トム・サックス ティーセレモニー 鑑賞

20190609 01
【会場入り口を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

長年来の友人Mから展覧会ハシゴの誘いを受けた。
2つ共、面白そうな企画である。
移動距離はあるけれど、時間配分して回ってみよう!
ROCKHURRAHとウォーキングをしているSNAKEPIPEなので、足腰も強くなっているはずだし。(笑)
梅雨入り前の、割と涼しい日に友人Mを待ち合わせたのである。
冷房に弱いSNAKEPIPEは、脱ぎ着できるようにジャケットを着用。
なんと友人Mはノースリーブ一枚とは!
しかも背中部分はレースで、インナーが透けて見える状態。
「ストール持ってくれば良かった」
って、ちょっと服装が先取りし過ぎでしょ!(笑)

まず向かった場所は初台の東京オペラシティ アートギャラリーである。
このギャラリーに何度も足を運んでいる友人Mとは違って、今回が初めてのSNAKEPIPE。
オペラシティアートギャラリーではトム・サックスの展覧会が開催されている。
恥ずかしながらトム・サックスの名前を聞くのも、作品を鑑賞するのも初めてのSNAKEPIPE。
まずはプロフィールを調べてみようか。

1966年ニューヨーク生まれの52歳。
彫刻家、という括りで良いのかな。
バーモント州のベニントン大学卒業後、ロンドンの建築協会建築学部で建築を学んだ後、フランク・ゲーリーの家具店で2年間働く。
1990年頃ニューヨークでスタジオを設立。
その後、数年間は百貨店バーニーズ・ニューヨークの照明ディスプレイなどをしていたらしい。
1994年にクリスマス・ディスプレイを任され、「Hello Kitty Nativity(ハローキティ・キリスト降誕)」というタイトルで発表されたのが左の作品だという。
賛否両論のため注目を集めたというのは、納得だよね。
1995年にニューヨークのモリス・ヒーリーギャラリーで開催された個展「Cultural Prosthetics」では、ファッションと暴力の融合をテーマにしたという。
この発想は「収集狂時代 第6巻 Louis Vuitton編」で記事にしたモノグラムのチェーンソーやガスマスクを思い出すね。
トム・サックスのHPで確認すると、シャネルのロゴが入ったチェーンソーやギロチンを発見!
この手の作品を誰が一番先に発表したのか不明だけど?
経歴からは、例えば美大を卒業した、というような記述は見当たらない。
ディスプレイを任されたことからアーティストになったとは、異例かもしれないね。
トム・サックスの作品はニューヨークのメトロポリタン美術館、ソロモンR.グッゲンハイム美術館、ホイットニー美術館、パリのポンピドゥー・センターなど世界の主要美術館に所蔵されているという。
かなりの有名人であるトム・サックス、今回の展覧会は「ティーセレモニー」だって。
ギャラリーの受付で、撮影オッケーの確認を取る。
こういう美術館、大好きだよ!(笑)

「現代」と「茶の湯」が出会う「トム・サックス ティーセレモニー」は、アメリカ国内を巡回し、今回、日本で初めて開催する待望の展覧会です。
トム・サックスは茶の湯の精神や価値観を、21世紀の宇宙開拓時代に必須の人間活動の一つとして考え、ティーセレモニー(茶会、茶道)に真摯に向き合っています。
彼のユニークな発想や視点を通じて映る日本の姿は、新しい価値観や世界観を気づかせてくれる貴重な機会となるでしょう。

展覧会のイントロ部分を引用させて頂いたよ。 
キティちゃんをキリストになぞらえてしまうような、レディ・メイド(既成品)作品を発表しているトム・サックスは、どんな「茶の湯」を展開するんだろうね?
展覧会でも流れていた動画があったので、まずはこちらから。
13分以上あるので、時間に余裕がある時にゆっくり観ようね! 

2012年から本格的に茶道を学んだというトム・サックス。
動画は、まず掃除をするところから始まっているよね。
お客様を迎える準備に余念がないけれど、道具や様式が日本人から見るとやっぱり変!
展覧会では動画で使用された様々な機械(?)や仕掛け、小道具などが展示されていた。
右は動画の中で木を切るために使われた機械じゃないかな。
切った木を花入れのような器にしていたように見えたけど。
この作業を行うために、わざわざ兜を模したヘルメットをかぶっていたのはギャグなのか?
日本人でも完全な茶室に入ったことがないSNAKEPIPEは、こんな儀式が茶道で行われているのかは不明だよ。
茶器を清めるために布で拭く動作を、トイレでも行うのはやり過ぎだと思ったけどね!
実は、動画を観たのは立体作品を観た後だったので、立体だけを観ている時には何のための道具なのか分からないまま鑑賞していたんだよね。
あの順番が逆だったら、もっと興味深かったのかもしれないな。

動画を鑑賞している時に、思わず吹き出してしまったのが鯉のシーン。
会場には、本物の鯉が泳いでいたよ。
動画では、この鯉を乱暴に網ですくい、刺し身にしていたよね。
あのー、日本人は茶道の席で、刺し身は食べませんから!
何か色んな日本的な習慣がごちゃまぜになっていて、その「ちぐはぐさ」がおかしい。(笑)

枯山水に見立てた日本庭園を表現している空間。
中央にあるのは盆栽で、左には五重塔が見える。
この位置から見ると、日本のイメージをうまく捉えているようだけど、、、。
盆栽に近寄ってみると、綿棒や歯ブラシが枝や葉の代わりになっていることが分かる。
更に枝部分はネジ止めされているし、植木鉢代わりになっているのは、アルファベットが印字された木箱。
既成品を流用して制作するというトム・サックスらしい作品なんだろうね。
松のようにも、桜にようにも見えて、日本っぽい仕上がりになっていたよ。

