窓展/MOMATコレクション 鑑賞

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【窓展の入り口を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

SNAKEPIPEが担当する2020年初のブログだね!
今年もよろしくお願いいたします。

今回は2019年の最後に書いた「パラサイト/パッション20 鑑賞」 の続きを紹介していこう。
国立近代美術館工芸館で「パッション20」を鑑賞した後、その足で国立近代美術館に向かった友人MとSNAKEPIPE。 
歩いて10分程度の場所に美術館があるので「はしご」ができるんだよね。(笑)
それにしても映画から始まり、工芸館の鑑賞後にもう一つの展覧会を回るとは、ハードスケジュールだよ!

少し北風が強まってきた中、北の丸公園を散策しながら工芸館へ。
もう少し気温が高くなったら、ゆっくり散歩したい公園だね! 
前回、国立近代美術館に来たのは2016年9月の「トーマス・ルフ展」だったっけ。
あの時は友人MとROCKHURRAHという「あやしい3人組」だったね、などと話しながら到着。
館内に入り、チケットもぎりの場所で撮影について尋ねる。
一部撮影禁止の作品があるとのこと。
「トーマス・ルフ展」の時には、ウェブにアップする際には作品名や「国立近代美術館」という記載をする必要があったけれど、そういった規制もないみたい。
外国人観光客も多いし、インスタグラム等SNSが流行している現在、3年前とは状況が変わったんだろうね。

それでは早速気になった作品を紹介していこう!
と書きたいところだけど…気になる作品のほとんどが撮影禁止だったんだよね。
マルセル・デュシャンの「フレッシュ・ウインドウ」やリキテンシュタインの「フレームIV」など観たいと思っていた作品を画像でお伝えできないのが残念!

撮影できた作品で気になったのは、林田嶺一の「とある日用雑貨店のショーウインドーケース」。
1933年旧満州生まれの林田が、子供時代に見た戦争の記憶をもとに作った立体作品とのこと。
ロシア文字が並んでいるかと思うと、和服の女性が描かれていたりして、旧満州の雰囲気が表現されているみたい。
調べてみると、林田の作品はポップアートとして位置づけられているみたい。
確かに戦争の悲惨さを訴えるというよりは、純粋に子供だった頃の記憶や見たままを再現しているようで、とても可愛らしいんだよね。
SNAKEPIPEは少女時代に夢中だった「文化屋雑貨店」を思い出したよ。(笑)
現在87歳になる林田は、今でも絵を描いているというから恐れ入る。
「窓展」で初めて名前を知ったアーティスト。
鑑賞できて良かった!

山中信夫の「ピンホール・ルーム1」 は20枚を1組とした作品なんだよね。
この作品について説明されている文章を探してみると、「針穴を通して入り込む光を壁に貼られた複数のフィルムに収め、感光したフィルムはコンタクトプリントで原寸のまま焼かれ、写真はフィルムを並べた時と同様に再現され展示されるという作品」とのこと。
どうやら山中は自宅の窓を全て塞いで真っ暗にして、5円玉の穴から差し込む光を印画紙に露出させ、作品を制作していたようなんだよね。
およそ2.5mの正方形に近い大型作品というせいもあり、非常に重厚な印象を受けた。
山中は1948年大阪生まれ、69年多摩美術大学油絵科に入学する。
82年にパリ・ビエンナーレに出品し、個展が決定したパリとニューヨークの下見をするための渡米中、敗血症のため客死したという。
写真を現代アートの素材として使用する日本人の先駆けだったんじゃないかな?
34歳という若さで亡くなったのが惜しいアーティストだね。

国立近代美術館は常設展が素晴らしいんだよね。
前回までは「撮影禁止」だったはずだけど、念の為に確認してみる。
なんと、一部を除いてオッケーとのこと!
いろんな規則が変化してるんだね。 
やったー!可能な限り撮影していこう!(笑)

