HELL-RACERミニアルバム到着

【超山田堂から届いたCDと手作り封筒。関連フライヤーまでありがとう!】

SNAKEPIPE WROTE:

今年も例年通り、またもや福岡物産展にて数々の名産品を手に入れ舌鼓を打ち、知り合いの写真展を観に新宿に行く、という恒例になりつつある行事を無事に済ませた今週。何故だかとても不思議なんだけど、物産展と写真展が全く同じ時期に被るんだよね。
もしかしてセット?(笑)
相変わらずおいしかった「かしわめし」や「ふくやの明太子」、焼きたての「梅ヶ枝餅」。
千葉県にいながら旅行気分を味わってしまった。
チープだけどお得感満点!
写真展はこれまた相変わらず精力的に活動されてるのがよく判る2会場を使っての展示。
それぞれを違うテーマで構成。
なかなかテーマを2つにしての写真展なんてできないよね。
さすがに燃えてますな!(笑)

そして今週は待ちかねていたCDが到着!
HELL-RACERの手作りCDRである。
以前FUK来日公演の際に一緒に出演していたHELL-RACERと記念撮影させてもらい、その写真を家宝にしている話を書いた。
あの時にエディ氏に話かけたのはCD売ってないんですか?であった。
これから出るのでよろしく、の言葉をもらい楽しみに待っていた。
ライブ後はHELL-RACERのHPチェックをおこたらなかったのだが、すでに気付いた時は完売御礼、とのこと。
初売りがThe Spanish Barrow’in Guitarレコ発にエディ氏がギターで参加した11月の新宿ロフトだったようなので、あまりに遅過ぎ。
しかもメンバーが自宅で手作りしてる、という本当のインディーズらしい。
うーん、残念。
フルアルバムももちろん楽しみだけど、手作りCDも興味あったなあ!としょげていた。
ではフルアルバムは一体いつ発売なんだろう、とまたHPを開いたのが2月上旬のこと。
なんとそこには手作りCDを追加生産したこと、通販で現在も手にいれることが可能、の情報が載っていたのである。
こ、これは!
エディ氏がいる、原宿にあるアトラクションで直接購入する方法もあるが、特に原宿に用事もない。
通販での購入を決める。
委託先として載っていたのは国分寺にある超山田堂というお店。
HPを見るとなんとも不思議なサイケな色彩のサイト。
CD以外に古着なども扱ってる実店舗のようだ。
実は今まで国分寺には一度も行ったことないんだよね!
新宿より西は吉祥寺までかもしれない。(笑)
超山田堂のサイトでは通販に関してまずは在庫を問い合わせて欲しい、と書いてあったのでメールを出してみた。
翌日ちゃんと返事が来たのだが、差出人が「やまだちゃん」となっていて笑ってしまう。
ま、「超山田堂」だから山田さんがやってて不思議じゃないんだけど。
自ら「やまだちゃん」と名乗る(恐らく)店主は只者じゃないよ!(笑)

在庫は無事にあるようなので、早速注文。
到着を楽しみに待つこと約5日間。
届いた封筒はなんと手作り!
「手作り封筒にて失礼いたします」
なんて走り書きまでされている。
中はダンボールをあてた梱包がされていて、
「今回はどうもありがとうございます。また今後ともよろしくお願いします」
という手書きメッセージまで入っていた。
これはエディ氏の手書きなのか「やまだちゃん」からのものなのか?(笑)
HELL-RACERのCDも手作りとは思えないほどキレイに仕上がっていて、あまりの上手さにビックリ。
みんな手作り派なんだな、と感心。

ROCKHURRAH RECORDSも手作り推進派で、オリジナルブランドを作ったりしてるけれど、封筒まで手作りの「超山田堂」には恐れ入った。
通販というとパソコンや携帯に入力して、印刷もすべてプリンターでされているため、相手先に人がいることを忘れてしまいがち。
以前「手作りについて」書いた時にもそのことに触れたことがあるが、これは好みの問題で「誰かが触ったと思うと気持ち悪い」と感じる人もいると思う。
今回の「超山田堂」から届いた荷物には「先にやまだちゃんがいる」というのが分かって、SNAKEPIPEはとても好感を持った。
同じ通販をやっている端くれとして、大変勉強になった。
勝手に記事にさせてもらってごめんなさいね、超山田堂様!