「おもてなし」をするための茶室。
茶室も掃除していたけれど、畳の縁を踏んでいたのは仕方ないだろうね。
恐らく多くの日本人は「畳の縁を踏んではいけない」と教育されてきたはず。
SNAKEPIPEは、この理由を知らなかったので、早速調べてみることに。
かつてはこの縁に、家紋が使用されていたという。
縁を踏むことは、家紋を踏みつけることになるため「踏んではいけない」になったらしい。
現代でも家紋を使用した畳の縁はあるのかもしれないけど、一般家庭ではお目にかからないよね。
マナーの部分だけが残ったということかな。
トム・サックスの茶室は、何故か3つのカメラでコンクリートブロックを縦にしたような木枠(?)を写し続けていた。
鯉の後ろにもその映像が見えるよね?
これは意味が分からなかったなあ。

茶室に向かう前に、ゲストが立ち寄るポイント。
火鉢にある焼けた炭をキセルに入れて、一服していたよね。
キセルについてもよく知らないんだけど、炭を持ちながら吸ってるシーンは見たことないよ。
茶室に入る前に手を清めていたけれど、あれも神社や寺にある手水舎だよね?
これもまたミックスされちゃったのかな。
一連の作法になっていたのが、観ていておかしかった。

アメリカ人であるトム・サックスが掛け軸を作ると、こうなるんだね。(笑)
これも観た瞬間に笑ってしまった作品だよ。
誰でも知っているマクドナルドのマークに、落款印代わりのアメリカ国旗。
ハンドメイドだから仕方ないかもしれないけれど、欲を言えばもっと掛け軸の土台をきっちり作ってもらって、表装部分に例えばハンバーガーの包み紙などを使用してもらったら、もっと良かったと思ってしまったよ。(笑)
他にもロケットの絵や、禅画の円相を描いたのか、日の丸を描いたのか不明の掛け軸などが並んでいた。

トム・サックスの動画は、特別に制作されたジオデシック・ドーム状のシアターで上映された。
このドームも作品だったんだね。
鑑賞するための椅子本体はサムソナイトで、これもトム・サックスの作品。
表側には「NASA」の文字があり、背面にはロットナンバーと人の名前がマジックで記載されていた。
人の名前にも意味があったのかもしれないけど、よく分からなかったよ。
30分おきに上映時間が設定され、SNAKEPIPEと友人Mは12時40分の回を鑑賞。
なんとも不思議な茶会風景を観たよ。

茶道はもてなしの心を慈しみ、儀礼を通じて地域の発展やコミュニティの強化を促し、「地」「空」「火」「水」といった基本的な要素を取り入れながら、心身の世界との一体感や親密なつながりを見出し、自身を静かに見つめ直す機会を与えるものです。
トム・サックスによる茶道はその無限の空間を探求することによって、新たな世代や観客層がこれらの価値観やそれを支える文化を体感できる、豊かで心動かされるプロジェクトなのです。

2016年に「ティーセレモニー」が開催されたニューヨークにあるイサム・ノグチ美術館のキュレーターの方が話した内容を転記させてもらったよ。
なんか拡大解釈してるような?(笑)
外国人からは、「日本の文化を再現」しているように思って「これぞJAPAN」と感じてしまうのかもしれないよね。
SNAKEPIPEは「豊かで心動かされるプロジェクト」というよりは、トム・サックスの「ブラック・ジョーク」と感じたよ。
トム・サックスがちゃんと正座ができていたところはすごいと思ったけど!

和菓子の代わりにOREOクッキーを出したり、映画「スター・ウォーズ」の登場人物であるヨーダのディスペンサーから出たPEZをふるまう。
抹茶を点てる時に使用する茶筅(ちゃせん)はモーター付き。
既成概念をおちょくったアートというと、会田誠を思い出してしまう。
会田誠の作品は、かなりブラック・ジョークに満ちているからね!(笑)
トム・サックスの「ティーセレモニー」では、会田誠のような禁忌に触れる作品は見当たらなかった。
レディ・メイド作品を初めて発表したマルセル・デュシャンを継承している、ということなのかな。

今回作品を鑑賞し、感想をまとめていて、非常に調べ物が多いことに気付く。
例えば道具の名前など知らないことだらけなんだよね。
茶会の席には掛け軸と花入、更にお香を炊くなんて知識もなかったし。
外国人の作品を鑑賞することで、日本の文化を勉強することになった、というのが驚きと収穫かな。
ただし、本気で茶道やってる人からは不評だろうけどね。(笑)

ハシゴしたもう1つの展覧会は、次回まとめることにしよう。
SNAKEPIPEは一体何を鑑賞してきたのだろう?
正解は次週を待て!(笑)

デヴィッド・リンチ Industrial Fantasy 鑑賞

20190602 top
【スクールデレック芸術社会学研究所入り口を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

今年のGWに鑑賞した「デヴィッド ・ リンチ_精神的辺境の帝国展」で、5月10日から開催されるデヴィッド・リンチ写真展のフライヤーを受け取った。
リンチの絵画展で、開催予定の写真展を知るなんて幸せだわ。(笑)
会場として書いてあるのはSgùrr Dearg、読み方が分からないので、スペルをそのまま打ち込んで検索する。
スクールデレック、と読むんだね。(笑)
おや?これは2008年に松井冬子のトーク・イベントに行った「ナディッフ」の場所じゃないの!
その時の様子については「好き好きアーツ!#03 松井冬子&金村修」に書いてあるのでご参照下され。(笑)
そのナディッフ2Fに、現在「スクールデレック芸術社会学研究所」が設立されている。

ここの所長である飯田高誉さん、 かなりのリンチ・フリークらしく、リンチ系の企画は全てこの方の手によるものだと判明!
もしかしたら1991年の東高現代美術館で、SNAKEPIPEと友人Mの往復はがきを受け取ってくれた方かもしれないよね?
この時の話は「好き好きアーツ!#16 DAVID LYNCH—Hand of Dreams」にまとめているので、詳しくはこちらをご覧あれ。
もしあの時の方だったとしたら、本当にありがとうございました!(笑)
1998年のパルコギャラリーにおけるリンチの写真展も、2012年のラフォーレ原宿の展覧会も、この方の手によるもの。
今まで手がけた企画・展覧会を見ると、SNAKEPIPEの好みに合ってるんだよね。
飯田高誉さんがキュレーターとして選んだ作品やアーティストは、間違いない!
飯田さんが絡む企画、チェックだね。

