時に忘れられた人々【07】グラム・ロック編 side A

【グラマラスな野郎ども】

ROCKHURRAH WROTE:

時代の徒花と書くと大げさ過ぎるが、今の現役とは言えないような人々に焦点を当てた、割とどこにでもある企画「時に忘れられた人々」も随分久しぶりの更新となる。最後に書いた(【06 ヴィンテージ漫画篇】)のは2010年の正月くらいかな?

今回はこれまた割とどこにでもある特集だが70年代グラム・ロックに焦点を当ててみよう。このジャンル出身の人気スターも数多く生まれたし、音楽やファッションとしても後の時代に与えた影響が大きかった。そういう意味ではパンクと並んで1970年代に最もインパクトのあった音楽がグラム・ロックだったと言っても差し支えないだろう。

発生についてはROCKHURRAHがとやかく語るようなものではないので、もし知らない人がいて興味あるようだったら各自ネットとかで調べて欲しいが、グラマラスなロックだからグラム・ロック、と実にわかりやすいジャンルである事は間違いない。

簡単に言えば1970年代初頭にケバケバしい化粧をした男達が女装、またはラメのような派手っちい格好してやってたロックの事だ。少し他の音楽ジャンルと違うところは、グラム・ロックが特定の音楽的特徴を持ったロックではなく、その見た目に対して付けられたものだという事。派手でギンギンの(死語)ロックンロールだろうが地味で眠くなるような音楽だろうが、化粧さえしてればこの時代はみんなグラム扱いされてたというような風潮があったらしい。おおらかな良き時代かな。

これから書くコメントと映像を見てもらえば、たとえグラム・ロックなど全く知らなかったような人々でも何となく「こういうのか」とわかるに違いない。

ROCKHURRAHがまだ洋楽ロックを聴き始めたくらいの頃。 たまたま好きだったバンドがどうやら初期にはグラム・ロックの仲間だったと判明したから、何となくグラム寄りのバンドに好きな傾向が含まれているのを悟り、テキトウに聴いてただけで、この手の音楽が何でも好きなわけではない。ついでに女装趣味なども全くない。そんな人間だからグラム・ロックにどっぷり浸かってるような人みたいにディープに紹介など出来っこないのは承知だが、まあ書き始めたわけだから無理やり進めてみよう。

しかしざっと思い出しただけでも意外と層が厚いぞ、このジャンル。とても一回では書ききれそうにないなあ。というわけで今回はそのA面と題して半数くらいを書き綴ってみよう。

言わずと知れたグラム・ロックの代表みたいな超有名曲。80年代くらいまでは常に時代の寵児であり続けたデヴィッド・ボウイだが、何と1964年のデビューというからその活動歴の長さにも驚きだね。確か最初の頃はモッズ風の髪型と服装だったように記憶する。 ボウイがグラム・ロックの中心だったのかどうかはよくわからんが、この人がやり始めたからグラム・ロックは栄え、この人がやめたからグラム・ロックが衰退して行ったという部分があるのは間違いない(と思う)。1972年に出たアルバム内容は「ジギー・スターダストという宇宙からやって来たロック・スターの栄光と衰退」をデヴィッド・ボウイが演じるという、その当時では珍しいコンセプトのものだ。この映像でもわかる通りの派手なメイクにモンチッチ風(古い)の髪型はハード・ロックだのプログレだの、当時の地味な見栄えのロックを聴いていた者たちには衝撃的だったのではなかろうか?違う?

デヴィッド・ボウイの場合はグラム時期以外の活動の方が長いわけだし、そもそも今回のタイトルに反して全然「時に忘れられ」てないわけだが、このジャンルでボウイをすっ飛ばすわけにもいかないからなあ。

まあ何はともあれグラム・ロックで本当に今見ても通用するヴィジュアルのミュージシャンはデヴィッド・ボウイだけ・・・と思ったが、誰がどう見てもミニスカートのワンピースで太もも丸出し、ニーハイ・ブーツ履いた中性的な男じゃ、いくら美しくても気色悪さ半々か(笑)。

