室・宝満研に所属する大学4年の野鳥翼。
平凡な大学生の彼の周りでは、ちょっと不思議な事件が巻き起こる。
鳥たちもまきこんで、へっぽこな推理を繰り広げる翼。
そんな中、彼の片思い中の先輩・室見春香が突然姿を消して――。

ありゃ?
主人公の名前、間違ってない?
野鳥じゃなくて宗像だよね。
ポプラ社に連絡しないと。(笑)
と思ったら、帯にも同じ文言が書いてあるよ?
あれー?

購入後すぐに読み始めるSNAKEPIPE。
今までの鳥飼先生の作風とは一味違うね。
主人公が大学生だからかな?

では感想をまとめていこう!
「ブッポウソウは忘れない」は連作短編なので、それぞれの短編について書いていこうと思う。
※ネタバレしないように書いているつもりですが、未読の方はご注意ください!

第一話 慈悲心鳥の悲哀
大学の理学部生物学科に所属する宗像翼は動物生態学を研究している。
日本における鳥類学の第一人者である宝満教授が指導しているので、宝満研と呼ばれているらしい。
画像左のサンコウチョウという鳥を観察しているところから物語が始まる。
宝満研にいる学生達は、それぞれ研究テーマを持っていて、観察を続けデータをまとめているようだ。

同じ学年で宝満研にいるのが曽根みやこという美貌のお嬢様。
曽根の研究対象はオオルリという鳥。
せっかく観察しようとしたのに、ジュウイチという鳥に邪魔されてしまったと憤慨する。

ジュウイチには托卵という習性があるという。
托卵とは卵の世話を他の個体に托すること、つまり卵を他の巣に産み、温めてもらい子育てまでお願いしちゃうことを指すらしい。
自分の子(ヒナ)じゃないことに気付かない親鳥(仮親)にも驚くけれど、他人(他鳥)任せで育児(育鳥)放棄するのが当たり前になっている種類がいることにもびっくりしちゃうよね。
そのジュウイチの別名がタイトルの慈悲心鳥だという。(画像右)
鳴き声からその名前が付いたというけれど、 托卵の習性と慈悲という単語が結びつかないなあ。
ジュウイチのヒナの知恵もまた、慈悲とは正反対だしね?
第一話はジュウイチのヒナにまつわるミステリーだった。
話の食い違い、先入観、思い込みといった、誰にでも色んなシチュエーションで起こり得る話だと思う。
よく読まないと「こんがらかりそう」になるので注意が必要!(笑)

第二話 三光鳥の恋愛

第一話から登場していた古賀先輩のことを書いていなかったね。
古賀富吉は宝満研の修士課程2年で、甘い物とミステリーが好きな先輩だという。
丸々した体型と性格の先輩だというから、相談事をするのはもってこいの人物だよね。
古賀先輩はほとんど全ての話に絡んでくる。
さすがにミステリー好きだからね。(笑)
古賀先輩、なかなか良い味出してるんだよね!
登場するとホッとするタイプの好人物だね!

上に載せたサンコウチョウの尾の長さの違いについて観察と考察を続けている宗像翼。
この尾の長さとモテ度合いには関連性があるのかどうか?
先日たまたまライオンの立髪が男らしさのアピールなのかどうかを考察するテレビを観た。
ライオンの生息する地域とライオンの種類によって違う、というのが結論だった。
動物界にはそれぞれのルールがあるだろうからね。

サンコウチョウの恋の季節に対応したかのように、ある人物が書いたと思われるラブレターを発見してしまう宗像翼。
一体誰が誰に宛ててラブレターを書いたのか、というミステリー。
第二話が、もしかしたら1番今までの鳥飼先生っぽい雰囲気なのかもしれないね?

第三話 耳木菟の救済

本来であれば宝満研の先輩である修士課程2年の門司が世話をしているはずのオオコノハズク(画像左)。
ところが面倒を見ているのは宗像翼。
門司が入院しているからだという。
第三話はどうして門司が入院することになったのかというミステリーだ。

ミステリーもさることながら、この門司という人物がほとんど喋らないという設定が面白い。
ものすごく頭が良いとされる門司だけれど、大抵の会話を「あ行」で済ませるという。
「ああ」とか「うう」という程度なんだよね。
こういう人って実際にいそうだから、門司さんが返答する度に何度も笑いそうになってしまった。(笑)
そして中に登場する装置にも興味が湧いた。
ちょっと試してみたいよね!