前に書いた「GYRE GALLERY」での展覧会は、とても無料とは思えないほど展示作品数が多く、大満足だった。
今回のスクールデレックは、どんな会場なんだろうね?
ROCKHURRAHとSNAKEPIPE、まずは恵比寿に出かけてみることにする。
最近はほとんど写真美術館にも出かけていないので、恵比寿に行くのは久しぶりだなあ。
調べてみたら2012年8月に「田村彰英—夢の光/鋤田正義—SOUND&VISION」を鑑賞していることが分かった。
なんと今から7年も前だって。
一応写真美術館の企画はチェックしているんだけど、「これは!」と思う展覧会ではないんだよね。

この日は5月でも特に日差しが強い日で、SNAKEPIPEは日傘を差して日焼け防止する。
スクールデレックの場所、ちょっと分かりづらいんだよね。
方向音痴に加え、久しぶりの恵比寿、迷わないわけがない。(笑)
ROCKHURRAHがGoogleマップで検索しながら道案内してくれる。
SNAKEPIPEは「なんとなく」覚えていたけれど、いつも通り、かなり曖昧な記憶だったね。

1Fは「ナディッフ」でアート系の書物やグッズが販売されている。
お目当てはリンチ展のため、2F会場に向かう。
TOPの画像にあるように入り口はすぐに分かり、会場内部に入ってみる。
誰もいない!
しかもちょっと暗めの部屋に写真が数点、中央のスクリーンには何やら風景が映し出されている。
撮影許可について尋ねようと、本棚の後ろにいる女性に声をかけるとオッケーとの返事が。
またバシバシ撮影させてもらおう!
そしてSNAKEPIPEが非常に驚いたのは、受付の女性の息を呑むほどの美貌!
あまりにびっくりしたせいで、前の文章に「の」が4つも入ってるじゃないのっ! (笑)
作品鑑賞以外に、目の保養として受付女性にご挨拶というのもアリですな。

再び会場に戻るROCKHURRAHとSNAKEPIPE。
今回はリンチの1980年代から2000年にかけて撮影された写真群の展覧会で、作品数は全部で8点。
タイトルにあるように「インダストリアル」な雰囲気がある作品が多かったよ。
照明はオレンジがかった色調だったので、撮影した画像が影響を受けている。
フィルター着けたわけじゃなくて、会場で撮影したらこうなってたんだよね。
こちらの作品は「untitled ニュージャージー 13:7」だって。
遠くに霞むビルを、川のこちらサイドから眺めるというのは、どうして寂寥感を伴うのだろうか。
「あっち側」と「こっち側」で住む世界が違っているように感じてしまうからかもしれない。

今回の展覧会用フライヤーで使用された画像がこれ。
1980年代の終わり頃から1990年代初頭に撮影されたイギリスの写真との説明がされている。
この写真は、前にもどこかで観ているんだよね。
SNAKEPIPEが所蔵している(大げさ!)リンチ関連本をパラパラめくっていたら、1999年にフィルムアート社から出版されているリンチの本の中に似た写真を発見!
「インダストリアル・イメージ」と題されて載っていたよ。
今回の写真と少し角度が違っているんだけど、どちらも非常にカッコ良い。
これはポスターあったら購入して、部屋に飾りたい作品だね!

今回の展示は、全てガラス付きの額に入った状態だったので、反射した光を取り込まないように撮影するのに苦労したよ。
この画像はROCKHURRAHが撮影したもの。
SNAKEPIPEのほうは、自分の影まで写り込んでいて大失敗だったよ。(笑)
工場跡地(?)にある水たまりに映った光を捉えた作品なのかな。
淀んでいた泥水に光が差し込み、神々しさすら感じてしまうんだよね。
これぞまさに「インダストリアル・ファンタジー」というタイトル通り!
リンチが得意にしている、相反する単語による造語だな、と想像しながら鑑賞した作品だよ。

会場中央にあるスクリーンに映し出されていたのは、リンチの作品だと勘違いしてしまった。
どうやら「リンチにインスパイアされた作品」ということだったらしい。
1987年東京都生まれで、2014年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了した伊藤久也の「BLACK OUT」は、いくつもの映像をつなぎ合わせた10分ほどの作品だった。
撮りたくなるのが分かるシーンがいくつもあって、ニヤリとしてしまう。

インダストリアルなシーンの中にも、霧で遠くが霞んで見えるような風景も混ざり、リンチへのオマージュだな、と感じた。
画像のトンネルはネガとポジの両方を交互に見せていて、前に書いたリンチの二律背反を表しているのかもしれないね。
伊藤久也という方の作品は、今回初鑑賞。
またどこかでお目にかかるかもね?

2Fの展示はここまでで、帰ろうとした時にギャラリー入り口付近にある本棚に目をやる。
これはもしかしてスクールデレック芸術社会学研究所の図書なのかな。
SNAKEPIPEも所持している本も何冊かあったけど、素晴らしいラインナップにため息がでるほど。
「ここの本、全部欲しい!」
と思ってしまったよ。(笑)

3Fにも展示作品があるようなので、行ってみる。
ここはMEMというギャラリーで、北山善夫の「事件」が開催されていた。
212cm×152.5cmの大きな作品が展示されている。
一瞬織物なのかと思い、近寄ってみる。
今度はシルクスクリーンによる版画なのかと思い、更に近付いてみる。
和紙にインクで手描きしているんです、と受付の女性から教えてもらう。
撮影の許可も頂いたので、パシャッ!
これだけの大きさを、点描みたいな手法で描きこんでいくのってものすごく根気が要る作業だよね。
これは2週間前の「百年の編み手たち〜ただいま/はじめまして 鑑賞」 に登場した手塚愛子や関根直子の先輩ってことになるのかな。
北山善夫のプロフィールを調べてみると1948年生まれとのことなので、今年71歳くらい?
若手アーティストの作品だと思って鑑賞していたので、驚いてしまった。
現役で活躍しているアーティストなんだよね!

「隣の部屋にも作品ありますよ」 
受付の女性が声をかけてくれる。
この女性も、スクールデレックにいた女性同様美しい方だったよ。
髪型が80年代風なので、親近感を覚えてしまうね。(笑) 
隣の部屋に行ってみる。
「こっ、これはっ!」
地獄絵巻の阿鼻叫喚図とでも言ったら良いのだろうか。
ホロコーストを表しているかのような、苦しみ悶える人々の群れ、群れ、群れ!