村山知義の「コンストルクチオン」は1925年の作品。
20年代の日本にダダっぽい作品があるとは驚き!
木片、紙、木、布、金属、皮が使用されているという。
どうやら右上に貼られているのは、ドイツのグラフ誌らしいよ。
村山知義は1922年にベルリンで様々なアートに出会っているというから、当時のヨーロッパを実際に体験した人物ということになるんだね。
1924年には構成主義についての本、1925年にはカンディンスキーについての著作があるというので、バウハウスを直接現地で知っていたんだろうな。
なんとも羨ましい境遇!
20年代の日本でも、かなり進歩的だったことがわかったよ。
村山知義は非常に興味深い人物なので、もう少し調べていきたいと思う。

尾藤豊の「シベリア紀行」は1958年の作品だよ。
赤、白、緑という3色のみ使用したシンプルだけど、ダイナミックな構図。
潔さが感じられて、気になった作品なんだよね!
尾藤豊について調べてみると、1926年生まれで1943年に東京美術学校建築科に入学だって。
1950年代から60年代にかけて、ニッポン展や日本アンデパンダン展に出品するかたわら、「フォール」や「革命的芸術家戦線」などのグループを次々と結成し、批評的な芸術運動を積極的に展開したというアーティスト。(福岡県立美術館の説明文を一部流用)
ちょっと過激なタイプだったのかもしれないね?

河原温の「物置小屋の出来事」は1954年の作品。
紙に鉛筆だけで描かれているのにも関わらず、非常にインパクトがあるんだよね。
棒状の物体が描きこまれるにつれ、徐々に画面が狭くなり圧迫感が増してくる。
息苦しくなり、不安な気分に襲われる。
塩田千春の展覧会「魂がふるえる」を思い出したよ。
他の作品も鑑賞してみたいね。

中村正義の「源平海戦絵巻」は1964年の作品。
これは小泉八雲原作の「怪談」を、小林正樹が監督し1965年に映画化、劇中で使用された絵画だという。
実はROCKHURRAHとSNAKEPIPE、映画の「怪談」鑑賞してるんだよね!
映画は4つのオムニバスで構成され、その中の「耳なし芳一」に登場した絵画とのこと。
確かに「すごい絵!」と言いながら鑑賞した記憶があるよ!(笑)
絵巻は5部作で、どれも素晴らしいんだよね。
日本画壇の風雲児や反逆の天才画家などと称される中村正義。
その生き方、パンクっぽくて気になるなあ!

最後の作品はこちら!
中西夏之の「コンパクト・オブジェ」は1962年の作品なんだよね。
これはポリエステル樹脂製の卵で、中に様々な物が入っているのが透けて見える。
魚の骨だと思われる物と金属製の何かがあるおかげで、まるでエイリアンの卵だよ。
リドリー・スコット監督による映画「エイリアン(原題:Alien 1979年)」 のデザインを担当したのはH・R・ギーガーだったよね!
ギーガーよりも制作年が早い中西夏之のオブジェが、山手線のホームや車内で行う「ハプニング」用だったと聞いて驚いてしまう。
「ハプニング」とはパフォーマンス・アートのことで、ゲリラ的な行動を起こすアートのこと。
例えば60年代、草間彌生がニューヨークで裸の男女に水玉をボディ・ペインティングする「ハプニング」を行っている。
「ハプニング」は行動なので、写真や動画が残っていないと「やったよ」という宣言だけで成り立つアートなのかどうかは不明。
中西夏之の「ハプニング」について詳細は分からなかったけど、こんな卵を突然見せられたら、ギョッとすること間違いなしだよ。(笑)
日常に突如現れた異物、というコンセプトだったのかなあ。
SNAKEPIPE MUSEUMに陳列したい逸品だね!

エイリアンについて調べてから眠ったせいで、おかしな夢を見てしまった。
教室で授業を受けているSNAKEPIPE。
黒板に先生(教授?)がエイリアン、と白墨で書いている。
先生が誰だったのかは覚えていない。
「いいですか、エイリアンはオスなんですよ。メスは語尾が変わってエイリアンヌになります」
と言いながら「アン」に下線を引き、下に「アンヌ」と書いている。
「そうなんだ、メスはエイリアンヌなんだー」
と感心している、という夢だったんだよね。
久しぶりにトンチンカンな夢を見たなあ!(笑)

SNAKEPIPEのおかしな夢は良いとして。
先にも書いたように、以前鑑賞した時には撮影ができなかった近代美術館の常設展。
今回は、ほとんどの作品が撮影可能で大満足だった。
鑑賞して気に入っていても、作品と作者名を同時に覚えておくことは難しいため、感想を書くことができなかったからね。
今までほとんど知らなかった日本のアーティストについて、調べることができて嬉しい。
様々な展覧会で自由度が高くなると良いね!