これまた王道過ぎる選曲で申し訳ないが、やっぱりこの曲が一番好きだから仕方ない。彼らも60年代から活動していたけど、T-Rex名義になってからはグラム・ロックの代名詞として君臨する。最初に王道と書いたものの、音楽的には結構特殊な部類に入ると思う。笠置シヅ子やダウンタウン・ブギウギバンドでもおなじみ(?)のブギーを好んで取り入れたり、パーカッションを非常に効果的に使ったり、それ以前のロックバンドにはあまり見られなかったようなスタイルのバンドだった。そしてマーク・ボランのフニャッとした歌声とルックス、惚れる要素はかなり多いね。どんどん新しい試みを始めてその都度スタイルがガラリと変わってしまうデヴィッド・ボウイとは違って、グラム・ロック最盛期の短い期間に活躍したわけだから、より「グラム・ロックの帝王」度は高い。亡くなった後で神格化もされたしね。

そのグラム・ロックは74年くらいにはもう下火になってしまったのだが、それを聴いて育ったパンク、ニュー・ウェイブのアーティストが後の時代にT- Rexから影響を受けたような音楽をやって、それを聴いた世代がまた新しい世代のグラムを始める。というように音楽はずっと輪廻転生を続けている。しかしこれから行き着く先にオリジナル以上のものはないだろうな。

ボウイやT-Rexよりは少し遅れて登場したのがスティーブ・ハーリィ率いるコックニー・レベルだ。デビューは73年で74年の「Psychomodo(さかしま)」くらいまでがいわゆるグラム・ロック期にあたる。それ以降はメンバー・チェンジをして普通にポップなロック・バンドに転身してしまったのでグラムっぽさは全然なくなってしまう。その辺も好きではあるんだが今回のテーマとは違ってくるので、今はこの初期コックニー・レベルについてだけ書くことにしよう。

彼らの音楽は典型的なグラム・ロックとは異なり、キーボードやヴァイオリンを多様したクラシカルで耽美的なもの。ケバさも控え目。70年代初期に蔓延っていたプログレッシブ・ロックと、スティーブ・ハーリィが個人的にやっていたボブ・ディラン風の字余りソングが無理やり合体して出来上がった、ややイビツな音楽。ただしそれはある種の人間にとっては魅力的で心地良いものだった。ロンドン下町の労働者に由来するコックニー訛りの歌い方(sayをセイではなくサイと発音するような感じ)も充分に個性的。このいやらしい&圧倒的にエモーショナルな歌い方を武器にコックニー・レベルは独自路線を突き進めてゆくが、日本ではあまり人気なかったなあ。やっぱり見た目のせい?

75年に「Make Me Smile」で大ヒットして華麗なポップ・スターになる以前のコックニー・レベルの映像が少ないから見てきたようには書けないが、初期は目の下だけ隈取りみたいなペインティングをしたりピエロ風の格好をしたり、あとは牧師風とかヒラヒラの純白衣装とか・・・グラム・ロックの見た目としては割と健全で地味目(笑)。しかしこの映像見ても超バギー・パンツみたいな極太のものを平気で穿いていて侮れない。こういう時代だったんだね。

この曲は2nd「Psychomodo」に収録、サーカスとか大道芸とか、そういうノスタルジックなものを思わせる名曲だね。

ここでは紹介しきれなかったがその2ndタイトル曲の「Psychomodo」もギターじゃなくてヴァイオリンによるロックンロールという、意表をついた展開のカッコ良い曲で大好き。

本来はローリング・ストーンズのようなバンドでグラム・ロックの範疇には入らないのかも知れないが、デヴィッド・ボウイやミック・ロンソンなど当時グラム・ロック有名人とも関わっていたので、まあここで書いてもおかしくはないだろう。

今の時代に「誰でも知ってる名曲」とは言い切れないかも知れないが、デヴィッド・ボウイが提供した彼らの最大のヒット曲「All The Young Dudes(すべての若き野郎ども)」は70年代においてはロック史に燦然と輝いていた。こんな名曲をあっさり人のために書き上げるボウイもすごい太っ腹だとは思うが、それだけ惚れ込んでいたという事だろうね。

このバンドの主役イアン・ハンターはマーク・ボランのような(あるいはクリスタル・キングのような)ちりちりのカーリー・ヘアと大きなサングラスがトレード・マークなんだが、サングラスを外したところをあまり見た事がない。絶対に弾きにくいに違いないHの形(ハンターの頭文字)をした特注ギターも有名。しかしこのイアン・ハンター以外のメンバーが似たような見た目ばかりで、人の顔がなかなか覚えられないROCKHURRAHにとってはどれがベースでどれがギターだかよくわからん。せめて色くらい変えてよ。