「すごいね、この梅干し人形は」
平然とした顔でROCKHURRAHが言う。
梅干し人形?!(笑)
いやあ、まあ、言われたら確かに梅干しに顔を描いたみたいだけどさ。
なんで勝手にネーミングしてるんだか?
タイトルは「生まれて 生きて 死ぬことを知り得る」で、2019年の作品だという。
どうやら人型の粘土の彫刻を最初に制作し、それから絵画にしているようだね。
インパクトのある作品を鑑賞することができてラッキーだったよ!

「ナディッフアパート」で3人のアーティストの作品を鑑賞することになったけれど、共通項はモノクロームだったね。
そしてリンチも北山善夫も70代のアーティスト!
これからも作品を発表し続けてもらいたいと思った。
そして今回初めて行ったスクールデレックとMEMは、要チェックだね。
厚みのある紙の素敵なフライヤーも嬉しかった!
次はどんな企画を立ててくれるのか、楽しみに待っていよう。(笑)

百年の編み手たち〜ただいま/はじめまして 鑑賞

20190519 top2
【「太陽のジャイロスコープ」も「ただいま」】

SNAKEPIPE WROTE:

リニューアルのため2016年から休館していた東京都現代美術館が、3年の時を経てようやくオープンしたのが今年3月下旬のこと。
オープニングの日は無料開放される情報も知っていたけれど、人でごった返している中での鑑賞は避けたほうが無難と判断し、GW中に出かけることにした。
開館の時刻に合わせて出かけ、お昼前には鑑賞を終えることが多いROCKHURRAH RECORDSだけれど、今回は珍しく閉館2時間前に入館してみる。
お客さんが少ないんじゃないか、と予想してのことだ。

リニューアル・オープン記念展の企画展として「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」、コレクション展として「MOTコレクション ただいま / はじめまして」が開催されている。
ROCKHURRAHはコレクション展だけの鑑賞を希望したけれど、「せっかくだから」と両方の展覧会を観ようと言ったのはSNAKEPIPEである。
入り口が近かった「百年の編み手たち」から鑑賞する。
チケットもぎりのところに、カメラに斜線が引かれた「撮影禁止のサイン」が目に入る。
ここは撮影禁止の美術館だったっけ?
東京都現代美術館に最後に行ったのは2015年8月で『「オスカー・ニーマイヤー展」と「ここはだれの場所?」鑑賞』として記事にまとめているね。
SNAKEPIPE自身が撮った画像を載せているけど?
展覧会によって撮影の可否が決まるのかなあ。
少しがっかりしながら会場を進む。

「百年の編み手たち」というタイトルにあるように、1910年代からの作品を年代別に紹介している。
ほとんどが日本人の作品なので、あまり馴染みのない名前が多い。
ROCKHURRAH RECORDSが大好きな1920年代のシュルレアリスムなどは、あまり浸透していなかったのか?
プロレタリア美術として雑誌やポスター類があったけれど、ロシア構成主義ほどの完成されたアートの域には達していない。
やっぱり気になったのは2008年にも「大道・ブランコ・コーヒー」の中で書いている白髪一雄!
あの迫力は日本人離れしていて、潔さが素晴らしいんだよね。
どうやら2020年1月にオペラシティで個展が開催されるらしいので、とても楽しみだ。

部屋をいくつか通り過ぎたところで、「撮影オッケー」の「サイン」がある。
ここからは撮影オッケーなんだ!
実を言うとそこまで感銘を受けたわけではないんだけど、撮影が許可されるとつい撮ってしまうんだよね。(笑)
次の部屋に入って、またパシャッ。
すると係員が飛んでくるじゃないの!
「撮影可能なのは前の部屋だけなんです」
次の部屋は撮影不可なら、撮影禁止サイン出しておいてよー!
お客さんで来ていた外国人も同じように指摘されていて、「どこが良くてどこがダメなのか教えて」と係員詰め寄っていた。

結局SNAKEPIPEが本当に撮影したいと思って撮った撮影オッケーな作品は、会田誠の「たまゆら(戦争画RETURNS)」 だったよ。
これは2013年に森美術館で開催された「会田誠展~天才でごめんなさい~」で鑑賞したことがある作品で、台になっているビール・ケースも同じだったように記憶している。
ということはビール・ケースまで含めて作品だったんだね。(笑)
東京都現代美術館は、以前会田誠の作品を展示したことで、物議を醸した経験があったことを思い出す。
あの時のキュレーターさんは今も在職されているのかしら?
今回の企画展が、全体に平均的で丸みを帯びた作品が多かったように感じたのは、SNAKEPIPEだけだろうか。
はっきり言ってしまえば、あまり特徴がなくて面白みに欠けていたってことなんだけどね。(笑)
そこでキュレーターさんが変わったのかな、と勝手に推測したわけ。

ワクワクする作品に出会うのなら展覧会のハシゴは全く問題なくて、気力も体力も充実した中で2つ目に行くんだけど。
今回の「百年の編み手たち」では、それらが充足されることなく、疲労だけが溜まってしまった。
コレクション展は後日にしよう、とROCKHURRAHと帰路につく。
「だからコレクション展だけにしようと提案したのに」
確かにそうだけど、観たから言えることだからね!