ROCKHURRAHが気付いた誤字だと思われる箇所をメモ書き。
208ページ、14行目。(あえて伏せ字にして記述)

まさか古賀さんと◯◯さんが付き合っていたとは。

これ違うよね?(笑)

第四話 鸚哥の告発

宝満研の助教である九千部響が意識をなくして、机に突っ伏しているところを古賀先輩と宗像翼が発見する。
意識を失ったのは、誰かに首を絞められたせいだという。
その場にいた唯一の目撃者は、研究対象だったインコ!
文中に出てきたヨウムという種類は、アフリカ原産のインコなんだよね。(画像右)
このインコは頭の回転がよく、状況に応じた言葉を喋るという。
そのインコが発した言葉から、犯人を割り出そうとするミステリーである。

宗像翼と同学年の曽根みやこも美貌の女性、宗像翼憧れの室見春香もマドンナ、九千部響はメガネを外すと驚く程美しい目を持った女性、九千部響と同学の元ミス・キャンバス、芦屋日登美は今でも男子学生の憧れの的といった具合に、作中に登場する女性は皆揃って美女ばかり!
キレイな人が多いと、頑張れそうだよね!
きっと古賀先輩はあまり気にせず、何か食べながら読書してそうだけど。(笑)

この話も鳥飼先生らしい展開で、読みながら笑ってしまったSNAKEPIPE。
電車の中では、危ない人に間違われそうだから気を付けないと。(笑)

第五話 仏法僧の帰還

左の画像が本のタイトルになっている「ブッボウソウ」なんだよね。
なんて可愛らしいんでしょう!(笑)
そして賢そうな顔立ち。
カメラに向かってポーズを決めているように見えるほどじゃない?
この写真を見て、一目惚れしてしまったSNAKEPIPEだよ。(笑)
このブッポウソウが一年経って同じ巣に戻ってきたことから、「ある謎」が解決するのが最終話だった。
読み進めていく間、なんだかモヤモヤしていた霧がサッと晴れてスッキリすることができた!
良かった!(笑)

SNAKEPIPEには分からなかったけれど、鳥飼先生と同郷のROCKHURRAHは、読み始めてすぐに気付いたことがあるという。
人名が福岡県の地名になっているというのだ。

* 宗像市
* 小倉南区曽根
* 宝満山
* 室見川
* 那珂川
* 古賀市
* 遠賀郡岡垣町
* 田川郡添田町
* 北九州市門司区
* 福智山
* 糸島市
* 大野城市
* 九千部山
* 朝倉市
* 嘉穂郡
* 春日市
* 糟屋郡須恵町
* 北九州市若松区
* 飯塚市
* 大川市
* 遠賀郡芦屋町
* 周防灘
* 北九州市小倉北区富野

さすがによく知ってるね!(笑)
なるほど、見比べてみると納得できるね。
どこにどの地名があるのかを確認するのも楽しそう!
大野城市が大野譲先輩の名前になっているところが、鳥飼先生らしいよね、とROCKHURRAHが笑っている。
ニック・メイソンの久米一村みたいだもんね。(笑)
大野城市には小学校時代まで住んでいたというROCKHURRAH。
他にも縁のある地名があったようで、懐かしそうに思い出話を語ってくれたよ!

鳥飼先生の「ブッポウソウは忘れない」に関連するような映画をROCKHURRAHが用意してくれた。

映画の殿 第19号」でも特集した我らがジャック・ブラック主演の「ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して」(原題: The Big Year 2011年)である。

1年間に北米大陸で見つけた野鳥の種類の数を競う、アメリカ探鳥協会主催の記録会は「ザ・ビッグイヤー」と呼ばれる。
それは私たちが想像する「バード・ウォッチング」とは大きく異り、出場者はみな仕事や家庭生活に支障をきたすほどの時間と大金を注ぎ込み、1年間に40万キロ以上を移動して鳥探しにあけくれる。
大人になりきれない「ビッグ・ボーイズ」たちが、北米の雄大で美しい自然の中を、幸せを追い求めて奔走する様を爽やかに描いた「バード」フル・コメディ

「ザ・ビッグイヤー」と呼ばれる大会は実在していて、そのルポルタージュを元に映画化されているという。
鳥好きの人にとってはたまらない世界だろうね!

そろそろ40歳も目前という年齢にも関わらず、両親と同居。
どうやらバツイチらしいけれど、未だに夢を見ている、ジャック・ブラック演じるブラッド・ハリス。
その夢とはズバリ、「ザ・ビッグイヤー」で記録を更新すること。
探鳥の間は仕事ができないので、借金をしながら移動し、寝泊まりできる施設を渡り歩くことになる。
母親の援助で可能になった「ザ・ビッグイヤー」の参加。
正直なところ、親が甘いなと思ってしまう。
最近はどこの国でもこんな感じなのかな?