このバンドには後にバッド・カンパニーに加入するミック・ラルフスなども在籍していたんだが、個人的に思い出深いのはかつて2回ほど目撃、遭遇したキーボード奏者モーガン・フィッシャーだ。レコードでしか知らない海外有名バンドのメンバー相手に普通に接客してたROCKHURRAHもなかなかのものだ(笑)。

スウィートもかなり派手な衣装と70年代アイドル的髪型(全員麻丘めぐみ風)で大人気だったバンドだ。

70年代イギリスの音楽界で屈指のヒットメイカーだったコンビ、マイク・チャップマン&ニッキー・チンの力で大ヒットした曲はどれもポップで馴染みやすいものだが、この曲もグラム・ロックの代表的な名曲で、今でも色褪せる事なくノリノリになれる事間違いなし。

パンクやネオ・ロカビリー、サイコビリーのバンドでも流行りのようにこの「Ballroom Blitz」はしつこいほどカヴァーされた事で有名。ダムドやミスフィッツ、ロング・トール・テキサンズ、オランダのバットモービルにスイスのピーコックス、フランスのワンパスなどなど・・・。おっと忘れちゃいけない。我が日本の誇る美形ギタリスト、エディ・レジェンド(MAD3、ヘルレイサー、エディ・レジェンド・ストーリー)もカヴァーしておりやした(変な日本語)。リズムがノリやすいとか派手で盛り上がりやすいとか、カヴァーしやすいとか色々理由はあるだろうけど、ここまでビリー系の心を鷲掴みにした名曲は他にないとまで言える。

余談ばかりになってしまったが、このオリジナルのグラマラス具合に肉薄するカヴァーはさすがにないなあ。メインのヴォーカルよりも途中からイナセなシャウトで割り込んで来るベーシストの絡みは本当にゾクゾクするよ。

さて、A面最後を飾るのはジョブライアス。これまでイギリス発祥のグラム・ロックばかりを書いて来たが、これはアメリカ産のグラム・ロックだ。何だかよくわからん活動をしてあっという間に消えて、ロック界で最も早い時期(83年)にエイズで死んでしまった謎の男、タイトルも「謎のジョブライアス」。オリジナル盤はかなり入手困難でしたな。

さて、問題の映像だがこれがなかなかすごい。頭からでっかいシャボン玉みたいなものをかぶって登場、それを手動ではじけさせるチープ&陳腐な演出。そして歌い、踊る仕草は「カッコイイ」を完全に通り越してるよ。踊りはまるでボン・クレーの実写みたいだし、笑われたいのか、それとももしかして本気でバカなんじゃないの?というステージングに圧倒されっぱなしだ。

しかしここまで見て、読んで、ほとんどの人はわかったはずだ。グラム・ロックは知的で芸術的な音楽発表の場ではなく、いかがわしくて紛い物プンプン、バカバカしくもビザールなロックンロール・ショーという側面も併せ持つという事を。わざわざ倒置法で書くまでもなかったか。まあ、そういう意味ではジョブライアスなんかはかなり本格的にグラム・ロックを体現したアブノーマル・アクティビティだと言える。 さてさて、次回もこのグラム・ロック編のB面を書きますので、乞うご期待を。

(つづく)

SNAKEPIPE MUSEUM #07 Francis Bacon

【フランシス・ベイコンの作品。3枚並んだレイアウトがお好みね。】

SNAKEPIPE WROTE:

ずっと欲しいと思いながらも未だに画集を所持していない画家の一人にフランシス・ベイコンがいる。
フランシス・ベイコンと聞いて、まず初めにルネサンス期の哲学者を思い浮かべたそこのあなた!
エライ!ちゃんと世界史の勉強してたんだね。
「知識は力なり」、帰納法。
テストに出たかな?(笑)
今回ブログに書きたいと思ってるのは哲学者じゃなくて画家のほう。
どうやらその哲学者のベイコンとは、本当に血縁みたいなんだけどね。

画家、フランシス・ベイコンを初めて知ったのは高校の美術の教科書だったろうか。
法王シリーズが一枚紹介されていた記憶がある。
解説は特に何も書かれていなくて、絵だけが掲載されていた。
その時には特別な興味を持つことはなかったベイコンに再び出会うのは、デヴィッド・リンチのおかげであった。(←知り合いみたいな書き方!)

