CULT映画ア・ラ・カルト!【03】ILSAシリーズ

【どのポスターもダイアン・ソーンが仁王立ちの構図。全部同じパターン?】
SNAKEPIPE WROTE:

今回はカルト映画「ILSA」シリーズについてまとめてみたい。

ILSA ナチ女収容所 悪魔の生体実験」は1974年に制作されたアメリカ/カナダ映画。
タイトルからしてすでに危ない雰囲気を漂わせているけれど、内容もそのまんま!
ナチスの医療収容所での残酷な実験を描いている映画である。
医療収容所の女所長の名前がイルザ、その後のシリーズもすべてダイアン・ソーンが演じている。
このダイアン・ソーンの存在感が映画の要であり、彼女のおかげで映画が大ヒットしたといえるだろう。

なんといってもダイアン・ソーンの魅力はその肉体美!
グラマラスボディの持ち主で、いかにもアメリカ版プレイボーイのグラビアに出てきそうなタイプ。
そのグラマーさんがナチスの制服をピチピチ状態で着こなし、冷たい美貌で怖い命令を下すとは!
さて一体何が起こるのだろう、と期待に胸を膨らませること間違いなし!(笑)

結局グラマー所長はどのくらいまでの熱や圧力に耐えられるか、病気に対する抵抗力など「人の限界」のようなデータを取ることが目的だったようで。
そのデータを取るシーンだけが残酷かな。
それ以外は収容所とは言っても、建物は掘っ立て小屋みたいだし、収容されている人達は部屋を自由に歩いているため厳重に管理されている収容所というイメージとは程遠い。
あとは所長の趣味に多少の問題があるくらいなので、恐る恐る指の間から覗き見しなくても大丈夫な映画である。(全員がオッケーとまでは言わないけど!)
最後はその「趣味」がきっかけで転落する所長。
やっぱりこんな人体実験、許す国はないよね?

2009年の現在観ても「ナチスで生体実験」とタイトルにあるような映画はマズいんじゃないか、と感じるので制作された1974年などはもっと危なかっただろうね。
キャストの中に「この作品のみ変名」と書かれている俳優が多いので、お金欲しさで出演はしたけれど、できれば出演したことは知られたくないという意味だろう。
まあ、代表作として堂々といえるのはやっぱりダイアン・ソーンのみだろうね。(笑)

それにしても「ILSA」にはモデルがいた、と書いてあってびっくり!
イルゼ・コッホという女性らしい。
本当にそんな残虐な女性がいたとは驚きだね!
一文字違いにして「イルザ」なのか、と納得。

イルザ アラブ女収容所 悪魔のハーレム」は1976年の作品。
主演は同じくダイアン・ソーン。
今回はタイトル通りアラブの石油王国が舞台で、国王専用ハーレムの守備隊長を任されているイルザ。
主人が国王で命令を受けて行動するため、前作のようにイルザが絶対の命令権を持っているわけではないところが違うんだよね。
そして今回はあまりダイアン・ソーンの脱ぎっぷりもよくなくて、ほんの数シーンでその肉体を披露しているのみ。
前作の「これでもか」というほどの肉体誇示はないので要注意。(意味不明)

石油王国の国王がポール・マッカートニーに似てる。
うっ、「に」を3回も書いてしまった。(笑)
そのポール国王のハーレムは誰しもが思う通りの「いかにもアラブのハーレム」状態。
美味しい料理にお酒、美しいダンサーがくねくね踊る宴。
周りに侍る訓練された女性達。
みんな国王のための演出。
背いたら罰が待っている、命がけのご奉仕。
アラブ編では前作よりもグロさがプラスされている。
今回は顔をそむけてしまうシーンもあったので、グロさを求める人にはいいかもしれない。
そしてアラブ社会ってこんな習慣あるんだっけ?と信じてしまうような不思議なエピソードがいくつか挿入されている。
お客様への最高のもてなし料理とか泥棒に与える罰について、など。
本当なのかどうかアラブの人に聞いてみないと。(笑)

今回のイルザは、普通の女みたいにアメリカ人スパイに恋する設定で。
国王のためにハーレムを維持・守備している冷徹な女隊長とは随分イメージが違ってきて、とまどってしまう。
最後はやっぱりイルザが笑って終わるようにはできてないんだな。
というか、そういうラストにはできないのかもね?