パラサイト/パッション20 鑑賞

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【近代美術館工芸館のポスターを撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

展覧会や映画の鑑賞など、何かしらのイベントを共有することが多い長年来の友人Mと、年内最後に会うを約束をした。
何か行きたいところはないか尋ねると、映画と展覧会の提案を受ける。
さすがは情報収集能力に優れた友人M!
ここに行きたい、と即答できるんだよね。

友人Mから誘われた映画は「パラサイト 半地下の家族(原題:韓: 기생충、英: Parasite 2019年)」だった。 
ポン・ジュノ監督の作品はほとんど鑑賞済のROCKHURRAH RECORDS。
主演のソン・ガンホについては、以前より「ラフィン・ノーズのポンに似てる!」と注目していて、出演作を好んで観ているんだよね!(笑)
「パラサイト」は、第72回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞している話題作! 
公開は2020年1月10日だけれど、先行上映されることになったとのこと。
TOHOシネマズ 六本木ヒルズでは、12月27日に舞台挨拶付プレミア上映を行うという。
監督のポン・ジュノと主演のソン・ガンホが舞台挨拶を行う特別プログラムだというので、本当はその回に行ってみたかったけれど、席順の予約ができないという点がひっかかる。
監督と俳優の実物を目にできるのは魅力だけど、やっぱり映画を好きな席で観たいんだよね。(笑)
そのため都内で先行上映をすることになったTOHOシネマズ 日比谷で、座席を予約して観ることにする。
3日前から予約できるので、友人Mがその役割を買って出てくれた。
SNAKEPIPEが予約するのでは不安があるらしい。(笑)

無事に席の予約をしてもらい、日比谷に向かったのである。
TOHOシネマズ 日比谷は2018年3月にできたばかりの劇場なので、とてもキレイだった。
恐らくどのシートに座っても、快適に映画が楽しめそうだよ。
「パラサイト」のトレーラーを載せておこうか。

簡単にあらすじを載せておこうか。

全員失業中で、その日暮らしの生活を送る貧しいキム一家。
長男ギウは、ひょんなことからIT企業のCEOである超裕福なパク氏の家へ、家庭教師の面接を受けに行くことになる。
そして、兄に続き、妹のギジョンも豪邸に足を踏み入れるが…。
この相反する2つの家族の出会いは、誰も観たことのない想像を超える悲喜劇へと猛烈に加速していく。(Filmarksより転記) 

恐らく東京で一般公開された「パラサイト」の初回になるんじゃないかな?
話題作なだけあって、劇場は約8割ほど席が埋まっていたよ。
「ネタバレ厳禁」とされているので、詳しく話せないのがもどかしい。(笑)
まだ鑑賞していないROCKHURRAHにも話せないのが辛いところ。
意外な展開に驚いたり、大笑いしたり、人によって感想が違うんじゃないかなと予想する。
それにしても、昨年パルムドールを受賞した「万引き家族」に似せた副題を付けなくても良いのになあ。
機会があったら、是非鑑賞してみてね!(笑)

続いて友人Mと向かったのは竹橋にある東京国立近代美術館工芸館
ここでは「所蔵作品展 パッション20 今みておきたい工芸の想い」が開催されている。
東京国立近代美術館には何度か足を運んでいるけれど、工芸館は初めてかも?
この日は晴れていたけれど、風がものすごく強かったので、少しの時間を外にいるだけでも冷えてしまうほどだった。
もう少し風が弱ければ、北の丸公園を散策するのも楽しかったかもしれない。
工芸館はこちら、の案内に沿って歩くことおよそ10分。
見えてきた工芸館はレトロでオシャレだったよ!
調べてみると、明治43年に建築された旧近衛師団司令部庁舎を保存活用したものらしい。
2020年のオリンピックを目処に石川県に移転予定の情報を目にして驚いた!
移転前に来て良かったね、と友人Mと話す。
チケット料金、250円にびっくり!
近代美術館のチケットも同時に購入し、工芸館の後で行くことにする。
それでは工芸展で気になった作品の感想をまとめていこうか。