はいはい、そしてなんといっても一番重要なのはHELL-RACERのCDの中身!
今回は5曲入りのミニアルバム!
HELL-RACERというとインストの印象が強かったけれど、今回は4曲にヴォーカルが入っていてノリがグンバツ!(笑)
イイッ!HELL-RACER、イイッ!サイコー!
一人踊り狂ってしまったSNAKEPIPEである。
ほとんどがライブで聴いた記憶がある曲で、こうして音源が手に入ったのは嬉しい限り!
ガレージ、サーフ、ホットロッド、パンク要素が入り混じったとってもゴキゲンなチューン!(古いか)
フルアルバムも楽しみ!
ありがとう、やまだちゃん!
ありがとう、HELL-RACER!

いつか国分寺の「超山田堂」に遊びに行きたいな!(笑)

3D酔いにご注意!POVショットについて

【撮影中のミステリーマン。デヴィッド・リンチ監督「ロスト・ハイウェイ」より】

SNAKEPIPE WROTE:

最近は週に2~3本の映画を観ているSNAKEPIPE。
昔のモノからDVDになったばかりのモノまでなんでもアリ!
たまたま珍しく最近の作品を観ていて気になったのがPOV(Point Of View)、いわゆる主観映像の映画である。
今現在レンタル屋さんで「最新コーナー」に並んでいるであろう「●REC」、ちょっと前に出た「クローバーフィールド」、そして公開されたばかりの「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」。
この手の映画の先駆け、ということで「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を含む4本について書いていこうか。
まだご覧になってない方は「ネタバレ」の部分があるかもしれないので、ご注意を!

まずは主観映画先駆けの「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」から。
1999年の低予算で制作されたアメリカのインディーズ映画。
公開された当初にかなり話題になっていたし、謎の多い映画とも聞いていたのだけれど当時は鑑賞せず。
後述の映画との比較のために今回初めて観てみた。

女性1人、男性2人の3人の大学生がブレア地方に伝わる魔女伝説を求めてドキュメンタリー映画を作ろうとする話である。
自主制作映画を作る、という設定だけあってカメラも素人丸出し!
そのせいでブレや揺れが多いこの作品を観た後は気分が悪くなってしまう。
3人にはあまり魅力もなく、それぞれが言い分を通すための言い争いやケンカのシーンが非常に多くてイライラさせられる。
逆にそれがリアルな感じなのかもしれないけど。
そして「何かがある」「誰かがいる」という雰囲気を匂わせるけれど結局は何だったのか判らないまま映画は終わり、記録としての映像だけが残される。
映画というよりはドキュメントで、一体何だったのか解らないところが怖い。
謎だけが残されて、あとは想像するしかないPOV映画のヒット1作目である。
アイデア勝負ですな!(笑)

続いて「クローバーフィールド」。
2008年のアメリカ映画、SFとも怪獣映画、とも書かれている。
CFで流れていた、自由の女神の首が落下する衝撃的なシーンに見覚えがある人も多いと思う。
ニューヨークで惨事、というのはなんとなくタブーのように思っていたけど、オッケーなのかしらね?
映画の中で「また9.11のような出来事?」なんて台詞もあったけど。
説明は全くなく、停電、地響き、ビルの倒壊と惨事が続く。
パニックになるのも当然だな。
そして突然、怪獣が登場する
この映画の場合は「ちょっとカメラ持ってて」くらいの軽い動機で始まった撮影だったはずなのに、どんな時でも撮影し続けることに無理を感じてしまう。
カメラを持つのが初めて、というのが信じられないくらい撮影が上手い。
仲間や好きな女が危険な目に遭っていても、冷静に撮影を続ける冷酷なジャーナリストに変化している。
レンズを通すと全てが疑似現実化してしまうのか。
記録者としての使命感に燃えてしまうのか。
撮影を続けていた彼も横倒しになり、もう対象を追いかけない映像によりその最期を知ることになる。
迫力のある、破壊的で臨場感溢れる映像。
まるで自分もそこにいるかのような雰囲気に圧倒される。
結局何故、とか何、という説明は全くなく映画は終わる。