観ている途中で、SNAKEPIPEのスマートフォンが鳴った。
電話に出ようとスマートフォンを手にするけれど、着信していない!
なんとそれは、劇中のジャック・ブラックの着信だったんだよね。
偶然にも着信音が同じだったとは。(笑)

鳥好きだから「バード」と付く曲にしたかったんだろうね。(笑)

「ザ・ビッグイヤー」の記録保持者であるケニー・ボスティックを演じたのがオーウェン・ウィルソン
記録のためなら手段を選ばない悪辣ぶりは、嫌う人も多いはず。
それでもやっぱりこの人も、鳥が好きという気持ちが強いんだよね。
奥さんよりもずっと好きだというからすごいよね。(笑)
探鳥界ではトップの座に君臨しているので、様々な雑誌の表紙になっているところが、まるで「ズーランダー」のモデルの時みたいで面白かった。
「ズーランダー2」、そろそろ出るから楽しみだ!(笑)

もう一人、ずっと「ザ・ビッグイヤー」を夢見ていたのが実業家のステュ・プライスラー。
演じたのがスティーブ・マーティン
「サタデー・ナイト・ライヴ」に出演したり、脚本を手掛けていた俳優・コメディアンだから、ベン・スティラーやウィル・フェレルの大先輩になるんだね。
この3人が同じ年に「ザ・ビッグイヤー」の記録更新を狙って奮闘する物語なのである。

「ザ・ビッグイヤー」に参戦していることは内緒にして、自分が何種類の鳥を見ているか言わない。
探鳥の世界といっても、かなり激しいバトルが繰り広げられるんだね。
そして気象条件にも詳しくないと、いつどこでどんな鳥に出会えるかを予測できない。
偶然出会うだけでは記録を更新するほどの種類を確認することができないことが分かる。
時間とお金だけではなく、様々な知識、体力、気力など本当に探鳥って大変なのね!(笑)

上の画像で3人が並んで見ているのはハクトウワシ。
ハクトウワシのペアが手をつないで急降下していくシーンには驚いた!
とてもロマンチックな行動だよね。

鳥を求めて実際に撮影を行ったと思われるので、スタッフはかなり苦労したんじゃないかな?
製作費に対して興行収入が少な過ぎる数字みたい。
それでも「ザ・ビッグイヤー」と同じように、お金では買えない素晴らしい経験ができたのではないかと想像する。
鳥を探す旅、なんて実際にはなかなかできないからね。
きっと鳥が好きで、いろんな種類に詳しい人だったら、もっと楽しめるんだろうね?
映画を観ているうちにSNAKEPIPEも冒険している気分になっていたよ!

SNAKEPIPEもROCKHURRAHもバードウォッチングをしたことがないので、この映画を観て宗像翼やトビさんの姿を想像しやすくなったかもしれない。
そしてもちろん鳥飼先生も、同じように鳥を探して観察、研究されていることでしょう。
「ブッポウソウは忘れない」はもしかしたら、鳥飼先生が実際に大学時代に経験されたTrue Storyが元になっているのかもしれない。
そんな想像をしながら読むと面白いよね。
一体鳥飼先生は登場人物の中の誰なのか?
宝満教授?古賀先輩?門司先輩?主役の宗像翼?(笑)
「観察者シリーズ」とは違ったネイチャー・ミステリー、楽しかった!

好き好きアーツ!#41 鳥飼否宇 part15–昆虫探偵–

【アンドレ・マッソン、1942年のリトグラフ。】

SNAKEPIPE WROTE:

小学生だった頃、木登りが大好きだった。
木の表面を這う虫や、葉から葉へ飛ぶ虫なんてへっちゃら。
どちらかと言えば、同じ木に集う仲間のような感覚を持っていた。
お気に入りの木を秘密基地にして、放課後を過ごすことが多かった。
ある時、作文に秘密基地について書き、クラス全員の前で発表することがあった。
文章が上手かったせいか(?)、SNAKEPIPEの秘密基地はクラスの男子の好奇心を煽ってしまったようだ。

「秘密基地の場所、分かったから!」

数日後、男子から突然言われる。
放課後になり、気もそぞろに基地に向かう。
木の上に隠していた小さいノートが地面に落ちている。
男子の言葉は嘘じゃなかったようだ。
秘密基地が発見され、荒らされたのだ。
怒り?
悲しみ?
敗北感?
なんとも表現できないような複雑な感情。
頭が真っ白になっていた。
目の前のノートから視線を外せないまま、立ち尽くすしかなかった。

その日以来木登りをやめてしまったのである。
あれほど仲間意識を持っていた昆虫のことも嫌いになってしまったのは、その経験からではないか、と分析しているSNAKEPIPE。
ううっ、今思い出しても苦い味が広がるなあ…。

今回の「トリカイズム宣言」は大ファンである本格ミステリ大賞受賞作家・鳥飼否宇先生2002年の作品、「昆虫探偵―シロコパκ氏の華麗なる推理」についての特集!
長過ぎる前振りでお分かり頂いたように(笑)、現在では昆虫が苦手になってしまったSNAKEPIPE。
そんな人でも、鳥飼先生の「昆虫探偵」を読めるのだろうか?
答えはイエス!
「昆虫探偵」では昆虫が擬人化されて登場するので、あんまり虫々した虫(変な表現だけど)になってないんだよね。(笑)
「昆虫探偵」は前口上、後口上、そして7つの話で構成される連作短編で、それぞれの短編のタイトルがミステリー小説のパロディになっている点も注目。
今回は元ネタ小説のカバーを使って、短編ごとに書いていこうかな!