宮川香山作「鳩桜花図高浮彫花瓶」の実物を目にできたのは嬉しかった。
1871年〜82年の作品とキャプションが付けられていたけれど、今から140年程前にこんなに斬新な陶器を制作していたなんてね!
2016年10月に鑑賞した「驚きの明治工藝」でも香山の作品を目にしているはずだけど、ここまで立体が貼り付いているものではなかったような?
その時の記事にも香山について触れているので、今回鑑賞できて良かった!(笑)

小名木陽一の「赤いてぶくろ」は1976年の作品だという。
このサイズ感は作品と対峙する必要があるかもしれないね?
画像では分からないかもしれないけれど、実際には手の中に人間がすっぽり収まってしまうほどの大きさなんだよね。
説明文によれば、この作品は織物なんだって。
小名木陽一が独自に考案した立体織の手法により、これほどまでに大きな作品が可能になったという。
これぞ現代アート!という観た瞬間の驚きが素晴らしい作品だったよ。

鈴木長吉「十二の鷹」の見事なこと! 
本物の鷹がいるかのような圧倒的な存在感なんだよね。
1893年の制作だというから、これも香山と同じように明治時代の作品ってことになる。
鈴木長吉は実際に鷹を飼って、習性や骨格を観察したと説明されている。
ここまでの立体作品を作ることができる技術の高さが認められて、帝室技芸員になったという鈴木長吉。
帝室技芸員って何だろう?
wikipediaによると「帝室技芸員とは戦前の日本で宮内省によって運営されていた、日本の優秀な美術家・工芸家に、帝室からの栄誉を与えてこれを保護し、年金や制作費を与える制度」とのこと。
宮川香山も任命されていたようだね。
香山の陶器も、長吉の鷹もSNAKEPIPE MUSEUMにコレクションしたい逸品だよ!(笑)

磯矢阿伎良の「花文棚」は1930年の作品とのこと。
漆、蒔絵と説明されている。
蒔絵とは「漆器の表面に漆で絵や文様、文字などを描き、それが乾かないうちに金や銀などの金属粉を蒔くことで器面に定着させる技法(wikipediaより)」とのこと。
黒い漆をバックに、赤と金の模様が映える逸品!
和風というよりはアラビア文字のように見える柄に強く惹かれたSNAKEPIPE。
棚とされているけれど、中がどうなっているのか観てみたかったよ。

内藤春治は東京芸術大学名誉教授の鋳金家だという。
「壁面への時計」は1927年の作品で、青銅を材料にしていると説明されている。
文字盤の美しさはもちろんだけど、周りを囲むアール・デコを取り入れたフォルムに目を奪われる。
右上に突き出たパーツが、斧のようにも見えて、ロシアっぽい雰囲気も感じるんだよね。
実際に時計として機能するのか、オブジェなのかは不明だよ。
1920年代といえば、シュールリアリズム、ロシア・アヴァンギャルドやバウハウスなど、ROCKHURRAH RECORDSが大好きなアート真っ盛りの時代。
日本にもこんなに素敵な作品があったことを知って、嬉しくなるよね!(笑)

関谷四郎の「赤銅銀十字線花器」を観た瞬間「PUNK!」と思ったSNAKEPIPE。
だってピラミッド型のスタッズが並んでるんだもんね。
しかもシルバー色!(笑)
赤銅と銀を使用した1975年の作品なんだけど、持って帰りたくなるほど気に入ってしまった。
花器と書かれているので花瓶なんだろうけど、 どんな花が似合うんだろうね?
関谷四郎は秋田生まれの鍛金家で、昭和52年に人間国宝に認定された人物だという。
他にはどんな作品を制作していたのか、観てみたいよね!

川口淳の「箱」は1991年の作品。
どんどん時代が現在に近づいてきてるね。(笑) 
磁器とアルミ板を使用した作品なんだけど、 基盤や模造の宝石が側面に貼り付けられていて、なんともキッチュな装い。
そのオモチャっぽさが、非常に魅力的なんだよね!
秘密の宝物入れに欲しくなる逸品!
他人から見たらガラクタなのかもしれないけど、自分には非常に大事な物って意味の宝物が似合いそう。
川口淳の磁器は販売されているようで、カラフルで良い感じだよ!