「女体拷問人グレタ」は1977年の作品。
この映画では名前はイルザじゃなくてグレタになっている。
グレたからかな?(ぷっ)
ここでも大筋はさほど変わらず、病院の院長になっているダイアン・ソーン。
治療と称して、前作と同様に自分の好き勝手をやっている。
そして警察関係者と手を組み、テロリストに自供をさせるために拷問を繰り返す役割も果たしている。

今回は病院に入ったまま行方が分からなくなった姉を探して、実態をあばくため妹が潜入するストーリーになっている。
最後は姉に会えたけれど、この手の映画の中で感動的な再会シーンは期待できないよね。
結局はグレタ院長が微笑みながら残酷なことをして終わってしまった。
なんの作戦も練らないで潜入すること自体が無謀だったともいえるけど。

ラストで手下だと思っていた男の裏切りや、グレタが復讐を受けるシーンが衝撃的だった。
今回はジェス・フランコという先の2本とは違うスペインの監督なので、ちょっと雰囲気が違っていたのかもしれない。

本当はイルザシリーズにはもう一本「イルザ シベリア女収容所 悪魔のリンチ集団」(1977年制作)があるのだけれど、今の時点ではまだ入手できていない。
それにしても「~収容所」で「悪魔の~」って、全部同じパターン!
ちょっとマンネリ気味?(笑)
暑い国の次は寒い国にしたってことか。
設定その他は同じだろうけど、いつか観られる日を楽しみにしたい。

伊藤公象  秩序とカオス展

【魚の集合?菊の花?一体何に見える?】

SNAKEPIPE WROTE:

世間はお盆休み。
ROCKHURRAHとSNAKEPIPEもどこかにお出かけしよう、と思いついたのが東京都現代美術館
ここは以前「ダイドー・ブランコ・コーヒー」の時にも行った周りが大きな公園のある非常に立地の良いリッチな美術館である。(げっ、以前と同じギャグ!)
現在開催している企画が「伊藤公象~秩序とカオス」展、同時開催が「メアリー・ブレア」展とのこと。
メアリーの方はあまり興味があるタイプではないようなのでパス。
久しぶりに現代アートに触れてきた。

現代美術といわれてもそんなに詳しくないし、立体を扱う日本のアーティストはほとんど知らない。
実は今回の伊藤公象の名前も初耳だった。
作品の雰囲気からてっきり若い世代なのかと思いきや、なんと1932年生まれというから今年77歳、活動歴の長いアーティストだった。

土をこねて造るいわゆる「陶芸」とはかなり雰囲気が違うけれど、伊藤公象の作品の素材はほとんどが土からできている。
それらはまるで布や石、または金属に見えたりして、とても陶芸品には見えない。
ちょっとトリックめいていて面白い。

今までほとんど現代美術展を観たことがないROCKHURRAHが
「えっ、作品を床とか地面に直接置いてるの?」
とびっくりしていた。
例えば上の写真の作品なども台の上に置いてあったわけではなく、歩いているカーペットの上に直接並べられていたのである。
「きっと毎回展示の度に形が変わってるだろうね」
などと笑っていた矢先に、それが事実であることが発覚!

なんと<アルミナのエロス(白い固形は・・・)>という作品は1984年制作の時の写真と、今回展示されていた作品とは大きく違っていたのである。
恐らく並べたり撤収したりを繰り返しているうちにどんどん作品が崩れていったのだろう、白いレンガの塊だったはずがボロボロになって廃墟のように変化している。
解説にも「自然の作用を採り込む有機的な創作の世界」と書いてある。
うーん、モノは言いようですな。(笑)
時と共に作品が変化する、というのは今まであまり経験ないかも。
ただ、確かにその崩れた後の今回の展示のほうが1984年版よりもSNAKEPIPEは好みだった。
陳腐な言い方だけど「終末感」が感じられたからだ。

他にとても気になったのは同じように土から造った焼き物にプラチナを吹き付けた、というまるで金属にしか見えないようなピカピカのシルバー群。
群と呼ぶほどの、一体いくつあるのか分からないほどのたくさんの造形物が所狭しと並んでいる様は圧巻である。
そう、伊藤公象の作品はほとんどが「群」で構成されているのだ。