2008年の記事「不条理でシュールな夏」でも少し触れたことがあるカフカの「変身」。
SNAKEPIPEの人格形成に必要だった小説、と書いているね。
ちなみに昔、家に住み着いていたクモに「ザムザ」と命名していたこともあったっけ。(笑)

「昆虫探偵」は、パッとしない人間だった葉古小吉が「変身」してヤマトゴキブリになったところから話が始まるんだよね。
ぎゃー!Gはちょっと…。
できるだけ遭遇したくない相手!
現実ではそうだけど、「昆虫探偵」の中ではユーモラスな存在なんだよね!
葉古小吉は昆虫界ではペリプラ葉古という名前になっていた。
どうやら学術名から取られたようだけど、検索するのが怖いのでやめておこう。
画像も一緒に出てくるからね。(笑)
ペリプラ葉古は人間だった頃、昆虫とミステリー小説が大好きだった、という設定から熊ん蜂探偵事務所の助手になるのである。
事務所の所長はクマバチのシロコパκ(カッパ)という名探偵!
この2匹(ふたり)に加え、口の悪い雌刑事(おんなでか)・クロオオアリのカンポノタスが難事件に挑む物語なのである。

第一話 蝶々殺蛾事件

横溝正史先生の「蝶々殺人事件」をもじったタイトルが付いているけれど、「人」の部分が「蛾」になっているところがポイント!
「昆虫探偵」の中では「匹」や「虫」などを「人」や「者」としてルビがふられている。
この細かい部分のこだわりに気付くと、より一層楽しめるんだよね!
単なる設定としてのみ、擬人化されているわけではないことが分かるし。

実はSNAKEPIPE、「蝶々殺人事件」未読なんだよね。
「えっ、読んでなかった?」
とROCKHURRAHにも言われてしまった。
読まないとね!(笑)

文中に出てくる「羊たちの沈黙」は「あの手の映画」の先駆け的存在であり、SNAKEPIPEの映画ベスト10には絶対入るフェイバリット!
ドクロメンガタスズメについての解釈は、なるほどねえと感心して読む。
SNAKEPIPEは、髑髏柄が絵になるから採用したんだろう、と単純に考えていたからね。(笑)

第一話である「蝶々殺蛾事件」はムクゲコノハという蛾がオオムラサキという蝶によって殺されたのでは?という事件を解決する話である。
美しい蝶であるオオムラサキの名前がササキアokm(オカマ)というオスだったり、ムクゲコノハはL・ジュノbgn(ビジン)だったり、ネーミングセンスも抜群!(笑)
これらも学術名を元に考えられてるみたいだけど、なかなか気が利いてるよね。

事件はその生物の特徴を知っていないと解けないんだよね。
そういう意味では恐らく生物学者や昆虫に詳しい人じゃない限り、謎解きできないんじゃないかな?
前代未聞のミステリー小説だよね。(笑)

第二話 哲学虫の密室

笠井潔氏の「哲学者の密室」のタイトルをもじっているとのこと。
この小説も非常に面白そう!
そして気になるのが、カバーに使用されている絵。
ヒエロニムス・ボッシュみたいだけど、ちゃんと確認できなかったよ。(笑)
「者」が「虫」になった第二話に登場するのは、ダイコクコガネ。
地中に作った育児室から子供が失踪した、という事件である。
地中の、糞球の中から、母親を見張りをくぐり抜けるという3重の密室における失踪という難題!
これもまた生物ならではの特徴が生かされた謎の解明になっている。
第二話のネーミングも最高で、4578でロクデナシ、11041でイトオシイ、0931でオオクサイ!(笑)

謎解きもさることながら、SNAKEPIPEが一番気になったのは子育てする昆虫がいるという点。
羽化するまで見守るなんて!
自然界の生存競争って本当に過酷で、その中を生き抜いて種の保存を一番に考えていくってすごいことだよね。
3cm足らずの昆虫にも知恵があって、それがDNAで継承されているという事実には驚かされる。

第三話 昼のセミ

北村薫氏の「夜の」のパロディだという。
氏の作品は何冊か読んだことがあるけれど、この作品は未読!
読みたいリストがどんどん増えるね。(笑)

第三話では行き倒れの外国虫、ティティウスシロカブトが登場する。
昔大好きだったゲーム「どうぶつの森」で、夜中にしか現れないヘラクレスオオカブトを採るのに苦労したことを思い出すね。
2006年に「最近はまっていること2」として画像載せてたね。(笑)
ひゃー!10年前だよ、こわいこわい。

外国虫であるティティウスシロカブト、TIT(タイタン)からアメリカのジュウシチネンゼミが全く鳴かないという話を聞き、調査に出るにしたシロコパκとペリプラ葉古。
外国虫の会話の時にはちゃんと「オーイエース」などと英語交じりの日本語になっているところが面白い。(笑)

第三話の謎は、かなり深刻な問題提起だよね。
この小説が書かれた2002年は今から14年前だけど、その時点でこのような現象が報告されているとしたら、現在はもっと危ないかもしれないね?
鳥飼先生の小説には、警鐘を鳴らし危機感を持つことを教えてくれる話があるのも魅力の一つだと思う。