そして2週間後、コレクション展鑑賞のため再び美術館へ。
今回は開館時間に合わせて出かけてみる。
おや、人が少ないよ!
これはとても鑑賞しやすいね。
チケットもぎりの女性から「背中のリュック」についての注意を受ける。
前にかけるか、手に持つかするようにって。
今まで言われたことないんだけど、何か事故でもあったのかな?
コレクション展のほうは、撮影に関しての注意は3作品だけが撮影禁止と提示されていた。
ということは、それ以外はオッケーってことだよね!
これはバシバシ撮影しないと。(笑)

最初の作品はアルナルド・ポモドーロの「太陽のジャイロスコープ」!
以前は屋外にあったっていうけど、どこだったか覚えてないよ。(笑)
3年の閉館の間に、こういった作品の修復作業をしていたとのこと。
インダストリアル好きには「たまらない」作品だよね!
重さ5トンって、部屋に運び込むのに苦労しそうだよ。
購入を考えていたんだけどね。(うそ)

今回の展覧会は「ただいま/はじめまして」なので、今までのコレクションと休館中の3年間で新たにコレクションに加わった作品が展示されているという。
ヂョン・ヨンドゥの「古典と新作」は2018年の作品なので、今回初お披露目だね。
紙に煤が材料として書かれているんだけど、煤を使った作品はあまり聞いたことないかも。
まるで写真に見えてしまうようなスーパーリアリズム!
昭和初期を感じさせるタッチは見事だったよ。

展覧会情報を調べた時にも出ていた作品。
中園礼二の「無題」、2012年の作品である。
なんとこの方、2015年に25歳で亡くなっていると知り、びっくり。
今回鑑賞したすべての作品のタイトルが「無題」だったのにも驚いてしまう。
タイトルを付けることで、鑑賞者の自由を縛ると考えているのか。
説明文によると、どうやら「付けられない」というのが真相のようだけど。
シンディ・シャーマンの作品もほとんどが「Untitled」だけど、シンディ・シャーマンの場合は架空の映画のスチール写真を捏造しているので、タイトルなくて良いのかなと思っている。
絵画の場合には、そういった匿名性ではなく、自我や意識を表現したものではないだろうか。
そして、その「思い」を抽象的にでも文字に表したのがタイトルだと考えているんだけど、どうだろう?

荻野僚介の「w1122×h1317×d49」は2016年の作品。
白と黒とグレーという3色だけを使用した、ミニマル・アート。
シンプルなのに、強烈な印象を残すこともできるジャンルだけど、それはなかなか難しいだろうね。
川村記念美術館にあるフランク・ステラのコレクションを鑑賞すると、その存在感に圧倒されるんだよね。
あれほどまでのダイナミックさはないけれど、黒とグレーのバランスが面白い作品だと思った。
写真の影部分を切り取ったような感じがするんだよね。 

シンプルなシリーズが続くよ。
五月女鉄平の作品「Pair」(2014年)。
色がとてもキレイだったので、撮らせてもらったよ。
こんなに簡単な図形なのに、タイトル見なくてもアベックだな、と分かるところが秀逸!
この場合は、もしかしたらタイトルが違っていたほうが面白かったのかも?
それにしても青い人のほう、顎あたりが「ぴゆん」って尖ってるのはヒゲなのか。
後ろ向きの女性で、毛先のハネを表しているのか。
どっちだろう、と悩みながら鑑賞していたよ。(笑)

似たタイプの絵が3枚展示されていて、どれを撮影しようと迷って決めた一枚がこれ。
あとから聞いてみるとROCKHURRAHも「これが良い」と思っていたそうで。
気が合いますなあ。(笑)
今井俊介の「Untitled」は2017年の作品ね。
出たっ、「Untitled」!(笑)
この作品もフランク・ステラを彷彿させるんだよね。
派手な色彩と強めのボーダーで不協和音を引き起こすはずなのに、そこまでクレイジーになっていないんだよね。
本当はキャンバス飛び出すくらいの勢いで、こじんまりまとまらないほうが良いんだろうね。

オランダ人のマーク・マンダースは世界が注目するアーティストなんだって?
やや、お恥ずかしながらSNAKEPIPEは初耳!
確かにこの「椅子の上の乾いた像」は、怖くて印象に残った作品だったよ。
この作品にたどり着くためには、ビニールシートで囲われた通路を歩いていく必要がある。
最初に制作途中のような男性の胸像を観てから、更にビニールシートの空間を進んでいくと、この少女の像が広い空間に鎮座している。
かなり犯罪めいた雰囲気で、ドラマ「ハンニバル」の殺人現場を思い出してしまう。
ROCKHURRAHも同じような感想を持ったようで、首の位置が怖いと言う。
そこですかさず横から撮ってみたんだけど、いかがでしょう。
やっぱり怖いよね?(笑)

アラブ系インドネシア人、サレ・フセインの作品「アラブ党」。
インドネシアにアラブ系の人がいても、おかしくないなあとぼんやり思う。 
多分どちらも同じ宗教なんじゃないかな?
そうは言っても、やはり1930年代には外国人扱いされていたマイノリティだったという。
当時の写真を元ネタとした絵画が並んでいた。
小さい絵画をたくさん並べる手法は今までにも観ているけれど、SNAKEPIPEは政治的なメッセージが絡む作品に、あまり興味が湧かないんだよね。
2014年に東京都現代美術館で開催された『「驚くべきリアル」展鑑賞』で出会ったエンリケ・マルティのような毒気が欲しいのよ。(笑)
個人的な好みだと思うけど。

手塚愛子の「縦糸を引き抜く(傷と網目)」は2007年の作品。
これは、遠目で見たり、引いた画像ではあまり意味が分からないかもしれないな。
アンティーク調のゴブラン織りから、赤い糸だけを引き抜いている作品なんだよね。
ゴブラン織りって、ほら、よくカーテンとかになってるアレよ!
赤が消えた部分の布地は、青ざめていてまるで死人状態。
布の途中からは、出血したかのように赤い糸がドヒャッと流れ落ちている。
単なる布地のはずなのに、痛々しく見えてくるよ。
これは根気の要る、職人的な仕事だよね。
既製品をほぐし、解体するという不思議な作品で、とても印象に残ったよ。
非常に女性的な作品だと思った。 

関根直子の「差異と連動」(2011年)が紙に鉛筆だけで描かれているのには驚いた!
この作品も上の手塚愛子同様、根気がないと続かない作業だよね。
抽象的な鉛筆の濃淡だけで構成されているのに、心象風景画に見えてくる。
ひっかき傷のような白い線が、心の傷のように思えるんだよね。
日本画の松井冬子も、心の痛みや悲しみのようなネガティブな感情を表現していたけれど、現代の日本女性アーティスト達は心に闇を抱えていることが多いのかなあ。
陰鬱とした重さを持った作品を気に入っている、SNAKEPIPEも同類ってことになるのか?
鏡面仕上げのようになっていた三幅対の作品も、重厚でカッコ良かったね。
家が広かったら、購入して飾りたいくらいだよ!(笑)