「パッション20」の最後に展示されていたのは四谷シモンの「解剖学の少年」だった。
四谷シモンについては、2011年10月に「SNAKEPIPE MUSEUM #12 Hans Bellmer&四谷シモン」として記事にしているね。
友人Mは四谷シモン主催の人形学校、エコール・ド・シモンに通うかどうかずっと考え続けているほどの大ファン!
この展覧会に作品が出品されていることも知っていたという。
四谷シモンの少年の人形は、どのタイプも美しい顔立ちなんだよね。
この人形は臓器が露わになっていて、美とグロテスクが共存しているのにも関わらず、静謐な雰囲気を持っているところが不思議だよ。

東京近代美術館工芸館を初めて訪れて、レトロな雰囲気の建物にも満足だった。
目黒の庭園美術館に似ているように感じたけど、建造された年代が近いんだね。
どちらの建物にも、当時のモダンさと独特の良さがあるので、是非良い状態で保存されると良いな!

工芸館を鑑賞した後、近代美術館にも足を運んだ友人MとSNAKEPIPE。
この続きは来年まとめる予定だよ!

2019年も残りわずか。
今年は様々な展覧会に出かけたり、トレッキングの真似事をしたり、外出する機会が多かったROCKHURRAH RECORDS。
来年はどんな記事を書いていくことになるのか、お楽しみに!
どうぞ来年もよろしくお願いいたします。
皆様、良いお年を!(笑)

動きの中の思索―カール・ゲルストナー 鑑賞

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【gggの入り口をいつもとは違う角度から撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(通称ggg)で開催されている「動きの中の思索―カール・ゲルストナー」を鑑賞した。
前回gggにお邪魔したのは「Sculptural Type」を鑑賞した2019年9月のことだったので、およそ3ヶ月ぶりになるんだね。
今年は3回も通っているとは驚いてしまうよ。
活発になったなあ、ROCKHURRAHとSNAKEPIPE!(笑)
gggは「多くの方々にグラフィック・デザインの素晴らしさと出会う機会をご提供する」という趣旨の基に、展覧会を企画しているので、全て無料というのも魅力なんだよね。

今回スポットが当てられたのは、スイスを代表するグラフィック・デザイナー、カール・ゲルストナーだという。
SNAKEPIPEは初耳なので、少し経歴を調べてみようか。 

1930年 スイス生まれ
1945年 フリッツ・ビューラー・スタジオにて見習いとして経験を積みながら、バーゼル工芸学校でエミール・ルーダーとアルミン・ホフマンに師事
1949年 ガイギー社の著名なデザインチームの一員となる
1959年 コピーライター兼編集者のマルクス・クッターと共に広告代理店Gerstner + Kutterを設立
1963年 建築家パウル・グレディンガーを迎え、社名をGGKに改名する。GGKは、スイスとその後のドイツで最も成功した機関の1つで、多くのヨーロッパ諸国に支社があったという。
1970年 広告業界から引退した後、出版に携わるようになる
1981年 アート・マガジンのコンサルタントを務める
2017年 死去

カール・ゲルストナーは、スイスのタイポグラフィとグラフィックデザインに大きな影響を与えた。
また、アーティストとして体系的な色彩とフォルムの言語を構築し、芸術と日常生活の関連づけと、環境の機能的かつ美的なデザインを訴え続けた。

gggのHPに載っていた文章を転記させていただいたよ。
1965年、当時30歳前後の若さで活躍していたグラフィック・デザイナーたちの仕事を紹介する展覧会「ペルソナ」が松屋銀座で開催されたという。
その時海外から招聘されたデザイナーがカール・ゲルストナーだったとは!
当時の日本では、恐らく今とは比べ物にならない程グラフィック熱が高かったのかもしれないね?
貪欲に情報をかき集めて、海外のデザイナーから多くを吸収しようとしていたのかもしれない。
60年代には既に日本でも有名だったカール・ゲルストナー。
一体どんな作品なんだろうね?