90年代初頭に世界的ブームを巻き起こした「ツイン・ピークス」の解説の中にベイコンの絵を発見するのである。
記憶によれば解説を担当したのはリンチ評論家の滝本誠氏。
「ツイン・ピークス」で、牢獄に入れられたボビーが鉄柵を掴みながら雄叫びを上げるシーンがある。
その時に撮られた映像は叫んでいる口のアップ。
滝本誠氏ははその映像とベイコンの絵画との比較について考察していた。
デヴィッド・リンチが好きな画家としてフランシス・ベイコンの名前を即答していることもその時に初めて知る。
そして上述した美術の教科書を思い出したのである。
まるで拷問を受けている最中のような、椅子に括りつけられ、痛みに耐え切れずに叫び声を上げている「あの絵」。
なぜだかその時に
「そうか、そうだったんだ。なるへそ!」
と自分なりに妙な納得をしたSNAKEPIPE。(笑)
一枚しか知らなかったベイコンについて、もっと知りたいと感じた瞬間であった。

ここでベイコンの略歴について書いてみようか。

1909年アイルランド生まれ。1992年没。
27歳の頃から絵を描き始める。
「磔刑図」「教皇」「頭部」シリーズなどが有名。
20世紀を代表する画家の一人である。

簡単な説明だとこれだけでいいのかもしれないけど、ベイコンについて書きたいと思う時に忘れちゃならないのがベイコンが同性愛者だったということかな。
それから独学で絵を習得したようで、「~派」というような流派に属していないという点も重要かもしれないね。
だからパロディもやる、通常なら描かないようなモチーフも描く「なんでもアリ」なんだね。(笑)

ベイコンの絵のほとんどには人物が描かれている。
それが単なる肖像画ではなく、ベイコン独自の歪んだ味付けがされているところがポイント。
恐怖、苦痛、叫び、苦しみなど、ハッピーな感情とは逆の部分を表現しているところがベイコンなのである。
現在進行中の映像を一時停止させたような絵。
もしくは動きを連続して見せるために3枚一組にしてワンセット、という表現方法。
ベイコンの絵はまるで写真だったり、映画のスナップみたいな感じなんだよね。

そしてほとんどが室内の絵。
ケージ(檻)の中で椅子に座っている絵も多い。
そしてそこで苦痛を感じている人物。
部屋の中での檻の中にいるということは、ものすごく簡単に考えると肉体の中の精神、みたいな感じかな。
ストレス感じて苦しんでる絵、ってことなのかなと素人のSNAKEPIPEは考えるけど?
えっ、そんなに簡単じゃないって?
じゃ、ま、そこらへんは専門の評論家の方に解説をお願いして。(笑)

評論とか解説などを抜きにして、ベイコンの絵を部屋に飾りたいと思うSNAKEPIPE。
実際ポストカードを数点飾ってたしね。
それにしてもイギリスのテイト・ギャラリーに「ベイコンの部屋」みたいな一室があるというほど、イギリスを代表する画家のベイコンだけれど、ある一部の人にだけ好まれるような画家(画風)のような気がするな。
ドロリとしてるし、窮屈な感じもするし、グロテスクな部分もあるし。
「なんじゃこりゃ」と思う人が多くても不思議じゃないんだけどね?
美術的な評価と鑑賞者の好みがイコールとは限らないかもしれない。
世界中にある、もっと残酷だったり目を覆いたくなるような映像に慣れたせいなのかもしれない。
特殊な画家、とされないほうが画集や情報が手に入りやすくなったりするからいいのかな。(笑)

1998年に「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」という映画が公開された。
これはベイコンの伝記映画で、すでに画家として活動していた頃からの半生を描いた作品である。
実はSNAKEPIPE、ちゃんと映画館に観に行ったんだよね。(笑)
一言で感想を言うなら
「ベイコンってすっごい嫌なヤツ!」
である。
かなり性格が悪い。
歪んでいる。
画家じゃなかったら「嫌なジジイ」と言われていたに違いない。(笑)
アーティストだったら偏屈でもオッケー、個性とされることが多いからね。

ベイコン役の俳優さんがベイコンに非常に良く似ていて、嫌なヤツを見事に演じていたのが素晴らしかった。(褒めてるんだよ!)
泥棒に入ってきた男を愛人にしてしまう、という泥棒のほうが驚いてしまう展開。
その愛人と生活を共にするようになるベイコン。
愛人への意地悪、全開!(笑)
この映画を観て、ベイコンの作品について理解を深めることはできなかった。
さっき言ったようなベイコンの人柄について解っただけ。
音楽を坂本龍一が担当していて、思わずサントラ買っちゃったSNAKEPIPEだったな。