蝉は土の中での生活が長くて、地上に出てからは短命とは聞いていたけれど、ジュウシチネンゼミは16年もの間土の中にいるとは驚き!
そういう種類の蝉がいることすら知らなかったからね。
虫生(じんせい)いろいろだねえ。(笑)

第四話 吸血の池
二階堂黎人氏の「吸血の家」を一文字変えたパロディね。
吸血と聞いて一番最初に浮かぶのは蚊かな。
ぶうぅぅぅーんと耳元で聞いたあの独特の音だけど、最近あまり聞かないんだよね。
えっ、加齢で音が聞こえなくなる?
そのせいなのかなあ?(笑)

第四話はその蚊が主役ではない。
フチトリゲンゴロウが体液を吸われた状態で殺されているのが発見された、という事件を見ていたG・パル*(アスタ) というアメンボが話を進行させる。
聞いているのは、すでにお馴染みになった熊ん蜂探偵事務所の2匹である。

思いもよらない肉食の方法を持つ昆虫がいる、ということが書かれていて恐ろしくなってしまう。
オタマジャクシや小魚を昆虫が食べるとは!
水面に浮かんだ昆虫を魚が食べるのは知っていたけど、逆もあるんだね。
そういえば蟻の大群が牛を飲み込むように覆い尽くし、あっという間に骨にしてしまう映像観たことあったっけ。
昆虫も怖いなあ。
体外消化、なんて初めて聞く言葉だったよ。
なるほどそれで吸血の池、なのね。(笑)

第四話の中で面白かったのは「手のひらを太陽に」についての解釈。
アメンボだって生きているという歌詞は失礼だ、とG・パル*が怒るのである。
ケラに「お」が付いている点にも言及されていて、確かにそうだと納得する。
今まで(というか子供の頃)は、意味を考えずに歌わされていたので、全然気付いてなかったことなんだよね!
3文字にしたいなら「おケラ」じゃなくても、いるだろうに。(笑)
そして飴のように甘い匂いがするからアメンボだったことも知らなかったよ!

第五話 生けるアカハネの死

山口雅也氏の「生ける屍の死」の「屍」が「アカハネ」になっているね。(笑)

アカハネは地名の赤羽じゃなくて(笑)、アカハネムシで、有毒のベニボタルに擬態している甲虫だという。

そのアカハネムシ、名前をシュードピロ・2356(シガナイ)から依頼を受ける熊ん蜂探偵事務所。
依頼内容は擬態の効果なく、仲間が殺(や)られている、というものだった。

捕食者が行う擬態と被食者の擬態についての説明は非常に興味深かった。
狩る側と食われる側、それぞれ知恵比べしてるってことね。

環境に適したように進化させたり、例えば体毛の色を変化させたりして生存競争に勝っていこうとする生物を知ると、
「何故人間にはその能力がないのか?」
といつも考えてしまうSNAKEPIPE。
退化してしまったのか、元々持っていない能力なのか。
生き物としての弱さを痛感するなあ。

第六話 ジョロウグモの拘

京極夏彦氏の「絡新婦の理」からのパロディだね。
2008年に「鵼の碑も蜂の頭もないよ」という京極夏彦氏の「妖怪シリーズ」に関する覚書を書いているSNAKEPIPE。

「んな、ばかな!」というラスト近くは息をつかせぬ激しい展開。
最後まで読んだらまた最初に戻らないといけない小説その2。

と書いていたね。
ちなみに「最初に戻らなきゃいけない小説その1」は「鉄鼠の檻」としているね。
いつ出るか、と待っていた京極夏彦の新作予定の「鵼の碑」は、一体どうなってしまったのか。
待っていたことすら忘れていたよ。

自分で書いた覚書を読んで、今までの「妖怪シリーズ」を思い出したけど、かなり記憶が薄れてきてるなあ。(笑)
以前だったら「あの分厚い本」を持ち歩くのは大変だったけど、今なら電子書籍で読めるからね!
そういう意味では便利な世の中になったもんじゃわい。(笑)

子供の頃に祖母の住んでいた田舎で大きな蜘蛛を見た記憶がある。
子供の目には天井一面が蜘蛛の巣に見えるくらいの巨大さ。
あれは何という種類の蜘蛛だったんだろう。
祖母宅の縁側の下にあった蟻地獄で遊んだのは、楽しかったなあ!
昆虫嫌いになる前の話だね。(笑)

第六話で最初に登場するのはジョロウグモ。
張ったクモの糸が、いつの間にか切られる事件が発生したという。
ああ、蜘蛛の糸!
好き好きアーツ!#08 鳥飼否宇 part2–太陽と戦慄/爆発的–」でも少し触れたっけ。
芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」の中では、糸を切るのはお釈迦様だったけれど、第六話には別の犯虫(はんにん)がいるんだよね。