次「●REC」。
この映画は去年「スターシップ・トゥルーパーズ3」を観に行った時に上映されていて、宣伝看板を観て非常に興味を持ちDVD化を待っていた。
その時に読んだ宣伝文句はあまりよく覚えていなかったので、何の予備知識もないままに観た。
2007年のスペイン映画。
今までスペイン映画って観たことないかも?
この映画はテレビ局のカメラが取材中に起きた出来事を記録する、という設定なので展開にあまり無理がない。
レポーター役の女性が単なる「カワイ子ちゃん」なのかと思ったら、報道に命張ってますくらいの根性で「全部撮影するのよっ!」と絶叫するのがびっくりだったけど!

閉ざされた空間で、今さっきまで普通に話をしていた人が豹変する恐ろしさ。
唾液によって感染し、凶暴になり人に襲いかかる。
原因だと匂わせるエピソードは挿入されてはいるけれど、はっきり言明されてはいない。
ジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」と酷似したシチュエーションだ、とROCKHURRAHが言う。
キャッチコピーにスペインで150万人が絶叫、と書いてあったのがよく解る怖い映画である。
恐らく製作サイドは先人をよく勉強して恐怖について研究したんだろうな、と予想する。
羊たちの沈黙」でも使われた暗視カメラの映像なんかもあったしね。
以前キューブリックについて書いた時に、恐怖指数を研究している大学があり、いくつかの要素が不可欠とされていたのを思い出した。
少人数の閉鎖された環境において何者かに追われて血が流れ、いかにもありそうなシチュエーション、というような設定。
この黄金率を見事に演出に取り入れた「優等生タイプのホラー映画」かな。(笑)
最後に出てきた人、マリリン・マンソンじゃないの?違う?

最後は「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」。
ゾンビ映画の第一人者、ジョージ・A・ロメロ監督の最新作である。
「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968年)より約40年間ゾンビを撮り続けるとは!
本当はロメロ監督にメロメロの(ぷっ)ROCKHURRAHに筆を譲ったほうが良さそうなんだけどね。
今回はある事情により「字幕なし」でこの映画を鑑賞することになったため、細かいところは解らないまま。(ヒアリングの問題ね)

大学生が映画制作をしている時に事件に遭遇、という「カメラがあって不自然じゃない」設定になっている。
前述した「●REC」のほうを先に観ていたので「あれ?同じじゃん」と思ってしまった。
事件発生の手順が全く同じ。
びっくりさせちゃおう、と考える思考にさほどの違いがないってことか。
「ロメロ=ゾンビ=怖い」という今までの図式と今回は少し違っていて、ロメロ監督が今までのゾンビ映画の「焼き直し」にならないように心がけたんだろうな、と推測。

デッドシリーズとして、いわゆるゾンビ映画として本作を鑑賞すると、期待を裏切られた気分になるかもしれない。
状況は全体に似ていて、今回は映画を作ろうと集まったメンバーがゾンビから逃げるために安全な場所を求めて移動する話である。
決定的に今までと違うのはゾンビの数。
以前の、そこかしこからワラワラとゾンビが出てきて、いつの間にか囲まれている状況にはならない。
今回は追い詰められる恐怖はほとんどない。
仲間がゾンビになりかかってるのに普通に話してるのが怖い。
特殊メイクもややおとなしめ。
ただ頭にかかった硫酸がどんどん顔を溶かしていくシーンは圧巻!
あれはどうやって撮影したんだろう?