最後は「ただいま」の作品になるんだね。
宮島達男の「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」は、東京都現代美術館のために1989年に制作されたという。
20年間、赤色発色ダイオードが光り続けていたために、修復が必要だったらしい。
SNAKEPIPEはあまりじっと見つめているとクラクラしちゃうので、何度か鑑賞している作品の光が鈍っていることに気付いてなかったけどね。(笑)
そういえば、北浦和にある埼玉県立近代美術館で遭遇した、荷物を入れるロッカーにあった謎の物体!
この作品に似てるよね?
ROCKHURRAHと話しながら検索すると、やっぱり宮島達男の作品だったことが判明!
何のクレジットもされてなくて、ロッカーに放置されてるだけなんだよね。
動画を撮っていたので載せておこうか。


3年ぶりの東京都現代美術館、リニューアルというので期待していたけれど…。
SNAKEPIPEが勝手に想像していたリニューアルとは違っていたみたい。
施設(例えばトイレなど)は、全く変更はなく前のまま。
あまり美しいとは言えない状態だったし。
先にも書いたように撮影の可否が分かりづらかったし。
ボールペンを持っただけで係員が飛んできたのには驚いた!
ボールペン使っちゃいけないなんて知らなかったよ。
荷物も注意を受けちゃったしね。
そんなに注意事項がいっぱいなら、HPに載せておいて欲しいよ。
それなのに、子供が展示作品の台に乗った時には注意してなかったけどね?
この差は一体なに?と聞いてみたいもんだ。
ちょっとお怒りモードのSNAKEPIPEだよ。

コレクション展は満足だったけれど、企画展にはガッカリだった。
リニューアル・オープンを期待して待っていただけに、企画にも美術館側の対応にも「前より悪くなった」感が否めない。
不手際が多くて申し訳ない、と謝っていた係員は、恐らく多くのお客さんから説明不足を指摘されていたに違いない。
嫌な気分が続くと、次回の来館を控えたくなるほどだよ。
大好きな美術館だったのに、残念でならない。

「デヴィッド ・ リンチ_精神的辺境の帝国」展 鑑賞

20190505 04
【GYREビルの中央吹き抜けにオブジェと化した大量のリンチ・ポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

元号が変わった矢先、不幸なニュースが飛び込んできた。
遠藤ミチロウの訃報である。
教えてくれたのは長年来の友人M。
遠藤ミチロウは少女時代のSNAKEPIPEに影響を与えた人!
2014年に「ふたりのイエスタデイ chapter02 / The Stalin」という記事で思いを綴っているよ。

ザ・スターリンの解散ライブ以降、ミチロウ本人のライブに参戦したこともない。
それでもやっぱり応援しているし、ずっと頑張ってもらいたいと思っている。
ザ・スターリンは今でも、SNAKEPIPEの核となる存在だからね!

そんな文章を載せているSNAKEPIPE。
訃報を耳にした途端、急に力が抜けてしまった。
実際に亡くなったのは4月25日、膵臓がんのためだという。
すぐにザ・スターリンを聴き直す。
きっとこれからも、何度も聴くだろう。
SNAKEPIPEの心と記憶の中では、ずっとミチロウは生き続けてるからね!

悲しい気分を払拭するためではないけれど、ROCKHURRAHと共に表参道に向かったのは「デヴィッド ・ リンチ_精神的辺境の帝国」展のため。
今年のGWは例年とは違い、スカッと晴れた日が少なかったよね。
この日も家を出た途端に雨が降り出し、肌寒いのか思うと急に晴れ間が見えて汗ばむ陽気に変化。
一番服装に困る気候なんだよね。

GW中はもっとたくさんの人が表参道〜原宿界隈を闊歩しているのかと思いきや、予想よりも少ない人出だったのが意外だった。
おかげでスムーズな移動ができて良かったよ。
今回の展覧会が開かれている「GYRE GALLERY」 、今まで行ったことがないかも?
そもそも読み方が分からないし。(笑)
「ジャイル・ギャラリー」で良いみたいなんだけど、場所は一体どこ?
調べてみるとMomaのショップが入っている、あのビルだったんだね。
何度か訪れているはずだけど、ギャラリーがあったことは覚えてないよ。

ビルの1階からエスカレーターで3階を目指す。
中央の吹き抜け部分に、なにやらオブジェのような物体が。
じっくり見ていると「LYNCH」の文字が読める。
あっ、リンチの展覧会のためのオブジェだったんだ!
まずはその様子を写真に撮ってから、会場に向かう。

3階には非常に多くの行列ができている。
まさかリンチの展覧会を鑑賞するための行列?
ひとまず行列の先を見極めようと歩き始める。
「ナニ?ドコイク?」
タキシードを着た黒人に呼び止められる。
「ギャラリー、アッチ」
なんと、行列はPLAY COMME des GARÇONSのためのものだったみたいで。
服買うために並ぶんだ!
しかも用心棒役にあえて黒人雇ってるとは!
その昔、裏原系のショップで同じようにガタイが良い男を用心棒として入り口に配置しているのを見たことあったけど、ギャルソンも同じようなことをしているとはね。
その行為に驚きながら黒人に指さされた方角に目をやると、ギャラリーは薄暗くて開館していないかのようにひっそりしている。 
黒人にお礼を言い、ギャラリーに足を踏み入れる。

受付に若い女性が座っていて、しっかりした紙質のフライヤーを手渡してくれる。
あまりにもシーンとしているので、かなり密やかな声で
「こちらは撮影オッケーですか」
と質問すると、大丈夫との答え。
受付の女性まで小声になっているのがおかしい。(笑)
オッケーと聞けばバシバシ撮影するのみよっ!
ほんの数人しか入っていない会場も好都合!
ROCKHURRAHと鑑賞を始めたのである。 
今回は「ペインティング7点、ドローイング3点、工業地帯の写真22点、水彩画12点」という合計44作品の展示と映像作品が上映されていた。
気になった作品を紹介していこう!