この話もその種ならではの理論(というのか)があるんだよね。
ジョロウグモの名前の由来も初めて知ったよ。
勉強になるよね!(笑)

第七話 ハチの悲劇

法月綸太郎氏の「一の悲劇」の「一」が「ハチ」になってるよ。(笑)

第七話の主人公は熊ん蜂探偵事務所の探偵であるシロコパκなんだよね。
「昆虫探偵」の最終章は、驚くような内容になっていた。
まさかそんなことになるとはね。(笑)

そして後口上で、更にびっくり仰天させられてしまうのだ!
たまに四足で駆けている夢を見るSNAKEPIPEにとっては他人事じゃない気がするね。
読み終わって、シロコパκやペリプラ葉古に会えないのを残念に思う。
いつの間にか親しみを感じていたみたいだね。

「昆虫探偵」は昆虫の世界における事件を、その昆虫の特徴に基づいて謎解きする非常に珍しいミステリー小説なんだな、と再認識する。
登場するのが全て昆虫だもんね!
その中に光るネーミングセンスやギャグ、それぞれの昆虫の生き生きとした存在感、そしてタイトルまでパロディにしているところも含め、鳥飼先生にしか書くことができない独創的な小説だと思う。
「昆虫探偵」の続編、読みたいなあ!
もっと昆虫のことを知りたいと思ってしまうね。
あれ?昆虫、苦手じゃなかったっけ?(笑)

好き好きアーツ!#40 鳥飼否宇 part14–樹霊–

【私市康男の作品「冬至」をROCKHURRAHが作成】

SNAKEPIPE WROTE:

大ファンであるミステリー作家・鳥飼否宇先生の作品を再読して、感想をまとめるシリーズの続きを書いてみよう。
今回は2006年に発表された「観察者シリーズ」の「樹霊」!
今までに書いた鳥飼先生の作品に関する記事をまとめたカテゴリー「トリカイズム宣言」を読んでもらうとご理解頂けるのだけれど。
簡単に説明させてもらうと「観察者シリーズ」とは、大学サークルの野生生物研究会に所属していた4人が、卒業して何年(何十年?)経っても連絡を取り合い、奇妙な事件に巻き込まれる話なのである。

自称「観察者(ウォッチャー)」、通称トビさんこと鳶山久志が「観察者シリーズ」での探偵役として活躍する。
事件となる題材を拾ってくるのは、植物写真家である通称ネコこと猫田夏海、野生生物研究会メンバーの中での紅一点である。
売れっ子イラストレーターで、佐賀県生まれなのにベタベタの博多弁を話すジンベーこと高階甚平。
そして西荻窪で親からの遺産を相続し、マンションのオーナー兼「ネオフォビア」というバーの経営者である神野良。
この「付かず離れず」の良い距離感を保った4人が、摩訶不思議な自然現象だと思われた事象や事件を解決していくのが「観察者シリーズ」なのである。

今回の舞台は北海道!
「でっかいどう、北海道」の北海道である。
ん?わざわざ言うほどのことじゃない?
しかも古過ぎ?(笑)

植物写真家のネコが、北海道にある巨木の撮影をしているところから物語が始まる。
撮影していたのは「ミズナラ」という樹木。
推定樹霊1200年以上という非常に長生きの「ミズナラ」だという。
本当は文中に登場した「最上のミズナラ」や「双葉のミズナラ」の画像を載せたかったんだけど、著作権の問題を考慮して同種の「ミズナラ」画像(左)にしてみたよ。
長寿の巨木というと、例えばゲーム「ゼルダの伝説」に登場するような「デクの樹」様みたいに、なんでも知っている穏やかな賢人(賢木?)という印象があるよね。
長寿の巨木を前にしたら、霊験あらたかな気分で、知らず知らずのうちに手を合わせてしまいそうだもん。
きっとネコも撮影しながら巨木と対話していたんだろうね。

撮影終了後、ネコは「ミズナラ」のある場所を案内してくれた役場の職員から「古冠のミズナラが動いた」話を聞くのである。
ここで、SNAKEPIPEの自慢できないコーナー!(パチパチ!)
以前にも何度かブログに書いたことがあるけれど、関東地方(東京近辺)からほとんど出たことのないSNAKEPIPE。
授業での地理も苦手だったっけ。
そのため(?)地名も致命的に知らないことだらけ。(ぷっ!)
フルカップ(ブラ?)、振るカップ(揺らしてどうする?)と、全く違う想像をしてしまうのである。
どこにあるんだろう、と検索してみたけれど占冠はあっても古冠は出てこないなあ。
文中に北海道の日高地方とあったので、それで良いことにしよう!