以前観たDVDの特典映像にメイキングが収録されていて、特殊効果についての種明かしがされていた。
映画を鑑賞し終えた後で、あれは実はこうやって撮影したんだよ、と教えてもらうのは楽しかったけれど、今回はその種明かしが頭をよぎりながら鑑賞してしまったため、興ざめの感があったのも事実。
ファンサービスがマイナスになっちゃうとは残念!
前作より現代風に設定されていて、ネットにゾンビ映像をアップさせたら7万2千件のアクセスがあった、と喜ぶシーンや東京からの携帯サイトの映像が挿入されているのは面白かった。

POV映画の共通点についてまとめてみようか。
1.撮影者がジャーナリスト魂に燃える
2.突然、理由も分からないままに事象に巻き込まれる
3.なぜか日本が登場する(ブレア・ウィッチ・プロジェクト以外の3本)
4.横倒しになった映像で終わる
5.2(続き)を予感させる

かつてはあまり一般的ではなかったホームビデオカメラが、一家に一台とまでは言わないけど、所持してる人口が増えたことで身近な方法としてPOVが考えられたのかな。
カメラマン(ウーマン)は完全な裏方でカメラを扱う人がいることを感じさせないのが通常の映画だったはず。
それを根底から覆すPOVショット。
出演者がカメラに語りかけるような映画は観たことあるけどね。
突然誰もが衝撃映像を撮影する可能性があるかもしれない、というリアリティがポイントなんだね。

いやあ、それにしてもROCKHURRAHもSNAKEPIPEも車に酔い易いタイプなので、手持ちカメラの映像を観るのはしんどかった!(笑)
皆様も3D酔いにご注意の上、ご鑑賞ください!

劇的ビフォ→アフターpart3 ムートンリフォーム

【リフォーム前と後のムートンコート写真(私用)】

SNAKEPIPE WROTE:

去年の年末のこと。
古着屋で見つけたのがムートンコート(写真左)である。
女性モノには珍しいランチコートタイプ!
品質表示タグを見ると「made in Canada」だって。
ははーん、カナダ寒そうだもんね。
もちろん「Genuine Leather」、本物のムートンである。
試着してみると、びっくりするほどぴったり!
かなり細身に仕上がっている。
しかもお値段はな、なんと驚きの3900円!(またこれか!)
これは買うしかないでしょ!(笑)

わーい、素敵なムートンが手に入ったー!と着て出かけようとすると
「あれ?き、キツイ…」
げーっ!試着の時にはぴったりサイズだと思っていたのに、少しでも厚手のニットの上には着られないことが判明。
ボタンを無理にかけようとするとボタンが弾ける始末…。
かなり寒がりのSNAKEPIPEはムートンの下にもレザージャケットを着ることがあるので、とてもこのままではお出かけできない。

そこで一大決心!
「そーだ、身ごろを足せばいいんだ!」
身ごろを増やす、ということは袖も太くしないといけない。
ってことでムートンの解体を始めたのが先週のこと。
結局は全部バラして、継ぎ足したのである。
今回でムートンのリフォームは3回目なので、手馴れたものである。

何を継ぎ足すかも問題で、全く同じ素材がない状態には「異素材」しかない。
ちょっと似てるけど違う、というレベルが一番カッコ悪いと思うSNAKEPIPEは
「こんなのアリ?」
というシルバーのレザーを継ぎ足してみた。(笑)
レザーの裏にはまた別のムートンを貼っているので、厚さは問題ない。
袖と身ごろ(脇)部分にシルバーを加え、それだけでは面白くないので胸部分にもムートンを貼ったシルバーポケットを付けてバランスを考えてみた。
これで約15cmは身ごろが増えたので、中にレザージャケット着てもオッケー!
見た目も思ったより馴染んでいて
「カナダ製からイタリア製に変身」
といった雰囲気に大満足である。(笑)

ウエスタン風の着こなしも70年代風にキメるのも楽しそう。
今からスタイリングを考えワクワクしているSNAKEPIPEである。

時に忘れられた人々【02】国枝史郎

【国枝史郎伝奇文庫風にROCKHURRAHが勝手に制作】

ROCKHURRAH WROTE:

少年時代から現在まで趣味嗜好の根本がほとんど変わってないROCKHURRAHだが、今でも大事に持っているものは意外なことに、かつてコレクションしていたアナログ・レコードとかではなくて子供の頃に買った本だったりする。