ドアを開けた瞬間、目に飛び込んできたのはモノクロームの世界。
総天然色(古い!)が当たり前になった現代、白と黒だけで表現されている空間は新鮮に映るよ。
最初に持った感想は「カッコ良い!」だったSNAKEPIPE。
ディスプレイが以前鑑賞した「EAMES HOUSE DESIGN FOR LIVING」みたいに、クローズアップした作品を背景にしてるんだよね。

Schlotterbeck Automobileのポスターとそのクローズアップ。
残念ながらSNAKEPIPEはドイツ語を読むことができないんだよね。
そのため視覚的な感想しか言えないところが悔しいよ。
タイポグラフィなので、フォントの美しさと画像とのバランスだけでも充分スタイリッシュだと分かるけど、意味が理解できたらもっと面白いだろうね?
バックは白。
対象物を中央に配置し、ギョッとさせる手法を採るゲルストナーの作戦は成功だよね。
あれは何だろう?と思って見るもんね。(笑)

レモネードのポスターなんだけど、これまた斬新!
飲み物の宣伝だったら、美味しそうに飲んでいる人を使うことが多いんじゃないかな。
栓抜きで開けようとしている瞬間だったり、グラスに注いでいる最後の一滴をポスターにするとは!
これらのポスター、制作年が1962年だって。
スイスとかドイツの人は、こんなポスターを日常的に目にしていたんだね。
羨ましい環境だよ。(笑)

これも1962年制作のIBMのポスターなんだよね。
このポスターのすごいところは「空間を恐れない」構図の取り方かな。
一応枠はあるけど、ほとんど白と言って良いよね?
この空間の使い方は日本画の影響受けてるんじゃないかなと勝手に予想するSNAKEPIPEだよ。(笑)
それにしても1962年のIBMって何を作ってたんだろうね?
調べてみると1911年創業、60年代にはコンピューター作っていたんだって!
当時からエリートが働く企業だったIBMにぴったりのポスターだよね。

会場は1Fと地下に分かれていて、地下に降りるとカラーの世界が広がっていた。 
モノクロームに目が慣れていたので、眩しいくらいだよ。
赤・黒・白というSNAKEPIPEが大好きな3色のみを使用した1978年の作品。
これはどうやらゲルストナー自身の展覧会用のポスターだったみたいだね。
こんなポスターが街角に貼ってあったら興味津々になっちゃうよね
どんな展覧会だったんだろう。
行ってみたかったなあ!

見たことあるシンボル!
「シェル石油」ロンドンのロゴマークを手がけていたらしい。
1964年の作品だという。
シェル石油の「帆立貝」マークは、それより前から使用されていたようなので、ゲルストナーのオリジナルではないみたい。
現在のロゴマークと比較してみると、ゲルストナーのバージョンは和風に見えてしまうのが不思議だよ。(笑)

ゲルストナーが1964年に出版した「Designing Programmes」には、「書体」「タイポグラフィ」「写真」「方法」について設計方法論の基本的な紹介や提案をしているという。
その本は復刻版が出ているようで、グラフィックやプロダクト・デザイン、音楽、建築、アートなど様々な分野において活用できる要素があるという。
画像(上)の「carro64」は、「Designing Programmes」に掲載されている作品のようで、色の濃淡が変化していく様子が描かれていたよ。
まるで現代アートなんだよね!
これが体系的な色彩とフォルムの言語なんだね、と書きたいところだけど意味はあまり分かっていないよ。(笑)

gggの企画展は、いつも新鮮な驚きを与えてくれるんだよね。
ずっと以前からタイポグラフィに関心があったROCKHURRAHの影響で、gggを知ることになったSNAKEPIPE。
今では書体やタイポグラフィに対して、興味を持つようになったからね。 
ありがとう、ROCKHURRAH! (笑)
来年もgggに大注目だよ。 

未来と芸術展 鑑賞

【未来と芸術展の紹介映像】

SNAKEPIPE WROTE:

「面白そうだから、行ってみようよ」
長年来の友人Mから誘われたのは、森美術館で2019年11月19日から開催されている「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」である。
森美術館の企画はいつも注目しているので、SNAKEPIPEも気になっていたんだよね。
2011年12月に鑑賞した「メタボリズムの未来都市展」を彷彿させる内容なのかなと予想したけど、実際はどうだろう。
開催日の次の日、友人Mと待ち合わせたのである。