画家の性格はさておき。
今回ベイコンについて書いているうちにやっぱり画集が欲しくなってきたよ。
この前本屋で見つけたのは、ものすごい分厚い画集で確か金額が万を超えてたんだよねー。
衝動買いできなかったSNAKEPIPE。(笑)
どこかで展覧会やってくれないかなあ。
大量の現物を目の前で観たいものである。

小谷元彦展~Phantom Limb 幽体の知覚

【小谷元彦 SP2:ニューボーン(ヴァイパーA)】

SNAKEPIPE WROTE:

2009年4月に書いたブログ「小谷元彦 SP4と万華鏡の視覚展」でも紹介したことがある現代アーティストの小谷元彦の個展が森美術館で開催されている。
2009年に山本現代という画廊に観に行った顛末は上述したブログに書いてあるね。

「ほんの数点しか展示品がないし、なにせ今回が初めてなので感想を言うことが難しいなあ。
『山本現代』のホームページの中で『キーワードはゾンビ』なんて書いてあったけれど、最近ゾンビ映画を観ているSNAKEPIPEにはピンと来なかった。
今までの作品全ての展示があったら是非観てみたいし、それから感想をまとめたいなと思った。」

と約1年半前に書いていた望みが叶うことになったわけだ。
同行者はいつも通り友人M。
「年内が無理だったら来年ね」
と言っていたけれど、どうにか予定を合わせ、今年のアート鑑賞締め括りとしてめでたく小谷元彦展へ行くことができたのである。

ここで少し小谷元彦について書いておこうか。
1972年京都府生まれ。
東京芸術大学美術学部彫刻科卒業。東京芸術大学院美術研究科修了。
今は芸大の准教授もやってるみたいね。
2003年のヴェネツィア・ビエンナーレ日本館の代表に選出される、という世界的に注目を集めているアーティストである。

もうあと数日寝るとお正月、という年の瀬も押し迫った非常に寒い日。
森美術館のチケット売り場には長い行列ができていた。
「小谷元彦って人気あるんだね」
「年末だから人が大勢いても仕方ないね」
などと言い合っていたSNAKEPIPEとM。
ところが行列してた皆さんは小谷元彦展が目的じゃなかったみたいね。
どうやら森アーツセンターギャラリーで開催している「スカイプラネタリウム」か展望台がお目当てだった模様。
ちょっと安心する。(笑)

いざ「幽体の知覚」展へ。
会場に入るとまず目に飛び込んでくるのは白い壁に白い床。
白い壁に書かれている黒い文字を読むと少し頭がクラクラする感じ。
小谷元彦が白を「攻撃的な色」と指定しているのが解る気がする。
SNAKEPIPEも白い空間にいると落ち着かないんだよね。(笑)

初めに展示されていたのがタイトルの「ファントム・リム」。
少女を写した5枚のカラープリントが並んでいる作品で、よく観て説明を読んで意図が理解できたSNAKEPIPE。
こういうパッと観ただけで、感覚的に「すごい!」と思わない作品は難しいね。
現代アート全体に感じることだけど。

拘束具を付けられた小鹿の剥製とか、ツインになっている狼などはまずは観てびっくりする。
小鹿が愛らしいだけに、より一層ピカピカの拘束具が不気味で残酷に感じられる。
SMの世界につながる感覚なのかな。
ツインの狼はドレスになっていて、下から網タイツにパンプス履いた人間の足が出てたんだけど、これが…。
足のサイズに合ってないし、あまりに凡庸なパンプスだったんだよね。(笑)
せっかくの作品なんだからさー、とブツブツ言い合うSNAKEPIPEとM。
もうちょっとどうにかできなかったのかなあ?
もう一つ残念な展示方法だったのが、2009年4月にも観たSP4の騎馬像。
山本現代で観た時も同じだったのか記憶が定かじゃないんだけど、今回の森美術館ではなんだかベニヤ板に見えるような木の箱に乗せて展示。
その木が非常に安っぽく見えたし、作品の色味とも全然合ってなくて残念。
もうちょっとどうにかできなかったのかなあ?(2回書いてしまった)

小谷元彦は拘束や矯正などに使われる器具に興味があるようで。
手(指)を反らせるための矯正具から発想したというバイオリンのような作品や、木で作られたスカート状のウエスト絞り拷問具みたいな作品などが展示されていた。
人体を変形させたり苦痛を与えたりするような恐怖作品。
以前書いたブログ「医学と芸術展 MEDICINE AND ART」にも似たようなモチーフがあったね。
そう、あの時に書いたのが以下の文章。