「BOB’S STRING THEORY」(2000年) からスタート。
リンチがボブという名前を使う場合、最初に思い出すのは「ツイン・ピークス(原題:Twin Peaks 1990年-1991年)に登場したボブのことになってしまうよね。(笑)
「ツイン・ピークス」のパイロット版は1989年に公開されているので、それから約10年後のボブということか。
タイトルを翻訳すると「ボブのヒモ原理」? 
A地点からB地点までを結ぶ線と、まるで血痕が流れ落ちたような怪しいシミ。
ROCKHURRAH RECORDSでリンチ・フォントと命名した、リンチの文字が無邪気に見えるだけに余計恐ろしく感じてしまうんだよね。 
リンチが何を言わんとしているのかは不明だけど、不吉な印象を持ってしまう。

「WHEN SOMEBODY LOVES YOU」(2000年)も上と同じ年に制作され、同じような土色をバックにしている作品。
ぎごちなくマス目に区切られたキャンパスに、タイトルが書かれている。
「誰かがあなたを愛する時」という、ロマンチックに捉えることも可能なタイトルにも関わらず、なんでしょうこの不気味さは!(笑)
絵の具をチューブのままひねり出したかのような厚みを持った中央の物体。 
変に光沢が残っているため、ぬめぬめしたいや〜な雰囲気なのよ。
横から見たところの画像も載せておこうか。
ほら、分厚さがよく分かるでしょ?
リンチの頭の中にはどんなビジョンがあったのか、想像してみようかな。

同じような「ぬめぬめ」が描かれている「GARDEN IN THE CITY OF INDUSTRY」(1990年)。
「工業都市のガーデン」というタイトルも、 色調も非常に好みの作品だよ。
かつて表参道にあった東高現代美術館にて1991年に開催された「デヴィッド・リンチ展」でも鑑賞しているSNAKEPIPE。
リンチ本人が会場入りし、初期の映像作品を鑑賞する会に抽選で当たり、至福の時を過ごしたっけ。(遠い目)
うっひゃー、今から29年も前のことになるとは!
実はその時にも長年来の友人Mが一緒だったので、これまた長い付き合いだこと。(笑)
そして今から思えば、小さく切り刻まれキャンパスに貼り付けられたアルファベットは、「ツイン・ピークス」で爪の中から出てきた「R」などの切り文字のヒントだよね。
今頃気付くのは遅いけど!

「DEAD SQUIRREL」(1988年)も東高現代美術館で鑑賞していた作品。
「死んだ栗鼠」という文字が5行に渡って貼り付けられているんだよね。
まるでお経を唱えてるようじゃない?
リンチはTMと呼ばれる超瞑想法を実践し、学校で教えるための資金集めとして財団まで設立するほど熱心なんだよね。
怒りっぽい性格が瞑想を行ううちに直っていったというエピソードを読んだことがあるよ。
ツイン・ピークスにも「チベット死者の書」を彷彿させるセリフも出て来たので、リンチと精神世界は切っても切れない関係にあることが分かる。
そんなことを思い出しながら、この作品を観たため、マントラを唱えているように錯覚してしまったのかもしれない。
マントラにしては不吉な言葉だけどね。

2012年にラフォーレ原宿で開催された「好き好きアーツ!#18 DAVID LYNCH—CHAOS THEORY OF VIOLENCE AND SILENCE」でも鑑賞した三幅対。
「DOG BITE」(2012年)である。
油絵で三幅対といえば、当然のように思い出すのがフランシス・ベーコンだよね!
そのベーコンさんの作品が「好き」と公言しているリンチなので、影響を受けるのも納得。
横向きの少女(?)が犬に噛みつかれ、顔が崩れるという経過を表しているように見えるんだけど違うかな?
あまり意味を考えなくても良いように思うけど、不思議な作品であることは間違いない。(笑)

水彩画は全てモノクロームの作品だった。
「MAN VISITOR」(2008-2009年)は展示作品の中で黒が強く、好みだったよ。
「男の訪問者」というタイトルから、リンチの映像作品に出てくる異形の男たちが浮かんでくる。
 「ツイン・ピークス」のボブ、「ブルー・ベルベット(原題:Blue Velvet 1986年)」のフランク、「ロスト・ハイウェイ(原題:Lost Highway 1997年)」のミステリー・マンとかね。
不穏な空気を纏った、なるべくなら関わりたくないタイプの男たち。
そんな彼らを黒い影で表現したように見える魅力的な作品だよね。

2000年頃に廃工場を写した作品群。
2012年に鑑賞したラフォーレ原宿の時はポーランドの工場の写真が展示されていたっけ。
今回はアメリカなのかな。
インダストリアル好きのSNAKEPIPEも大好きな工場地帯。
撮りたくなる気持ちがよく解るよね。 

これは配電盤なのかな。
鉄材の雰囲気もさることながら、上から突き出しているパイプ状のもの、後ろの崩れた壁も全て最高!(笑)
こんな場所に遭遇したらフィルム1本くらい撮ってたな。
写真になると硬質になるのに、絵画ではぐんにゃり曲がったフォルムを多く描くことが多いリンチ。
別々に鑑賞したら、同じ作者とは思えないんじゃないかな。

この画像はSNAKEPIPEがGYREギャラリーで撮影したものなんだけどね。
シルバー色でピカピカ光る物体が分かるよね?
この写真は、こんな感じで横位置で展示されていて、その時は特別不思議に感じていなかったんだけど…。
帰宅後調べていたら、同じ画像の縦位置バージョンを発見!
これってどう見てもこの位置が正解じゃない?(笑)
ほとんどの写真が横位置だったから、展示する人が気付かなかったのかもしれないけど。
実際鑑賞している時には、SNAKEPIPEもなんとも思わず通り過ぎてしまったくらいだからね。
まさかの展示ミス?(笑)
これって誰も指摘してないのかな。
教えてあげたほうが良いのかしら?