一つだけ置かれていたらあまり気に留めないかもしれないけれど、まとまって集合体になると非常に迫力が出てくる。
まるで一つ一つに意味があるんじゃないか、全体で観た場合はどうだろう、などと考えたくなってくるから不思議だ。
ま、そういうところを含めて現代美術なのかもしれないね。
SNAKEPIPEもROCKHURRAHも「ごたく」やら「うんちく」のような理屈(屁理屈?)が必要なアートにはあまり興味がない。
むしろ言葉を必要とする、能書きばかりの作品はアートにしないで文章の世界に入ればいいのではないかと思う。
言葉にできないからアートにするんじゃないか、と考えるからだ。
伊藤公象展は解説がなくても観た瞬間に
「わっ!すごい!」
と思えるアートの根源が感じられて充分に満足できた。
行って良かったな!

常設展として現代美術館所蔵作品が観られるスペースに面白い作品を発見。
伊藤存というアーティストの「しりとりおきもの」という作品。
「りんご」→「ゴリラ」とたどって行った先にあったのは
「ラモーンズ」!
恐らく「しりとり」をクリアできた人は少ないのでは?
だっていきなりラモーンズが入るのは例外だろう。
その次は「頭脳」だったし。(笑)

やー、今回は二人の「伊藤」にやられちゃったね!
現代アートは楽しいな!(笑)

ROCKHURRAH RECORDS残暑見舞い2009

【去年に引き続き魚シリーズで制作した残暑見舞い】

SNAKEPIPE WROTE:

「立秋」を過ぎたので暦の上ではもう秋になるのかな。
そしてこの日を境に「暑中見舞い」から「残暑見舞い」になるらしいので、今年もまた残暑見舞いを制作。
去年に引き続き魚をモチーフにしてみた。
いかがざんしょ?(笑)

最近は散歩途中で大きな魚が泳いでいるのを目にする機会が多く、魚がスイスイと気持ち良さそうに泳いでいるのを目にする度に
「どうして人間は両生類として進化しなかったんだろう」
などと考え込んだりしているSNAKEPIPE。
夏だけはゾーラ族(ゼルダの伝説)とか魚人族(ワンピース)みたいに水中で生活できたら良かったのになあ!(笑)
上の写真みたいに、水中廃墟を悠々と泳いで観て回れたのにね!

まだまだ湿度が高い暑い日が続くと思うので、皆様も夏バテや熱中症に気を付けてお過ごし下さいませ!

石井聰亙の暴走~追悼:山田辰夫~

【「狂い咲きサンダーロード」のラストで見せた山田辰夫の笑顔。合掌。】

SNAKEPIPE WROTE:

「ぎゃっ」
とROCKHURRAHが叫ぶ。
何事か、と見ると震える手でパソコンを指差している。
なんとそこには俳優、山田辰夫氏死去のニュースが。
実はその26日に何年(何十年?)ぶりかで山田辰夫スクリーンデビュー作「狂い咲きサンダーロード」を観たばかり。
二人で山田辰夫について語り合ったばかりだったのである。
あまりの偶然にびっくりするのも無理はない。
そこで今回は山田辰夫追悼の意味も含めて石井聰亙監督の3本の映画についてまとめてみたい。

石井聰亙監督といえばやはり80年代、新宿だったか吉祥寺だったか忘れてしまったけれどオールナイトの映画館で鑑賞したような記憶がある。
パンクテイストと暴力的な雰囲気が夜にはぴったり合っていた。
恐らく一番初めに観たのは「爆裂都市 BURST CITY」だったと思うけれど、年代順に書いてみようかな。


「狂い咲きサンダーロード」(1980年)は80年代以降にも何度か観ているはずだけど、細かい部分についてはすっかり忘れてしまっていたSNAKEPIPE。
そんなSNAKEPIPEとは違って、さすがは地元北九州で撮影が行われていたというこの映画をROCKHURRAHは何度も鑑賞していたらしい。
石井聰亙監督も福岡出身だしね!
そんな二人で揃って鑑賞したのは今回が初めてだった。
改めて観ると、石井聰亙監督の美意識や描写のカッコ良さがよく解る。
SNAKEPIPEも写真撮影したいな、と思うような風景もたくさん出てきた。
いいなあ、この時代の北九州!(笑)