「手術用の器具の展示もあった。
丁寧に装飾までされている美しい切断用ノコギリってどうよ!
まるでオブジェなのに、目的は切断よ、切断!(笑)
このミスマッチが余計に怖い!
この展示はデヴィッド・クローネンバーグ監督の『戦慄の絆』みたいだった。」

インタビューを読むと、小谷元彦が好きな監督はやっぱり二人のデヴィッド、クローネンバーグとリンチだったんだね。
うん、大いに納得。
クローネンバーグの映画に出てきた美しい手術器具を具現化した感じ。
リンチの、あっちなのかこっちなのか判らない境界線上の世界、浮遊感、そして恐怖。
全部感じられるもんね!(笑)
上の写真「ニューボーン」シリーズでは、架空の生物の化石を想像して制作してるみたいなんだけど、その中に「イレイザーヘッド」みたいなのもあったし。
小谷元彦が好きな物、影響を受けた物ってすごく良く解るわあ!(笑)

今回の展示作品の中でSNAKEPIPEが一番気に入ったのが「ホロー」シリーズ。
目に見えない力、存在や現象の可視化がコンセプトとのこと。
まるで蝋が溶けて形になっているような、流れるような曲線の集まりが固まってできている作品群。
白い部屋に展示されてる白い彫刻というのが、テーマにぴったりマッチしてることになるんだね。
じっくり観察しないと形が判らないからね。
「かんぴょう?」
と聞いてきたMに大笑いしたSNAKEPIPEだったけど。(笑)

以前にも何かで書いたけれど、最近の現代アートで興味を持つのは3次元の作品のことが多いSNAKEPIPE。
今回鑑賞した小谷元彦の作品の中にもいくつか「家に飾りたい」作品があった。
同じリンチアンとして、今後の活躍に期待だね!(笑)

2011年元旦

【ROCKHURRAH RECORDS製作の2011年賀状。ド派手!】

ROCKHURRAH WROTE:

新年明けましておめでとうございます。

ROCKHURRAH RECORDSが毎年恒例にしていて12月になると頭を悩ませているのが年賀状作成。

平日にはあまり時間がないので週末にブログ書いたりしてるんだけど、去年の12月はその少ない週末に行事が集中してしまった。

いつもは月半ばくらいには印刷まで済んでるこの年賀状作成もタイムリミットである12月25日直前までデザインさえ出来てない状態で、SNAKEPIPEと二人で焦りまくって作ったのが上のもの。

一昨年はタイムトンネルみたいなバックをバイクが疾走するような年賀状、

昨年が50年代〜60年代風のレトロSF映画(というより怪獣映画)のポスター風、

というように毎年何となくテーマを決めて作るようにしているんだけど、今年はサイケデリックな感じにしようよ、とSNAKEPIPEから「お題」を出されてしまった。

うーん、サイコ(ビリー)やネオ・サイケだったら得意技のROCKHURRAHだがいわゆる60年代風のサイケデリックの洗礼は全然受けた事がなくて最も苦労したのが今回の年賀状かも。

色々と試行錯誤してサイケというよりはお色気スパイ・アクション映画のポスター風、ちょっとだけ和風テイストも盛り込んだド派手なものが何とか出来上がったよ。これで食ってるわけじゃないのでありきたりなのはご勘弁を。

さて、デザインも出来上がって印刷もきれいに出来た。あとは宛名を印刷するだけ、という時になって問題勃発!

SNAKEPIPEが購入した高級写真用紙は「はがきサイズ」と明記してあったが単にはがきと同じ大きさの写真用紙で、裏側は印画紙の裏と同じような仕様、はがきではなかったのだ。だから宛名面を印刷してもインクが全然のらないという事が投函直前に判明したというわけ。これじゃ実際のポストカードにはならないので、仕方なく宛名シールを作って貼るという情けない状態になってしまった。

裏表両面をキチンとキレイに仕上げるはずだったのに非常に残念!来年はちゃんとしたはがき用紙にします。

しかし、毎年どんどん派手さに磨きがかかってゆくROCKHURRAH RECORDSの年賀状、ここまでカラフルだともうエスカレートする先がないなあ(笑)。

まあそんな課題を抱えつつもROCKHURRAH RECORDSは淡々と営業中なので、今年もよろしくお願い致します。