チケット購入に30分以上並んだことがある森美術館だけれど、この日はすんなり!
受付の女性が「今日はシティビューがキレイですよ」と教えてくれる。
森美術館のチケットは展覧会鑑賞に加えて、ビルの52階にある屋内展望台に入場できるセットなんだよね。
いつもはシティビューに興味を示さなかったけれど、お勧めに従い行ってみることにする。
森ビルを中心とした東京を一望することができるんだよね。
東京タワーも新国立競技場も、くっきりキレイに見えるよ!
展望台をぐるりと歩いていくと、あっ!
富士山だっ!(笑)
上に雲がかかっているけれど、山頂付近に雪がかかった様子もよく分かるね。
受付の方に教えてもらわなかったら、この景色とのご対面はなかったかも。
受付の方に感謝だね!

展望を満喫した後、いよいよ「未来と芸術展」へ。
展覧会の紹介をHPより一部抜粋させて頂こう。

本展は、「都市の新たな可能性」、「ネオ・メタボリズム建築へ」、「ライフスタイルとデザインの革新」、「身体の拡張と倫理」、「変容する社会と人間」の5つのセクションで構成し、100点を超えるプロジェクトや作品を紹介します。
AI、バイオ技術、ロボット工学、AR(拡張現実)など最先端のテクノロジーとその影響を受けて生まれたアート、デザイン、建築を通して、近未来の都市、環境問題からライフスタイル、そして社会や人間のあり方をみなさんと一緒に考える展覧会です。

アートだけではなくて、様々な分野に範囲を広げているようだね。
一体どんな展示がされているんだろう?
会場に入ると、以前観た「メタボリズム建築」に似た雰囲気の建築物の模型や写真が展示されている。

そんな建築物の中でひときわ目を引いたのがこれ!
パリを拠点にしているXTUアーキテクツの設計による「エックス・クラウド・シティ」。
まるで現代アートのオブジェみたいなんだけど、れっきとした建築の提案なんだよね。
大気汚染により、地表に住めなくなった時、雲の上の大気圏内に居住空間を作るというもの。
3Dプリンターでモジュールを作り組み立てるらしい。
垂れ下がっている植物の浄化作用を利用して環境負荷を軽減させているという。
モジュールの構造がどうなっているのか、よく分からなかったけど、実用化されたら非常にユニークだよね!
どうやって大気圏にとどまらせるのかも疑問だよ。
アイディア、ということで良いのかな?

我らが「まこっちゃん」こと会田誠も出品していたよ。
 「NEO出島」は2018年2月に「会田誠展 GROUND NO PLAN」で鑑賞している作品だったね。
霞が関や国会議事堂の上空に都市空間を作る、というもの。
会田誠は実現可能な計画を提案するというより、批判的な精神から作品を作っているようだよ。
説明文を読んで、やっと意味を理解したSNAKEPIPEなので、昨年観た時にはイマイチ、ピンとこなかったんだけどね。(笑) 

この作品だけ、作者名と作品名を記録するのを忘れていたSNAKEPIPE。
森美術館は、ほとんどの作品の撮影許可を出しているんだけど、WEBにアップする際の注意があるんだよね。
それは必ず作者名と作品名、更にライセンスに関する明記も必要なんだけど。
巨大なスクリーンに映し出される都市の様子は、色が変化していき、観ていて飽きない。
都市と色の関係については、よく分からなかったけれど美しかったよ!
もう一度行くとしたら、必ず作者名等記録しておかないとね。(笑)

ハッセル・スタジオ+EOSの作品「NASA 3Dプリンター製 住居コンペ案」は、まるでSF映画を観ているような気分になった。
火星に移住するために住居を建設する、というアイディアなんだよね。
3Dプリンターって、そんなに強度があるの?
この映像を観ていると、すぐにでも実現しそうだよ。
動画は1分なら撮影可能とのことなので、載せてみたよ!
ん?1秒過ぎてるかな?(笑)