会場中央に鎮座していたのは、なんとブラック・ロッジ!
小さな小屋になっていて、その中で映像が上映されていた。
およそ9分の映像なので、人が入れ替わりロッジに入って鑑賞する。
前の人を待って、中に入ると床の模様がっ!
この小屋を制作したのは日本人3人組のようだけど、粋な計らいだよね。(笑)
気分はツイン・ピークスの中だもん。
そしてリンチの映像が流れる。
「POZAR」(2015年)である。
ポーランド語で火を表すらしい。
映画「インランド・エンパイア(原題:Inland Empire 2006年)にも登場し、2012年の展覧会でも写真が展示されていたポーランド。
きっと何かリンチにインスピレーションを与える国なんだろうね。
そういえば「インランド・エンパイア」について感想をまとめてなかったよ。
いつかブログにアップしたいな!

リニューアル記念としてリンチの展覧会を企画してくれたGYREギャラリーに感謝だね!
無料でここまでの展示をみせてくれるなんて、素晴らしい限り。
冒頭に載せた画像にあるリンチのポスターも、無料で配布してくれるサービスにも感激したよ。
ちなみにこのポスター、非常に分厚い紙質なので持って帰るのに一苦労。
髪の毛を結ぶような太いゴムがないと丸めることが難しいんだよね。
持って帰ってくれてありがとう、ROCKHURRAH!(笑)

気分はすっかりリンチになってしまったSNAKEPIPEは、帰宅後リンチに関連した映画を所望する。 
「狂気の行方(原題:My Son, My Son, What Have Ye Done 2009年)」の存在は前から知っていたのに、何故だか観るのをためらっていた作品なんだよね。
監督は「アギーレ/神の怒り」で有名なヴェルナー・ヘルツォーク。
ヘルツォーク作品って実はそんなに知らなくて。
つい最近観たのが「カスパー・ハウザーの謎(原題:Jeder für sich und Gott gegen alle 1974年)」かな。 
TSUTAYAの発掘良品コーナーに並んでいたからね。
ヘルツォークへの特別な思い入れはなく、「狂気の行方」もリンチの名前につられているだけの話。
ヘルツォーク監督ファンの皆様、ごめんなさい!
リンチの肩書は「製作総指揮」。
いわゆるエグゼクティブ・プロデューサーなんだけど、映画権を持っていて監督よりも偉い人、ということで良いのかな。
名前は出てきたけど、映画との関わり方はよく分からないよね。
まずはトレイラー(英語版)を載せておこうか。 

この映像からリンチっぽさが垣間見えたでしょ?
大きくうなずいた、そこのあなたっ!
さすがはよく分かってらっしゃる!(笑)
ウィレム・デフォーとグレイス・ザブリスキーが出演しているんだよね。
ウィレム・デフォーは「ワイルド・アット・ハート(原題:Wild at Heart 1990年)」でボビー役だったし、グレイス・ザブリスキーは「ツイン・ピークス」でのローラのお母さん役、「ワイルド・アット・ハート」「インランド・エンパイア」にも登場しているリンチ組といって良い女優さんだよね。
この2人の出演によりリンチ色を感じたSNAKEPIPEだったよ。
映画について書いてみようか。
まずはあらすじを。 

サンディエゴの住宅街で殺人事件が発生。
母親を殺害したブラッド・マッカラムは、人質を取って自宅に立てこもっている。
事件を仕切るヘイヴンハースト刑事たちは、ブラッドの説得に当たる一方で、ブラッドの周辺人物から聞き込みを開始。
過干渉な母親と2人で暮らしていたマザコンのブラッドは、南米に旅行に行った後に人格が変わったようになってしまい、異常な行動を繰り返していたという。
婚約者のイングリッド、舞台演出家のリー・マイヤーズ、向かいの家のロバーツ母娘たちが語るブラッドの姿とは。
そして、事件の真相とは。(allcinemaより)

1979年にアメリカで起きた実際の事件(実母殺害事件)から着想を得たサイコスリラー作品とのこと。
この文章にヘルツォークとリンチの名前が加わったら、気になるよね?
気分はリンチ、というSNAKEPIPEにぴったりの映画!(笑)

主役であるブラッドを演じたのはマイケル・シャノン。(画像中央)
ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター(原題:The Shape of Water 2017年)」で、高圧的な軍人役を演じていたシャノン。
そのせいか「嫌な人」というイメージがついてしまっている。(笑)
「狂気の行方」ではマザコン男なんだけど、精神世界を求めて南米で修行するというシーンもあり、理想と現実の間でもがいている様子が分かる。
勝ち気で頑固なくせに脆さもある、言ってしまえばワガママなヤツ。
そんな男にも婚約者がいるんだよね。
イングリッド(画像右)は、人が変わってしまったブラッドに辛抱強く付き合っている。
ブラッドと別れて、他の人と幸せになったほうが良かっただろうに、と思ってしまうSNAKEPIPE。
ブラッドの母親役が、我らがザブリスキーなんだよね!(笑)
ワガママ息子に手取り足取り、成人しているのにまだ小さな子供に接するような干渉ぶり。
そしてザブリスキー得意の「固まり笑い」とでも名付けたくなる、怖い笑顔を見せる。

映画としては実に単純な話だけれど、そこにブラッドの内面を忍ばせるようなエピソードが加わることで「どうしてこんな事件が起こったのか」を伝えようとしているようだ。
どうして「ようだ」と書いたかというと、そのエピソードを知ってもSNAKEPIPEにはブラッドみたいな男の心の動きを理解できなかったから。
結局のところ、最初で最後の母親への反抗が殺害だったのかな、と思ったくらいで。
いい年こいて、母親に甘えてる男のことなんてあまり知りたくもないんだよね。(笑)
この映画をリンチが監督してたらどうなってただろう?
もっと心の暗闇に焦点を当てて、共感せずとも印象的なシーンを映像化していたかもしれないよね。
結局、エグゼクティブ・プロデューサーとしてどんな形で関わったのか分からないままだったけれど、リンチの名前がクレジットされた映画はなるべく観ていきたいと思う。
他にもまだ未鑑賞の映画あるからね!

今回は敬愛するデヴィッド・リンチ特集にしてみたよ。
映画、絵画、写真に音楽と幅広い活動を行っているリンチは、真のアーティスト!
次はどんな形でアートを見せてくれるのか楽しみだ。