レコードの方はパソコンで録音してCDにするというデジタル化での保存が比較的簡単に出来る(敢えてそういう事をしないのが真のコレクターなんだろうが、それは置いといて)から、よほどの宝物以外は手放して「あぁ惜しかった」という程にはならない。
ところが本の方は今まで何度もしてきた引越しの際に手放してしまったものが多く、その後新たに入手出来ずに困ったという経験も多いのだ。最近の古本屋事情もないものは徹底的にない、あるものはどこにでもある、という寒い状況。掘り出し物も滅多に見つからないときてる。自力でデジタル化も難しいしね。

そういう自分の書棚を改めて眺めると圧倒的に戦前戦後の古い探偵小説ばかり。ミステリーと言うより推理小説と言うより探偵小説と呼ぶ方がしっくりくるような作家群だ。それだけなら主義の一貫した奴でいいんだが、パンクでサイコビリーでホラー映画好きで探偵小説好きで裁縫や料理もちょっぴりこなす奴となると随分同志の人口は減ってくるだろうか?完全に同じ嗜好の人もまだまだいるかな。

前置きがとても長かったが、今回はその書棚の中から選んだ2冊の古びた本から話を進めようか。

「国枝史郎伝奇文庫 神州纐纈城」上下2巻だ。
数々の引越しでも絶対に手放さなかった少年時代からの宝物だ、って程にはそこまで貴重なものでもないが。
これは講談社が昭和50年代に出してた文庫で全28巻より成る国枝史郎の集大成、横尾忠則による装幀も素晴らしい。

多少はマニアックでも入門者にやさしい内容を心がけるrockhurrah.comであるから「国枝史郎って誰?」という現代っ子(この言葉がすでに死語か?)でもわかるように簡単な説明をしておくか。
国枝史郎は大正から昭和初期にかけて活躍した作家で主に伝奇小説と呼ばれるジャンルで類を見ない独創性を誇り、人気があった。ごく簡単に言えば日本独自の怪異とかファンタジーっぽいものを主題にした時代小説で燦然と輝く作品を描いたのがこの作家なのだ。決してエジソンとか二宮金次郎とか偉人を描いた伝記小説ではないので間違えないように。
この人が書いた小説の中で最も有名なのが「蔦葛木曽棧(つたかずらきそのかけはし)」「八ケ嶽の魔神」そして前述の「神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)」の三大傑作だ。中でも「神州纐纈城」の素晴らしさは現代でも色褪せる事はない。

武田信玄の家臣、土屋庄三郎が出会った一枚の深紅の布「纐纈布」。
人間の生き血を絞り染めたという禍々しい布に誘われて庄三郎は武田家をドロップアウトしてしまう。要するに不思議な力で勝手に宙を舞う布を追っかけているうちにこの人は行方不明になってしまうのだ。現代社会で言えば無断欠勤で馘首といったところだろうが、戦国時代であるからして勝手にふらふら他国に行かれてしまっては困る。そこで信玄が庄三郎探索に差し向けた刺客が高坂弾正の庶子、高坂甚太郎なる凄腕の少年武士。鳥もちの竿を自在に操る武器とするやたら強い悪ガキだ。
富士山の麓を舞台にこの二人の追いつ追われつの物語になるのかと思いきや、予想は見事に覆されてどんどん場面は変わって、さらに出てくる登場人物のアクの強さ、奇っ怪さは増してゆく。「富士に巣くう魑魅魍魎」などと謳い文句に書いてある通り、妖怪などは出ないが人間こそが一番恐ろしい魑魅魍魎として描かれている。
富士山の麓に住む三合目陶物師(すえものし)と呼ばれる男。人を襲って陶器を焼く竃で処分してしまうという恐ろしい腕前の残忍な美形盗賊だ。
富士の洞窟の中で奇怪な造顔術(今で言う整形手術)を行う謎の美女、月子。罪業を背負った人々を整形し別人に生まれ変わらせるという闇商売をしている。
そしてタイトルにある通り登場する纐纈城と仮面の城主。富士の麓に住む人間をさらって来て冒頭に出てきた纐纈布を作るために生き血を絞り、染色する工場を持つという邪悪の総本山で、人工の水蒸気に隠され本栖湖の真ん中にある。城主は触れる者全てを一瞬で崩れた病人にしてしまうという「奔馬性癩患(ほんばせいらいかん)」なる恐ろしい病気の持ち主。醜い病気を隠すために能面を付けているのだ。
一方その纐纈城と対峙する富士教団神秘境。慈悲の心を持った救世主、光明優娑塞(こうみょううばそく)を勝手に教祖と仰ぐ狂信者の巣窟だ。