圧倒的な美しさを誇っていたのが、この作品。
ミハエル・ハンスマイヤーの「ムカルナスの変異」ね。
観た瞬間から「すごい!」と息を呑むこと間違いなし!(笑)
円形の中に入ると、様々な長さのパイプが連なっているんだよね。
そのパイプに光が当たって、得も言われぬ美しさにうっとりするSNAKEPIPE。
シルバー色でピカピカ光る物が大好きだからね!(笑)
ハンスマイヤーはアルゴリズムアーキテクチャ技術などを使ってコンピューテーショナル・デザインを行っているという。
この作品もイスラム建築で使用される幾何学模様を参照し、コンピューターで作図した後、ロボットアームがパイプを切り組み合わせたという。
人間が出る場面は「ここからアイディアを持ってこよう」と考える部分だけ?
アートという概念を覆す制作方法だよ。
さすがに「未来と芸術展」だよね!

「未来と芸術展」のフライヤーにもなっている作品。
エコ・ロジック・スタジオがオーストリアのインスブルック大学と共同で開発したバイオ技術を使った彫刻「H.O.R.T.U.S.XL アスタキサンチンg」とのこと。
この作品にも3Dプリンターが使用され、ブロックには微細藻類ミドリムシが埋め込まれているという。
ミドリムシのせいだったのか、元々のブロックだったのかは分からないけれど、この作品は独特のにおいを放っていたんだよね。
食用になることはわかっているんだけど、あのにおいは好き嫌い分かれるだろうな。
本当はもう少しじっくり観たかったけど仕方ない。

とても美しいエイミー・カールの「インターナル・コレクション」シリーズ。
繊細なカットのドレスは、人体の組織である「神経系」や「靭帯と腱」を3D CADでデザインしたものだという。
これはもう「人体の不思議展」の世界じゃない!
あの展覧会で「神経だけ」や「血管だけ」の標本があったことを思い出す。
エイミー・カールのHPでは、このドレスを身に纏っているモデルさんがいる。
身体の内部にある組織と同じ形状の物を身に着けるということは、皮膚がサンドイッチされてるってことだよね。
なんともシュールな世界だなあ!(笑)
エイミー・カールは他にも3Dプリンターで制作した心臓の作品も展示していたね。

「未来と芸術展」での一番の話題は、もしかしたらこの作品だったのかもしれない。
この作品を手がけたのがディムート・シュトレーベ。
印象派の画家として有名なファン・ゴッホの左耳を再現したものなんだよね。
ゴッホが1888年に自ら左耳を切り落としていることは、ご存知だろうか。
失われた左耳を、ゴッホの親族のDNAを基にバイオ技術で再現したものだという。
もうそんなことができる時代になっているのね!
この作品にはマイクが付いていて「話しかけてください」と書いてある。
外国人の女性が「Hello!」とマイクに向かって話すと、ゴッホの耳が漬け込まれている液体がパイプを通して動きだしたんだよね!
SNAKEPIPEも友人Mも試してみたけれど、残念ながら耳には届かなかったようで、動きがなかったよ。

展覧会の最後に展示されていたのは巨大な作品だった。
実験音楽のような音と共に映像が流れていく。
不規則で目まぐるしい映像に酔いそうになる。
これは一体何だろう?
世界最古の遺跡とされるトルコのギョベクリ・テペ
紀元前1万年前の遺跡に残された図像などをAI解析して、抽象的な映像に変換したという。
なんとも壮大な発想じゃない!
1万年以上前の人類の記憶を、最新技術を駆使して現代に蘇らせるとは。
そしてタイトルのモノリスは、キューブリック監督の作品「2001年宇宙の旅(原題:2001: A Space Odyssey 1968年)」に登場する物体のこと。
わざわざ説明するまでもないかな?(笑)
今から50年以上も前に公開された映画の影響力が、未だに続いていることにも驚いてしまうね。
「データモノリス」と名付けられた作品は、観るというより流れを体感するアートになるのかもしれない。
ずっとその場に留まっていたい欲望に駆られたSNAKEPIPEだったよ。

他にも面白い作品はたくさんあって、かなりボリュームのある展覧会だった。
人間とAIの境界について考えさせられる展示が興味深かったな。
どこまでをアートと呼び、作者は誰になるのか。
友人Mも大満足だったとのこと。
ROCKHURRAHと一緒に、もう一度訪れようかな!(笑)