好奇心旺盛なネコが「木が移動した」なんて話に飛びつかないわけがないよね。(笑)
更なる情報を得るために古冠村役場に向かうのである。
ここから先のあらすじはAmazonの商品紹介から引用してみよう。

役場の青年の案内でネコが目にしたのは、テーマパークのために乱開発された森だった。
その建設に反対していたアイヌ代表の道議会議員が失踪する。
折しも村では、街路樹のナナカマドが謎の移動をするという怪事が複数起きていた。
30メートルもの高さの巨樹までもが移動し、ついには墜落死体が発見されたとき、ネコは旧知の「観察者」に助けを求めるのだった。

「ミズナラ」に続いて「ナナカマド」(画像右)も移動するという謎を追いかけているうちに、失踪事件や殺人事件に巻き込まれ、古冠に足止めされてしまうネコ。
最初のうちはアイヌの方の自宅で手料理を頂いたり、アイヌの話を聞いたりして楽しそうだったのに。
もっと早く古冠を離れていれば良かったと後悔しているネコは、本当にかわいそうだった。
「樹霊」でのネコは今までにない「女性らしい」部分が表現されていて、ちょっとびっくりしちゃうんだよね。
そして長い付き合いだから分かるのか、ジンベーにあっさりと見抜かれていたところは、読んでいて微笑ましかった。
それにしても夜のホテルでネコとジンベーが2人きりになった時、ジンベーに強く腕を掴まれた瞬間、男女の関係を想像してしまった勘違いネコに笑ってしまったよ。(笑)
ジンベーとロマンチックなことが起こる確率は低いと思うけどね!

あらすじにある「30メートルもの高さの巨樹」というのが「ハルニレ」という樹木。
これもまた同種の画像を左に乗せてみたよ。
「フチ」と呼ばれている「ハルニレ」 だと文中にある。
「フチ」とはアイヌの言葉で「おばあさん」を意味するというから、これもまた長生きの樹木なんだろうね。
「樹霊」には植物の名前以外にアイヌの言葉がカタカナ表記されているので、植物の名前すら覚束ないSNAKEPIPEはたまに混乱することがあった。
もしかしたらSNAKEPIPEだけなのかも。(笑)

心細くなっているところへ、長い付き合いのトビさんやジンベーがかけつけてくれる。
トビさんは相変わらずトビさんらしい対応だったけれど、最終的には謎を解決しちゃうんだよね。
その語りは淀みなく、スラスラ読んでしまうんだけど、実は1回目に読んだ時にはトリックが難しくて理解し難かったことを告白しよう。
今回はその時の反省を活かして、脳内映像を混ぜながら注意深く読んでみたよ。
あれがこうなって、こうなるからと想像しながら読むと、なるほど!
そういうことだったのね! (笑)

トリックに関しては理解できたけれど、犯人の動機は難しかった。
理解や共感なんて簡単には言えない次元の話だと思うから。
そして他に方法はなかったんだろうか?とも考えてしまった。
非常に深刻で重いテーマだよね。
本当は誰もが考えなければいけない重要事項なんだと思う。
SNAKEPIPEには何ができるだろう?

「樹霊」では最後のほうにトビさんの珍しいシーンもあるんだよね。
飄々とした人間嫌いのトビさんらしからぬ、かなりレアな場面にも驚いてしまったSNAKEPIPE。
再読する度に新しい発見をして、嬉しいね!
いや、単なる物忘れ、とも言えるのか。(笑)

大好きなジンベーのファッションも素敵だったね!
レザーの上下にピンクのサングラスとは。
体型が小熊のジンベーなのに「好いとうもん、着とるだけっちゃ」の心意気が好きだよ。
このSNAKEPIPEが作った偽物の博多弁どうなの?(笑)

トビさんとネコが登場する「観察者シリーズ」は「中空」「非在」に続いての3作目になる。
読んでいる順番もまちまちで何度も読んでいる場合もあるので、SNAKEPIPEにとって「観察者シリーズ」の面々は旧知の仲のような存在。
そして鳥飼先生の著作から教えてもらうことが多いのも魅力なんだよね。
「樹霊」ではアイヌの文化や風習に関しての記述が興味深かった。
「カムイ」についての考え方は、例えばアメリカ先住民族であるインディアンが精霊に祈祷するのに近いように感じた。
森羅万象の全てに霊が宿っていて、その霊を敬い感謝することで共存していく、という解釈で良いのかな。
現代社会に生きていると難しいけれど、羨ましいと思ってしまう。
非常にシンプルだからね!
きっと鳥飼先生は奄美大島で、「カムイ」を体感なさっているのではないでしょうか。

次回のトリカイズム宣言は「昆虫探偵―シロコパκ氏の華麗なる推理」にしよう!
これもまた再読するのが楽しみ!(笑)

好き好きアーツ!#37 鳥飼否宇 part13–異界–

【静謐で荘厳な森をROCKHURRAHが創作したよ。少し恐ろしい感じがするね。】

SNAKEPIPE WROTE:

今年最後のブログは鳥飼否宇先生の旧作を再読するシリーズで締めさせて頂くことにしよう。
過去数回に渡る鳥飼先生に関するシリーズ「トリカイズム宣言」では、「観察者シリーズ」と呼ばれる作品群について感想をまとめていて、前回書いた記事の最後には「次は樹霊」と予告していたSNAKEPIPE。
ところが今回感想をまとめるのは「異界」。
おっとこれは意外!(ぷぷぷ)
「異界」にしてもいーかい?(スミマセン)
「観察者シリーズ」を連続しなくても良いのでは?というROCKHURRAHの助言に従ってみたのである。