これらの主要登場人物が入り乱れてさらにその他大勢(剣聖塚原卜伝までも)登場するのだが、高坂甚太郎はこの纐纈城に導かれて囚われ、土屋庄三郎は富士教団神秘境へと彷徨い込んで、この二人は出会う事がない。
後半はなぜか激しい郷愁を感じた纐纈城主が遂に城を出て、人々を「祝福」しながら甲府に向かうという掟破りの展開。

素早い場面転換と複雑で奔放なストーリー、話はどんどん膨れ上がり脱線してしまい、この伝奇小説の裏バイブルのような作品は残念ながら未完のまま終わってしまう。
にも関わらず「神州纐纈城」は国枝史郎の最高傑作と呼ばれ、三島由紀夫をはじめ、後の時代の数多くの人たちにリスペクトされた。

ストーリー紹介になってなかったが読んでない人で興味を持ってくれる人も多いはず。何と大正14年の作品だよ、これ。
活劇映画もTVも漫画もアニメもTVゲームもなかった時代にこれを読んだ人が受けた衝撃は凄かったんじゃなかろうかと思える。ちょっと読んだだけでも誰でも映像が浮かんでくる程の妖しい魅力を持った小説だ。もともと大衆演劇畑出身の作家であるから映像的な描写やスピーディな場面展開はお手の物なんだろうが、今の人が想像するよりもずっと進んでた大正時代なんだね。

ROCKHURRAHの説明がヘタなので今時のアニメとかではありがちの舞台設定に感じてしまうだろうが、独特のリズム感溢れる名文とほぼ全ての登場人物に見え隠れするダークサイドな部分、読者の想像力をかきたてるような中途半端な終わり方が素晴らしく、不思議と子供っぽい部分はない。

話が大きくなりすぎて収拾がつかなくなり未完、と言えば昔の永井豪の漫画を思い浮かべてしまうが、まさに国枝史郎の小説は漫画向け(実際に永井豪と縁の深い石川賢が漫画にしている)と言える。がしかし、頭の中の映像化は簡単だがこの小説は数々のタブーなものがひしめいているので、実際の一般向け映画なりゲームなりには難しいかも知れない。タブーの部分を抜きにしたらこの作品の魅力は半減してしまうだろうから。でも、個人的にはぜひ誰か映像化に挑戦して欲しい(原作に忠実に)作品だ。

ちなみにSNAKEPIPEの昔の知り合いに纐纈さんという人がいたらしいが、本当にそんな名字あるんだね。纐纈城主の名字は纐纈ではないと思うけど羨ましい。画数が多くて難しいから何度も名前を書かなきゃならない場合は大変らしい。

代表作の中でちゃんと完結していて最もまとまりが良い「八ケ嶽の魔神」になるとさらに登場人物の暴走が激しく、読んでいて笑ってしまう部分もあるほど。
親の因果が子に報い、というこの手の小説にはお決まりの数奇な運命にある呪われた主人公、鏡葉之助(幼名猪太郎)の大活躍、というよりは暴れっぷりを描いた小説で「神州纐纈城」のような大傑作と比べるとかなり粗削りではあるんだが、これはこれで「凄い」と思える、ある意味アナーキーな作品。これまた大正時代に書かれたとは思えないような文体。筒井康隆がかつて「時代小説」という短編で国枝史郎をパロディにしていて、原典を知っていたら大笑い出来る内容だったのを思い出す。

さてさて、これからもう一つの長編「蔦葛木曽棧」についても書こうと思ったのだが、ここまで書いていて正直疲れてしまったので今日はここまでという事にしておこう。
それではごきげんよう。

(未完)