この作品は暴走族を描いた作品で、一人だけ突出してしまった主人公ジンを演じる山田辰夫が非常に印象的である。
「つっぱり」の信念を貫き通し、我が道を行くジン。
走りたいから走る、嫌なことはしたくない、と自分に正直な人間である。
その正直さが好まれたり、反感を買うことになったりする。
好まれたのは右翼団体に所属する小林稔侍演じるタケシ。
反感を買ったのは他の暴走族チーム。
最後まで自分の好きなことをしよう、と筋を通す人はなかなかいないだろうね。

山田辰夫は顔もそうだけど、なんといっても特徴的なのはその声。
いかにもチンピラ声というのだろうか、野次を飛ばすのに最も適してる声質。
実はこの映画以外の山田辰夫が演じてるのを観たことないSNAKEPIPE。
最近では話題作「おくりびと」にも出演していたみたいだけど、この手の映画はあまり得意ではないので。
「ずっと俳優やってたんだね」とROCKHURRAHと感心していたところに訃報。
53歳じゃまだまだ若いのに、非常に残念である。合掌。


続いて「爆裂都市 BURST CITY」(1982年)。
この映画も「スターリンが出てる」とか「泉谷しげるが嫌な役」などというとても簡単な感想しか覚えていない、かなり昔に観た記憶しか残っていない映画である。
この映画に関してはなんといっても当時のロックスター、ロッカーズとルースターズ(のメンバーが合わさったバンド)、そしてスターリンが実際に演奏してるシーンが観られるだけでも充分ウレシイ!
ミチロウ、若い!(笑)
ストーリーがどうの、というよりも音楽とファッションに興味がいってしまう。
ファッション、と書いてはみたけれど、この映画の中でのファッションというのがやや特殊。
これはどうやらこの当時の北九州では割と当たり前の光景だったらしいんだけど、パンクと暴走族とヤクザが全部ごっちゃになったという妙な組み合わせ。
実際に北九州で生まれ育ったROCKHURRAHによると、パンクと暴走族が友達同士でツルんでるなんてことはざらにあったみたい。
ま、結局「アウトロー」として考えればおかしくないのかな?
ただ、これは東京のパンクシーンとは当然だけど違っていて、地方都市特有の文化なのかな。

この映画には後に芥川賞作家になる元INUの町田町蔵(現在は町田康)と、同じくルポライターで作家の戸井十月がアブナイ兄弟役で出演していたり、暗黒舞踏「大駱駝艦」の麿赤児がうなじに「DEATH」と刺青してたり、若いコント赤信号室井滋の姿を観ることもできる。
80年代を知るのにはとても面白い映画かな?


そして最後は「逆噴射家族」(1984年)である。
この映画のことは以前「さて、今週のリクエストは」にも書いたことがあるけれど、主演の小林克也の大ファンであり、石井聰亙監督の作品上記2本を鑑賞した後のことだったのでとても楽しみにしていた記憶がある。
これまた以前の記憶が飛んでいたので、今回改めて観直した。

タイトル通りに家族の一人一人が「逆噴射しちゃう」という話で(簡単過ぎか?)、実は幸せそうに見えている家族にもこんなにストレスがあるんだな、と日本の病理について描いている作品である。
撮影が浦安だったようで、恐らく当時は開発が今ほど盛んではなかった殺風景さ。
うーん、どうやら石井聰亙監督は「空っぽ」な風景が好みなんだね。
若い工藤夕貴は顔が違って見えたり、狂気が宿ってくる小林克也の顔の変化など見所満載である。
SNAKEPIPEは以前から大学受験を控えている工藤夕貴のお兄さん役の俳優、有薗芳記の異常さに目を奪われていたけれど、残念ながらこの作品以外では知らないな。
原作と脚本が小林よしのりだったとは知らなかったけれど、所々で「らしさ」が出ていたような気がした。

以上石井聰亙監督初期の代表作3本について書いてきたけれど、簡単にまとめてみるならば
「テーマは暴走」
といえるのではないだろうか。
実際にバイクで暴走する場合もあれば、精神的に暴走してしまうこともある。
追い詰められて制御できなくなり、もっと先に突き抜けちゃった状態を描いているのかな。
全部80年代の作品だけで25年も経っているけれど、決して古くない映像だと思う。

調べてみると石井聰亙監督はコンスタントに作品を発表している模様。
上の3本以降については全く知らないので、今度また機会を作って鑑賞してみようかな。
暴走の先に何があるのか。
答えが見つかるかもしれないからね!(笑)