「異界」は2007年に発表された作品である。
主人公は南方熊楠という江戸末期生まれの博物学者、生物学者で民俗学者。
「歩く百科事典」と称される程のものすごい博識だったらしい。
鳥飼先生の小説で実在の人物が登場するのは、「異界」だけだよね。
左の画像が南方熊楠なんだけど、かなり現代的に見えるよね?
誰か似ている人がいそうだけど、思いつかないなあ。(笑)
ここで少し南方熊楠について調べてみようか。

1867年 大政奉還の年に南方熊楠は生まれる。
日本史で習った懐かしい言葉。(笑)
幼少の頃から驚異的な記憶力を持ち、神童と呼ばれたらしい。
1887年 渡米しパシフィック・ビジネス・カレッジに入学する。
南方熊楠は18の原語を操ったらしい。
渡米前から英語は話せたんだろうか?
1891年 キューバ、ハイチ、ベネズエラ、ジャマイカなど3ヶ月ほど中南米に滞在する。
サーカス団と一緒だったという。
1892年 ニューヨークからロンドンに渡る。
科学雑誌「ネイチャー」に寄稿したり、大英博物館東洋調査部員として東洋美術を担当していたという。
更に亡命中の「中国革命の父」孫文とも親交があったというから驚いちゃうよね!
1900年 ロンドンより帰国。
1941年 満74歳没。

今から100年程前の人物とは思えないよね。
2015年の現在だってアメリカの大学行ってイギリスの大英博物館からお給料貰うなんて人はなかなかいないもんね!
しかもサーカス団の手伝いでキューバなどの南米にまで足を伸ばすとは。
研究熱心だからこそ、とも言えるけど命知らずの冒険家だったんだね。
もちろん度胸だけではない、並外れた博識と語学力、そして情熱があったからこそ海外でも活躍できたのは言うまでもないことだね。
孫文やディケンズ、柳田国男との交流や、昭和天皇にキャラメルの箱にいれた粘菌標本を渡した、など仰天エピソードもたくさんある奇想天外な人物だよね。(笑)

「異界」はそんな南方熊楠が外国から帰国し、故郷の和歌山県の那智の森で植物の採集をしているところから始まる。
明治36年、1903年が舞台である。

那智といえば。
ROCKHURRAH RECOREDSが最近興味を持っている、滝で有名な場所!
日光の華厳の滝、茨城の袋田の滝と合わせて日本の三大名瀑と言われているんだね。
栃木と茨城は関東地方だけど、和歌山県には気軽に行かれないよ。
いつか行ってみたいなあ!

そんな自然豊かな森に毎日通っては、観察と採集を続け、標本を作りに精を出している南方熊楠には弟子がいた。
福田太一という地元では有名な酒蔵の息子である。
お坊ちゃん育ちの太一と熊楠が、「観察者シリーズ」でいうところのトビさんとネコのような関係なんだよね。
そう、南方熊楠はもうトビさんそのものと言っても良いくらい。
だって南方熊楠こそプロのウォッチャーだもんね!(笑)

実在の人物を主人公にしているけれど、そこはやっぱり鳥飼先生の小説だから!
ミステリーになっているんだよね。
和歌山県の田舎町で起こった事件を南方熊楠が解決するの!
弟子の太一から狐憑きの少年の目撃情報がもたらされ、その後産婦人科で新生児が誘拐される事件が起こるのである。
更に殺人事件まで発生してしまう…。

改めて読み返してみると、鳥飼先生のその後発表されている小説の題材があちこちに散りばめられていることに気付く。
寄生、アルビノ、狐憑き等々。
「観察者シリーズ」のファンなら、当然興味が湧くこと間違いなし!
いや、「観察者シリーズ」を読んでいない、そこのあなたもね!(笑)

たまたま残り数ページを残して中断していたSNAKEPIPE。
続きの、ここからが凄かった!
またもや瞬きしないで読んでいたと思う。(笑)
2重3重と繰り広げられるトリックは、SNAKEPIPEをまるで手のひらで転がすように翻弄する。
「うーむ、そうだったのか」と読み終わってから、「あの時のあれね!」などと伏線を思い出したり。
とても面白かった!(笑)
「異界」は一回じゃダメね!(オヤジギャグ健在!)

南方熊楠を主人公にした続編はないのかなあ?
SNAKEPIPEが一番気に入っているのが、他人を罵倒する熊楠の言葉なんだよね。(笑)
よくもそこまでポンポン言葉が出るよ!と感心しちゃう。
実際に癇癪持ちだったらしい熊楠なので、きっと本当に弾丸みたいな言葉を発してたんじゃないかな?
あの言い回しをまた読みたいなあ!(笑)